表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/41

06 新人類の状勢

新人類の分岐点は自身をどう捉えているかで呼び名が違っています。

今迄出ているのは真祖・マスター・神使・メシア等です。

真祖・マスター・神使とかは他の新人類の分岐点も同位の存在と認めています。

それで他の分岐点も自身と同じ様に真祖・マスター・神使と呼んでいます。

しかしメシアを自称する者は自分以外は偽物で他を認めていません。

読みにくいかもしれませんが文中で統一はしないので混在します。


日本の新人類の代表者の会合は年一で定期的行う事になって既に6度目となった。

既に現生人類は完全に劣勢で幼体と少数の成体しかおらず旧人類と呼称する様になっていた。

世界の状勢は様変わりして、北アメリカではキリスト教系の新人類の勢力が独立して国を造った。

中国系と半島系の勢力もカナダの同胞と連携して分離独立を図ったけどこれは潰されてしまった。

例によってシナの新人類の勢力下に入って違法に行動していたので国家反逆のテロ組織として徹底的に潰された。

キリスト教系の新人類は2州の政治権力を掌握して行動していたので法的には問題なく、軍は裏で色々暗躍したようだけど真祖が率いる新人類の集団には敵わなかった。

暗殺しようにも魔法のせいで遠距離からは無理だし近距離だと真祖と対峙したら威圧されて手が出ない。

アメリカ軍は3人ほど真祖を抱え込んでいたけれどリスクが高くて真祖同士を対峙させるわけには行かない。

それに新人類の真祖が死んだとしても新人類の種は残るのだ。

残った眷族が暴走したらどうなるか分からない。

正規軍を出動したら内乱に発展する可能性もあり手を引いた様だ。


「それでアメリカどんな状況なの?国が崩壊するとかは有りそうかな?」


「内乱に発展しなかったから何とかなりそうね。独立した新人類勢力もアメリカを丸ごと支配する意志はない様だし。他の新人類のマスターは政治権力には興味がないからこれ以上の独立騒ぎは無さそうね」


「でももう一人宗教家の真祖がいなかった?」


「彼女のはキリスト教系では無くてヨーロッパのドルイド教かなんかの自然崇拝に近い信仰で政治的な野心とかは無いのよ。周りの眷族は分からないけど彼女の生存中は問題無さそうよ」


「ふ~ん、アメリカの他の真祖もそんな感じなの?」


「他は私達みたいな学者と軍人と軍が抱え込んでいる3人ね。保護しているまだ幼体のマスターも数人いるみたいだけど国を割りそうにはないわね。内乱になったら自分の種を守るために好きに動くとは思うけど国として纏まっている間はそれを利用する感じね」


「シナみたいには成りそうにないな。アメリカのシナの勢力は駆逐されたし良かったな。北米大陸は良いとして太平洋の島々は?」


「島の方が問題が少ないみたいね。陸路で難民が押し寄せる事も無いし、守り易いから」


「日本と同じかな海岸線が長いからどこからでも上陸は出来るけど、昔と違ってすぐばれるし密航船は見つけたら沈めるからな」


「転移魔法の御蔭で今ではどんな孤島にも自衛官が交代で駐屯しているし部隊の展開もあっと言う間だもの。シナからの難民船は半島に誘導して密航者は離島に隔離してから半島送りか済州島送りね」


満州が半島を支配して以降は日本海は静かだし、シナの難民も半島に誘導すれば良い様に話もついていた。


一昔前の半島人はシナの覇権を狙ってシナに侵攻して遼東半島攻略の勢いに乗って遼寧省を占領し北京に迫った。

調子に乗った半島人は「シナの覇権は目前だ」と我先に半島を出てシナに乗り込んでいった。

満州は半島人が北京勢力と争っている間にシナの覇権争いから退いて独立していた。

その後、半島人の勢いの衰えた頃に満州は労せず半島人の減った半島を手に入れて遼東半島も瀋陽も奪還した。

新人類の分岐前の半島人はシナの遼寧省の朝鮮族との扱いになり、人口が五千万人近くあって何とか地方勢力の一つとして残っていた。

新人類の分岐で半島の血を引く真祖が現れると半島人は済州島等の島に少数残るだけで、残りはシナの新人類の下に移っていった。

今では半島は満州の一部でありシナからの難民が海路で向かう所になっていた。

シナの朝鮮族は「半島を返せ」とか「父祖の地を奪還するぞ」とか喚いているがシナの己の支配地を手放す気は無いそうで「シナの覇権を目指さない者に半島を支配する権利は無い」のだそうな。

どこからも相手にされていないけどね。


「北米は大丈夫そうか。太平洋も大丈夫そうだな。オセアニアは安定しているしな」


オーストラリアとニュージーランドが世界中で最もこの世界的な混乱の影響を受けていない。

あの日以降も食料や資源の供給国として世界中にそれらを供給していた。

両国とも混乱初期に漢族等のコロニーが出来て問題を起こしたが既に排除していた。

そして新人類の分岐後もその状勢にあまり変化はなかった。


「南米はどうなの?南米出身の保護していた真祖はどうなった?一人いたよね」


「彼は親族が向こうにいて戻るつもりね。親族の一部はこのまま日本に残る様だけど主に安全のためかしら。南米で上手く勢力を伸ばせたら呼び寄せるつもりみたいね」


「上手く行きそうなのか?もう眷族になる旧人類は殆ど残っていないだろう?」


「まだ新人類と言っても本人の意思で変われるから不確定要素が大きいのよ。日本人でも火星に行った人達が幾人かがあなたの眷族に移っているのと同じよ。マスターがいれば勢力を拡大する事は可能ね」


「見込みはある訳か……地球の裏側だし敵対する訳でもなし問題ないか。上手く行けば日本は影響力を行使出来るようになるしね」


「充分、見込みはあるわね。彼らも成体は日本で魔法の基礎教育を受けているしね」


「でも魔法の専門教育は受けていない筈だけど?それに日本は秘匿しようとしていたけど新人類の分岐前に魔法の情報が魔素生命を通して拡散したよね。意味が有るのか?」


「魔法は知っているだけでは使えない事は知っているでしょう?特に新しく開発された魔法は鍛錬して身に付けるのが大変なのよ」


「それは知っているけどみんな必要なら身に付けるだろ。ほら火星に来たら皆転移魔法を覚えるじゃないか。基本的な能力には差が無い筈だから海外でも同じだろう?」


「認識が甘いわね。まず転移魔法だけどアイテムボックスとかデータボックスとかの亜空間系統の魔法にある程度習熟していないと使えないわ。海外では習熟する機会が無い人の方が多数ね。そして魔法研究者には当たり前の事だけど自分が使える事を信じないと魔法は使えないわ。殆どの人は魔素生命の情報だけでは使える様には成らないのよ」


「でも少なくともトップレベルの差がそこまであるとは思えないんだけど……」


「邪魔が無ければね。新人類の分岐前の権力者の多くは魔法を利用したけど恐れてもいて大衆には禁じたわ。それで今現在揉めている地域の多くはあの日以降は真面な教育を受けていないのよ。整形質魔法も施術していないから多くの国で私達の年代は死んで子か孫の世代が社会の中心ね」


「南米はそんな感じなのか?シナよりはましだと思っていたんだが」


「戦争をしていないだけましだったけど権力から引きずり降ろされるのは嫌だから禁忌に触れない範囲で色々画策していたのよ。元々貧富の差が激しくて教育にも差が有ったのがさらに格差が開いた訳ね」


「魔法についての教育は限られた人々だけが受けていたのか」


「そういう事ね。魔素生命の情報があっても理解できなければ使えないから教育なしには古代人並にしか魔法を使えないわ。新人類と言っても知能が高くなる訳でもないし同じ事よ。新人類の分岐に貧富は関係ないからスラム出身のマスターもいるわ。どうなると思う?」


「威圧して眷族にすれば逆らう奴がいなくなるんだから好きに出来る。種が違うと禁忌の枷も外れるから余計にそうなる。親や本人の性格にもよるけど教育を重視するとは思えないな」


「それが世界中で起きたのよ。上流階級からもマスターは出たけど人数は少ないしね。上流階級が人口の5%だとするとマスターの比率も5%になる計算な訳だから教育を受けたマスターの方が壊滅的に少ない事になるわね」


アメリカ合衆国が世界の警察官から完全に退いた後、代わりになる覇権国は現れなかった。

東南アジアと日本近辺は日本が何とか纏めてシナの内乱に巻き込まれない様にしていた。

幸いと言うかシナ以外は内乱が続くような事も無く均衡を保って新人類の分岐を迎えたのだ。

だが35年弱の間も何事も無く済んでいた訳ではなくて科学文明としては後退した地域の方が多かった。

地球の総人口も激減して三十億人程との推計で未だ年々減少していた。

日本は一億人前後で推移していたけど世界全体としては早死にする人が増加して世代交代が早まり人口が減ったのだ。

シナ地域は戦闘に明け暮れていたため人口は1/3~1/4に減っていると推計されている。

まぁ、それでも三億人以上の人口で充分な脅威だけど。


「能力は有っても活用する手段を持たない人が殆どって事か」


「そうね。それで南米に戻っても優位に立つことが出来ると想定しているのよ。彼は保護された時に十二歳ぐらいだったから向こうの事も覚えているし親戚も残っているから戻る意思が固いわね」


「戻るかどうかは本人が決める事だから仕方が無いな」


「問題なのは日本人の魔法研究者数名が彼の眷族になった事よ」


「え~と、それは日本の魔素生命に繋がったままって事?」


「そう!それでどう対処するか決めかねているのよ」


「眷族になった人達は以前アメリカの真祖の眷族になろうとした人達みたいに日本に馴染めない感じなのか?」


「優秀ではあるけど普通の人達ね。今の日本に馴染めない人達は魔法に拒否感を抱いている人が多いのよ。魔法研究者にはまずいないわ」


「ならそのまま推移を見守るしかないかな。少なくとも今現在は日本の敵ではないとの証明でもある」


「でも魔法の情報はだだ洩れよ。かなり優秀な研究者だから。あなたの門下で孫弟子か曾孫弟子にあたると思うけど。沃土さんの門下もいるわね」


「私は知らないな。だけど沃土と映美は裏にいそうだな。少なくとも情報は把握している筈だ。問題なら私にも情報が上がってくる筈だからきっと大丈夫だよ。心配なら沃土と映美も交えて臨時会合を開こうか?」


「そこまでしなくても良いわ。繋ぎを付けて情報だけ下さいな。それで必要ならこちらで調整するからあなたは火星開拓にでも専念していた方が良いわ」


「わかった。でも南米の件はアメリカから横槍が入ったりしないか?自分の縄張りだと思っているだろ」


「そんな余裕は無いみたいね。交渉は政治家に任せているけどアメリカは難民を抑えたいから少しでも南米の混乱が静まるなら問題ないみたいな話になっているの」


「ふ~ん、じゃあ当面問題は無いのか。後で何か言って来そうだけど……今考えても仕方が無いな。他の保護した真祖はどんな状況?」


「他の子達は保護された時期と親族が一緒にいるかどうかで状況が違うけど殆どの子は日本に馴染んでこのまま居つきそうな感じね」


「じゃあ問題ないな。火星の人口も増加傾向にあるし、火星の魔法回路を調整すれば大気層の保護も出来そうだからな。そこから先は植物次第だけど何れは地表に住めるようになる。宇宙には余裕が充分にある」


「そうみたいね。それで火星に送った私の眷族の一部があなたの眷族に移っているんだから」


「…ヨーロッパはどうなの?エルサレムでメシアを自称する新人類が現れてから揉めているんだろ?」


「宗教絡みは厄介なのよね。ヨーロッパでは無視するのが大多数だけど『反キリストだ』と反発する者もいれば合流しようとする者もいる。でもそれで国が傾く程ではないみたいよ。難民問題の方が切実ね。民族大移動みたいに成っているから。種が違うって事で平気で排除している様だけど。まぁ、日本人にとっては他人事ね」


ヨーロッパやロシアは中近東方面からの難民を抑える事で手一杯らしい。

アメリカ合衆国が南からの難民に手を焼いているのと同じだ。

難民の波に飲み込まれたら自国が文明ごと崩壊してしまう。

だから日本と同じ様にトルコ等の周辺国を支援して防波堤にしていた。

地中海は内海なので渡海しようと思えば出来るし陸路もあるから防衛は大変なのだ。


「排除って、種が違うにしても幼体は殺し難いだろう?狩猟対象になった豚ですら子豚は殺し難いって話だぞ。どうやっているんだろう?」


異種の幼体でも成体にとっては保護対象で殺すのは禁忌で明確な理由が無いと殺し難い。

種が離れるほど禁忌は薄れるが、人だと哺乳類や鳥類の幼体は殺し難くい。

生きるために必要となれば殺せる程度の禁忌だけど抑制が掛かるのは確かだ。


「シナと同じで文化的要因で禁忌を乗り越える方法が有るのか。幼体だけは保護する様にしているのか。幼児の内であれば取り込むことも不可能ではないでしょう?それに殺し難いだけで殺せない訳ではないわ」


「ああ、そういえば日本でも密航船は問答無用で沈めているな。でも沈めた後で救助しているだろう?」


「沈めているのは逃げた場合で逃げなければ船を没収して強制送還よ。救助しても強制送還ね」


「まあ海だからそれで済んでいるんだよな。魔法を使って飛んでくる奴はいないの?」


「魔法がそこまで使えるのは難民ではなくて攻めて来る偽装難民よ」


「そうか修練しないと飛べないからそうなるか。そう言えば直ぐに飛べるようになった人達は皆なんか習得していた人達だったからなあ」


「そんなところね。ヨーロッパに話を戻すけど中近東の新人類間の紛争で難民が発生して皺寄せが来ている感じね。ロシアも同じだから東側のマスターに関しては現状維持が最善って事ね。日本の影響圏にある方が難民が押し寄せるよりは良いとの判断よ」


以前の話ではロシアの西側の真祖は東側の真祖を舐めていて何もしてこないとか言っていたけど西側の状況がこちらの推測よりはるかに深刻でそれどころでは無かった様だ。

年々状況が悪化していたのは知っていたが状況によってはこちらに支援を求めたり逃げてくる可能性すらありそうだ。

ヨーロッパ人は防戦するか逃げるかで今は戦っているけど陸路で逃げるのはロシア側しかない。

後は海路でアメリカ大陸に行くぐらいだけど受け入れる余裕は無いだろう。

そこまで行ったら崩壊の連鎖に成り兼ねないな。


「それは不味いな。そこまで状況が悪いとは思っていなかった。ヨーロッパが崩れたらロシア・アメリカとドミノ倒しの様に行くかもしれない。シナを抑えるだけで済むかと思っていたけど中近東も何とかしないと駄目かもな」


ヨーロッパ諸国が崩壊してヨーロッパ人がアメリカとロシアに逃げたらアメリカもロシアも崩壊の危機。

イスラム圏も崩れたらシナの囲い込みは解けてシナからヨーロッパまで新人類の戦乱地帯だな。

ユーラシア大陸と南北アメリカ大陸は新人類間の潰し合いかな。

東アジアも太平洋も巻き込まれるよな、巻き込まれない訳がない。


「経典の民っていうのかしら。ユダヤ教・キリスト教・イスラム教の信者は世界中にいて厄介なのよ。彼らの聖地エルサレムをメシアを自称する新人類のマスターが勢力下に置く。それだけで騒ぎ出す人達が世界中にいる訳。厄介なのは過激で影響力のあるマスターほど自身の種にしか関心が無いのよ。そして聖地を手に入れる為に行動してシナみたいになる訳ね」


メシアと認めるか認めないかで争いが世界中で起きている。

係争地から外れて安全なオーストラリアも真祖がキリスト教の熱心な信者だったせいか動揺が大きい。

アメリカの真祖の独立もこの影響を受けての事の様だ。

ヨーロッパは信者はいるけど何とか国を保っている。

南米の混乱は信仰の問題も絡んでいるよな、カトリックの信者が大半だったからな。

なんだ日本も世界も全然大丈夫じゃない、危うい均衡の上にいるだけだ。

当面は大丈夫なだけでいつ崩れるか分からない。

日本人は宗教絡みは面倒だから避けていたけどそうも言っていられなくなった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ