22 幼体の身元照会
アラスカは月に来訪した年の内に火星まで人を送り込む事に成功し、日本はそれを受けて火星の開拓地を提供して協力関係の強化を図った。
日本の総人口は順調に増えていたが太陽系外の開拓も順調に進んでいたので火星から拠点を移す世帯も増えて火星の人口は停滞傾向にあり開拓地は充分に有った。
この頃には私の眷族は七千万人を超えていて太陽系に三千万人で残りの四千万人は太陽系外の惑星系の開拓地に分散していた。
美里の眷族は私が火星に拠点を移した頃から急激に増加して一億五千万人程で太陽系に八千万人で残りの七千万人は太陽系外の惑星系の開拓地に分散していた。
地球に居る日本人は殆どが美里の眷族で摩耶ちゃんの眷族四千五百万人は拠点を太陽系外の開拓地に移して太陽系には一千万人程しか残っていない。
その他の日本の始祖の眷族の人口は順調に増加してはいたのだが絶対数が少ないため火星の開拓に掛かり切りとなり太陽系外の惑星開拓の方は停滞気味となっていた。
アラスカ人が火星に来て半年後には植物によって火星に送り込まれた幼体とアラスカ人の子供の行方不明者達との身元照会を開始した。
「植物が子供達を火星に送り込んだ事は理解した。だけど何故、身元照会が直ぐに出来なかったのか?人道上問題が有る。対処が不適切だ」
「不満は理解できるがどうしようもなかった。当初、我々は火星に送り込まれた子供達を迷子だと思っていて火星で親を探していたんだ。送られてきた子供の殆どが幼児で言葉もおぼつかなかったし、火星は元々子供が多くて迷子は珍しくも無かったし、火星に居るのは日本人との思い込みから日本人では無い事にも気が付かなかったんだ。そのうちに明らかに日本人ではない子供が見つかって地球から送り込まれている事が分かったんだ。それで植物が送り込んでいる事までは突き止めたんだが日々送り込まれるのを止めようが無かった。人が介在していれば交渉も可能だが植物とは意思の疎通すら真面には出来ないんだからね。火星では送り込まれる子供達が日に日に増える一方で保護する事を優先していたんだ。その頃は地球から火星への転移を妨害する技術も無くて他に対処のしようも無かった」
種が違っているから注意すればおかしい事は気付いた筈なのだが火星に居るのは日本人だけとの思い込みで他種の幼体である事に気付くのが送れたのだ。
それに火星に人が来るなら成体だと皆が思い込んでいた。
幼体には魔法が使えなくて自分の意志で火星に来るなんて出来はしないし植物が幼体を火星に送り込むなんて考えてもいなかった。
植物がそれまで火星に送り込んでいたのは植物と植物の繁殖に有用な昆虫とか動物で人は既に充分な数が火星にいるのだから植物が人を送り込む筈がないとも考えていたのだ。
気付いた後は探し始めた訳だが日本人の子供に混ざって遊んでいたりもしたためスムーズには行かなかった。
「子供達を地球に送り帰す事は出来なかったのか?」
「どうやって?日本人ならともかく種が違っていてはまず無理だ。子供達を転移魔法で地球に送るにも魔法が発動するには子供達の同意が必要だ。子供達との間に信頼関係の欠片も無いのに可能な事か?少なくとも日本にはそんな事を可能にする技術は無い」
「知らせてくれれば少なくとも私達の子供は特定できた」
「分かっているだろう?火星の事は群れの禁忌に当たるからそんな事は無理だ。君達が火星に来たから話せる様になったんだ。その頃は如何にかできないか色々検討していたんだよ。でもアメリカ人とヨーロッパ人が子供の行方不明を日本の所為だと糾弾し始めて動けなくなった」
種が違うにしても親密になれば転移ぐらいは可能になると考えていて、月や火星の事を洩らさずに対処するには如何したら良いかを検討していた。
月や火星の件は群れの機密事項だから漏洩させるのは禁忌に当たる。
幼児なら情報が洩れる事も無いだろうと考えていたのだが何処の出身かも分からない様な幼児が大半で、その世話に追われたり身元調査を進めたりに明け暮れている間に日本への糾弾が始まって動けなくなった。
下手な動きを見せたら日本への糾弾が激しくなって問題の解決からは遠ざかる状況となった。
それで日米が開戦して以降はアジアの友好勢力の圏内での行方不明者の調査ぐらいしかしなかった。
「頭では理解できても感情が付いて行かない」
「気持ちは分かる。だから黙っていようとの意見も有ったんだ。君達が敵に回る可能性も有るし、東アメリカに情報が洩れると面倒だからね」
「それは悪手だな。黙っていてバレたら今よりも確実に関係が悪くなっているよ。今でも納得のいかない人がいるんだから」
「そうだよ。それで話す方がマシだと判断したんだ。それにそろそろこの件の被害者の一人が転移魔法を習得する時期なんだ。黙っていても何れはバレる可能性が高い。彼女に地球へ戻る意思が有れば止め様が無いんだから」
「それは私達の子供かな?」
「残念ながら彼女は南米出身な事が分かっている。彼女は火星に来た時には成体になる直前だったんだ」
「そうか……こちらの行方不明者の中にも相当する年齢の子がいたけど違うのか」
「その年齢なら親の事も覚えているから特定し易い、照会も速いんじゃないかな。成体ならその意志が尊重されるから何処に行っても構わないよ。眷族の魔法教育が中途半端になるのは残念だけどね。それよりも問題は幼児の取り扱いだ」
「DNAデータを照会中なんだろう?親とDNAが合地した子供達を返してくれれば良い」
「基本的にはその通り、でもそう単純には行かない。親の事を覚えている年齢なら問題は小さいけど全然覚えていなくて火星人として育っている子供達も多いんだ。こちらの環境に馴染んでいるんだよ。無責任に引き渡して御仕舞には出来ないんだ」
「親達には実子を返してもらう権利が有る」
「親の権利は認めるけど子供達にも権利は有るんだ。子供達は既にこちらの国民でもあるんだ。国民としての権利を侵害する行為は許されない。こちらも親を審査するから協力をお願いするよ」
「無条件に引き渡す事は出来ないのか?親達は見つかったら直ぐに引き渡されると思っているぞ」
「これは幼体を厳重に保護している結果としての審査なんだ。君達の場合はそちらの政府の身元証明を処理するだけで済む。取り敢えず親権が確定してからでないと渡せないな」
「何でそんなに面倒な手続きをする必要があるんだ?」
「いい加減な手続きには出来ないよ。紛争地域に子供達を戻したくはないからね。火星に送り込まれた子供達については紛争地域の子供達が多そうなんだ。多いのはヨーロッパからアフリカにかけての未だに揉めている地域と北アメリカかな。東南アジア・オセアニア・満州近辺の子供達が少ない事は調査済みなんだ。範囲は地球規模ではあるんだけどね」
「揉めている地域ほど行方不明者が多いって事か?」
「その通り、君達も調査してみれば良い。君達ならアメリカやヨーロッパとオセアニアのデータを比較すれば分かると思うよ。明らかに違うから」
当時のアメリカ合衆国は内部で既に分裂寸前まで揉めていた。
だから火星に送り込まれた幼体の数も存外に多い訳だ。
だから躍起になって日本を敵にして国内を纏めようとしていた訳だ。
日本人は流石にそこまでとは予想もしていなかった。
「自分達が揉めていたせいで子供達が植物の手で火星に送られたって事だな」
「そうだよ。植物はどう判断したんだろうね。自分達に近しい人を逃がそうとしたのか。それとも少しでも人を減らして自分達への被害を抑えようとしたのか」
「調べて事実と分かっても当面は公には出来ないな。受け入れる事が出来ずに反発する人も多そうだ。反発から東側に行かれても困る」
「その通り。それを懸念で日本は国外にはその情報を発信していないんだ。東アメリカは如何でも良いんだけど東アメリカみたいな奴等が増えるのは嫌だからなぁ」
「それはこちらも望む所ではないな」
「君達も注意しておいた方が良いよ。火星への幼体の送り込みの様な事を引き起こす可能性は有るからね」
「??火星では対処済みだよね。だったら私達がそんな事を引き起こす可能性は低いよ?」
「え~と。もしかして火星で止めるつもりかな?それならそれでも構わないけど勿体ないよ?折角能力が有るのにここで止めるのは」
「日本は金星も開拓しているのか?こちらでは金星は難しいとの結論が出て止める事にしたんだが」
「金星は日本でも困難との判断で本格的な開拓は中断して研究の場となっているよ」
「でも他には目ぼしい星はない筈だが?太陽に近すぎたり遠かったりで月の様に使う事は可能でも地球化は無理だ」
「……君達のトップもそんな判断なのか?」
彼等が太陽系で満足する様ならその方が都合が良い。
東アメリカの防波堤として上手く使えるかもしれない。
「うちのトップは夢想家で火星の次は太陽系外だって……」
「それは東アメリカにいる陸軍士官の始祖が君達のトップの要求を抑えつけてくれた御蔭で日本は助かっているって事かな」
「……日本人は既に太陽系外へ乗り出しているのか?」
「現在、日本人は二億八千万人ぐらいいるけど太陽系に居住しているのは一億二千万人ぐらいかな」
「夢想ではないって事か。既に一億六千万人が太陽系外に居住しているんだな……方法は?」
「基本的に火星で行っている事の繰り返しだな。因みに地球型惑星は生態系に馴染むのに時間を取られそうなので植民対象からは外してる。あと銀河系の外縁に沿う方向になら誰も勢力圏を拡げていないかな。今の所は」
「それは如何も。でも知りたいのはそんな事ではなくてそこまで行く方法だ。我々が火星に来るのに使った方法では時間が掛かりすぎる」
「君達の方法は知らないけど一旦現地に着いてしまえば転移で行き来が可能になるからそこからは楽なものだよ。探査の網を拡げて行くのも探査船とは転移で行き来が可能だから昔の人が考えていた宇宙探査に比べればずっと楽だし」
「……魔法技術の交流はまだ時期尚早と考えているのかな?そちらの宇宙航行技術を入手したいのだが」
「そこまで教える事は群れの禁忌に触れるよ。そちらの宇宙航行技術をこちらに教える事は可能なのか?」
「……確かに無理だな」
「そうだろうな。お互いに無理な事なんだよ」
「そうするとトップ会談で決めてもらわないと進める事は難しいな。俎上に載せておくよ」
「それと相性の良い勢力を仲間に引き込んだら?当面は火星の開拓に専念するにしてもアラスカ一国では人手が足りなくなるよ?」
「合わないから分裂したんだよ?東側の奴等は論外として他も宇宙に出たがるとは思えないな。でも火星の実情を知れば乗る勢力は有るかもだな」
「ふ~ん。そんなものか。日本は宇宙への進出を種の分岐前には決めていたからな。その中心人物が始祖になって止める者も居ないままここまで来てしまった。話を戻すけど行方不明者の縁戚者の不満は抑えれそうかな?」
「全員が納得するとは思えないな。感情の問題だから。それに君達の始祖は成体になった者を眷族に加えてしまっただろう。それに対する反発もある」
「成体になった当人が選択したんだ。問題はない筈だ。彼等には成体になった時点で種を選ぶ権利が有るからね」
「君達には彼等を社会的に受け入れない事も出来た筈だろう?そうすれば眷族になる事も防げた筈だ」
「自分の言っている事を理解しているか?それは保護を必要とする子供達を収容所に隔離して教育も受けさせずに置けと言う事だよ?明らかに人権侵害だと思うけど君達は容認出来るのか?我々には幼体を虐待する様な真似は出来なかったけど」
「……確かにその通りなんだが、もっと他に良い手立ては無かったのか?」
「身元不明の子供達が溢れるように増えて行くんだよ。子供の難民が大量に密入国してきたとして君達は如何する?取り敢えず子供達を社会的に保護して自らの子供と同じ様に育てるしかないだろうに」
「君達がそうするしかなかったのは理解できるんだが何とかならなったのかとの思いが湧き上がるんだよ」
「その時点で群れの禁忌に反しない範囲で遣れることはしたつもりだ。それに彼等が眷族になったのは親に会いたいからでもある。種を移らないと魔法教育が受けられない状況だったからな。地球に戻る為には魔法を使うしかないんだ。彼等に選択の余地はなかった」
「五年だけでも眷族化を阻止できていれば問題は無かったのだがなぁ」
「それは結果論だな。確かに君達は火星に来たけどその時点では誰も来ない可能性すらあったんだ。そんな理不尽な事は可能でもしないよ。彼等が望めば別だが親に会いたい者がそんな選択をすると思うか?」
「思わないよ。君達は遣れる範囲でするべきことはした。子供達が君達の群れに加わったのも当人の選択の結果だ。でも親達がそれを納得するかと言うとなかなか難しい」
「これでもこちらはかなりのリスクを負っているんだ。彼等が君達の群れに戻る様な事になったらこちらの魔法の情報が洩れる事になるんだから」
「ああ、それも理解している。実際、こちらはその様に動いているからね。でもそれは親が納得するかどうかとは別の問題だな」
この件はこのまま話し合っても結論は出そうにないな。
アラスカ側が納得しようがしまいが火星側で遣れる事はしたつもりだ。
双方が納得する答えは出ないだろうな。
残念な事だが東アメリカに火星の情報が洩れるものとして行動する事にする事になりそうだ。
「そうか仕方がないな。こちらで遣れる事はしたつもりだ。これ以上はどうしようもない」
「私もそう思うよ。事実を感情的に飲み込めるかどうかの問題だからね」
「これからは火星の情報までは洩れる前提で動く事になると思うけどくれぐれも太陽系外の話は漏れない様に注意しなよ。洩れたらこちらは嫌だな程度で済むけどそちらはそうでもないだろうから」
「分かってるよ。態々競争相手を増やす様な事をするつもりはない」
このままでは不味いと言う事で日本は月や火星の情報が洩れたという前提で行動を始めた。
今回の件で何れは月や火星の情報が東アメリカに洩れる事が予想出来たからだ。
友好勢力と日本が見做している勢力のトップに対しては宇宙関係の情報の公開を徐々に進めて味方に引き入れる事にした。
それに合わせる形で止めていた地球での眷族の引き抜きも解禁する事になった。
眷族が増えて停滞気味の惑星開拓が進めば良いのだがなぁ。




