生きる意味
「___!お願いします!どうか!_____!」
声が遠くから聞こえる
「この子を助けてくれ!目を離した俺が悪いんだ!お願いだ!どうか!」
声が聞こえる
それと同時に俺は目覚めた
全身が痛い
生きているのが奇跡だと思えるほどに
しかし何故か意識ははっきりしている
辺り一面は仄暗く、赤い
両端の壁には規則的にロウソクが並べられ頼りない光で部屋を照らしている
窓から差し込む星の光は時刻が夜だということを伝えてきた
長方形だと思われる部屋の奥には地面から一段上がったところに座椅子が置いてあり、そこには黒いローブの小さな人物が足を崩している
小さな影に向かい合うようにしてギルバードとアルルが並んで立っている構図だ
どうやら俺はアルルの腕に抱かれているらしい
小さな影はローブのせいで表情は読めないがギルバードとアルルはあの黒いローブに何かを懇願しているようだ
とても焦っているように見える
「.....ぅぁ」
声を出そうとして、喉に激痛が走る
その痛みでやっと声が出せないことに気付く
(そうだ、俺は暖炉に飛び込んで...)
見れば喉の他にも視界に入る自分の体は暖炉で焼けたには不自然なほどグズグズに焼けていた
改めて意識があるのが奇跡にしか思えない
(死ねなかったのか...いや、この怪我ではもう助かることはないか)
痛みの中で意識だけは切り離されたようにどこか冷静に自分を見つめている
別に死にたいわけじゃあなかった
新しい体、新しい命
なるほどこれなら前の人生より良い道を歩めるだろう
それに今の俺に死ぬ理由はない
でも、生きていい理由もなかった
考えてしまったのだ
暖炉を目にした時、この体に生を受けるはずだった本来の命の事を
俺は一度人生を身勝手に諦めたのだ
そんな俺が、身勝手に他人の体を奪って生きる事など許されない
しかし俺にはこの体をどうやって返せばいいのかすらわからない
だからこの体で何かを為す前に死ななければならないと思った
そう思う他なかった
「マーリン様!どうか!」
そう思った矢先、ギルバードがマーリンと呼ぶ小さな影に向かって手を向け額をつきひじをつき、ひざをつく、土下座のような五体投地をした
「ギルバード!お前様!それは子に見せてよい姿じゃあないんだよ!」
途端、マーリンと呼ばれた小さな影が甲高い声で激昂する
少女のような声だった
「しかし!こうするより他にない!」
ギルバードに引き下がる様子は一切なかった
「ギル坊...やめろ、お前様の気持ちはよくわかった。その情けない姿はよせ。」
諫めるように苦し気な声をマーリンは絞り出すと、ギルバードは泣きそうな顔で立ち上がる
「お前様ら二人とも、まずは座るよの...焦るのはわかる。その赤子の状態はここからでも手に取るようにわかってるのよ。じゃが、まずは話を聞くといい」
そう言われると二人は床に直接座る
「そう、大事な話を聞くときは心を落ち着けて聞くべきよ...単刀直入に言ってその赤子を回復させる治癒術は私にはないよ。赤子の魔力はとても弱い。聖教国の竜王アウラクラスでなければ難しいであろう。」
「そんな...」
ギルバードの表情は青ざめていく
その隣でアルルは何かに気づいたように慎重に口を開いた
「治癒術は、ですか。」
そう返されるとマーリンは苦悶の表情に変わる
「そう、治癒術以外なら...回復の術はある。しかし...」
「話して、ください。どんなことでもやります。」
ギルバードは真剣な表情で答えを促す
「...この方法は肉親の天命を大量に消費する。子が助かる可能性も半分もない。それに加えてその子には解呪できない呪いがかかってしまう。最悪の場合、お前様らの天命は尽き、その子も死んでしまう」
「お前様らは、若い。まだまだ子は作れるのよ。これも運命だと思って受け入れてしまえばよい」
それを聞くと、ギルバードとアルルは顔をクシャクシャにしてうつむいてしまう
(見捨ててくれて、構わない。生きる理由は、ない。)
「ぁ...ぁぅ」
二人に向けてそういった意味を込めた声をかけようとしたが失敗に終わってしまった
俺の声が聞こえた途端、ギルバードとアルルは俺の顔を見る
そして二人とも数秒目をつむり、目をあけた時にはなにか決意を固めたような顔になっていた
ギルバードとアルルはお互いを見合わせて頷き、アルルが言う
「マーリン様、その方法をお願いします。」
そう聞いたマーリンは一瞬諦めたような顔をした直後、部屋は光に包まれそのまま俺の意識は流されるまま離れていった
四話目です。まだ読んでくれている人いるかな・・・
四話目にしてあとがきに書くことが尽きた気がします。ッフ俺の文才はここまでだ先に行け・・・
もっと話のテンション上げていきたいんですけど、この主人公さんなかなか陰湿なヤツでね。困っとります。