16 エルサレムへの侵攻による影響
北アメリカでの日本に対する糾弾は止む事が無くアメリカ合衆国ではある始祖の勢力が急拡大していた。
要は幼体の行方不明を政治的に都合良く使って自らの勢力拡大に利用していたのだ。
アメリカ合衆国の現状においては日本を悪者に仕立て上げるのが一番手っ取り早い方法だった訳だ。
日本との関係も日本を敵に回すとかもどうでも良くて自勢力の拡大を優先した結果だろう。
当然の事ながら何の証拠もないので推測をあたかも事実の様に繰り返し糾弾しているだけなのだが日本の事を気に喰わない者や同じ様に自勢力の拡大を狙う者等が皆それに乗っかった。
シナ人もシナでの幼体の行方不明を日本による拉致として糾弾し始めた。
火星にはシナ人は一人もいないのだがなあ。
それにしても幼体を拉致どころか殺してまくっているシナ人が何をほざいているのだか。
シナでの幼体の行方不明も戦闘に巻き込まれたかシナ人による誘拐と言った所だろう。
どちらにせよ日本の関与によるものではなく完全な言いがかりだ。
日本ではこの日本への言いがかりを新人類勢力の選別に利用する事にした。
選別と言っても取り敢えずの日本の敵かどうかと言った話だけど。
以前から月か火星に来る事を選別に利用しているのだけどこれを成した勢力は未だにない。
植物によって火星に送り込まれた幼体はいるが火星で成体となって扱いが宙に浮いていた者については今回の件を機に私が眷族に組み入れた。
敵対勢力となるかもしれない勢力の眷族を火星に放置するわけにはいかないからな。
それでシナの始祖とその眷族は元から敵対勢力なのだけどそれを再確認した。
北アメリカの日本を糾弾している勢力とそれに乗っかって日本を糾弾している世界の諸勢力も取り敢えずは敵とした。
扱いはと言うと月や火星に来そうになったら邪魔をして仮に到着しても協力しないと言った程度の話だ。
そしてもしこれ以上の敵視してくるようならシナと同じ敵対勢力に確定だな。
アメリカ合衆国はアメリカ軍所属の始祖が軍を率いて何とか国として纏めているのだが、今回の始祖の台頭で不安定になってきた。
以前の宗教関係の始祖勢力の独立やシナ人のコロニー問題も有って注意はしていたのだが今回は特定の信仰や民族に偏る事も無く政治的な支持を得て眷族を増やして勢力を拡大している。
昔ながらの共通の敵を造って支持を得ると言った方法だが効果は有った。
普通の政治手法で大衆の支持を得て勢力を拡大しているだけなので止めようがないのだな。
明らかな失点でも有れば別だろうが。
日本の敵対勢力が勢力拡大に利用している幼体の行方不明については日本が疑わしいのは確かで植物にそこまでの意思と能力を認めている者でなければ真実を聞いてもまず信じないだろうな。
そして日本はその真実を公にする事が群れの禁忌に触れるので、身の潔白の証拠とは出来ない。
日本の総理大臣が「言いがかりだ!日本人は幼体の誘拐などしてはいない」と発言する姿を見て嘘ではない事を確認しても疑いは晴れないままだ。
既に種は分岐し別種の新人類となっていて、何らかの方法で誤魔化しているとの疑念の声は消えない。
「いや、日本人はペットや家畜の魔素生命と繋がっているから同じ魔素生命と繋がっていれば嘘を言っていない事は分かるだろう?誤魔化す方法が有るなら提示してから非難しろよ」と言う話だが疑う方は理屈ではないのだ。
日本側は「無罪なら遣っていない事を証明せよ。証明できないなら有罪だ」と言われているのだ。
疑わしきは無罪ではなくて疑わしきは有罪という訳だ。
なんか段々シナの朝鮮族を相手にしている様な感じになってきたな。
証拠も無しに相手を糾弾して相手が認めるまで執拗に言い続ける。
言い続けるうちに証拠もないのに信ずるものが増えて同調し大きな力となるのだ。
ただこの方法はあの日以降は廃れた方法だ。
全ての人が旧人類の魔素生命に繋がっていたため過去の事実が暴かれるようになったからな。
事実と異なる事を話してもバレる様になったから近年ではあからさまな嘘を吐く事は無くなっていた。
種が違うとは言え同じ魔素生命に繋がっていれば嘘は吐けない。
それを承知の上で幼体の行方不明を利用して日本への糾弾を続けているとすれば性質が悪い。
と言う事で日本ではこの始祖とその眷族は取り敢えずではなく完全に敵対種と認定された。
シナ人と原理主義者以外では初めてだな。
この始祖と眷族の扱いはそれで良いとしてそれに乗った奴等の扱いは如何しようかとの事で会合を開き意見を調整する事となった。
「北アメリカの例の始祖と眷族を敵対種として扱う事は確定としてアメリカ合衆国は如何するの?美里」
「取り敢えずは準敵対勢力ってとこかしら。交易も有るしそう単純には行かないのよ」
「ふ~ん。ま、アメリカ合衆国はそれで良いとして。便乗して日本を糾弾している奴等の扱いは?」
「問題はそれなのよねぇ。シナはいつもの事だからそれなりに対処するとして、問題はヨーロッパからオセアニアに逃げる様に移住した諸々の勢力ね。まず日本側は彼等の謂れのない糾弾に対して調査結果を駆使して反撃したのよ。問題の切欠はヨーロッパ勢力のエルサレム奪還の為の侵攻にあると。幼体の行方不明がヨーロッパ勢力の侵攻以降に始まって戦火の拡大と行方不明者の増加が重なっているグラフを提示したわ。その場ではヨーロッパに残った者達の責任だと責任回避をしていたわね」
「良かったじゃないか。幼体の行方不明がヨーロッパの行動に起因している事を容認したのだろう?」
「それがね。日本への糾弾が北アメリカでよりも酷くなったのよ。どうあってもヨーロッパに起因すると認めたくない様ね。日本の調査結果も疑わしいとして疑いの目を日本に向けたい訳ね。日本は調査資料を駆使してヨーロッパの侵攻の所為だと世界中で喧伝しているから少なくとも友好勢力からの支持は得られると思うわ。北アメリカでも調査資料の御蔭で日本の説が正しいと同調する人も増えて来たしね。オーストラリアでは宣伝合戦になっているのよね~」
「それは敵対勢力を洗い出すには良い機会じゃないか。宣伝合戦と言う事は日本を支持する勢力もいるんだろう?オーストラリアにとってはいい迷惑だろうが、この件に関しては日本側に非の無い事は明らかだから妥協の余地もない。火星に送られてきた幼体には可哀想な状況だけどね」
「そうなのよね。この件が無ければ色々と遣り様が有ったと思うのだけれど」
初めは三年も有れば調査が進んで、その時点で接触が可能であれば幼体の親達と接触しようと考えていた。
日本にも行方不明者の親はたくさんいるから彼等を使えばそう不自然な事でもあるまいと考えていた。
ま、日本への糾弾が始まった事でそんな思惑は吹っ飛んだ訳だけど。
アメリカやオーストラリアで日本に敵意を向ける人が急増して早々に考えを変えざるを得なかった。
そして結局は火星に送り込まれた全ての幼体を私の眷族とする事に決めた。
現状では幼体達を親元に帰す事も困難だし、このままでは真面な教育を受けさせる事も出来ないから火星ではお荷物となってしまう。
火星にお荷物を養う余裕は無いのでそう決めたのだ。
外宇宙の開拓に勤しんで更に推し進める事も決めた。
今の内に勢力圏を拡げて種の繁栄と存続を盤石なものとしなければいけない。
地球では日本の敵対勢力は増加傾向にある。
必要であれば全敵対勢力の宇宙への進出を阻止して地球に押し留めよう。
東ヨーロッパとトルコは西ヨーロッパからエルサレムへと陸路で侵攻する場合にその進路上にある為、ヨーロッパの原理主義者達はまずは東ヨーロッパ諸国次にトルコと侵攻を開始したのだがどちらもイスラム難民のヨーロッパへの侵入を止めていた地域だ。
この地域を戦乱に巻き込んでただで済むわけはなく、イスラム難民の西ヨーロッパへの侵入が始まってしまった。
ロシアは正教徒の多い東ヨーロッパの住民を保護する様に動いていて、原理主義者の西ヨーロッパとの関係は断つ事になった。
今更イスラム難民の西ヨーロッパへの侵入を阻止する意味はない。
トルコはヨーロッパの原理主義者達の東ヨーロッパへの侵攻が始まった時点でイスラム難民を西ヨーロッパに送り込み始めた。
これには東ヨーロッパでの被害を抑えたいロシアの協力も有って西ヨーロッパまで抜ける複数のルートが確保された。
トルコの狙いは出来るだけ西ヨーロッパを混乱させて侵攻の邪魔をする事だな。
ロシアの協力はイスラム圏からの圧力を西ヨーロッパへと逸らすためだな。
そして結局はトルコの頑強な抵抗を受けてヨーロッパからエルサレムへの侵攻は海路が主となった。
西ヨーロッパへのイスラム難民の流入による混乱は以前からの想定通り難民を生み、ロシアへと向かいだした。
ロシアは原理主義者が台頭してきた段階で西ヨーロッパには見切りをつけていてイスラム圏からの圧力を逸らすためにイスラム難民を西ヨーロッパに追いやる事を画策していた。
裏では原理主義者以外のヨーロッパの新人類勢力と繋ぎを付けていて、西ヨーロッパからの難民を受け入れる準備をしていた。
そしてエルサレムへの侵攻が始まると原理主義者による圧力が弱まった隙に勢力を立て直そうと狙う始祖が多数いて西ヨーロッパに留まった。
西ヨーロッパでは国は瓦解して幾多の始祖の勢力が群雄割拠する地となった。
難民として陸路でロシアへ向かった始祖の勢力はロシアの支配下に入り、ロシアはイスラム圏からの圧力を西ヨーロッパへと逸らす事に成功した。
難民として海路で北アメリカへと向かった始祖の勢力は北アメリカを混乱に導いた。
北アメリカの地で彼等の一部は先頭に立って日本を糾弾し始めたのだがこれは勢力拡大の為と言うよりは保身の為だ。
幼体の行方不明はヨーロッパ勢力のエルサレムの侵攻に起因するとの日本の言い分を認めたら自分達の責任とされかねないからな。
ただでさえ難民として立場が弱いのにこれ以上不利な状況には陥りたくはないって所だ。
ただ北アメリカの南にはアメリカ合衆国に入りたい大量の難民がいてアメリカ合衆国にいる彼等の親類縁者がヨーロッパからの難民に反発した。
「お前らがすんなりと入国できたのに何で以前から入国を嘆願してきた俺らの身内は入国できないんだ」と言った感じで。
そして日本の言い分を正しいとしてヨーロッパ勢力を糾弾し始めた。
彼等の身内にも幼体の行方不明者は大勢いるからヨーロッパからの難民に対する反発は勢いを増した。
この事態を受けたアメリカ軍を握る始祖は如何したかと言うと日本を糾弾する側に就いた。
どうやら南からの難民は抑えれると判断して敵を国内に持つよりも国外持つ方が国論を纏め易いと判断した様だな。
それを受けて日本は……始祖達が緊急会合を開く事となった
「アメリカ合衆国は敵に回ったな。国の分裂を阻止しようとしているのだろうがいい迷惑だ」
「面倒な事になったわね。火星に退避する可能性が出てきたわ」
「そこまではないだろう。日本と本当に戦う程の余裕はない。軍をメキシコから剥がすわけにはいかないだろう?」
「それがね。今迄は殆ど放置状態だったグアムやハワイの軍備を拡張しているのよ。陸軍は除いてだけど」
「見せかけだろう?政治的なポーズだ。日本への糾弾に合わせる必要があるからな」
「まあ、今の所はそうでしょうね。でもこの件に関しては日本は一歩も引かないからエスカレートする可能性が有るわ。最悪の場合は日本を攻撃するでしょうね」
「予兆でもあるの?」
「最近になってアメリカ軍の潜水艦が日本の周りで頻繁に行動しているのよ」
「潜水艦自体は左程脅威でもないだろう?乗っている魔法使いのレベルはどんな感じなの?アメリカもシェルターに類する魔法を使っているの?あれは厄介だからなぁ」
「調査した限りは満州が開発した魔法シールドの発展版ね。日本の魔法バリアと同等と見ていいわ」
「それでも充分に厄介だな。シナとは比べ物にならない。直接交戦するのは止したい所だ」
「そうね。それでアメリカ合衆国を分裂させるべく動く事にしたの。上手く行けば太平洋に軍を展開する余裕は無くなるわ」
「オーストラリアは?」
「あそこで今でも騒いでいるのはエルサレムへの侵攻前にヨーロッパから移住した者達だけよ。今更引っ込みがつかないんじゃないのかな」
日本がアメリカ合衆国に対して行ったのは南米に行って順調に勢力圏を拡大している始祖とその眷族に南から圧力を掛けて貰う事とアメリカ合衆国に住む友好勢力と接触して政治的な流れを変えられないか験す事だ。
具体的にはメキシコのアメリカ合衆国との国境沿いに居住している難民を扇動して可能なら国境を突破するだ。
メキシコには南からの難民を抑える為にアメリカ軍が派遣されていてその周りには難民の町が形成されていてと既に実質はアメリカの領土となっている。
違いは人の移動が自由でないだけでアメリカ資本の工場が有ったりして生活に本土との差は左程なくなっていた。
ヨーロッパからの難民をアメリカ合衆国が割とすんなりと受け入れた事を知って不満が燻っていたので扇動するのはたやすい。
アメリカ合衆国の内部に住む難民の親類縁者も同調しているから内外で騒ぎを大きく出来る。
友好勢力には何故瓦解したヨーロッパをかばい日本を糾弾して敵に回すのかを問うた。
実際に日本が世界中の植物をコントロールして幼体を誘拐していると信じていたら怖くて簡単に敵に回せる筈がない。
植物はアメリカ合衆国中に存在してそれが自由に操れるなら日本は植物の魔法を使って好き勝手に出来るではないか。
日本の敵対勢力は日本にそれが可能とは信じていないから安心して日本を糾弾しているのだ。
日本を侮っていて日本が敵に回し易いから敵に回しているのだ。
アメリカ合衆国の多くの始祖は私と同年代で昔のアメリカ合衆国と日本の関係を覚えている。
それで日本に対しては無理難題を押し付けても問題がないと捉えている訳だ。
アメリカ軍が世界中から撤収して既に半世紀近くになるのに!
戦争に負けての撤収ではないからか覇権国家の残滓がこびりついている。
日本がこれに付き合う必要はないよな。
と言う事で日本によるアメリカ合衆国の分裂工作が始まった。
先に言いがかりをつけて潜水艦を展開して圧力を掛けたのは向こうだから仕方がないよ。




