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地上へー完ー

 闇獣を倒し、地上に向かって洞穴を歩いていると、先の方から何やら音が聞こえてきた。


「遺体は出来る限り丁重に扱い、元のままを維持しろ! 急げ、闇獣が引き返して来る前に作業を終らせるんだ! 遺品回収は後回しだ! これ以上、闇獣に仏さんの身体を喰い散らかされてたまるか! 収容が……」


 どうやら、地上防衛の騎士達が闇獣の犠牲者達を回収、遺体の保護をしているようだ。責任者の的確ながら緊張感に満ちた命令に急かされ、騎士達は息吐く間も無く走り回っている。

 闇獣は死体を喰らい魔力を蓄える。もし戻ってきたら、跡形もなく喰い散らかされてしまうから、回収を急いでいるのだろう。


「むっ!? そこに誰かいますかっ! 生存者なら早くこちらへ……」


 そんな事を考えながら騎士達に近付いて行くと、僕を見付けた隊長らしき騎士が声を上げる。

 この無惨な現場で助かった命に対する呼び掛けだった……が、残念ながら僕は生存者ではなく討伐者なのです。

 ま、まあ、闇獣の脅威から生き延びているので同じと言えば同じなんだけど……と、とりあえず、闇獣を倒した事を伝えておこう。ついでに、地上に出る前の審査も済ませてもらわないと。


「ご苦労様です、現場指揮官は貴方でよろしいですか?」


「はい、そうですが……あ、貴方は!?」


 そう話し掛けた僕の顔を見た指揮官は、


「これはソルハート将軍閣下!? ご苦労様であります!!」


どうやら僕の事を知っていたようで、突然の出現に驚いた様子で敬礼してくれた。……こちらの道は使った事がないから、初対面のはずなんだけど……。


「……え、えーと……僕はもう将軍ではないし軍属でもありませんので、敬礼は不要ですよ。民間人として普通に扱って下さい」


 騎士団を辞めてまで将軍気取りでいると思われるのは勘弁なので、敬礼とかは本当に止めて欲しい……のだけど、


「いえ、自分達にとって将軍閣下は将軍閣下であります!!」


何故か指揮官殿は聞いてくれない。


「そ、そうですか? えー……もう違うんだけどなー」


 以前から、妙に騎士達(特に若手)からの信頼というか忠誠というか……そういうものが大き過ぎる感じはしてたんだけど、一体なんでだろう……謎だ?


「はっ! ……ところで、閣下はどうしてこちらに?」


 ぐっっ……違うけど、まあいい。ここは聞き流して話しを続けよう。


「えー、ちょっと急いでいますので単刀直入に伝えます。闇獣は仕留めましたのでもう脅威はないと思いますが、念のため後始末の要請をお願いします」

「は?…………は、はっ!? りょ、了解であります! おいっ、正門防衛隊に連絡を……」


 闇獣討伐の報せに一瞬呆けた指揮官だったが、すぐ気を取り直して指示を飛ばしながら走り始めた。

 これで、この件は終しまいとなるだろう。後は、後始末と後片付けをしてしまえば、この道の通行も再開するはずだ。


「……そうか。閣下っ、すぐに正門から部隊が派遣されるとの事です。被害に遭った人々、戦って死んだ同胞に代わって言わせて頂きます……ありがとうございました」


 指示を飛ばし終えた指揮官が戻って来て、闇獣を討った僕に感謝の言葉を告げた。その彼の表情は喜んでいるようでもあり、安堵しているようでもあり……。


 ……ただ一瞬、自らを責めるように……悔しそうに歪んだ表情が、僕には悲しかった。


 もし殿下達に会わずここに来ていたらと、そうも思うけれどそれは……ただの結果論に過ぎない。未来予知、時間跳躍、そんな大それた力は僕には無い。


 ……だから、

 その時その時に、

 成すべきを為す事しか……。


「……閣下、そんな顔をなさらないで下さい」


 一体、僕はどんな顔をしているのだろうか?

 鏡でもない限り自分では分からないけど、少なくとも指揮官殿の困ったような表情を見る限り、あまりよい顔ではないのだろう。


「闇獣は討たれた、脅威は去った。そのお陰で、我々は安心して任務を……犠牲者達を回収し弔ういう役目を果たす事が出来るのです。それは、我ら騎士にとって最優先であり、最重要の役割を果たせるという事……これ以上の幸運はありません!」


 指揮官の眼は、時間を掛けてより丁寧に犠牲者達の亡骸を集める騎士達に向けられている。


 ……そうだよな。


 だって、遺体は出来る限り綺麗に弔ってやりたいもの。

 この世界では覚悟の上とはいえ、唐突な死である事に変わりはない。

 騎士達は、護れなかった生命の……そして、遺された者のために、少しでも何かしてやれる事を頑張っている。

 なら、ここで僕に言う事は……できる事はもうない。

 後は、


「……そうですか、任務の完遂を祈ります。ところで、お忙しいところ申し訳ないのですが、出国の検査をして頂けますか?」


いい加減に出国しなくてはならない。

 ……とはいえ、強行に正門を抜けて来ているので後々問題にならないように検査は済ませておかないと!


「手続き……でありますか? それなら、閣下には必要ないかと」

「え? いや、さすがにそれは……」


 出国検査は万人の義務だ。

 この厳しい世界において、重要な情報や危険な物品等が勝手に漏洩、流通してしまえば国の存続に関わってしまう。

 なので、如何なる人物でも検査は受けないといけない……のだが、


「……閣下、私が考えますに、帝国に害を成そうとするものがわざわざ危険を侵して闇獣を討伐したりしないかと……」


指揮官殿の言葉に、それもそうか……と納得してしまった。

 そんな危険で目立つ事はしないし、闇獣は無視して暴れてもらった方が混乱に乗じて楽に入出国ができるはずだ。


「それもそうですね……では、御言葉に甘えて僕は行かせてもらいます」


 指揮官に断りを入れた僕が地上への道を再び目指し始めたその時、


「ぜーーーいん、きをーーーつけっっ!!!!」


鋭い号令が掛かると共に、現場にいる騎士達全員が直立し、背筋を伸ばしたままカッと靴音を鳴らして踵を揃え、


「ソルハート将軍閣下に、敬礼っ!!!!!」


一斉に掲げられる右手と同時に、


「いってらっしゃいませ、将軍閣下! また会う日まで、どうか御元気で!!」


別れと再開を祈るような敬礼が贈られた。 


 ……また、か。


 本当に、そんな日が来るかは分からないけれど、


「ありがとう! 帝国の騎士達、貴方達の戦いに武運を!!」


この別れの言葉に感謝と敬礼を!


 ……そして僕は、ただの一度だって振り返らずに歩き続けた。


 次第に肺を満たす空気が冷たく、

 次第に頬を撫でる風が強く、

 次第に目に映る闇が濃くなって…………。


「……ふぅ、ようやく……」


 そこは、僕達には見慣れた世界の風景だけど、

 幾万年……億年前の先人達には、想像もつかない風景かもしれない。


 大地のひび割れから漏れる光が天を突き、

 僅かな輝きが辺りを照らす。

 だが、それ以外は闇……。


 それが、

 全ては輝き失った、

 あの仄かに紅き血筋が灯る、

 太陽が輝きを失った世界。


「我が魔力よ……奮え、猛りて駆け巡れ」


 ええっと、方向は……あっちだな!

 よーし、行こう!

 行き先は、


「南にある、冒険者の国へ!」 

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