地上へ①
サプライズ的というよりもハプニング的な見送りで出立した僕は、地上に上がるために急いで歩いていた。
何故急いでいるかというと、出立の時間が遅れ予定が崩れしまっているからだ。しかも、今日は建国祭で道が混んでいるため移動に時間が掛かってしまうし、地上への門を通過するための検問が早めに終わってしまう。
目的地へは、後1時間くらい。
こんな時は、この広大な地下空間が恨めしいなぁ……。
太陽の恩恵が途絶えて幾年月……。
地上で暮らしていた生命達が過酷な環境に堪えられず、安住の地を求めて地下に逃げ延びようとしていた。そのため多くの生命達が暮らせる広大な空間を手に入れるべく、手にしたスコップを突き立て母なる大地を掘り進めていった。
……それは、楽園を目指すように長い道のりだった。
厚い地面、堅い岩盤、舞い上がる粉塵……、
豆が幾度も潰れた手で汗を拭った。
環境の変化からくる疲労、薄くなる酸素、突如発見される悪性細菌……、
心半ばで倒れた者達の分までと、身体に力がみなぎった。
掘り当てた温泉、目が眩むほどの金塊、埋もれていた先人達の遺産……、
「なんで今見つかんだよ……」
と誰もがその偶然と幸運にキレた。
地下空間を一気に無に帰す崩落、地上に降り注いだ雨が引き起こす地下洪水、進化し巨大化・大量発生した"G"の脅威……、
自然の恐ろしさは……いつだってBeyond imagination。
そんな繰り返しが、長く……長く続いた。
一つの命が運命を終える度に、新たな運命を担う命が生まれてくる。
生まれてくる命達は、先に逝った命の力を背負ったかのように、一回りも強くなっていく。
繰り返し、繰り返し……。
それは、当然良い事ばかりではない。
災害、闇獣、テロ…………災厄と悪意による輪舞。
けれど、乗り越える度に強く、強くなっていく……。
……だが、やがて多くの力を得た生命達はついに成し遂げる。
一つの恩恵が消えたこの世界で、生命達は己の力だけでこの広大な地下に楽園を築いたのだ。
……という、先人達を称える聖典にも書かれている通り、現代の地下空間は数百kmなんて当たり前の広大な面積にまで掘り広げられていて、今なお広げられる箇所には常に工事の手が入っている。そして、この空間を維持・管理するために、掘削技術だけでなく、建築技術、素材錬金術、自然魔導技術、機械魔導技術……等々、この地下で暮らすための多くの技術が生み出され発展してきた。
近年では、地下空間を往来できる地下道も張り巡らされており、帝国を含む幾つかの国はすでに導入を開始している。
なので、今や楽園……とは言わないまでも、安住の地になった地下から地上に上がる者は多くはない。職業でいえば、地下道のない多国間を渡り歩く商売人や地上で遺跡や未探索地を冒険する冒険者、地下の入り口を護る騎士……などが挙げられるが、一般国民はほぼ地下で一生を終える事がほとんどである。
故に、利用価値の低い地上へ出るルート幾つかに限られており、この帝国における地上へのルートは5つ。
その内、一般人が利用可能で徒歩で行けるのは1つだけ。
『帝都直結帝国軍大正門』
帝都メインストリートに直結するように建てられた地上への出入口で……今、まさに僕が急いで向かっている場所である。
一心不乱に人混みの中を早足で歩いていたら、徐々に混雑がなくなってきたので、
「我が魔力よ……奮え、猛りて駆け巡れ!」
僕は魔法を使って一気に駆け出した。
この『加速魔法』は、通常でも走力を倍、その他の動きも格段に速めてくれる優れた魔法である。
……ただ、僕は何故か『炎熱と加速』を司る魔法との相性が異常なくらい良いらしく、
「…………よしっ、正門みーえたっと!」
走力は単純に真っ直ぐ走るなら5倍近くは上がるし、他も同様に3倍近い速力を引き出す事ができる。
……まあ、『聖剣』に選ばれる事に比べたらどうという事はない才能だけど、この相性特性のお陰で随分助けられているのですよ、はい。
今回も、お陰でどうやら間に合った…………ん?
「うん? なーーんか正門前が騒がしいような……?」
止まって魔法を解き、正門を見れば人だかりができていて、その周辺では騎士が忙しなく往来している。
「う、うーん………なんか嫌な予感が…………」
ま、まあ、行かない事には何も始まらない。
とりあえず、僕は正門前で話しを聞いてみる事にした。