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見えない少女と対人最強  作者: 詩野ユキ
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「君は森であったひとだよね。確か……名前は、ハルト!ハルトだ!」

なんでこいつがこんなところに。いや、そういえば、この街に知り合いがいるとかいってたな。となるとノルドと同じ席にいる、あの女の人はその知り合いというわけか。

ハルトは以前、ノルドとは良い別れ方をしたわけではなかったので気まずさを感じる。少しバツが悪そうに頭をかきながら、この状況をどうすべくか考えた。

リアは?

とりあえず、リアの様子をうかがってみた。しかし、その期待は虚しく、リアは目をキラキラさせてほかの客のテーブルに乗っている料理を見つめていた。

こいつ!真面目キャラのつもりなら少しはその食い意地をどうにかしろ!

全く役に立たないリアは置いておいて、ハルトはノルドに話しかけた。

「よ、よう。久しぶり?だな」

「久しぶりといってもちょっと前にあったばかりだけどね。そうだ、肩の傷の具合はどうだい。ひどい傷だったからね」

「……あ、ああ」

傷!そういえばリアの能力で治してもらってたんだった。能力のことをあまりしゃべるのは良くない気がするし、幸い今は服で肩の部分が隠れているから、とりあえずごまかしておこう。

「そうだな。少し痛むが問題はない。まああまり戦いはしないようにするが」

「そうかい。それは良かった。でも安静にね、けがが悪化したら大変だから」

……う、こいつのこと最初は悪い奴なのかと思っていたけど、そういえばあの時といい意外と親切だな。嘘をついているのが少し申し訳ない。

ハルトがありがとうとぎこちない笑顔で答えていると、ノルドと同じ席に座る女がじっと見つめてきた。目が合ってしまうハルト。あまり女性慣れしていないためかついつい怖気ずいてしまう。

なんであの人はこんなに俺を見てくるんだ?まさか俺のことをって、おわっ!?

ハルトが馬鹿な妄想をしていると、突然服を引っ張られよろけた。

「ってなにするんだリア!」

「なぜあいつがいる!?」

どうやら、ご飯の世界から帰ってきたリアがようやくノルドの存在に気付いたようであった。リアは慌てた様子でハルトの服を掴んだまま、ハルトに突き詰める。

「お前が料理に目を奪われて、夢の世界にいる間にあいつとは出会ったぞ。」

「なっ、目を奪われてなんかないぞ。もちろん知っていた。本当は私も知っていたがあえて聞いたのだ。」

ジトーっとリアを見つめるハルト。リアは決して目を合わせようとはせずそっぽを向いていた。

「ハルト?どうかしたのかい?急によろけたりして。」

「ああ、いやなんでもない。赤い髪をした食いしん坊の少女に絡まれていた気がしたけど、気のせいだったようだ。」

「おい、その食いしん坊とは私のことか!?私のことなのか!?」

リアが声を荒げて詰め寄ってきているが、ハルトは無視しておいた。

「そうなのかい?君の言っていることは良く分からないけどなんだか面白いね。」

ノルドは優しい笑顔を浮かべていた。が、ハルトはその言葉を聞いてすっと表情をなくす。ただ茫然とノルドを見つめる。

……面白いか。

「どうだい?君も一緒に食事をしないかい?席はまだあいてるからさ。」

しかしノルドは能天気なのか、親切心からか、自分のテーブルの空いている椅子を軽く引き、ハルトを誘った。テーブルにはノルドたち以外に二つ座る場所がある。もちろん、このまま一緒に食事をするとなるならばリアも共にすることになるだろう。

「構わないぞ。」

リアがハルトの顔を見ることなく、心のない声でそう言う。ハルトは一瞬リアの横顔を見るが、何も言わなかった。


リアの呪いの効果は絶対である。どんなことがあろうとも。リアが人の目の前でモンスターを殺そうとも、物を壊そうとも、魔法を使おうとも誰もリアの存在には気づかない。リアとかかわるその出来事自体に関して、一瞬違和感を感じようとも、すぐに忘れられる。完全にそれ自体がなかったことになるのだ。そして、それは今回も同じことである。リアがハルトともにノルドたちと同じ席にいても誰もリアを認識できない。ハルトがリア以外の人間と関われば関わるほど、リアは一人ぼっちになってしまうのだ。

 俺はリアの呪いを治してやると決めたんだ。リアにモンスターだと思われても、最終的にリアに憎まれても最後までやり遂げる。かわいそうな人を見て、自分がかわいそうと思ったのならば、そこに助けない理由はない。元の世界で何もない人間だった俺だけど、こっちの世界に来てからは少しはましになったつもりだ。よし、ここはきっぱり断りを入れて俺の覚悟に示しをつけないとな。

ハルトは俯いた顔を上げノルドを見る。

「……っ。」

暑さのためか、口の中が乾燥して出そうした声が喉の奥に詰まってしまう。

何をためらっている俺。言うのだ!バシッと!遠慮しておくと!

そして

「……えんっ!イタイ!」

それは台無しに終わった。

「いたいって、そんなに一緒にいたかったのかい。あのときはきっぱり断ったのに……まさか、これがツンデレというやつかい?やっぱり君は面白いね。」

ケタケタと笑っているノルド。一方ハルトは憤慨してした。じろりと突然ハルトの脇腹を全力でつねってきた赤髪少女を睨みつける。

「おい、おい、おい、リアさんや。これは何の真似だい?こっちはちょっと自分の語りを交えた男の覚悟を見せようとしていたのに、このタイミングで!なぜ!脇腹を!つねる!」

「なんの覚悟か知らないが、またハルトがいらぬお節介をやこうとしているのではないかと思ってな?」

外れていた視線を今度はリアが下から見上げるようにしてハルトを睨む。

「うっ!」

リアの一瞬だか垣間見えた、その剣幕にたじろぐハルト。

く、こいつ……人の親切は受け取っとくもんだぞ。しかし、気付かれていたとは。あの森のときは何も言わなかったからいけると思ったのに!もうこうなったら、強行突破だ!

「ノルド、悪いけええ!ドゥワッ!?」

しかし、その策実らず。ハルトが無理やり断りをいれようとしたその時、リアがハルトの背中に全力のドロップキックをくらわせハルトは顔面を机に強打しながら、一瞬エビぞりになり、テーブルに強制的に座らされた。そしてリアは何食わぬ顔でハルトの空いている隣の席に座る。

「あははは!そんなに勢いよく座って、ハルトはほんとにツンデレなのかい?」

この糞赤髪!覚えてろよ!いつかやり返す。

と、ハルトが男の覚悟などどこぞに忘れて、復讐の念に駆られているなか、ノルドの知り合いと思われる女はただじっとハルトの隣の空白の席を見つめていた。





バ◯ス!!!

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