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07 崩壊の連鎖への対処

「それで南米は真祖を送り込んで何とかしようとしている訳かな?問題だとか言っていたけど魔法研究者が彼の眷族になったのも君の了承の上だね?東南アジア生まれの真祖達も上手く使うつもりだろう?中近東対策はどのぐらい進んでいるの?」


「気が付いた?」美里はにまっと笑っていた。

こんな状況で沃土や映美が何もしていない訳がない。

新人類の分岐なんかは絶好の研究ネタで動向を監視している筈だ。


「当然沃土も映美も了承していたな。だったら私が聞くのは経過報告だけで良いと思うけど」


「経過報告だけだと切実さが伝わらないからあなたにも考えて貰ったのよ。宇宙開拓にも影響があるでしょう?」


「ああ、そうか。火星開拓は計画をもう少し前倒しにしないと不味いな。金星も可能なら少し強引に開拓を進めようか。火星での食料生産とかも経済性を棚上げにしてもう少し供給力を拡大しないと非常時には対処不能だ。私の眷族は拠点を火星に移す事にしよう。日本人だけでも逃げ出せる様に避難場所を確保するとしよう」


「出来るだけ速く宇宙開拓を進めて生存圏を確保しないと地球から出る機会を逸するわ。地球上での新人類間の覇権争いが激しくなったらその後に何処が覇権を握ったとしても科学技術が真面に残るとは思えない。魔法文明が進むにしても殆どの人は地球の地表に張り付いたままになるわね。そしてまた魔素乱流期を迎えて魔法が使えなくなる。次も子孫が残れるとは限らないわ。宇宙に出れば少しは種の存続の可能性が拡がる筈よ」


「これまで以上にそちらからも人を出す必要があるけど……そんなことは沃土達と調整済みか」


「そうね。沃土さん達と調整するわ。私も今迄以上に火星には顔を出すようにするから宜しくね」


「天谷師匠と摩耶ちゃんが来ていないけど何かあった?」


「今日は摩耶ちゃんの結婚式だから今頃は神前で何か儀式でも遣っている頃ね。彼女は皇族とも関係のあるお社の宮司の血筋だから一日では終わらない様よ。やんごとなき生まれの方は大変よね。あなたは相変わらず世情に疎い様だけどニュースになっていた筈よ」


「ああだから真祖の事を神使と呼ぶんだ。お社かぁ。伝統を引き継ぐ感じだねぇ」


「新人類の神使として公表された時にはかなりの眷族が移ったのよ。日本人の琴線に触れたみたいね」


この時の眷族の移動で麻耶ちゃんの眷族が一気に1千万人ぐらい増えた様だ。

殆どが私より上の世代みたいだけど増えたことに違いは無い。

まだ子供も作れるし眷族は増加するだろう。


「それで日本人が纏まるなら良い事さ。そう言えば他にも二人幼体の真祖が現れたよね。公表してないからまだ幼体の筈だけどもうそろそろ成体だろ?どうなってる?」


「二人とも一般家庭で普通に育っているわよ。一人は今十歳たからもう少し先の話よ。もう一人は何時成体になってもおかしくない年齢ね。幼体のうちは威圧とかもたいしたことないから二人とも少し強引な子供って所かしら」


「威圧とかもあるんだ。なら眷族とかも増えているの?」


「増えているわね。そこら辺りは沃土さんや映美ちゃんの方が詳しいから聞いてみたら?」


「ああ、確かに興味を持ちそうな事柄だな。そうしようか」


「宇宙開拓の方は順調みたいだけど話に有った様に地球の状勢が切迫しているから宜しくね」


「念押ししなくても前倒しにするよ。惑星の地球化は怖くて急げないけど。地下都市の建設は可能だから。ただ人手が足りなくなるから補充は宜しく。取り敢えず金星より火星の方を重点的に進めるよ。人は火星の方が順応し易いだろうから。金星の方は大気が有る分将来性はあるけどその分厄介なんだよな。自転も公転の逆で一日が地球の百十七日もある」


「そこら辺りは任せるわ。人手の方は月にいる作業者の半数を火星に廻すことにするわ。補充計画とかは映美ちゃんと調整するから報告書を読んでおいて」


「ん、分かった」


「最後にシナの話だけど。周辺の方から分離独立を促して今の所上手く行っているのは知っての通りね。それで分離した国も矢面に立つのは嫌だから同じことを始めたわ」


「どうやって?日本は取っ掛かりが無くて苦労していたけど。成功したのは満州ぐらいだ。台湾は独立と言っても独自政府が有ったし、他は漢族とは民族が違っていた」


「今迄は漢族の中での覇権争いで取っ掛かりがあまりなかったんだけど。新人類の分岐でマスターの一族が総出で逃げて来ることが多々あって保護している国のマスターが自勢力に引き込んで独立勢力として育てているのよ」


「そういえば、日本に来る難民の中にも真祖がいた様な話を聞いたな。台湾か満州に廻しているんだろう?」


「そうよ。それで教育して使えそうなマスターを戻し始めているのよ。逃げてきたのは幼体ばかりだったから今の所は順調そうね」


「日本の保護している南米の真祖と似た感じかな。日本も遣ればよかったのに」


「日本はシナからの難民は台湾か満州に廻すよう取り決めが有ったから。例外を作ると拡大解釈する人達もいるしね。それに日本が南米にしようとしているより露骨よ。自国の軍人を眷族にして戻る事を許しているしね。上手くシナに浸食出来たら属国扱いでしょうね」


「そこまで上手く行くとは思えないけど。シナで覇権争いをしている二大勢力の力を削ぐ事にはなるだろうな。まぁ、それでも充分か」


「私達は上手く行けば儲けものぐらいで見ていれば良いと思うわ。当事者は切実だろうけど。失敗しても半島人みたいに覇権争いに加わる馬鹿が増えるだけよ」


「シナの二大勢力はどんな反応なの?」


「非難声明を出しているわね。特に日本への非難が大きいかな。『日本は侵略を止めろ』とか『日本は侵略の手引きをするな』とか。日本が周辺国を纏めているのは確かだけどシナには直接何もしていないし、戻って独立勢力を造っているのは漢族出身のマスターだから覇権争いの一環よ。彼らが独立するかどうかも漢族内の問題ね。『漢族同士の争いで日本に責任は無い』と対抗声明を出しているわ」


「二大勢力が組んで対処したりはしないのか?歴史で習った国共合作とか見たいに」


「無理よ。下手を打って眷族から弱気と見られたら眷族が移って一気に劣勢になるから譲歩できないのよ。対抗勢力と組む事すら譲歩と見られかねない。自分だけでは対処不能だと表明する様なものでしょう?余程の知恵者が纏めないと組むのは無理ね」


「昔の半島みたいなのものか?日本を敵とすると南北で意見が一致するけど自分の権力は絶対に手放したくないんだな。日本が直接侵略しない限り組むのは無理そうだな。でもシナで中心の世代は入れ替わって日本より二世代は下だろう?未だに『日本はー』とか『日本が―』とか言っているの?」


「集団を纏めるのに都合が良いんじゃないのかな?これからも末代まで日本人が居なくならない限りは続くんじゃない?」


「奴らを地球を押し込めたまま宇宙に出ても良いかなと思えてきた。でも地球を奴らの好き勝手にさせるのも癪に障るしなー」


シナでは世代交代も進んで大国意識は残っているが経済大国だったことを身をもって知る者は殆ど残っていなかった。

残っているのは二世代前の昔話と魔素生命の情報だけだ。

三百年も前なら辺境地域や外国に逃亡する選択もあったが逃げる場所はなかった。

兵器を含む物資は海外からいくらでも供給されるため内乱は未だに続いていた。

華僑も贔屓の勢力の覇権のために積極的にそれらを供給をしていたのだ。

世界中がシナの内乱で利益を上げていて止める者はいなかった。

そうして2世代に亘って覇権争いによる内乱状態が続くととどうなるか。

新人類が分岐する頃にはシナでは内乱の責任を周辺の国々に求め始めていた。

特に日本は二世代前からの悪者でシナにもシナの周辺国にも戦略物資を供給している。

それでシナでは日本のせいで内乱が続くと責任転嫁をする者が増えたのだ。

確かに海外からの物資の供給が止まれば覇権争いの様相は変わったかもしれない。

武器の供給が無ければ戦闘での死者は減り食料の供給が無ければ餓死者が増えて難民が増える。

だけどシナの歴史を振り返って見るに武器が刀剣に代わって人肉を食べてでも覇権争いが続いただろう。

それに日本がシナに供給しているのは海外からの供給の精々二割だし殆どは生活物資だ。

シナで餓死者が出て難民が増えるのは嫌だからな。

だけどシナの支配層にとっては日本に代わる供給元は有るからどうでも良いのだろう。

日本はシナに兵器を供給していないから供給が止まっても良いと思っているのだ。

日本企業は海外の企業と提携して東南アジアの工場で兵器を生産していてブランド名も違うので兵器を見ただけでは分かる人にしか分からない。

それに兵器は売る方も買う方も性能が良ければどの様に造られたかなんて気にしない。


「シナの言う事なんて気にするだけ無駄よ。日本は反論だけ適宜にして体面を保てば良いのよ」


「でも国内で呼応する奴もいるだろう?」


「今はそんな方達にはシナ周辺の日本の友好勢力とシナとの最前線に視察か取材に行っていただいて状況を再確認して貰っているの。シナの勢力との接触もお願いしているわ。『話し合いで何とかしろ』と仰る方も多いので機会を提供しているの。私達には無理だから。でも公表して視察の協力者を募集したら三人しかいなかったのよ……残念ね。仕方が無いから声を挙げた政治家とメディアの方達に視察団を組んでいただいて送り出したのよ」


「ぷっ……威圧して命令したな」


「お願いしただけよ。日本政府はシナ状勢の調査結果については公表しているわ。その結果を踏まえて判断をしているのよ。公表結果に疑問を持ったか独自調査の結果かは知らないけど、政治家が『話し合いで何とかしろ』と声を挙げたからには話し合いで何とかできる確信を持っている筈よ。だから機会を与えたのよ。成果を期待したけど駄目だったわね。メディアもシナのスポークスマンの言い分をそのまま報道しているだけで話し合いについては何もないわね。お話し合いでは何もできなかったようよ」


「話し合いも何も向こうが一方的に命令口調で話すだけでこちらの言う事なんて聞かないだろう?それが年々酷くなって直接交渉は諦めたんじゃないか。日本がシナの覇権争いに巻き込まれたくなかったのもあるけどさ」


「そうよ。昔はそれでも裏でこそこそ話し合うコネクションもあったけど向こうは世代が変わってそれも無くなったわ。日本が悪いんだから日本がシナの言う通りにすれば良いのだそうよ」


「シナの二大勢力はどちらも同じ感じなのか?」


「昔の半島と同じよ。日本に下手に出ると非難されるようね。弱気と受け取られたら眷族が別のマスターに移るわ。そうなると勢力が弱体化してシナの覇権が遠のくわね」


「こちらからはどうしようもないな」


「現役の政治家がシナ関係で『話し合いで……』と声を挙げる事は無くなったわ。メディアもおとなしくなったわね。いくらでも機会をあげるのに。シナ関係の話はこんな所かしら」


「インドはどうなってるの?イスラム圏は隣だしヨーロッパみたいな皺寄せは無いわけ?」


「インドは宗教の混住地でヒンズー教徒が圧倒的に多いから以前話に出た様にマスターは神様扱いで住み分けているのよ。国は残っているけど政府の権限は限定的ね。生神様が国中にいて権威はそちらの方が上なんだから仕方が無いわね。エルサレムからは遠い事もあるけどエルサレムの宗教戦争の皺寄せは跳ね除けているわ。 ……一寸違うわね。インドが跳ね除けると言うよりはインドに飲み込まれる感じかしら。インドにマスターが逃げ込むと神様扱いで祭り上げられて眷族がミルミル増えて気が付いたら逃げる必要が無くなっているのよ。人によっては眷族を引き連れて逆襲に戻るみたいよ」


「インドは大丈夫な様だけどその眷族になって逆襲に駆り出されたインド人達は問題ないの?なんか信仰の違う真祖の眷族になっている様だけど?」


「そこら辺りは頭が柔軟で異教の神とかもヒンズーの神の化身とか考えて済ますみたいだからほら仏陀も確かヴィシュヌの化身とか言っている筈よ。日本の神仏混淆みたいなものよ。呼び名が違うだけで同じ神としていて帰依しても矛盾に思わない訳ね」


「呼び名が違うだけで同じ神を信仰しているのだから構わないと思っている訳か。経典の民が同じ神を信仰しながら信仰の仕方で争っているのとは違うな」


「いずれにせよ争っているのは人で神では無いわね。エルサレムでメシアを自称している人達も私達も学術的には唯の種の分岐点で他者より少し優位にあるだけの唯の人よ」


「その通りだけど面倒なのはシナで覇権を争っている奴等もエルサレムで聖地の取り合いをしている奴等も自分以外は奴隷か僕と思っている事だよ。折り合いの付け様がない」


「だからなるべく関わらない様にしていたのよね。まぁ、インドが有るから東南アジアはシナ対策に専念できるかな。問題の要はやはりヨーロッパよ」


ロシア人の信仰しているのは正教で信徒の分布がイスラム圏とも重なっていてエルサレムの宗教戦争の皺寄せである難民問題ではトルコ系のイスラム教徒と共同で対処に当たっていた。

メシアを自称する者については共通の敵とする者も多かったので南は防波堤が出来ていたのだ。

ヨーロッパも陸路はその防波堤が有って何とか持っているけど海路は解放されている。

難民もヨーロッパの方が豊かなのは知っているので西へ向かうものが多いのだ。


「ヨーロッパではどんな対処をしているの?」


「海路の難民については日本みたいに対処していたのだけどイスラム圏の人々には評判が悪いのよ。難民を手引きしてヨーロッパに送り込もうとする手配師もいるようで問題になっているわ。シナ問題と違って脅威の受け止め方が勢力によってかなり異なるわね。ヨーロッパは文明の危機と捉えていて実際そうだと思うけどイスラム圏の人達は同じイスラム教徒だから救いたいと考える人も多くて」


「自称メシア達を共通の敵として対処するんじゃないの?」


「正教の方はそれで良いけどヨーロッパは十字軍を出した方だから。面倒なのよ宗教絡みは」


「日本人は下手な手出しは出来ないよなぁ。トルコに援助するぐらいか。全日本人を火星に移民させる方が楽な気がする」


「最悪な場合はそれすら出来ないわよ。頭が痛いわね。取り敢えず現状はこんな所ね。最悪に備えて最善を目指すしかないわ」


「最善ってどう考えてるの?」


「シナの覇権争いと聖地争奪戦をしている様な連中を封じ込めて私達は後顧の憂いなく宇宙に生存圏を拡大するのよ」


「それは出来れば良いけど……まぁ、目標は高い方が良いか」


私は宇宙開拓を進め、地球は………崩壊の連鎖だけは止めたいけどなぁ。

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