異世界転生します。
気がついたら、目の前で神様が土下座してました。
「非常に、申し訳ない。どうか平に、平にご容赦を!」
ハテ?
神々しい人魂に必死こいて頭を下げられても、前後事情がさっぱり分からんのでリアクションのしようがないのですよ。
そんなわけで人魂神様をなだめすかし、事情の聞き取りを行いました。
それによりますと私、この神様がくしゃみして取り落とした勾玉が体にめり込んでお陀仏しちゃったそうです。
ろくな運動をしてもいなければ魔術のたしなみがあるわけでもない現代日本人女性が魔力と神力と法力の塊食らった事で、色々オーバーフロー。
魂の殻はもちろん、魂そのものがしっちゃめっちゃか。
肉体の方は人様に見せたら嘔吐必至のとってもイングリモングリな姿を披露してしまい、その日のニュースで陰惨な殺人事件としてトップを飾ったそうです。
あぁ、犯人の見つからない迷宮入り事件ってこうしてできるんですねぇ。
で。
修復できない肉体に見切りをつけて、お詫びのために意識だけどうにか繋ぎ合わせたのが現状らしいっすよー。
どうにか繋ぎ止めたはいいものの、心身の修復は不可能。
そもそもお肉は荼毘に伏されちゃって戸籍も死亡届けが出てるんで、もしも地球に戻るなら一から肉体作った方が手っ取り早いとか。
けど、そうはいかない理由があるそうで。
どんな事情であれ、死者の復活はどの神様でも固く禁じられているんだとか。
まー、そうですわな。
死者の復活なんてファンタジー、ないと分かっているからこそエンターテイメントで人気のモチーフなわけですし。
でも今回は明らかに人魂神様にしか落ち度がないので、お詫びをしてくださると。
それが、異世界転生。
あ、新しい肉体で地球に出戻りコースもありましたが選択しませんでした。
出戻らない理由は、気力が萎えたのが一因ですね。
私の愛と情熱(と書いて黒歴史と読む)が詰まったパソコンとスマホは、妹と親友が引き取って全てデリートしてくれたそうで。
一番の心配事は消してくれましたし、家族や友人や引き継ぎできなかった仕事への未練でウジウジグダグダするくらいなら、そこまで吹っ切った方が精神衛生にいいでしょう。
そんなわけでして人魂神様が私の引き取りを方々に打診してくれている間、私は悠々と新人生プランを練ってました。
引き取り先はどんな所になるのか尋ねたところ、今の地球より後進的な文明なとこらしいです。
そもそも魔術を捨てて科学に特化し、自分達の首を締めるくらいにガスガス開発を行うような世界の方が珍しいそうで。
ファンタジーな世界という事なら……どうしましょうかね。
……うん、こんな感じで。
1.目立ちたくないので、世界を救うなにがしかとか大層な身分は不要です。
2.魔法があるなら、使用キボン。
3.でも直接戦闘は怖いので、魔道具とか召喚とか支援魔法なんかが手厚いとありがたいです。
4.ごはんが美味しいと、全私が泣いて喜びます。
「っあはははは!」
人魂神様にそんな条件をお願いしたところ、私の目の前にいきなり来た人に高笑いされました。
はて、いったいどなたでしょう。
腰まである金茶色の髪は細かいウェーブがかかっていて、アゲ嬢もびっくりするくらい盛ってあります。
金色の双眸はバッサバサの睫毛に縁取られ、鼻梁は高くまっすぐに通りたっぷりした真っ赤な唇はぷるんぷるん。
裾にスパンコールやビーズを縫いつけ黒色で縁取りされた紫紺色のスレンダーなドレスは、腰に黒い素材のサッシュベルトを巻いてます。
襟ぐりのVラインと左足側のスリットが深すぎ、胸の谷間とおみ足が大胆に露出してますね。
腕は同じく同色同デザインのロンググローブに被われ、足元は艶のある黒のハイヒール。
装飾品はシンプルに、小粒の宝石をあしらった細い金のチェーンでできたブレスレットとアンクレットが右手と左足に一つずつ。
全体的に見て、ものっそいケバ……ゲフンゲフン。
モトイ、非常ニごーじゃすナ女性デスネ。
「アタシがアンタを引き取る予定の神様だよ」
女の人はどこからともなく煙管を取り出して、プカリと一服を始めました。
って、えええー……。
女神様というと、どうしても清純とか無垢とか純潔とか『穢れなき』って単語が似合う神々しいイメージが固まっていただけに。
背格好といい態度といい、姉御とか女傑といった感じの女性は予想外ですよ。
私のそんな思考が伝わったのか、女神様が唇の端を歪めました。
うっわー……悪役然としたその微笑み、めっちゃよくお似合いです。
「そのイメージは、どこぞのご生母様のもんじゃないか。多神教を見てみな、ごくごく普通に交合もすれば浮気もするだろ」
あ、そう言えばそうですね。
人間も神様も、現在タブーとされる犯罪や近親婚がてんこ盛りです。
それに比べたら、悪役然とした女神様なんて余裕で許容範囲ですわ。
「適応力が高いねぇ。これなら、引き取ってもいいか」
そんな事を呟いて、女神様……おぅい。
胸元からメモ紙を取り出したんですけど……もしかして、煙管もここから?
あなた様の装備している魅惑の胸部装甲は、いったいどうなっているんでしょうか。
「で、アンタの希望だけど……うん、うちなら問題なく叶えられるね」
に、と女神様が笑います。
「ゲームのようにスキルやステータスの可視化はできないけど、うちはよくある剣と魔法のファンタジー世界だからね」
パン、とメモ紙を叩く仕草もよくお似合いで。
「メシも美味いよ。特にモンスター食材は、重宝されてる」
なんですと!
「ハーブや香辛料の類も豊富だから、地球のレシピを再現するのも歓迎さ。そういうの、期待してるよ」
……はて。
この女神様はどうして、ここまで私の出した条件を呑んで受け入れてくださるんでしょうか。
私はよくお気楽極楽な気性の人間だと見なされていますが、うますぎる話に不審を抱く程度の警戒心はあります。
この女神様も、私を世界に受け入れる事でメリットがあるから引き取りに名乗りを上げたはず。
豊かなボランティア精神を期待できるタイプじゃないです、この女神様。
「よく気がついたね、アンタ」
にいいいいぃ、と笑う女神様が怖いです。
「転生に浮かれて、そこんとこがドタマから抜け落ちるマヌケが多いんだけど」
お、おぉう。
腕を組まれると、胸部装甲が強調されますね。
どんなに少なく見積もってもE、個人的にはGを推したいサイズです。
「……アンタ、女よね?」
はい、いちおう。
とは言ってもすれ違っただけの見知らぬお姉ちゃんの美脚と絶対領域に萌えたりして、オタクというか変人枠というか。
自覚はしてるけど、反省はしない。
萌えちゃうもんは萌えちゃうんだから、仕方ないでしょう。
「……まぁいいわ。これはアタシら神々が割とやる事なんだけどね」
ふぉい、なんでしょう。
「行き詰まり始めた世界の進化を促すために、よその人間を受け入れる事がままあるのさ」
……へ。
「うちもそろそろ、そういうリソースをぶっこもうかって時期なわけ。そこにこの打診だろ、うちとしちゃあ苦もなく刺激資源が確保できるうえにこいつに恩を売れる絶好の機会ってわけさ」
あー、持ちつ持たれつってやつですね。
「そう」
う、こあい顔してますよ女神様。
「資源を譲ってもらうんだから、こっちも資源に気分よく来てもらえるようにある程度の便宜をはかるよ。でもね」
うぉう、凶悪さが八割増しです。
「こっちも好悪の感情がある。転生特典で大国の王子か高位貴族の跡取りに生まれついて、隣国の姫君と幼なじみの貴族令嬢と女騎士と天才魔導士と腕利きの神官と妖精族のレンジャーと獣人族の女奴隷でハーレムを築くイージーモードの人生とか望まれたりすると、殺意も湧くってもんさ」
うっわぁ……って、あれ。
そういう事を望む人なら、ふるいつきの美女な女神様にも何らかのアクションかけそうですけど。
「そういう軽薄な野郎はね、アタシみたいな雌虎には最初から近づかないよ。食う覚悟はあっても食われる覚悟がない腰抜けだから、イージーモードを望むんだろうね」
なるほどなるほど、勉強になります。
「まぁアタシも、そういう奴にインフェルノモードの人生をプレゼントなんて真似はしないさ」
……素直に感心したいですが、この女神様からすると。
「そういう腐った大たわけには、転生直後にお陀仏してもらうからね」
やっぱりー!
「引き取る資源にはここでの記憶を引き継いで世界の開発をしてもらう事を期待しているけど、そういう調子こいた馬鹿者には純粋なエネルギーのみ背負ってもらって……世界の上空から突き落とすよ」
墜落シしたボディから飛び散ったエネルギーが循環する事により、短期的には刺激になるんだとか。
あなおそろしやおそろしや。
異世界転生する事になった男性は、浮かれてそんな要求かましてくる事が多いらしいっすよー。
女性の方も大概で、頭抜けた美しい容貌と豊富なバックボーンに麗しい見目の婚約者を……人によっては複数人お求めになるそうです。
まぁ私もいらない苦労はしたくないですけど、どっちもどっちって感じですね。
それに比べたら私の要求なんて慎ましく微笑ましく、ノープロブレムだと保証してくださいました。
「さて」
メモと煙管を谷間にしまいこみ、女神様が私を見ます。
「転生前に、一通りのもんは組み込んじまうよ。具体的にはあっちの言葉の読み書きと、要望された能力だね」
はい、よろしくお願いします。
「モンスター召喚能力と魔術の才能と……あぁ、アンタの親元はどうしようかね。美味いメシが食いたいなら、モンスターの豊富な辺境の方が好ましいか」
そうですねー、できたら穏当な両親と美味しいごはんがあればありがたいです。
「そこは任せな。で、親はどのくらいの生活レベルが望ましいよ?」
剥き出しの『私』にあれこれ細工を施しつつ、そんな事を問われます。
貧民窟の住人……美味しいごはんのためにも、ないな。
水飲み百姓並みにカツカツ貧乏生活の人……も人生が楽しめなくなりそう。
食うに困らない程度に収入のある一般市民……ちょっと豪華な食材とかは望めませんねハイ。
創意工夫で努力しても、素材そのものの旨味ってやつは覆せませんからね。
そんなわけであつかましいのですが、ある程度裕福な家庭でお願いしたいのですが。
「そうね。なら、親戚に大店の商家はどう?」
あ、いいですね。
商人が親戚なら、珍しい食材の入手や作った道具を卸すのやらに便利でしょう。
……って。
商人さんご当人が、親御さんになるわけではないのですか?
「まぁね。生家はそれなりの身元保証があった方が便利だからね」
はぁなるほど、そんな条件に合致するお家が存在すると。
「父は領主お抱えの騎士。母は大店の商家出身の魔術士。アンタの伯父が商家の当主だよ」
おぉなるほど。
「……さ、できたよ」
気がつけば、仕込みが終了していたようです。
「アンタはアタシが連れていくからね」
はい、よろしくお願いします。
っとと。
女神様、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?
「あぁ、名乗ってなかったっけ? ミルでいいよ、本名は長すぎるからね」
了解しました、ミル様ですね。
あ、ほったらかしてましたけど人魂神様のお名前を……。
「いらないよ。どうせ、戻れない世界の神の一柱なんだから」
いやそれも義理が欠けてませんか?
「いいんだよ。アタシが色々仕込んだ時点で、アンタは地球の子からアタシの子になったんだから」
えー……。
「さ、行くよ」
女神様改めミル様は、『私』をそっと持ち上げました。
「どんな容姿になるかは指定してないけど、あの二人の子なら色々と困る事はないはずさ。それと」
お、お、おおお!?
た、谷間に『私』のボディが!
たゆんたゆんのボフンボフンのむちむちぷりぷり、素晴らしきかな極上の感触!
巨乳派の男性が乳袋を溺愛する理由は、これかー!
ミル様から『アンタ本っ当に女?』的視線を注がれますが、このアメイジングパラダイスに比べたら全く気になりませんね!
「……アンタの生まれる家は大層な家柄なんて言えないけれど、アンタのスペック生かしてチート無双なんてやってたら、当然世間の注目は集まるからね」
あ、そうですね。
すごい事をしてるのに注目を浴びないって人がいたら、それは異常です。
まぁ、ある程度目立つのは仕方ないのですね。
「話が早くて嬉しいね。さ、もうすぐだよ」
こうして私は、異世界転生しました。