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旅立ちの日②

 祭りの光景に別れを告げた僕は、出発前の身支度を整える。

 クローゼットに備え付けてある鏡を見ながら、身に付けている衣服や装備を目視で確認……。


 鏡に映っているのは自分自身。

 身長165cm、体重68kg。

 ざんばらの黒い髪、やや大きな両目に輝くオレンジ色の瞳。

 上下に着込んだ黒の軍用着は、通気性と保温性のどちらにも優れており、地上にも地下にも対応してくれる便利な衣装だ。

 手足は革製のグローブとブーツを着用し、後は地上に上がる頃にでも耐寒コートを着れば、旅装束として充分だろう。


「うーん……よしっ、破損もないし完璧! じゃあ……」


 身支度は終わり、腰に一つ小さな鞄を巻き、手には大きな鞄を持って部屋を後にする。

 ……ふと、扉を開ける前にもう一度部屋を振り返った。

 帝国軍学院時代からずっと暮らしてきたこの部屋は、帝国の管理する6階立てアパートの4階にある一部屋だ。利便性が良いため長い間世話になってきたけれど、いよいよお別れの時である。

 今までお世話になりました。

 素直にそういう気持ちになって、僕は一つ頭を下げた。

 どうか次の主にも大事に使われますように、そう願って……って、さっきから願ってばかりだけど……まあ、いいや。


 それじゃ今度こそ……と、僕は扉を開けてアパートの廊下に出た。


 背中越しにパタリと閉まる扉の音が何だか少し寂しかったので、それを振り払うような思いで早足で廊下を歩いていく。

 すでに管理人に鍵は返却してあるので、後は玄関から出て行くだけだ。

 3階……、2階……と、誰にも出会わずに階を降りて行く。

 まあ、祭りの最中なのだから当番だけでなく非番の騎士達も外出していて、アパートはもぬけの殻のはず……って、1階に降りる階段から玄関前のロビーが見えるまではそう思ってたんだヨナー。

 そこには……、


 一人は赤と黒が映えるドレスを身に纏った小柄な美少女。艶やかな黒く全く癖のない長い髪と、真っ直ぐに整えられた前髪の隙間から覗くオレンジ色の瞳が特徴的で、どこか神秘的な雰囲気をまとっているものの落ち着きの無さそうに辺りをキョロキョロと見渡している事から、年相応の少女の面影が見てとれる。


 もう一人は赤と青が映える軽甲冑を身に付けた背の高い美女。淡い水色の長髪と切れ長の眼に宿る碧眼には強く優しい光が窺え、身のこなしや纏う雰囲気は明らかに尋常の存在ではない。


……という、普段こんな所には絶ッッッ対にいない二人が立っていた。


「……あっ、ソル兄様! よかった……間に合ったみたい。もうっ……、第三師団の隊列にいないから、もしかしたらって思って来てみたけど……」


「ええ、そのようですね。しかし、まさか本当に祭りの最中に出立するなんて……それはあまりにも薄情ではないかな、ソル君?」


 僕を発見した二人は、順番に安堵と文句の声を上げる。

 ……まあ、限られた人以外には黙って行こうとした節はあるから、文句を言われても仕方ないけれど、まさか……、


「おはようございます、サン姫殿下とセシル将軍……」


帝国第三皇姫サンハート・リオエンパイアと、

帝国第2師団皇族直轄近衛騎士将軍セシリディア・リオアクア。


この二人が、今日の出立を嗅ぎ付けて来るとは思わなかった。


「建国祭で御忙しいはずの御二人がどうしてここに?」


 いや、本当……。

 二人は今日、ガチで忙しいはずなんですヨネー。


「だ、大丈夫ですよ! 私の御役目は午後からですから!」


「……いや、大丈夫ではない……のだがな。しかし、君が出立するとなると流石に見過ごせまい。短い付き合いだが、何度も世話になっているのだ、姫も、私も……な。見送りくらいは当然だろう?」


 なんとも律儀な話だなぁ……まあ、見送りだけなら……。


「それはありがとうございます。……で、見送り以外に用件が? あまり別れを惜しんでいる暇はないんですけど……」


 冷たいように聞こえるかもしれないけれど、こっちにも予定というものがあるので手短に済ませて欲しいところだ。

 そんな僕の態度に、セシル将軍は怒るでもなく困ったように苦笑して、傍らにいるサン殿下の肩に手を置いた。

 その手に促されるよう、彼女は両手を前に出し言葉を紡ぐ。


「出でよ、誘い導きしものよ……」


 姫殿下の言葉に応じ、呼び出されたものは…………。


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