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13 種の繁栄の指標

私は真祖なので妻が多くて、でももう充分だと思っているのだが……


瑠美は種の繁栄に一番の関心を持っていて宇宙開拓については成功していればそれで良しとしている。

開拓の内容には興味がなく地球だろうが宇宙だろうが種が繁栄するなら構わないそうだ。

それで時々妻の人数について瑠美からクレームが付く、まだ増やせるはずだから種の繁栄の為に妻をもっと増やせと。


「修ちゃんは真祖なんだからもっと励まないと駄目だよ。ここは火星で修ちゃんは火星では種の繁栄の指標なんだから」


「いや、もう充分ではないかな。妻も子供もたくさんいるよ。火星で一番じゃないかな?」


私の妻は公式には十五人非公式だと二十五人いていつも誰かが妊娠していて子供は父親としての自覚が持てないほどいるんだけど?

精子提供も含めたら数えきれないほど子供がいて私は把握していないんだけど?


「火星で一番?そんな事はどうでも良い事よ。これから宇宙へと勢力を拡げるのに今の人数では全然足りないわ。修ちゃんは真祖なのだから種の繁栄に貢献する義務が有るのよ」


「本当にそんなに増やす必要があるのかな?火星の人口も順調に増えているし問題ないと思うけど」


「駄目よ。この前の報告書を呼んだでしょ。研究者なんだから冷静に判断しないといけないわ」


瑠美の研究によると地球に留まるつもりなら今程度でも構わないけど宇宙へ拡大するなら足りないそうだ。

種馬扱いなんだが真祖だから仕方がないとの声が多勢で家族にも反対する者はいない。


「でもなあ、今でも子供が多くて父親としての役割が果たせていない気がするんだけど」


「修ちゃんは真祖なんだから普通の父親の役割なんて妻の誰も求めていないわ。そんなものを求める女に修ちゃんの相手は無理よ」


「いや、妻達はともかく子供達は如何なの?親子の繋がりが希薄な気がするんだけど。美織や美香とはこうではなかったし瑠美も親とはもっと親密だった気がするけど?」


「兄弟姉妹が多くて構ってくれたのは映美お姉ちゃんよ?母は小さな子に掛かりきりで成体になった時点で好きにしなさいと言われたし、成体になって二年目に修ちゃんと暮らし始めてからはあまり行き来もしていないわ」


「あれ?そうだったっけ。子供達を連れて時々会いに行っていたよね?」


「でも修ちゃんの様にお正月やお盆に行く事は無かったでしょ?私達の親の世代だと家族構成が崩れてて習慣自体が廃れていたもの。私の両親の様に婚姻関係を続けている方がまれで家系の意識も希薄になって習慣が途絶えたのよね」


そうだった日本人は若い時期が長く続く事で結婚も長く続ける人は減ったんだったな。

百歳までは三十歳前後の肉体年齢が続いて受胎も可能だから女の自由度が一気に上がったんだ。

魔法を使えば望まない妊娠なんて事も有り得ない話となった。

焦って結婚しなくても子供を産む時間的な余裕は充分にある。

その結果として仕事に対する制約も一気に減ったから男と無理に張り合う必要も無くなった。

子供を同時期に産む必要もないから女同士で組めば男は種だけでなんて事も有りだ。

寿命だけは百二十歳ぐらいが限界みたいだけどそれでも死ぬときは昔の五十歳前後の肉体年齢だ。

余程不摂生でもしない限りは死ぬまで普通に活動可能だ。


「そう考えると私達も子供を設ける事の出来る期間が長いから無理に妻を増やさなくても良いかな。期間が長ければ子供は増やせるだろ?」


「それは他の始祖も同じよね。駄目よ。修ちゃんは真祖で種の繁栄の指標なんだから他の始祖より優位にある事を眷族に示す必要があるの」


瑠美の調査によると他勢力の男の始祖と比較するに私は眷族の数に比して配偶者も子供も人数が少ないそうだ。

精子提供して出来た子供を合わせても子供の数ではシナの始祖に負けているらしい。

どれだけ絶倫なんだと呆れていたらシナでも始祖は種馬扱いで精子提供しただけの子供も多い様だ。

ただシナでは始祖が皇帝の扱いなので子供達も権力争いの道具になっていてこの先はどうなるものか。

権力争いで殺しあったら結果として子供の数は減るだろうから比較の意味は有るのか?

私の場合は宇宙に拡がる為に必要だと言う話だから単純に数だけ比較しても意味はないと思うが。


「でも他の始祖は地球にいて私は火星にいる。それに私の場合は宇宙に拡がる為に必要だと言っていただろう?単純に比較して意味が有るのか?」


地球に留まって覇を競うなら比較の意味は有るけど、もう私と眷族が半ば宇宙に抜け出していて競争を宇宙に拡大しているのに地球での事を比較しても意味はないと思うけどなぁ。

現状では宇宙での競争相手は同じ日本人の新人類勢力しかいない訳でほぼ独占状態だし。


「意味は有るのよ。指標が立派に見える方が眷族の士気が上がるんだから」


この様に種の繁栄の指標として意味が有るからと妻を増やせとの声が多勢で……

私は妻達の攻勢に膝を屈せざるを得なかった。


そうして瑠美は時々配偶者候補を連れてやってくる事になってその娘が私を気に入ったら私は始祖の責務として妻として迎え入れている。

でもその度に私のなかに現実感の無い不思議な感覚が拡がっていく感じだ。

私には周りからは古いと言われる倫理観が残っていて違和感が有るのだが妻達は気にもしていない。

妻達と私の育った環境の違いは著しく、一番若い妻は地球の事には全然関心が無くて自分を火星人と認識している。

妻達の結婚観はと言うと結婚を種の存続の為の生存競争の一環としてより良き子孫を残す為の手段と冷徹に捉えている。

私と結婚していると言うよりも映美や瑠美達の妻仲間に入って私を共有している感覚なのか妻達の結びつきは非常に強い。

種馬を共同所有している様な感覚なのだろうか?

私は何かこうモヤモヤとした感じだ。

同じ様な家族グループは火星では無数にあって男の囲い込みをしている。

それでも普通は夫一人に妻三人ぐらいで流石に夫一人に妻三十人越えなんてことはない。

だけど真祖だからなぁで済まされてしまう。


私は時々種の繁栄を脇に置いてこれで良いのかな?と考えている。

一応は妻達とその子供達を家族と認識していて子供達の父親としての認識はあるしデータボックスがあるから名前も顔も忘れる事は無いのだけど一人一人をしっかりと捉えていない感じだ。

精子提供に関しては論外で無責任な感じがする。

でも瑠美に言わせると真祖なのだから多くの妻を迎え多くの子供設ける責任が有るのだそうな。

それでそう言うものだと自身を納得させ開き直って楽しむ事にした。

相手が納得ずくで喜んで体を開いているのに悩んでいるのは馬鹿らしくなってきた。

どうせならこの種馬生活を楽しまないと損だ。

毎日朝晩と励んで──休みの日には時間を掛けて励んで──

妻達の機嫌も良くなって瑠美からのクレームも収まったからこれで良いんだろうな。


…………本当にこれで良いのかな?








家で宇宙開拓に興味が有るのは映美だけだ。

その時は宇宙開拓の初期の事を話していた。

初期の頃は一人で月へ行って基地の設置をしてと宇宙開拓の先行きは不透明だった。

一応、政府関係者に根回しをして始めたんだけど熱意がある人は僅かだった。


「そうだな。私はいざとなったら私と眷族だけでも生き延びる為にと宇宙開拓を進めていたから現状は上手く行き過ぎている感じだな」


「修様は他の日本人を如何するつもりだったの?」


「それは日本の政治家と他の始祖の問題だな。私は最終的には自種の存続を優先する立場だからな。私には他種に対する責任も権限も無いんだ。日本人として必要であれば他種とも協力するし可能であれば助けるけど何よりも自種の存続を優先する」


「私もそうしないと駄目?何か踏ん切るのが難しい気がするの」


「それは好きにすれば良いさ。君は眷族で種を選べるけど私は真祖だから選択の余地が無いんだよ。眷族は日本人である事を種に優先する事が可能だけど真祖である私は自種である事しかできないんだ。ただ非常時には威圧して命令するから眷族には逆らえないと思うよ」


「如何しても自分は無理だと言う場合は?」


「美里の眷族になるとかして私の眷族を辞めるしかないな。でも今の日本では自種だけを優先する状況にはならないと思うけど?映美は何か心配な事でもあるの?現状だと私の眷族は火星が拠点となっているから地球での勢力争いからは外れているし、火星には他の日本人も受け入れる余裕は有るから対立点も無いだろうに」


「そうね。何年か前ならともかく今は大丈夫よね」


数年前なら火星の開拓が進んでいなくて全ての日本人を受け入れる事は無理だったが今では問題ない。

地球だけを見ると日本の人口は横ばいだが火星の人口が増えていて日本の総人口は増加傾向にある。


「そうだよ。だから他の勢力が月に来ないか注視しているんだ。月に来る能力が有る勢力は可能であれば上手く取り込んで開拓に専念したいんだ。下手に対立して他の勢力に宇宙の現状がばれるのは嫌なんだよ。今の遣りたい放題の現状を出来得る限り長く続けたいんだ。それには競争相手が少ない方が良いからね」


「それには私も同意する。外宇宙探査の成果も挙がっていてあと十年もこの状況が維持できれば火星どころの話ではなくなるわ」


外宇宙探査で調査した幾つかの惑星系の中に火星型を三惑星ほど発見済みで試験的に開拓を始めている。

地球型惑星は残念ながらまだ発見されていない。

何れは発見されるであろうが強固な生態系を形成している筈で注意深く行動しないと生態系に拒否されかねないので注意が必要だ。

発見されても最初は研究者が常駐するぐらいになる予定なので問題にはならないだろうが移民となると慎重に進めないと不味いだろうな。

時間は掛かるけど火星型惑星の方が移民するならば確実である。

火星開拓での経験が生かせるから開拓を始めればすぐに移民可能となるだろう。


「予定では火星開拓の目途が付いたら金星の開拓の筈だけど?」


「金星の環境が思いのほか人の居住には適さないのは知っているでしょ。転移魔法を使えば距離は関係ないから外宇宙の惑星系開拓に関心が移っているのよ」


「そこまで行けば最悪の場合は地球の拠点を放棄しても種の存続は可能となるだろうな。種の存続の観点から見るとそれで正解だ。ただ長い目で見たら金星の開拓も重要だと思うんだよ。金星が居住可能に出来れば生存圏に組み込める惑星が増える筈だ。だから優先順位が変わって外宇宙の開拓に傾いても金星開拓の研究はこのまま続けるからね」


後日、金星は地球とは環境が著しく異なる為に開拓が困難との判定が下され金星開拓は正式に延期となり、火星の次は金星ではなくて外宇宙の三惑星と決まった。

そして日本の宇宙開拓の現状については公表しない事も正式に決まった。

バレて追及されたら如何するのか?

「ノーコメント」か「月に行ってご自身で確認してください」で押し通して月や火星に到達する勢力が有れば個別に交渉する事となった。

日本政府は火星に拠点を設ける事を許可して外宇宙の開拓が早い者勝ちな事を提示すれば地球近郊で争う事にはならないと判断していた。

地球上の日本の友好勢力も順調に魔法技術を発展させていれば月にぐらいは到達可能な筈だから問題はないだろう。

月にすら到達できない勢力は問題外なので考慮する必要はない。

仮に下手を打って地球から追い出される事になっても月と火星は既に日本の勢力圏だから宇宙では圧倒的に有利だ。








「修ちゃんは私達の事以外なら真祖として行動しているよね。ちょっと威厳が足りない気もするけど」


「元々唯の一般人なんだから仕方がないだろう。瑠美達から見たら古い倫理観の中で育っているし奥さん達の事はプライベートな話で公にする必要があるとは思えないんだから」


「真祖なんだから全てが公よ。全てが種の繁栄に繋がるのよ。分かっているでしょ」


「頭では分かっているけど感情が……今でも違和感で一杯なんだよ?最近は慣れてきたけど」


「そうね。最近は皆も楽しんでいるわね。一人一人に合わせているみたいだしね。前は余所余所しい感じで離れて行った娘もいたけど今の修ちゃんなら大丈夫よね」


気に入らなかったらいつでも妻の座から降りる事は可能だから以前は妊娠した時点で出て行く娘がいたし子供は三人で充分と出て行く娘もいた。

それも種馬だから仕方がないよなとか思っていた。

子供を生んで嬉々として育てている娘もいるからそこまで酷い扱いはしていなかったつもりだけど……


「余所余所しいと言うか悪い事をしている様な妙な感じだったんだよ。だってさあ実質年齢で六十歳過ぎの私が二十歳前後の娘をどうこうするんだよ?それも何人もだよ。昔の感覚だと完全に犯罪だよ?」


「ん~修ちゃんの家に私が転がり込んだ時にも似た様な事を言っていたわね。火星にまで来てそんな事を気にしているのは修ちゃんだけよ。妻の方が喜んで体を開いているんだから合わせないと駄目よ」


「そうなんだよ。それで最近は今迄の修行の成果を総動員して皆の反応を楽しんでいるんだ。この娘はこれが好きなんだとかこの娘は表に反応を出さないなとかこの娘は少し手荒な感じが好きだなとか。瑠美は耳から首筋と内腿を柔らかに触られるのが好きだよね。こんな感じに」


「そうよ。こうやってみんなと楽しめば不満も無いわ。あっ……ちょっと修ちゃん駄目だって。今は話の途中でしょ」


「どうせなら楽しまないと損だよね。こんな感じに気を操ると皆の反応が良いんだよ。ほら」


「…………」


「瑠美は話さなくなるんだよね。映美はおしゃべりになるんだけど。美弥は自分から指示を出すのが好きなんだよな」


こんな感じで開き直って妻達と楽しむ様になってからは瑠美からのクレームも収まっている。

瑠美が連れてきた娘達を素直に迎え入れているからでもあるかな。

時々、本当にこれで良いのかな?とか浮かんだりするけど真祖だからこれで良いんだよな。

私は真祖で種の繁栄の指標なんだから。

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