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31 勢力圏の色々

日本の始祖勢力は惑星開拓も順調に進んで現在は開拓地の地球化に専念していた。

宇宙探査を進めてはいるが新たに発見した惑星系の開拓のペースは計画的に落としていた。

勢力圏を拡げたは良いが拡大のペースが速くて群れの力が分散しすぎている様に感じたからだ。

暫くは拠点とする惑星系の開拓に注力して勢力の強化を図ることで勢力圏の規模の拡大よりも勢力の地力の拡充を優先する事にした。

今更他勢力による侵略も無いとは思うが未だに見た事は無い異星人の襲撃が有るやも知れず、少なくとも一惑星当たりの人口が一億人を超えて、惑星の地球化が進行して現在の火星程度になるまでは、地力を溜めた方が良いと判断していた。

そんな訳で現在の日本の始祖勢力が拠点とし開拓中の各惑星の人口は多い所で二千万人程なので凡そ二十年は個々の惑星の発展に専念する事になった。

新規の惑星開拓については移民は少なめにして地表の地球化を先行して行う様にしていた。

人なしで生態系が強化されると後で人を生態系に馴染ませる事となり面倒なので移民は地球化のペースに合わせる形で適宜に少しづつ行っている。

地球化さえ進めて置けば移民の増減は後で幾らでも調整が可能だとの判断だ。

今の技術を用いて惑星の地球化を二十年も進めれば現在の火星並の生態系が惑星上に拡がる筈だ。

ただ宇宙探査は今迄通り進めているのでそれでも人手が足りていない状況だな。


「最近は地球化の技術も進んで楽になったねぇ」


「まぁ、今は植物に殆ど任せていますからね。人は補間するだけですから。随分楽になりました」


「地球化だけなら初期に二年も人手を掛ければ後は放置しても進むんだろう?」


「確かにそうですが。適宜に植物や動物を移植して補わないとやはり時間が掛かりますよ。二十年では済みそうにありません」


「でも人が居なくても植物が適当に進めるのだろう?地球や火星から必要なものを転移させて。人手が少なくて済むなら多少の年月が掛かっても良いと思うけど。どのぐらい違うの?」


「それは一概には言えません。懸念材料は植物が何を送り込むか分からない事ですよ。人が適宜に生態系を移植しないと不味いのではないかなと。以前の様に人の幼体が送り込まれても困るでしょう?」


「それは不味いかな。すると一度始めたら一定数の人手は要るんだな」


「地球化そのものには必要なくなりますが人に都合良くは進まないでしょうね」


「そうか……地球化を先行して進めている惑星のある惑星系はもう二十以上だろう?それも私の勢力下だけでだ。そして今後も増える一方だ。幾つかの惑星系は他の日本の始祖に譲るとして他は如何しようか?」


「幾つかの惑星は生態系の供給基地とすればいかがですか」


「その案は以前検討したけど地球型惑星でないと生態系への刺激が少なくて向かないって話だった。研究者の話だと生物の進化が促されにくいんだとさ」


「地球型惑星ならもう日本圏で六つ確保済みですね。でもまだ生態系を供給しているのは一つだけですよ」


「地球型惑星と言っても様々だろう?氷河期の惑星も有る。今は研究で手一杯だろうな。地球の過去と比較して色々調べている様だよ。生態系の供給とかはその後だな」


「では開拓中の惑星は如何しますか?」


「どうせだから人無しでの放置も試してみたいな」


「それは先程不味いとされた話ですが?」


「火星以降の惑星開拓では問題は起きてはいないし、考えてみたらあくまで推測でしょう?それに火星に人の幼体が送り込まれたのも戦乱が切欠な事はまず間違いない。地球でまた大規模な戦乱でも起きない限りは大丈夫だろう。今は戦乱と言うとシナとエルサレム周辺だけで、長い間その状況は続いているけど同じ事は起きてはいないよ?」


「確かに検証した訳ではありませんが……一つだけ試しに放置しましょうか?開拓から三年程の惑星が有るのでそれを放置して様子を見ましょう。何も起こらなければ安心できますし」


「ではその様に手配を。それで問題なければ同じ扱いの惑星を増やそう」


「でもそうした惑星は後で移民しようとしても人が生態系に馴染むのに時間が掛かりますよ?」


「何もしないで不毛のまま放置よりはましではないかな?」


「分かりました。ではその様に手配します。真祖様」


今迄の経験上、地球化が可能な惑星は惑星系に二つ程度だから放置で地球化が可能であれば一つは今迄通り人を入植させてもう一つは地球化のみの形で進める事が可能となる。

今迄は惑星系を勢力圏とする為に一つだけ開拓して他は不毛のまま放置していた。

ここで問題なのはいくらでも勢力圏の拡大が可能な事だな。

種の繁栄の為には勢力圏の拡大は望ましい事で止める訳には行かないのだが宇宙では地球とは違って障害となる他者が事実上存在しないので歯止めが効かないのだ。

地球では縄張り争いの結果、地球上が分割されていたのだが、宇宙は分割するには広すぎる。

今の所は競争相手となる異星人も見当たらないし、競争相手は種が違っているとは言え地球人だけだ。

開拓したら自分のものと言った形で勢力圏を拡げていて現状では問題が無かった。

問題なのは勢力圏の拡大に人口増が追いつかない事だ。

それで勢力圏の拡大のペースは落さず惑星開拓のペースを落とした結果、地球化が進む人口が百万人以下の惑星系が勢力圏の中に無数に存在する事となった。


アラスカやロシア等の始祖勢力は手を伸ばし過ぎると個々の惑星開拓が疎かとなって折角築き上げた勢力圏が中途半端となり破綻しかねないので無理な事はしていない様だ。

焦らなければ二十年の惑星開拓で現在の火星程度の居住環境の惑星を手に入れる事が出来る。

開拓を始めて十年以上の勢力も多いのであと十年程だ。

そして鉱物資源だけの話であれば地球での事を考えると既に使いきれないほどの量を手に入れているのだ。

現在宇宙に出ている始祖勢力は出遅れた所でも始祖が存命中に地球化済みの惑星を一つは確保する。

それは地球に何が起きても種が存続する道を確保している事となる。

このまま惑星の地球化が進みそれが維持できれば少なくとも次の種の分岐までは安泰なのだ。








ロシア圏では惑星開拓が順調に進んだ事によって内側は二つに割れた。

地球では対外的に一つに纏まっていないと不味かったのでその様にしていたのが宇宙に出て枷が外れたのだ。

始祖同士は左程張り合っている訳でもなく問題も無かったのだがその下の眷族となるとそうも行かず結局割れてしまったのだ。

地球でならそれを利用してロシア圏の力を削ごうとする勢力も出て来るのだが宇宙ではそれをして得になる勢力も今の所は存在しない。

始祖勢力は互いに動向を監視はしてはいるが惑星開拓を優先していて、他の勢力に干渉するほどの余裕は無いのだ。


「日本の奴等の開拓の進行具合はどんな感じだ」


「火星で得た情報では既に四十以上の惑星系を勢力圏としたようです。ただ勢力圏は拡げていますが入植のペースは明らかに落としていますね」


「それは人が足りんのだろう。ロシアもそれで行き詰まっているからな。こちらと同じで勢力圏を拡げ過ぎているな。だが止める訳にもいかん。奴等はどう対処しているんだ?」


「こちらと同じですよ。取り敢えず入植する惑星を絞り込んでそこで人を増やし地力を溜めるんです。それ以外の惑星は地球化を先行して本格的な入植は人が増えてからです」


「日本圏は総人口六億を超えるんだろう?ロシア圏はどうだ。ヨーロッパからの難民や東ヨーロッパ人を含めても五億に届かん」


「人口は多いほど群れを纏め難くなります。ロシア圏は寄せ集め感が強いので慎重に進めないと不味いのですよ?日本圏とは条件が違いすぎて単純な人口の比較は意味が無いです」


日本圏では始祖一人に最低一惑星を支配させており、最終的には一惑星に一億から三億人程度の人口を良しとしていた。

国の魔素生命で緩い繋がりを保って群れの強い繋がりは一つの惑星単位で構わないと考えていた。

種としての繋がりが強いのは群れが小さな間か始祖の存命中と割り切っていた。

どうせ次の種の分岐でバラバラになるし惑星単位で今の地球の様になる可能性だって無きにしも非ずだ。

種としての繋がりは重要ではあるけど次の種の分岐までの唯の繋ぎだと。


「でも日本圏が一番先行して且つ成功しているんだ。比較して参考にする必要がある。以前のムスリムみたいなのは御免だからな」


「あれは使えない典型例でしたね。勢力圏を拡げるための惑星開拓をする気は欠片も無いくせに勢力圏を拡げたい欲だけは異常にあった。何もせずに惑星開拓の成果の分け前だけは得る気でしたからね」


「地球上での勢力争いならあんなのでも味方に付ける意味は有ったが宇宙では何の役にも立たんからな」


「日本が初期に行った配下の始祖勢力に各々一つの惑星開拓を割り当てるのは使えない奴等を洗い出すのに上手い方法ですよ。問題のムスリムみたいな奴等の選別が楽でした」


「同じ様に火星で開拓の実地訓練をしたのに使えない奴等は全然使えなかったからな」


「類は友を呼ぶで使えない奴等の殆どは皆同じ始祖の眷族でしたね。ムスリムみたいに揉めると思っていたら以外に素直に地球に戻りましたけど」


「そいつらも揉めてテロリストとして処理されたくは無いだろうよ。魔法も碌に使えん輩が多いんだろう?開拓に使えん奴等は」


「その通りです。火星での訓練で開拓に必要な最低限の魔法は使える様になる筈が全然です。その頃は他人の成果に上手く便乗して誤魔化していたんでしょう。使えないくせにそう言った事は得意なんですよねぇ~何故か」


「そんな奴等に惑星開拓を割り当てても当然何も出来ん。使えん奴等がいくら集まっても成果が挙がる訳がないし誤魔化し様が無い。皆が皆他人の成果に便乗しようと考えていては上手く行かんよなぁ」


「僅かな使える奴等は群れを移って逃げましたからね。責任を押し付けられて不味い事になりそうで。実際に地球に戻された使えない奴等は全ての責任を逃げた奴等に押し付けて矛先を躱そうとしましたから」


「躱せたのか?」


「躱せる訳がないでしょう?こちらからは報告書を出していて中には惑星開拓の実績を基に奴等が如何に使えないか載っているんですから」


「こちらの報告書の記載内容は信じているんだな」


「少なくとも逃げた眷族の能力については信じていますよ。受け入れ先が有った訳ですから。地球に戻されたのが使えない奴等だとの認識は有るでしょうね」


日本圏の始祖勢力への惑星開拓の割り当ては選別の意図が有った訳ではないのだが、多くの勢力圏で始祖勢力の選別の為に行われていた。

この選別で弾かれた始祖勢力は宇宙に拡がる能力なしとして地球に戻るしか手は無い。

此処で奮起して能力の向上を図れば再起も可能なのだが大半は地球に戻したことに対して非難する様になる。

こうなるともう再起の芽は無く、インド圏に入るぐらいしか手は無くなる。

インド圏なら使えない奴等にも少し対処が違っていて下位カーストとして上位カーストの始祖勢力に従属して宇宙に乗り出す道が有る。

インド圏に移れば下位カーストとして扱われるのだけど宇宙に出る事は可能だ。


日本圏ではこうした場合に優位に在る勢力が劣位に在る勢力を飲み込んで優位に在る勢力が残ると捉えていたので劣位にある勢力が飲み込まれない為にと惑星開拓を行わせて能力の引き上げを図ったのだがインド圏ではカーストにより地位を固定化して劣位にある始祖勢力が消えない様にしているのだ。


ロシア圏では配下の始祖勢力を篩にかけて使えないと判断したら切り捨てている。

地球に戻して再挑戦の機会を与えた形ではあるがほぼ見捨てた形だ。

ムスリム騒動以降は殆どの勢力圏においてロシア圏と同じ様に組む相手を選別して切り捨てている。








インド圏は拡大のペースは遅いが着実に広がっていて、人口が多い事も有ってか惑星を開拓するための人手が足りなくなると言った話は出ていない。

日本圏やロシア圏とは違い、地下を開拓する先から人で埋まる感じで惑星開拓が進んでいる。

地表の地球化は日本圏と同じペースで進んではいるのだが地下開拓に比して遅れている感じが強い。


「インド圏ではあの使えん奴等を惑星開拓にも駆り出しているんだろう?如何使っているんだ?」


「調べたのですが惑星開拓にはほぼ使っていません。仕事は下位カーストとして下働きですね」


「……始祖勢力の全員をか?一千万人はいるだろう?……インド辺りだと一億人近くいるかもしれんな。役立たずをそんなに抱えて惑星開拓が進むか?」


「インド圏は総人口が元々多いので私達が聞いて感じるよりは割合にしたら少ないんです。インド圏ではカーストによって仕事が決まって他のカーストの者はその仕事をしてはいけないんですよ。宇宙に出てもその習慣を捨てれないんです。信仰ですからね」


インド圏はヒンズー教の世界観が色濃く残っていてカーストも改編されたものの残っている。

最終的に始祖勢力の能力別にカーストが設定されて順位とされたのだ。

魔法技能に優れている始祖勢力程上位となり使えない始祖勢力程下位となる。

生体魔法回路に有る魔法は子孫に受け継がれるから始祖勢力の中で受け継がれる事になる。

よって魔法技術を持つ上位の始祖勢力の眷族の技能は代を重ねるにつれて磨かれる事となり下位の始祖勢力との技能差は代を重ねる程開く事となる。

この為、魔法の鍛錬により技能を上げて勢力の位階を上げる事は可能ではあるものの実際は著しく困難だ。

鍛錬する時間と余裕は上位程有るため群れ全体としてこれを覆すのは難しいのだ。

こうしてインド圏のカーストは強固になっていく。


「能力を優先する宇宙関連の仕事でカーストは無いだろう?地球上とは違って死に直結するぞ」


「ええそうですよ。だから下位カーストは地下から出れません。地球化が済むまでだから最低で二十年下手をすると百年近く掛かると思いますよ」


「それで問題は起こさないのか?」


「さぁ?下位カーストでは問題を起こそうにも魔法技能は知れていますからね」


「魔法技能がお粗末なのは問題を起こしたムスリムも同じだったよな」


「確かにその通りですが意識が違います。ムスリムの奴等は他の勢力を対等か下位にあると思っていましたがインド圏の下位カーストは自分達が下位だと思っています」


「それは信じ難いな。始祖は勢力が違っても神扱いなのだろう?そいつ等の始祖をどう扱うんだ?」


「詳しくはないのですが彼等の信仰の世界観に合わせて一番収まりが良い様に決めたのだと思いますよ。使えない勢力の始祖は下級神なんです」


「インド圏の信仰が有って成り立っている訳だな。ロシア圏では使えん」


「そう思います。インド圏の独特な信仰による同一感がないと成り立ちません」


現在、魔法を真面に使えない始祖勢力を宇宙に出して使っているのはインド圏だけである。

インド圏では惑星開拓において地表に居住する事は特権と捉えられていて今の所は最上位のカーストのみに許されている。

火星の地表で暮らしていたのはそうした特権を行使したもので魔法を碌に使えない者達を火星に送り込んではいたが彼等はムスリムの様に地表で居住してはなかった。

魔法を碌に使えない者達はインド圏では最底辺のカーストなので火星では地表を見る事すら許されてはいなかった。

これには彼等を保護する意味合いもある。

開拓中の惑星では魔法が碌に使えない彼等は地下の密閉空間に居た方が安全なのだ。

魔法が使えれば問題の無い地表の環境でも彼等は死んでしまうのだから。


インド人が火星でムスリムの様に揉めなかったのは要はカースト上の特権を示せればよいだけなので日本人と揉めない様にやり方を変えただけであった。

形としては研究の為に地表に出ている事にして住居を地表に置かなくなっただけである。

日本人は地表に出るなとは言っていなくてまだ生態系が脆弱だから地表で好き勝手に暮らすなと言っていただけなのだ。

揉めたムスリムの奴等にしても開拓に深刻なダメージを与える行為さえしなければテロリストとして処分される事も無かったのに。

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