転生
「俺はこの人生でなにかできたのか、この世界になにかを残すことができたのだろうか……」
ハルトはだんだんと意識が遠のいていくのを感じながら静かに目を閉じた。
俺は死んだのか。
気づくとハルトは見知らぬ白い空間の中に立っていた。
どうゆうことだ、俺はさっき確実に通り魔に襲われて死んだはず。しかし今俺には意識も感覚もある。ということはここはなんだ?
白い空間は見渡す限りに広がっておりどこにも終わりがないように見えた。しばらく歩き回ってみるもののあるのはやはり白い空間のみ。
「どうなっているんだ。」
「ここは死後の世界でも、ましてやあなたが生きていた世界でもありません。」
ハルトが喋ると同時、突然ハルトの背後から一人の人間の女性らしき声をしたものが話しかけてきた。
なんだこいつは、いつの間に現れた。さっきまでは確実にいなかったはず、一体どうやって……
「なんだお前、一体いつからそこにいた。それにさっき死後の世界でもとかどうたら言っていたようだったがここはなんだ?」
そいつはよくみると形は人のようなものであったがしっかりとした原型がなく炎に照らされて揺れ動く影のようなものであった。
「私に名はありませんそしてこの場所についてですが、先ほど申した通りです。死後の世界でもなくあなたが生きていた世界でもない。だかしかしあなたは間違いなく通り魔に襲われ死にました。なので選んでください。」
何を言っているんだ。なんの世界でもない?死んでいる?どうゆうことだ。それに選べってなんだ。意味が分からないぞ。
するとその影のようなものはゆらゆらとすこし揺れ動き
「選んでください。これからなに一つすることの出来ない魂だけが縛られた世界に行きますか、それともあたらしく人生を異世界でやり直しますか。」
選択を迫ってきた。
ハルトは死ぬ前考えていた、自分はこの世界でなにかできたのか、なんのために生きていたのかと。そしてこの時そんな思いが勝手にハルトの意識を揺らがせたのだろう。
「……新しい人生を異世界でやり直す。」
ハルトは異世界に行くことを選択した。
するとだんだん視界が狭くなり意識が遠のいていく感覚に襲われた。
「私はあなたの望みを叶えました。なのであなたも新しい世界で一つだけ私の望みを叶えてください。その世界の独りぼっちとてもかわいそうな女の子を助けてあげてください。そして最後にあなたに少しの力を授けました、きっと役に立つと思います。ではご武運を。」
薄れゆく意識のなか影はそう告げた。
「ううっ眩しい。」
急に強い光を浴び視界がひどくゆがむ。そしてだんだん見えるようになってきた目を開けるとそこには全く馴染みのない光景が広がっていた。まるでカウボーイでもいそうな雰囲気の酒場に熊のような屈強な体の大男、それぞれ身を武装した4、5人の人、そのほかにも今の現代ではとうに考えられないような状況がそこには広がっていた。
「……どうなっていいるんだ。本当に異世界に来たとでもいうのか。それに独りぼっちの少女?」
ハルトはこの状況に戸惑いながらうろうろしていると、現代でいう相談カウンターのようなものを見つけた。
あそこで何か聞いてみよう。
「すいません。ここはどういったところなんですか。」
「……」
するとカウンターの女性はまるでなにか珍しいものでも見ているかのように目をぱちくりさせている。
何かおかしいことをきいたのだろうか。
「あ、ああ、すいません。あまりにおかしなことを聞かれたものですから。」
するとカウンターの女性は身をただし、真面目な表情を作った。
「ええ、手短に申しますとここは冒険者ギルドです。ここから左手にみえるのがクエストボード。まあ掲示板のようなものです。あちらに貼られている依頼を受注し、依頼を達成したらここで報告することにより報酬がもらえるシステムとなっております。本日はどういったご用件でしょうか。」
「……」
ほほをつねっても痛い、それに何度周りをみても変わることのない光景。どうやら俺は本当に異世界とやらに来てしまったようだ。
ハルトは一瞬目を閉じる。そして軽く深呼吸し
「俺の新しい人生を行いに来た。」
ハルトは口をにやりと歪ませ、強い意志を秘めた眼を輝かせながらそう告げた。
「はぁ、はぁ……く、、、そぉ」
しかし、どやらその新しい人生とやらは全く順調ではないようだった。あの時威勢よくかっこつけたはいいもののこの世界での生活は予想をはるかに上回るほどに過酷だった。毎日を生き抜くために行う依頼はいくらいろんなものがあるといっても、ただの高校生のハルトにとってはどれも困難を極めるものだった。低級モンスターの討伐、薬草の収集、どれも簡単なように思えても、実際は上手くいかない。大量の低級モンスターにかこまれたり、薬草のある場所があり得ないほどに遠いなどほとんど簡単にこなせるものはなかった。
この世界はどうなってるんだ、ちょいとばかし厳しすぎやしませんか。
ハルトは心身ともにボロボロでもう完全に疲れ切っていた。しかしそんなハルトに追い打ちを重ねるように不幸は訪れる。ハルトが今日の宿まで重い足取りで向かっている途中に二人組のいかつい男にでくわした。
「よう、兄ちゃん悪いがちょっと金貸してくれないか、人助けだと思ってよう。なあ、いいだろう?」
「......はぁ」
そういうとハルトは有無を言わないうちに路地裏へとつれいかれた。
ははは、ここまでくると笑えてくるな。なああんときの影さんよ、見てんのか。こんなことならおとなしく死んでたほうがよかったじゃねぇか?ああ、やべえ、頭がくらくらしてきた。
ハルトが路地裏につれいかれてから、それは見るも無残なものだった。二人の男から蹴る、殴る、たたきつけられるなど、まさにボコボコだった。
くそったれ、結局ここでもおれは何も成し遂げることができずにおわるのか。
そしてまたあの時のようにだんだん意識が遠のいていく感覚に襲われ、もう死を確信したその瞬間ハルトは自分の異変に気付いた。
「……死んでいない?」
いっこうに意識がなくなることがないのだ、ボコボコに殴られ大量に出血し普通ならもう死んでいてもおかしくないこの状況でハルトの意識は決して途絶えなかった。そしてさらに時間が経過するにつれて体中の痛みが消え(けがは残ったままだが)気付くとなにも痛くなくなっていた。
どうゆうことだ、まさかこれがあの影が言っていた力とかいうものなのか。
ハルトは体を起こしゆっくりと立ち上がり、
「第二ラウンドだ」
ハルトの新しい人生の第二ラウンドが始まった。
ハルトはそれから依頼をこなしてこなしてこなしまくった。そしてそうするうちにわかったことがあった。まず能力が発動する瞬間のみハルトの色が変わるのだ。たまたまガラスに写った自分の姿をみてハルトはそれに気づいた。次にハルトの能力は一見、不死身のように見えるがそれは間違っているということ。以前ハルトは不死身だと思い到底かなうはずもないモンスターに挑んだ、あたりまえだがボコボコにされる、しかしどうせ回復するからと調子にのっていたら全く回復する気配がなく死にそうになった。どうやらこれは人間限定でしか発動しないらしい。そしてもうひとつわかったことはこの能力が発動してよみがえると能力発動前より圧倒的に身体能力が向上しているということだった。能力を理解してからハルトは人との戦闘が発生する依頼を多数こなした。そして様々な死線を乗り越え、今では一流の冒険者にすら匹敵するほどの力を持つようになっていた。
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