- 2 美少女たるや -
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俺は垣間蒼斗。
高校生、18歳。
日本原産の男だ。
そして、
「はいっ、お茶どうぞ」
目の前には美少女、とびきりの美少女、凄いよ美少女。
俺は至って異常な状況に巻き込まれていた。俺はどうぞと言われ小さな木の椅子に腰をかけ、出されたお茶を啜る。
因みに少女の出した物は日本茶の様だ。日本茶を出した少女と聞いてどんな風貌を思い浮かべるだろうか?
純日本風の格好をした和服美少女か、それともオーソドックスな黒髪ロングの美少女か、
違う。
その両方とも近しくない容姿である。具体的に言えばこの娘は、
金髪ツインテ青眼の西欧美少女だった。
だが、外人さんという訳じゃないみたいだ。そう言えるのも、顔付きから察してハーフっぽいからなのだが、確信を持つためにはこの娘に対して全くの情報を持っていない。
なので、
「あの…お尋ねしたい事が––––」
「えっあ、はい! ど、どうぞ!」
えらく動揺されていらっしゃる。
「別に、そんな緊張しなくて良いですよ。」
と言えば、
「いやそんな…初対面で、とてもではないですけど失礼ですし!」
と、またも動揺される。だが、気にせず続けよう。
彼女は言う。
此処が俺の元いた世界と別の名である事。そして、今彼女のログハウスに居るのは、どうやら俺は厄介ごとを手伝って貰えるか彼女が交渉するためだからという事。
あとハーフ……ではなかった。
だが彼女のおじいさんが俺と同じ黒髪だそうで。
というか、
「厄介ごとって何さ…」
「えと、きっといきなりこちらに来た事ですし、迷惑しているだろうなと思ったからこその言葉なんですけれど、私からすれば非常にありがたい事なんですよ?」
ありがたい事?
つい首を傾げてしまった。
それを見てか、
「はい、説明させて頂くと、私はガチャで貴方を呼びました。」
と、説明してくれたが、ガチャって言ったか今?
彼女が続ける。
「私は謂う所の “ ガチャ ” と呼ばれる扉を使い、中から出て頂いた方を “ 強力者 ” にするんです。
そういった私たち、冒険制御人は人類の目的地を目指します。」
「いや、待った、何を言っているんだ…?」
うん、そうだよね…と、言った彼女は席を立って窓辺に向かって歩き出した。少し不安気な面持ちを隠さずに、しかし微笑みも含みながら窓を開けて、
「あちらをご覧になって頂けませんか?」
「?」
言われた通りにあちらをご覧になった。窓辺まで駆け寄った。
駆け寄って確認したかった。
窓の向こうに広がるのはもう日も沈み、満天と輝く星々–––––––
ではなく…その夜空に浮かぶやたらとでかい大陸だった。
「なんだよ、あれ…」
「遺跡だそうです。」
「遺跡…はぁ」
呆けた声が思わず出た。
雄大に浮かぶそれはこの夜空に溶け込む気は一切ないと言うような、大きさと迫力をしていた。
「凄いでしょう?あれが目的地です。でも、私はまだあそこには行けないんです…」
そう言う彼女の顔は寂し気で、なんとなく俺が交渉とやらに、この後付き合って貰わなくては困るのがひしひしと伝わった。
*
彼女は話す。
交渉される俺。
でもってなんか泣き顔の彼女。感情が昂ぶっての事だろう。
(うわ…気まずっ)
なんかこれ話した方が良いよな、うん。
「えと、話は理解しました。その、俺で宜しかったら––––」
「本当ですかぁっ‼︎」
「うおぉあっ⁉︎」
凄い声量に素直に驚いて、から少し冷静になる。
「協力しますけど、良いんですか?聞くところでは、なんだか戦闘するんですよ……ね?」
え?と言う顔をされる。
「いやいや、だって俺は何も出来ない戦闘経験ゼロの境遇で過ごして来たので、ご期待に添えるのか、この先は芳しくないなぁと言いますか…?」
「え?」
「え?」
冷や汗が喉元を伝い、俺は焦りが顔に表れ始めている。
少女は腰に巻いているポーチから一枚の紙を取り出すと、そこに何かが書いてあるだろう物を見て、みるみるうちに驚きが隠せないのか目を丸くしていった。
「…嘘、SSRじゃない…の?」
「え?」
SSRって何?それなんてソシャゲ…
もしかしなくても俺の事ですか、それ…
「あの、なんだかすまんかった。」
取り敢えず謝っただけでもナイスだ俺。
しかし、彼女は、俯いたままで何も言わない。
(やばいぞ…これ、たぶんきっと俺に期待を掛けたがなんか、思ってたのと違ったと言う様な雰囲気だな⁉︎)
地雷踏んだぞ!
「謝らなければいけないのは私の方ですね、すいません。」
彼女は言う。
どうやらそのガチャとやらはランクがあり、低い方からN、R、SR、SSR、更に上のランクも存在する様だが、まず出会える事はないそうで、その場にいる事が奇跡の様な存在らしい。
俺は彼女のガチャ券ならず、
ガチャ権の行使によって呼び出され、確率変動により現れた、SSRクラスの強力者……だったはずだそうで、実際の所、出た奴はこんな一般人であったそうだ…
「…でも一応あるんですよね?クラス…」
「はい…ショックかもしれませんけれど…Nです。」
Nですか。
知ってました。
あと、ショックを受けているのは、きっとこの娘の方だろう… 、
何も言ってやれん…
「で、でも!折角の協力して頂ける事ですし、その…これからどうぞよろしくお願いします!」
バッと勢いの良い一礼をして、フッと頭を上げた彼女は少し照れくさそうに頰を染めて、小さな笑顔を見せてくれた。
*
「おい、この街でSSRでたんだとよ…」
「へえ、何処ぞの幸運野郎だ?」
酒場では珍しくもない。噂話…情報交換の場としてだけ存在する所では、よく見受けられる。
「…女だ。」
「へぇ…女の…」
「ああ、あのいつまでも一人だけでいる上玉の事だよ。」
「あいつかぁ…」
二人組の男は、酒を飲むついでに噂話をするのがいつものお決まりだった。
酒場の隅でその二人組を見つめる者もその噂を聞いていた。
その者はふらりと立ち上がり長いローブのフードを目深にかぶり、テーブルの上に酒代を置いた。
*
「俺が最初に君とあった所に連れて行ってくれ。」
そういえば、そのガチャとやらから俺が出てきたというのなら良く見ておきたかった。
何故かと言えば、こちらに現れてからいきなり目の前で、金髪少女は玉型の物を床に叩きつけ、その瞬間に正体不明の玉から噴出した煙に包まれたら、知らない木造一階建ての家の前で立っていたのだから。
拒むも何も無く移動して色々分からない事だらけだ。
*
「じゃ、準備はいいですか?」
「うん、いいぞ。」
家を出る。
連れて行って欲しいという願いは、次の日にしようという彼女の提案を飲み、朝直ぐに起きての出発を試みる。
そしてその朝である。
この木造の家も落ち着いた雰囲気をしていたが外は一体どいなっているのやら…不安もあるが、楽しみでもある。
彼女がドアを開け、外に出る。
その後を俺も出る。
外は住宅街の中の様で、この家は一本の大小様々な石を敷き詰めた、非常にゆったりとした坂と隣接していた。
周りにもこの家と似た外観の家がちらほら見えるが、ほんとんどは、全く違う白塗りの壁をした家が多い。
同じくこのなだらかな坂に隣接している。
味のある石畳の道を下り、街に出る。
歩いて暫く、10分ほど経ったか…無言の空気が冷たく感じた。
「あの…」
声を掛けてみた。
くるりとこちらに向き直り立ちどまる。小さく揺れるプリーツスカート、くっ…見えんっ…‼︎あと少し足りない‼︎
「どうかしましたか?」
「いやいやいや、なんだか無言も寂しく感じて…アハハ」
ふわりと舞い上がったスカートから直ぐさま目を離し、気を取り直す。
「もう少し先ですから。かんばって!」
「……」
彼女の方はどうやら気分が上がっていた様で良かった。寂しさを覚えるのは俺だけでいい。
*
ふと、死んだ時を思い出した… 。
周りは死体が転がり、異臭が立ち込めている道で、ただ一人死にかけていた。
家族は死んだ…見慣れた友人も死んだ…良くここまで生き続けられたもんだ。
そう思って、死んだ。
何も出来ず、何も残らず、ただ死んだ。
「着きましたよ!」
「!」
「どうかしたんですか?顔が暗いです。」
不安そうに見つめてくる、この娘。
マジ天使じゃねえか。
丸くて大きい優しそうな目をぱちぱちさせて、小首を傾げ、
「何かあったら、言ってくださいね〜」
と言ってデカイ建物に向かい、歩き出した。
今は取り敢えず彼女の後ろを黙って歩く事としよう。
何か分かってから動いても良いだろう。
*
「これはこれはぁ、こりゃぁ、きのうもぉおこしいただいたぁあ…」
なまったるい話し方だなぁ。
話しかけてきた人はなんだか現在稀に見る超リアルおっとり属性持ちとお見受けする女性だった。
「その貴重な才能を大切にして下さい。」
「えぇ?」
変な奴だと言いたい顔しているが、知らん。
気付いた時には手を握っていたが、知らん。
「あのぉ、きょうはなにしにぃ?」
「はい。彼にゲートを見せてあげて下さい。それとついでに色々と教えて上げてくれると嬉しいです。」
「わぁかりましたぁ」
俺はおっとりさん手を引かれ(自分で案内されれば行ける自信はもちろんあるが、敢えてそう言わない。)、一つの部屋に招き入れられる。
そこには見覚えのある鉄製の扉が真ん中に佇んでいた。(ゲートと言うから門の形なのかと思っていた。)
「今ぁ、アイドリングモードですのでこんなかんじですけどぉ…でもねぇ使うとバアァァァアアって光って魔方陣が、とびかうんですキレイなんですぅよぉ…」
「はぁ…そうなんすねぇ…」
と、語尾を真似ながらまじまじ見る。
やはり、あの時の扉と同じ…死後に見た扉だ。
何も分からず、吸い込まれていった…
*
「どうでした?」
部屋を出て直ぐのロービーに、金髪少女は居た。
「ああ、うん色々説明受けました。」
「そうですか、何か得る物があった様に見えます。」
あと、
「あの、もっと砕けた話し方で良いかな? あと、名前も教えてくれ。」
驚きの顔したと思ったら、直ぐそれは嬉しみに満ちた顔になる。
「よろこんで!、 私の名前はシルネ・ガレット・クレイスです。私も私らしく会話して良いですか?」
「分かった、俺は垣間 青斗、青斗でよろしく。」
「うん、今更名前を聞いていない事に気づいた仲だけど、これからよろしくね?」
微笑む天才だろう、この娘。
めちゃくちゃ、可愛い、冗談ではなく。
*
これから、俺は多分死にかけるとは思う。
今の状況で予想がつく。
でも、手伝うと言った手前やってやるしかない、元いた世界に未練があるわけでない。まだマシなこの世界とあんな地獄とじゃあ大違いだ。
戻りたくはない。
尚更ここにいて、やっていかなければいけない事があるなら是非とも宜しく願いたい。
「はい、これを身につけて、これを持ってと…」
物凄いドレスアップ…と言えば間違っていないだろうな。
しかし、一般的に指すドレスアップではなく、武器の装備にプレートアーマー等の防具を装備と色々だ。
「……凄い装備品の数々だ。」
「そうですよねぇ、私一人では持て余してしまっているので、こうして仮想空間を作ってそこに放り込んでおかないと、とても持ち歩けないんだー。」
仮想空間を作って放り込む?
「仮想空間っていうのは、魔術の世界では有名な術式行使で…結構ややこしい仕組みだから、理解出来るのに時間がかかって、とても大変だったよ。」
何を思い出したのか、非常に重苦しい苦笑いを浮かべていた。