表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/41

32 東アメリカの崩壊

地球上ではシナの二つの始祖勢力はシナの覇権を掴むために争い、似非メシア達とその眷族はエルサレムを占拠しようと争っている。

東アメリカと日本も戦闘行為こそ無いけれど取り敢えずは戦争中で講和の様子はない。


シナの始祖二人は争いに勝ち残れば何故か全てが手に入ると考えていて、他勢力が開拓した惑星も全て自分のものだと宣言していた。

だが誰もシナ人を相手にしてはいない。

シナ人は一人として月にすら来ていないのに如何相手しろと言うのだ。


似非メシア達はエルサレムの奪還戦に勝ち残れば天主の恩寵が手に入り、天主の威光の前に全ての人が平伏すと考えていた。

因みに天主の類はヤハウェもアッラーも旧人類のレコード情報には存在しなかった。

人はそれらやそれらの眷族を具体的に認識したことは一度としてない。

「見た」とか「声を聴いた」とか言う人の情報があるだけだ。


東アメリカの始祖は地球の覇権を掴んで過去の栄光を取り戻そうと足掻いてきたのだが、覇権争いの一環として日本と戦争をしていた筈なのにとうの昔に競り合いの場が宇宙へと移っていた事に気付いて呆然としていた。

それも太陽系内の領域を巡って競り合っているのではなくて銀河系内の幾つかの惑星系を勢力圏とするのを当然とする競り合いとなっているのだ。

東アメリカは日本との確執も有ってその競り合いに参加さえ出来ずにいた。

群れの存続を考えたらこれは大問題である。

現状は群れの未来を自らの手で閉ざしたも同然の状況なのだ。


東アメリカに残った者達は始祖の最初の思惑通り日本を敵として一つに纏まっていた。

日本と講和しようにも国内の穏健派は既に西側に逃亡済みで払拭されていて、残っているのは現実を顧みない教条的な強硬派が殆ど。

このままでは日本との確執は深まる一方で解消しそうにない。

これが一番の問題で日本との和解なしに宇宙開拓に乗り出す事は不可能ではないが火星の足掛かり無しではこの競り合いで圧倒的に不利だ。


火星は日本が主導して地球化を進めている日本の勢力圏内であり、様々な始祖勢力の混住地となってはいるが各始祖勢力は日本の支配下で自治が与えられている形だ。

各始祖勢力はこの火星開拓を足掛かりとして惑星開拓を進めた。

惑星開拓が進んだ今では開拓拠点は既に夫々の勢力圏内の惑星に移っている為、火星の開拓地の主な役目は開拓の訓練施設兼外交窓口となっていた。

惑星開拓における地球化は火星が先頭を走っていて地球は生態系の供給地となっていた。

宇宙に勢力圏を拡げたいならまずは火星に出ないと始まらないのだ。


「日本との和解なしでも宇宙に進出する事は可能ですが太陽系内の目ぼしい所は全て押さえられており状況は覆せそうにありません」


「火星の正常化は困難と言う事だな」


東アメリカは旧宇宙条約が有効との立場で月も火星もその他の惑星系なんかも領有を認めていない。

がそんな話は宇宙に勢力圏を拡げている諸勢力の多くが新興で宇宙条約には加盟していない時点で破綻しているのだ。

正常化とか言っているが要は宇宙に出たら他の勢力圏の既得権を認めずに好き勝手にしたいってだけの話だ。


「行動に移した時点で排除対象となりますね。宇宙に進出した全勢力から敵と見做されます。彼等が得たものを全て放棄しろと迫っているのですから」


「無秩序に宇宙に拡がった日本の奴等の所為だな」


「日本の所為にしても仕方が有りません。先駆者がルールを造るんですから。我々は出遅れたんです。我々は地球の覇権に拘るあまり日本の行動を見誤りました」


「我々だけではないだろう?」


「ええそうですね。日本以外は皆日本が地球の覇権を狙っていると捉えていたでしょう。確かに傍からはそう見えました。シナを封じたり、ロシアの東側を勢力圏に組み入れたり、南米に配下の始祖勢力を送り込んだりと。日本の表明を本音と見ている勢力は無かったでしょう」


「だから我々はそれを阻止する為に動いたんだ」


「結果としてそれが不味かった訳です。日本は地球での混乱に巻き込まれまいと行動していたのにこちらは積極的に巻き込もうと行動した。我々は日本の敵対種と認定されました。今では月にすら入れません」


「日本の下に就けば良かったとでも?」


「そんな事は言っていません。月に人を送っていればと思っているだけです。日本と同じ時期に送れた筈です。そうしていれば日本との戦争は無かったし国が割れる事も無かった」


「覇権を掴んだ後で良いと考えていたんだ。まさか日本が太陽系から出て勢力圏を拡げるなんて思わないだろう?」


「日本も最初からそこまで勢力圏を拡げようとしてはいませんよ。日本人は火星の開拓を進めた結果として拡げれる事に気付いたんです。日本の始祖は宇宙に拡がらないと先が無いと考えていたようですが」


「日本の奴等は地球の覇権には全く興味が無かったのか?」


「調べましたが少なくとも日本の始祖達は地球の覇権には全く興味が無かった。何でもシナみたいには成りたくないそうで。他の勢力は覇権の行方には関心が有った様ですが火星に着いて以降はそれも無くなった様ですね」


「……完全に我々の独り相撲だったのか?」


「日本に関してはその通りです。他の勢力は日米戦争の辺りまでは覇権争いと見ていた様ですが、アメリカ合衆国が割れて以降は我々が脱落したと見ていた様です」


「日本を除くと我々だけが特に見当外れの行動をしていた訳ではないよな?なら如何してこうなった。宇宙に出た奴等は皆順調に勢力圏を拡げているのだろう?我々は完全に出遅れているではないか」


「我々が地球の覇権に拘ったからでしょうね。日本の始祖達は月や火星に来る勢力の無い事を不思議がっていたそうですよ。二十年以上前の日本が月や火星の資源を独り占めしていた頃の話ですけど」


「火星の地球化がそんなに容易に進むとは誰も思わないじゃないか。地球での覇権を優先しても充分に挽回が可能な筈だったんだ」


「その時点で日本と我々では見えているものが既に違っていたんです。彼等は種の繁栄の為に宇宙に拡がろうとしていて我々は種の繁栄の為に地球の覇権を掴もうとしていた」


「その覇権の話は日本以外の奴等は皆同じだろう?」


「それは違います。我々以外は覇権の為に日本と張り合う気は無かったんです。それで結果として日本と揉める事も無く火星の開拓に加わって惑星開拓の技術を日本から得る事が可能だった訳です」


「覇権を目指さなければ良かったと?……私には無理だな」


「私もそう思います。あなたは敵がいないと上手く動けない人だ」


「それで覇権に興味の無かった西側の奴等は月と火星にノコノコと出かけてあまり抵抗感も無く開拓の輪に加わった訳か。それも私には無理だな」


「ええ、あなたなら日本と張り合ったでしょうね」


「……現状は必然という訳だな」


「いえ、戦争を選択せず日本に少し遅れてでも火星に行っていれば違った筈です」


「アラスカに居るあいつが月に行きたいと言った時に了解していれば今とは違っていたのか?」


「今頃は日本と張り合って宇宙に勢力圏を拡げていたか、地球ではなく火星で日本と戦争となっていたかです」


「……火星で戦争か。私ならその可能性の方が高いな」


「そうであれば今よりも悲惨だった可能性が高いですね」


「何故だ?上手く行けば日本から火星を奪って支配していたのだろう?」


「その可能性は低いです。まず戦力に差が有り過ぎます。日本は魔法を使って月に転移で乗り込む事を妨害しています。火星で戦争となったら当然同じ事をするでしょう。当時の日本は火星に二千万人以上居住していて補給の心配も無い。こちらは地球からの補給も戦闘員の増員もままならない。日本に勝てますか?」


「……いくら私でもそんな状況で戦争は始めない」


「我々はその時点では日本にそこまでの能力が有ると掴んでいません。知ったのは月で戦闘を始めたからです。アイテムボックスと転移魔法で補給は充分、戦闘員も好きなだけ送り込めると判断したでしょう。如何です?それでも戦争を始めませんか?」


「私では戦争を始めて負けた可能性が高いって事だな」


「戦争を選択する限り火星でも地球と同じ結果が待っていたでしょうね。離反する始祖勢力が出て国は分裂し、我々は今と同じかもっと悲惨な状況に陥っていた可能性が高い」


「今の状況は私が地球の覇権に拘っていたから招いたと?」


「地球の覇権に拘り日本との戦争を選択したからです。戦争さえなければ何とかなったでしょうね。例えば火星に乗り込んで一部を強引に領有するとか。二十年前であれば火星の地球化も初期段階で未開拓地域も多くて日本の抵抗も無かったものと予想されます。戦争を始めた年でもまだ何とかなった。そこで戦争さえしなければ宇宙に勢力圏を拡げていたでしょう」


「それは無いな。私が地球の覇権に拘る限り日本との戦争は避けられなかった。日本とは覇権争いをしていたんだ。例え火星でも例え日本にその気が無くてもだ。覇権も掴まずに宇宙に拡がるなんて私は考えてもみなかったからな」


この始祖は地球の覇権に拘るあまり、例え火星に拠点を築いても地球の覇権を強固にする為の道具にしか見えなかった。

火星が宇宙に拡がる為の足掛かりには見えなかったのだ。

だから月にすら人を送り込まなかったのだ。

彼には地球の覇権を掛けた戦争をやらないとの選択肢は無かった。

日本の始祖にとってはどうでも良い事でも彼にとっては重要な事だったのだ。


「日本との敵対関係をこれからも続けるつもりですか?」


「……少なくとも私達の世代が絶えるまではだ。それ以降は好きにすれば良い」


「この状況をこのまま三十年以上も続けろと?」


東アメリカの陸軍士官の始祖が百二十歳で死んだとして三十年はこのままで始祖の影響が薄れるまでとなったらもっと掛かる。


「……無理か?……無理だな。だけど日本と和解したとして今残っている奴等を抑えられるか?」


「暴走する奴等が出そうですね」


「出そうではなくて必ず出る。真面な奴等の大半は西側に行ってそんな奴等ばかりが残っているんだ。私が選択を誤った。覇権を握れば元に戻せると考えていたからな。どちらが良い?日本と講和して民が暴走するのを眺めるか、時間を掛けて民を沈静化させるか」


「どちらも御免被りたいですね。ただ日本と講和の方がマシな事は間違いないです。まだ少しは真面な奴が残っている内に済ませた方が良い。時間を掛ければ掛ける程真面な奴等は減って行きますよ?」


「そうか、確かにそうだな。私が死んだ後では方針転換も難しくなるか。日本と講和して私に付いて来る眷族だけでも宇宙へ出る道筋をつけておかねば先は無いな」




東アメリカと日本は講和した。

様々な取り決めが交わされたが要は東アメリカに現状を認めさせたと言う事だ。

誠に喜ばしい事ではあるがその結果、東アメリカは更に割れてしてしまった。

長年のプロパガンダの成果として日本との講和に不満を持つ者が多くいて国が割れてしまったのだ。

それも陸軍士官の始祖の様に纏める者もいないから始祖勢力ごとにバラバラとなってしまった。

合衆国の形すら取れなくなってしまった訳だ。


陸軍士官の始祖の勢力は直属の配下であった始祖達三人が眷族共々離れて行き、代わりにヨーロッパから逃げて来た始祖二人とその眷族と組んで総勢一千万人程度の勢力となった。

これでも当初の予想よりは多くて最悪の予想だと四百万人を割っていたそうだ。

割れる前の東アメリカの総人口が五千万人弱だったので一割も付いて来れば良いとしていた訳だ。

予想外に多かったのはヨーロッパから逃げて来た始祖勢力が加わったからだな。

彼等が東アメリカに居たのは何処にも居場所が無かったからで可能であれば西側に移るかヨーロッパに戻りたかったらしい。

日本への敵意は元々無くて日本への糾弾も彼等に向かう敵意を少しでも逸らすためだ。

彼等の移住が国が割れた一因でもあったから日本はスケープゴートとして都合が良かったのだ。


陸軍士官の始祖が率いる勢力は東アメリカが割れた後は西側に擦り寄る形で独立を維持していた。

総勢一千万人で何とかやれているのは彼が軍を押さえていたからだな。

残りの東側の始祖勢力は今更地球の覇権を目指しても意味が無い事ぐらいは承知しているのだが、かと言って安易に日本と友好を結んで宇宙へと乗り出す事も出来なかった。

長年かけて醸成された国を割るほどの日本への敵意はそう簡単に消せるものではない。

今更地球の覇権に拘る者はいない様だけど覇権を逃したのは日本の所為だと思っている者は多い。

そうした輩は国として一つに纏める者もいなくて始祖勢力ごとにバラバラとなっている現状も日本の所為だと思っている。

そして彼等の価値基準からすると地球の覇権を掴む事も無く宇宙に拡がるのは間違っているのだ。

そこから逸脱した勢力が宇宙に勢力圏を拡げて繁栄している現状も彼等にとっては間違っている。

彼等にとって日本は間違った存在の代表な訳だ。




東アメリカの崩壊によって日本の敵対勢力が宇宙に出る兆しは消えた。

講和したので旧東アメリカの始祖勢力は未だ監視対象ではあるけど敵対勢力からは外された。

その能力が有るかどうかは置いといて月や火星に人を送っても排除される事は無い。

日本にとっては宇宙開拓に専念する環境が整ったと言う事だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ