笑顔
「好きな人に笑いかけるとき、ひとは口角が上がる。」
とあるマンガを読んでいて出会ったフレーズだ。
(笑ったら口角は当然上がるだろう)と思ってしまったから、この考えそのものには共感しなかった。
でも、
“好きな人に向ける笑顔は普通の笑顔と違う”
この感覚はわかると思った。
好きな人と過ごす時間。
君が隣にいる感覚。
他愛もない会話。
君のきれいな瞳。
あふれんばかりの笑顔。
きらきら光る景色。
ただ君を見ているだけで、
守りたいとか 支えたいとか
幸せとか ありがとうとか
おくの方であっためていた感情が湧き上がって、染みだして、
自分の場合は“目に出てしまう”。
思わず目を細めてしまうのだ。
どうしても普段の自分の笑顔に
君への愛しさに背中を押された
やわらかなほほえみが溶けこんでしまう。
その時はなんでもなかった。
そんな風に笑うことは、当たり前だった。
君は今、もう隣にいない。
君と会わなくなって、
君と話さなくなって、
あんな笑い方は長らくしていない。
まだ心の中に君がいて
過去ばっかり振り返って
それでもいいと思っていた。
君以外にあんな風には笑いたくないと思った。
君に向けたあの笑顔はいつのまにか、
自分の中で 淡くて深いおもりになっていた。
過去に逃げる自分の表れみたいだった。
思い出すことが罪に思えた。
そんな時、あのフレーズに出会った。
少し、世界に色が戻った気がした。
そっか。
君は言葉じゃ表せられないたくさんのことを教えてくれたけど、
こんなことさえも教えてくれていたんだ。
自分はこんな風に笑うこともできるんだってこと
こうやって笑いたくなるほど
君のことを、
たったひとり誰かのことを、
想えるんだってこと
あぁ、そっか。
ありがとね。
また君にもらってばかりだね。
いつか返せたらなんて 決して叶わないけど
この気持ちも教えてもらったことも
絶対無駄にはしない。
浅はかな感情で壊したりしないように、
ゆっくりゆっくり、
溶かしていくから。
こう考えている今きっと、あんな風に笑える気がするんだ。