10 世界の状勢とか
日本の新人類は太陽系の開拓を進めていて外宇宙にも生存圏を拡げつつあった。
で世界の諸勢力はどうかと言うと……
シナの状勢は陣営が2つに分かれて未だに内戦中で勢力が均衡しているため膠着状態である。
新人類が現れた事で明確に2つの陣営に割れた為、世界中の華僑は3つに割れた。
大半は2つの勢力のどちらかについたが中華の統一とは決別した少数の華僑は居住地域に馴染むことを選ぶか満州や台湾等の独立しているが漢族が優勢な地域に移住した。
世界各地で造られた漢族のコロニーの住民の大半はシナの新人類の眷族となって、残りの漢族は地元に馴染む事を選び居住地域の新人類勢力に加わるか、シナかシナ周辺の漢族の新人類が優勢な地域に逃げ延びるかした訳だな。
いずれかの新人類の勢力に入らないと存続の可能性が低いため漢族の大半はその様に行動した。
これは漢族以外でも同じで旧人類のままでは存続が困難な状況になっている。
日本では旧人類でも国民として最低限の保護はあるが他の地域は既に国として統治されていない所が多くてこのような状況になっている。
そしてアフリカでは迫害されながらも存続していた漢族のコロニーは種の分岐と共に迫害が苛烈になって存続が不可能になった。
種の分岐前は漢族のコロニーが辛うじて存続していたが、シナの新人類勢力に加わってアフリカでの覇権の擁立を画策したため周囲の新人類勢力によって潰されてしまった。
種が分岐して別種となったため殺すことに対する忌避感は激減して種が違う者の間では殺し合いが始まると歯止めとなるものが無い。
特に漢族は種の分岐と共にシナの新人類勢力に加わる者が大半でこうなってしまった。
漢族にしてみれば周りの新人類勢力に対抗しようとしたのだろうがシナの新人類は排他的で他の新人類を認めず奴隷扱いする事で知られている。
このためシナの新人類勢力に与することは周りの新人類に対して明確な敵対の意思を示したことになる。
シナの新人類に与した漢族のコロニーは周りからみればシナの新人類の侵略拠点でしかなかった。
これでは旧人類のままでいた方がまだましで結局アフリカに住む漢族で生き延びたのは旧人類のままでいた者と周囲の新人類勢力のいずれかに馴染んで加わった者だけとなった。
この馴染むと言うのが難儀で群れの文化的性向が許容できないと群れの魔素生命とは繋がれないから殆どの漢族はアフリカの新人類勢力には加われなかった。
ここで旧人類のままでいて周囲の新人類勢力に馴染んだ漢族に紛れ込んでいれば問答無用で殺されることは減るため生き延びる可能性はあった。
だけど殆どの漢族はシナの新人類勢力に加わることを選び殺されてしまった訳だな。
そうしてアフリカで生き延びた漢族はシナの新人類勢力に与しなかった少数のみとなり、最終的には周囲の新人類勢力に飲み込まれる形となった。
世界の他の地域も似た状況で漢族は殺されるか逃げるか地域の新人類勢力に飲み込まれるかしかなかった。
国が統治機関として機能していれば少しは状況が緩和される場合もあるが大勢に変わりはなかった。
アメリカ合衆国ではシナの新人類に与した者はテロリストとして処理され、残った少数は迫害されながらも何とか存続している状態だ。
まぁ、いずれはアフリカの様にどこかの新人類の勢力に飲み込まれると判断されている。
日本では漢族にコロニーを形成するほどの勢力は元々無く、日本に居住する者も日本の魔素生命と繋がる者が殆どで種の分岐後もシナの新人類勢力に与しなかったため問題とはならなかった。
日本に居た漢族の大半は種の分岐前の核テロ騒ぎの時に日本から逃げ出してしまったからな。
シナ大陸ではかなりの数の新人類が分岐しては覇権争いに巻き込まれて潰されている。
が不思議と海外の漢族のコロニーから新人類が分岐する事はなかった。
シナ大陸では周辺の独立した国々が逃げ込んできたシナ人の真祖と眷族を独立勢力に仕立て上げて送り返したことが徐々に成果を挙げだした。
独立する勢力が出始めたのだ!
種の分岐以前の満州の独立以降は独立を志向する勢力が増えていたので上手く組み合わさった感じか。
中にはシナの二大勢力と覇権を争おうとして潰れた者もいるが独立を目指す勢力の方が多かった。
シナ大陸でシナ人が覇権争いをする領域は徐々に狭まって今では長江と黄河を有する宋代の金朝より少し広いぐらいの領域となっている。
アジアでは日本が中心となって進めたシナの囲い込みが功を奏してシナ周辺国のシナ封じ込めが更に強固になりつつあった。
エルサレムで聖地争奪戦をしている奴等は増える一方で初めはユダヤ人から出た一人の真祖がメシアを自称していたのだがその後メシアを自称する者が乱立して互いに相手を偽者として眷族が殺し合っていた。
新人類が分岐してメシアを名乗る真祖が現れて以降はそれが続いていて中近東は未だに混乱している。
彼らにとって種の異なる真祖は排除対象なので殺したりハレムに入れたりしている。
彼らは単純に聖地を支配した者がメシアだと考えているけど宗教によってはキリスト教の様に殺された者を崇めることもあるのでそう単純には行かない。
真祖が死んだ後に眷族が繁栄するかどうかが重要で後で覆される可能性は充分にある。
トルコ等のイスラム圏の国は逃げてきた真祖とその眷族を保護して力を蓄えさせてから送り返したり、自国の周りに配置して難民からの防波堤にしたりしていた。
現在、シナの周辺国が行っているのと同じ対処方法だ。
難民の殆どはイスラム教徒でイスラム圏の国はその様に対処できたのだ。
正教徒の分布はイスラム圏と重なっていて正教徒はイスラム教徒と共同で対処していた。
ロシアやウクライナは正教圏なのでイスラム圏と共同で聖地争奪戦の皺寄せに対処していた。
これに対してヨーロッパはカトリックやプロテスタントの信者が多くイスラム圏との折り合いは良くない。
ヨーロッパではあの日以前はイスラム教徒の移民や難民が増加して問題に成っていたがあの日以降の混乱期にその殆どを追い出していた。
混乱から国を守る為とはいえ結構強引な事もしたのでイスラム圏の人々とはまだ軋轢が残っていた。
その結果としてヨーロッパの周囲には追い出された人々が所々でコロニーを築いていて街として発展している所もあった。
まぁ、イスラム圏の人々との軋轢もヨーロッパ諸国が強い内はたいした問題ではない。
実際に種の分岐前はシナほどは大きな問題とはなっていなかった。
だが新人類の分岐によってメシアを名乗る者が出てヨーロッパからもそれに対抗する新人類の勢力が出たことにより大きく状勢が動いた。
もしヨーロッパ内部のエルサレムに向かおうとする新人類の影響でヨーロッパで国の枠組みが崩れ始めたらヨーロッパ内外の新人類勢力はそれに便乗する形で勢力の拡大に動くだろう。
もしそうなったらヨーロッパの再編が始まる訳だが勢力争いに負けた新人類はアメリカ大陸かロシア方面に逃げることになり、ヨーロッパにおける科学技術文明の後退も避けられない。
社会が安定していないと近代産業なんて維持できないからな。
中近東からの難民の波は上手く対処しないとヨーロッパの崩壊を起こす切欠となり得た。
ロシアの新人類勢力はヨーロッパの崩壊を防ぐために忙しくて東側の新人類勢力に対しては国を割ろうとでもしない限りは動く気は無く、時々配下の高官を送ってくるだけになっていた。
ヨーロッパから新人類勢力の難民が押し寄せた時に後背地が敵となっていては困るからな。
ロシア東側の新人類勢力も勢力圏の西方への拡大はこれ以上は手に余ると判断していたのでロシア国内での均衡はとれていた。
ヨーロッパ人で目端の利く者は既に家族をオーストラリアかニュージーランドに逃がしていた。
核テロ未遂で日本から在日外国人が国外に逃げ出したのと同じ時期だからもう四十年以上前からになる。
その頃はヨーロッパでも日本と同じ様に核テロの懸念が広がって逃げ出す人も多かった。
シナの核テロも実行犯がイスラム系の原理主義者だったから、核テロの懸念を理由にイスラム教徒のヨーロッパからの強引な追い出しも始まった。
そしてヨーロッパの企業は多くがオーストラリアに進出して工場を増設していた。
表向きはシナの内乱で利益を上げるためだが資本を避難する意味合いも大きかった。
アメリカ企業も同様にオーストラリアに進出したのでオーストラリアは国力が増大した。
オーストラリアはシナと言う紛争地に近い安全な資源大国で進出して利益を上げるのに丁度良い立地条件であった。
オーストラリアもニュージーランドも漢族のコロニーが大きな問題に成り始めていたのでヨーロッパからの移民をその資本と共に積極的に受け入れていた。
日本はヨーロッパが崩壊するとその余波でアメリカやロシアも崩壊しかねない事を懸念していた。
この崩壊の連鎖が始まってもシナの包囲網には影響が及ばない様にロシアを支援すると同時に最悪の場合を想定して火星への移住を可能とするために開拓を急いでいた。
日本としては今の状況が十年も維持できれば当初の計画に従って地球の勢力圏は維持しつつ火星への移住を進めて宇宙に生存圏を拡げる事も可能だと判断していた。
日本人だけを火星に避難可能にするには三年ぐらい掛かるので何とかそこまでは保たせないと………
そこまで保てば地球を捨てて宇宙にとの選択も可能だ。
現状は宇宙に避難する者と地球に残す者を選別して火星開拓を進めている。
三年保てば一安心、十年保てば地球を拠点に宇宙へ広がり、十五年保てば……これは状況次第だな。
最悪は地球側を切り捨てて宇宙で群れの存続を図ることになる訳だけどまだそこまで酷い状況にはないな。
アメリカやヨーロッパからは長い間シナ周辺の方が危うく見えていたようだが少なくとも近々に関してはヨーロッパの方が危うい。
次点はアメリカかロシアだと日本政府は判断しているが確かに満州独立まではシナ周辺の方が危うかった。
でも満州独立以降はシナの封じ込めが上手く進んでいて種の分岐以降も順調に推移している。
世界中の漢族の多くは種の分岐の後に北アメリカの漢族と同じ様に行動して同じ様に潰された。
現在シナ以外の地で漢族の覇権の試みが継続している所はない。
そしてその漢族の覇権争いの地シナは周りから独立勢力によって徐々に削られている。
対して種の分岐以降のヨーロッパは明らかに不安定さが増している。
問題の焦点は聖地エルサレムでキリスト教徒を多く抱え込むヨーロッパも無関係ではない。
ヨーロッパはキリスト教原理主義者の勢力を内包していて彼等は十字軍の如く聖地争いに積極的に関わろうとしている。
アジアで言えばシナの覇権争いに積極的に加わった朝鮮族の様なものだな。
それで種の分岐以降のヨーロッパは内因のキリスト教原理主義者と外因のイスラム難民の動きが活発となって不安定さが増している。
アメリカ大陸にも似た勢力は存在するが地理的な条件が全く違う。
ヨーロッパから見れば聖地エルサレムは目と鼻の先だけどアメリカ大陸だとまず渡海してからだから宗教的な影響力も段違いだろう。
と言うことで今はヨーロッパが一番危うい。
北アメリカでは内乱の要因となりそうな原理主義者の新人類が独立して国を造り類似の勢力の受け皿となったため、上手いことガス抜きとなっている。
アメリカ軍は変わらず国境沿いのメキシコ内に軍を派遣して緩衝地帯としているのだがアメリカ軍が統治しているのでアメリカ合衆国の保護地と化している。
問題なのは基地周辺はメキシコの領土なので緩衝地帯への難民の侵入を防げないことだ。
基地周辺の治安とかの権限は委譲されているがあくまで派遣との立場なので住民の流入は防ぐ権限がない。
アメリカ軍は難民がアメリカの国境を越えない為にいるので当初の目的は達成しているのだが国境沿いの難民は増える一方だ。
それに今ではアメリカ企業がこのグレーゾーンに工場を建てて収益を上げているから政治的にはこの状況を維持するのが好ましいこととなっているようだ。
日本から見たら難民を引き寄せているだけに見えるのだがそれで良いのか?
でも何もしないでいるとアメリカ国内に難民が直接侵入しようとするから次善の策としては仕方がないのかな?
南米は種の分岐以降は混乱していて北に向かう人は増える一方なんだが……
今の魔法技術は基本的に擬似物力を発生させて世界に干渉する魔法と亜空間を利用する魔法の組み合わせで出来ている。
そして今の技術体系は古代魔法人が造ったものと基本的には何も変わっていない。
世界中の魔法技術は全てが同じ魔法技術の延長線上にあるのだ。
だから直ぐに使えるかどうかは別として説明を受ければ理解はできる人も多い。
ただ周知の様に魔法も他の技能と同じ様に知っているだけでは使えるようにはならない。
才能が有れば早く身に付けることは可能だけど鍛錬なしに熟練し修得する事は不可能だ。
そして鍛錬の初期には適切な指導による教育と訓練がないと能力を伸ばすことが難しい。
だけど世界的には特権階級の権力の維持の為に魔法教育を普及しない勢力が多勢であった。
適切な指導による魔法教育と訓練を受けられない者が世界の大多数という訳だ。
そして特権階級者の多くも現状に胡坐をかいて魔法教育を受ける機会が有るにも関わらず日本における魔法の基礎教育程度のことも身に付け様とはしなかった。
愚民化政策によって権力の維持を図ったから特権階級の魔法もそれほど進歩が無かったってことだ。
その状況が新人類の分岐まで三十年以上に亘って続いた。
それが新人類の分岐によりその階級社会が瓦解してしまって文明としては更に後退する地域が続出した。
それらの地域では下層階級出身の真祖が特権階級出身の真祖より圧倒的に数が多かったから下剋上が相次いで社会をそのまま継続して維持はできなかったのだ。
以前であればアメリカ合衆国等からの干渉で何とか立て直しも可能であったろうが今はそんな余裕のある国はない。
種の分岐前なら旧人類の魔素生命が保持する莫大な記録情報も利用できた。
だが新人類にはその記録情報を利用できないから文明の維持は中々困難なこととなっている。
新人類は種として旧人類より優位にあるのは確かだけど科学技術文明を受け継いで発展することが可能かどうかはまた別の話と言う訳だ。




