生きる意味 ギルバード視点
ちょっと長めです
メルディンが燃えていた
暖炉の中で、燃えていた
一瞬呆けた俺だが、そう気づくと即座に近づき火傷も気にせず暖炉からメルディンを救い出す
何をやってるんだ俺は...!!
今日はルルは遠方に買い付けにいってもらっているから目を離せないのはわかっていたじゃないか!
メルディンの状態を確認した俺は、かすかに息はあるが一目でこれがヤバイ状態だとわかった
メルディンは、全身に火傷を負っていた。自分の子でなければ死体だと思ってしまったかもしれない
家の床が傷むのも構わず魔力を開放して全力で守護役のマーリンのもとへ向かう
マーリンとはアスラ大陸の四賢者と呼ばれていて、歴史に四人しかいない<魔人>の称号を持つ世界最高峰の魔術師の一人だ
理由はわからないが俺が生まれるずっと前からこの土地を守っているという話で小さい頃から様々な形で村の生活を助けてくれている。大怪我の治癒も彼女がしてくれていた
俺とマーリンは人前では様をつけるが、二人で話す時には砕けた口調を使えるくらいには彼女とは仲がいい
きっと今度もなんとかしてくれるはずだ...!
外に出た直後、帰宅するところだったアルルがこちらに気づいて嬉しそうに笑いながら声をかけてきた
「あ、パパ!今日はシチューだよ!牛乳を安く譲ってもらえたの!」
二人きりの時は名前で呼び合うように決めているから、メルディンをかかえてることにも気づいているようだ
「アル!すまない!今からマーリンの元へ向かう一緒にきてくれ!話は後でする!」
俺のただならぬ様子を見て、彼女はすぐに異変に気付きいたようで荷物を放り出すようにしてすぐにかけよってくる
腕の中のメルディンを見て顔から血の気が抜けていくのがわかった
「メル...?そんな...!!」
言葉がでない様子だったが、俺がマーリンの元へ走ろうとしているのがわかるとすぐに理解し並走してくれた
俺は走った、途中でアルを置いてくるくらい走った
その甲斐あってマーリンの家までは1時間もかからなかった
狭い村ではなかったが、俺やアルの脚力と魔力は冒険者時代にかなり鍛えられている
門まで到着すると気だるそうに槍をもち、軽そうな鎧を着た小柄な門番に気軽な調子で止められる
よかった、今日はエルクロードだ。こいつならすぐに通してくれる
「おいおい、どうしたんだ今日は...ってなんだその子は!おい!生きてるのか!」
「すまねぇ!エル!話は後だ!マーリン様のところまで入れてくれ!」
俺が必死な様子で声を荒げているとエルはすぐに対応してくれた
「わかった!ほんの少しだけ待ってろ!」
そう言うとエルは急いで門の脇にある小屋、門番用の小屋にまで走る
あそこに設置してある魔道具でマーリンの許可と門の開閉をしてくれるはずだ
それと同時に後ろからアルが追い付いてきた
「ハァ...ハァ...ギル、その子は...どうしたの?」
息を整えながら心配そうな顔でアルは俺に向かって少し責めるような口調で話しかけてくる
責めるように聞こえたのは、もしかしたら俺の心情のせいかもしれない
「暖炉に、入っちまった。俺が目を離したばっかりに...すまない...」
あの暖炉の火の元は鉱物を溶かす炉に使うこともできるほどの魔道具だ
それが普通の暖炉ではありえないほどの火傷を負わせる結果になってしまった
マーリンの家までついたことによって少し落ち着いてきた俺は、自分でも驚くほど冷静に事態を説明できていた
「そう...今は何も言えない。でもメルを私にも、抱かせて」
アルの責めるような口調は消えたように思えた 俺は慎重にメルディンを預ける
アルは泣きそうな顔でメルディンを見つめていた
メルディンを渡したあとすぐに門は開いた
そうして通された部屋はどこか奇妙だ
家具と呼べるものは奥の座椅子以外一切なく、言いようのない不安をかきたてられる
何度訪れても落ち着かないところもその要因の一つだろう
木材で作られた両開きにかんぬきのついた仰々しい扉
部屋自体は石材で作られ、間取りは長方形
石が並べられた壁には赤銅が満遍なく塗られていて、等間隔でロウソクが並んでいる
灯りはこれと天窓だけだ。いつにまにか日は暮れている
「子供が暖炉に入って火傷をしてしまった!マーリン様!治癒をお願いします!」
部屋の奥、床より一段上がったところの座椅子
そこには決まって黒いローブの少女が座っているのだ
最後に素顔を見たのは4、5年ほど前だが、彼女の成長は俺が子供のころから止まってしまっていると聞いたからきっと今もまだ少女のままだろう
マーリンは声を意に介さず、子供を見ているようだった
一分程してひとしきり観察が終わったのか、目を伏せるようにしていた。
ここからではローブに隠されて表情を読むことはできない
ただ、何かを言い淀んでいるように見えた
不安を押し通すように俺はその場に五体投地し、必死に懇願した
「マーリン様!どうか!」
俺の知る中で一番誠意を示せる姿勢だ
相手の目を見ることができないがこれ以上のものを俺は知らなかった
「ギルバード!お前様!それは子に見せてよい姿じゃあないんだよ!」
マーリンは俺を叱責する。
いつものことながら、少女のような高い綺麗な声なのにどこか威厳のある不思議な声だ
俺は小さいころからこの不思議なマーリンの声が大好きだった
小さい頃は気を引くためにあの手この手で困らせてしまったものだ
そして、子供を持つようになった今も困らせてしまっている
マーリンが子供に見せるのは間違いと言うなら、きっとそうなのだろう、俺の知るマーリンは間違ったことを言ったことがない。しかし俺に引くことはできなかった
「しかし!こうするより他にない!」
俺は引き下がらなかった。彼女の言葉を遮ったのは初めてだったかもしれない
「ギル坊...やめろ、お前様の気持ちはよくわかった。その情けない姿は......よせ。」
彼女の苦しげで、悲しそうな声で俺は顔をあげ立ち上がる。その声の意味は理解したくなかった
座ることを促され、二人して気落ちした声で一声かけ、その場に座る。
マーリンの口が開かれるのが怖かった。思えば誰かの怪我を治す時、彼女はこんなに待たせる人じゃなかった。理由なんて後から聞けばいいと言い、どんな命でも助けることを最優先する人だった
そして永遠にも感じられる数秒が流れた
彼女は私には治せないとあっけなくそう言った
俺は自分の口からこれ以上ないほど情けない声が漏れていることに遅れて気が付いた。
助からないのか?そんな、こんなにあっさり?どうしてこうなった?
そんな言葉が頭の中をかけめぐる。
そんな中、横にいるアルは自分とは随分様子が違った。何かを考えるようしたあとすぐに
「治癒術は、ですか」
俺には最初何を言っているのかさっぱりわからなかった
治癒術は?どういうことだ、何が言いたいんだ?
俺の頭は焦燥感でどうにかなってしまいそうだった
マーリンはそう言われると苦虫をかみつぶしたような表情に変わったように見えた
実際の表情は、隠れているのだが。
「そう、治癒術以外なら...回復の術はある。しかし...」
「話して、ください。どんなことでも...やります。」
それを聞いた俺は、自然と口から言葉が滑り出ていた
マーリンは、その方法とは俺とアルの天命を大量に使うと言う
そこまでしてもメルディンが助かる可能性は非常に低く、もし助かっても一生消えない呪いが残り、最悪の場合は親子3人全員が死んでしまうと話した
それを聞いて俺は、どうしようもなく怖くなっていた
さっきまで口ではなんでもすると言ったのに。自分の命ならよかった。
でもアルの命をかけるとなると違った。アルのことを俺は愛している。
彼女が失われると思うと、とても怖くなった。
そんな情けない俺に、マーリンは言う
「お前様らは、若い。まだまだ子は作れるのよ。これも運命だと思って受け入れてしまえばよい。」
うつむいた俺にそんな言葉をかけてくれる。俺が昔から大好きなその声で。
頭はダメだと言っていたが、俺の心はその甘言を受け入れてしまおうとしていた。
子供は、また作れる。アルさえいればもう一度やり直せる...
そんな言い訳が頭によぎり横にいる彼女に視線を移すと、その腕の中に抱かれるメルディンが目に入った。
ひどい火傷だ。無事な部分が見当たらない。これじゃ助かるわけがない。絶対に無理だ。
そうだ、もしかしたらもう死んでしまっているのかもしれない。そんな言葉が浮かんでは消えていく。
そうしてメルディンを見ていると、目があったきがした
まぶたは乾いて窪んでしまっているので本当にそんな気がしただけだとは思う
でも次の瞬間、メルディンは驚くことに声をあげたのだ。
「ぁ...ぁぅ」
体に杭を打たれたように衝撃が走った
メルディンはまだ死んでない
とても頼りない、消えてしまいそうなか細い声だったが、確かに声をあげたのだ
俺にはそれが「生きたい、死にたくない」そんな風に、聞こえた。
聞こえて、しまった
俺たち夫婦にとっては初めての子供だ
でも初めてなだけなのだ
これから先があれば、何人か持てるであろう子供の一人にすぎないのかもしれない
でもメルディンにとってはこれが、一度きりの人生なのだ
俺はバカな考えを恥じた
新しい子供はメルディンじゃない。
今ここにいるメルディンが俺たちのたった一人の子供じゃないか
そんな子供を見捨てて俺は顔を上げてこれから生きていけるのか
覚悟は、決まった
アルルの顔を見る。彼女は俺とは違い最初から命をかける覚悟があったのだ
顔を見合わせて、頷く。
そうしてアルルがはっきりと口に出す
「マーリン様その方法をお願いします。」
マーリンは泣いているように見えた。
その直後、部屋は優しい光に包まれ思わず目を閉じた。
「ここから先は、子に聞かせるには酷じゃからよの...意識を飛ばしておいた」
光が収まったあとマーリンはそういった
「なに、お前様らが命をかけるといったのよ。私もそれには全力で応えよう。今から行うのは秘術だ。未だ皇龍が世界に顕現していた大戦の時代、魔族がこれを捕虜に使わせることで尖兵を死なせないように作られた呪術のようなものだと伝えられている。現代でこの方法を知るのは私だけよ」
大戦時代の遺物だと...?
大戦時代とはその名の通り、今よりずっと前
まだ世界に龍が居た時代に起きた戦争のことだ
元々現代の魔法とは大戦時代の魔法が不完全に伝えられたもので、その効力も大戦時代とは比べ物にならないくらいに落ちているらしい。
史実の有名な話を一つ聞き覚えがある
戦争で追い詰められた小国が、なりふり構わず王家秘伝に伝わってきた効果のわからない大戦時代のスクロールを発動させ、王家直轄領の都市に暮らす人間が全員行方不明になったと言うものだ
俺は息をのむ
もしかしたら、これならもしかしたら本当に助かるかもしれない
「お前様らにやってもらうのは簡単よ。この杖に手をあてて赤子を心で思いながら魔力をありったけ込めるといい。ただ、終わるまではずっと吐き出し続けるのよ。魔力がきれれば天命が削れる。それはとても辛いけれど、耐えてほしい。あとは私が全て引き受けるよの...」
そういってマーリンは立ち上がり近寄ってくるとアルルからメルディンを受け取り、そのまま魔術で石から寝台を生み出し寝かせると、いつでも良いといいながらこちらに杖を差し出してくる
月並みな感想だが杖の先にある鈍色に輝く水晶は見ていると吸い込まれそうだ。
「アル、二人でメルを助けよう。」
「そうね、そして...帰ったらシチューをみんなで食べましょう」
「あぁ、楽しみだ。今日はアルが料理をしてくれるからな」
「でも牛乳は放ってきちゃったわね・・・牛乳抜きのシチューでもいいかしら」
二人で軽口を言い合う
今生の別れにはならないといった風に、いつもよりふざけた感じで
そして俺たち二人は、水晶に片手をかざし、魔力を解放した。同時に水晶から眩い光が発せられる
「ぅおお...!!!」
覚悟はしていたが思わず声が漏れるほどキツイ
俺の扱える最大規模の魔法を常に打ち続けているような感覚だ
当然、魔力は数舜で尽きた
「ぐっ...」
苦しみの声が漏れ出たが噛み殺す
メルの為だメルの為だメルの為だ
一度は諦めかけてしまったその命を助けられるのだ、それは素晴らしいことで苦しいことなはずはない!
俺は自分に繰り返し繰り返しそう言い聞かせ、歯を食いしばって耐え続けた
隣ではアルも辛そうに目を伏せときおり苦悶の声が漏れ出そうになっている
男の俺ですら体が千切れそうなくらいなのに、アルは本当に強い女だ
そうして何分経ったのだろう
わからない
もしかしたらまだ数秒かもしれない
苦しい
いや、苦しくない
メルの為だメルの為だメルの為だ
唱えながらアルの様子を見ようと横に視線を向けた瞬間、アルの体から力が抜けたような気がした
何かよくない気配がする
失敗なのか
そんなのは嫌だ
加速する思考が、残った手で彼女を抱き留めた
アルは、意識を失っていた
呼吸があるかはわからない
しかしその手は未だ水晶から離れようとしない。
(クソ...まだなのか?!クソ!3人で帰るんだ!絶対に!死ぬなアル!死ぬな!)
俺は自分の苦しみに耐えながらそう思うことしかできなかった
終わることのないと思っていた地獄の苦しみは数秒後、水晶を掴むアルの手の力が抜けんとする時にやっと光とともに収まった
「成功した!秘術はここに!メルディン=ハーツの命を繋いだ!!」
「よく耐えたギル坊...!!アルルもよく耐えた..!!」
アルの体を支えながら倒れかけた俺をマーリンはその少女のような体格で器用に支えてくれる
あぁ...成功したのか・・・?
そう思いながらメルディンを見る
メルディンの傷は、治っていなかった
「どういう...ことなん..だ..」
そう言い残し、俺の意識は事切れた
左手の痛みで目が覚めた。手首から先は土色になりひびわれていて感覚がない
なんだ?この手は...それよりも!そうだ!メル!
メルディンは俺の椅子の目の前の寝台にいた。目に見えるところに傷はないように見える
成功直後のアレは見間違いだったのだろう
「よかった...本当によかった...」
見れば横には同じように椅子に座ったアルがいる、こんなに疲れた様子は出産後にも見せなかったが意識はしっかりあるようでメルディンを見ながら微笑んでいる
見ると俺の左手と同じような症状がアルの右手にも見える
さっきまで無理にそそいだ魔力と天命の影響だろう。
「ん...ギル坊も目覚めたのよ。数分さ、早いね。まだ寝てるのもいいけれど・・・メルディンの話を、しようか...?」
寝台を挟んで向かい側にはマーリンが神妙な面持ちでこちらを見ている
緊張感が足りないかもしれないが今まで決して名前を呼ばずに赤子や子供と言っていたマーリンが名前で呼んでくれたことで秘術の成功を実感する
そうして備える
呪いのことを聞くのはやはり、怖い
俺が生唾を飲みこみ、頷くと話が再開された
「この子には、死神の加護と皇龍の加護、二つのものが秘術によって与えられてしまったのよ」
「死神の加護...?皇龍の加護...?」
今までまったく耳に入ったことがない単語に、思わず復唱してしまう
アルも全く知らないといった顔だ
「知らなくて、当然よ。死神の加護も皇龍の加護も、持つ人物は現代には誰もいない。皇国の王書庫あたりに文献はあるかもしれないけれど。」
「どんな加護、なんですか?」
「・・・死神の加護は、不死の加護。皇龍の加護は命を対価に絶大な力を得る加護。」
マーリンはそれだけ言って苦しそうに黙ってしまう
「...続きがあるんですよ、ね」
またアルが聞き返してくれる
聞き返すのは当然だ、俺達がいま聞いた加護の効果は祝福と呼ぶべきだろう
「・・・死神の加護は、不死の加護。そして...孤独の加護でもある。加護者は不死の代償に自分の周りから壮絶な勢いで天命を奪い取っていく。」
マーリンが言い終えると、俺もアルもあまりの凄惨さにメルディンから目をそらすばかりだ
「そんなことって...!この子は!メルはこれから一生独りきりなのですか?!そんなのあまりにも...」
アルは泣き崩れてしまう
気を抜くと俺も叫び出してしまいそうだ
あまりにも惨い
「あわてるな、別に今私らはなんともないだろう?この呪いに関してはこの指輪で防ぐことが可能よの」
そういいながらマーリンは右手でメルディンの首元を指さす。そこにはいつのまにか白金で作られ中心に緋色の宝石が埋め込まれている光輝くような指輪が首飾りのように下げられていた。
「マーリン、それは?」
「それ、は...?」
俺とアルがほとんど同時に聞く
「これは魔大帝の指輪と呼ばれる魔道具よ。これを身につけていれば死神の加護の効力は、その一切を封印される。今はこの世に...二つとない代物であるが。なに、ギル坊とアルルの子の為じゃ惜しくはない。」
「そんなものまで・・・ありがとうございます」
「すまないマーリン、ありがとう。」
「礼はいらんよの。それより二つ目の加護のことじゃが...皇龍の加護によってこの子の魔力は極大化され、始の魔法を一つ手に入れるその代償はな、天命によって贖われる。秘術によって増大した天命を持ってしても、この子はもう..30年も生きられまいて・・・」
「......本来助からなかった事を覆したんだ。仕方ない。仕方ないが...長いとは、言えないな・・・」
俺が、失わせてしまった
本来この子はいくつまで生きることができたのだろう
俺もアルも純血の人間で亜人の血は一切入っていない
それでも60くらいまでは生きることができたのだろうか...
そう考えると俺は半分も奪ってしまったのだ
この子の人生を、半分も
崩れ落ちそうになる
隣のアルが泣かないでいてくれたおかげでかろうじて受け止められた
「そして、そのお前様らの手。気づいているとは思うが今はほとんど動くまい。その傷は治らん。魂の損耗の跡なのよ。まぁ...明日になれば日常生活に支障はない程度には動かせると思うが。じゃが、戦闘にその腕を使うのはもう厳しいであろう。力はあまり入らんし、魔力もほぼ伝達されない......。」
「...」
マーリンはその先の事は、言いにくそうに俯いて閉口してしまう。
「マーリン」
俺が呼ぶと、覇気のない様子で顔をあげた
「その程度の代償で息子を救えるなら、マーリンは止めないはずだ。言ってくれ...続きがあるんだろ。」
魔術師はいわずもがな、近接系であっても魔力を体に巡らせるのは基本にして最大の能力だ
それがないのは大きな不利になるだろう
事実なら今までのような戦闘は絶対にできない
確かに大きな代償と言えるかもしれないが、息子の命と釣り合うとは思えない
「...そう。一番最初に伝えるべきだったやもしれんが、ギル坊・・・お前様らの天命はもってあと9年なのよ。」
「そう、か。」
俺とアルの天命はあの秘術で大部分を削られてしまったらしい
アルと俺は今年で24歳になる
メルより少しだけ、長い
それなら仕方ない。子より長生きできるのだ、嘆く資格はないだろう
同じように考えてくれたのか落ち着いているアルは、手を顎先にあてて何やら考えているのかと思うと、口を開いた
「マーリン様、どうか私達が死んだ後はメルの面倒を見て下さいませんか?9歳の子供が一人で生きていくにはこの世の中は厳しすぎます。私にできることは多くありませんが、出来得る限りのことはします。」
俺は、また自分を恥じた
アルは自分の余命のことなど少しも悲しむことなくメルの未来を考えていたのだ
「俺からも、お願いしたい」
遅れながらもそれを言葉にできたことにほっとする
最低限の父親としての心構えができたような気がして
「そうか、...わかった。このアラス大陸四賢者が筆頭<魔人>マーリン=ロードライトはお前様らの死後、メルディン=ハーツが一人前になるまで育て上げよう。約束する。対価は...お前様らは残された時間メルディンを精一杯愛してやれば、それでいい。」
俺とアルは泣きながらひたすらに感謝をすることしかできなかった
ギルバードとアルルは礼の言葉を残してメルディンを抱きながら家に帰っていった
その間もずっと椅子に座ったままのマーリンは星を見ながら遠い昔のことを思い出していた
「まさか、死神の加護が出てくるとは思いもしなかったのよ・・・」
誰に聞かせるわけでもなく呟いたマーリンの左手の薬指には白く光る金の指輪がされていた
5話目です
今回は結構長くなってしまって、すみません。
短くまとめる能力のヤツはまだまだガキンチョでして・・・
今までに比べてかなり長めなので文章の表現等おかしな部分があると思いますが
手取り足取り優しく教えてくれると励みになります!