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フィオーレに咲く花たち

ブーゲンビレア ー男装乙女の騎士道ー

作者: しきみ彰

 楽園大陸フィオーレ。

 この大陸では、花が咲くことによって人が生まれる不思議な法則があった。

 そしてその大陸の中心部に、城がある。


「ビレア。ブーゲンビレア」


 男装の騎士、ブーゲンビレアは、今自身の身に起きている状況に冷や汗をかいた。


(これは一体、どういうことだろうか)


 自分は確かに、薔薇王代理をしていたエグランティーナの騎士をしていた。彼女が女で、ブーゲンビレア自身が女騎士ということもあり、そのように配属されたのだ。

 それから三年弱、彼女は王に仕えた。

 その経験から、彼女は真の薔薇王となったロサに仕えることになったのだ。


 だからこそ、分からない。ブーゲンビレアは思う。


 何故自分は、ちまっちい王に組み敷かれているのだろう。


「……王。お戯れはおやめください」


 半眼でそうぼやいたブーゲンビレアは、上に乗った王を軽々と持ち上げ立たせる。襟元を正した。

 しかしロサはそれを見て、不服そうな顔をする。


「ねぇ、ビレア。僕のこと、子どものままだと思ってない?」

「事実、ロサ様はまだご幼体かと存じます」

「子どもじゃなかったら本気にした?」

「まさか。薔薇王陛下は、誰とも結婚しないのが通例です。まずその段階から無茶ですよ、ロサ様」

「えー。じゃあティーナにまた代行してもらって、僕王様やめるよ。そしたら結婚して?」

「何言ってんですか馬鹿ですか」


 ブーゲンビレアは頭を抱えた。この王は一体何を血迷っているのだろう、と色々な意味で不安になる。


 そもそもエグランティーナが代行していた理由は、薔薇王となるはずの者が不在だったためだ。生まれてしまった今、より良い方を選ぶのは大陸の方針としては正しい。


 その上エグランティーナにそれを押し付けるなど、ブーゲンビレアには考えられなかった。なんせ彼女はその苦労を、間近で見てきたのだから。


「子どもじゃないとおっしゃるのなら、さっさと栄養水飲んで成長して、大陸を支えてください。じゃないとわたしがやめます」

「え、そ、それは嫌だ! ビレアが辞めるなんて許さないよ!」

「はいはい分かりましたから、こちらのお仕事をしてください」


 今となってはすっかりロサのお目付役となってしまったブーゲンビレアは、「なんでこんなことをわたしがしているのだろう……」とため息をこぼしたくなる。

 そもそもロサが仕事を始めたのは数ヶ月前だ。現在は彼一人では内政が回らず、未だにエグランティーナと宰相のアスセーナの手を借りて、この大陸は成り立っている。


 ブーゲンビレアの仕事は、一刻も早くエグランティーナを解放して、幸せになってもらうことだ。彼女と宰相は恋仲なのだ。彼女が代行から降りたとき、結婚するという話は既に広まっていた。


 ブーゲンビレアは慌てた様子で栄養水と呼ばれる高級飲料水を飲み干し、手元の資料に目を傾けるロサを見つめた。


 そもそも薔薇王は、結婚しない。結婚しないというより、この国を支えている精霊と生涯身を共にする、というのが正しい。

 そのために、他の者と契りを交わすことはしてはいけないのだ。そうなれば、この大陸はいとも簡単に滅びるだろう。


 その綱を唯一持てる者こそ、薔薇王なのだ。


 薔薇の名を持つ者には、精霊と言葉を交わせる不思議な力が備わっていた。


 未だに小さいままのロサ。それには理由がある。

 本来ならば成体で生まれるはずの花が幼体で生まれたのは、三年前の反乱のせいだ。

 この国を我がものとしようとした愚かな輩が、城でしか咲かない薔薇の花を枯らすために、とんだ細工を仕掛けたのだ。


 それを阻止し、罪人を断罪した者こそ、エグランティーナとアスセーナだ。ブーゲンビレアにはそれがとても輝かしいものに見えた。


 だからこそ、一刻も早くここから出してあげたいのだ。それがエグランティーナに仕え続けた騎士ブーゲンビレアの、最後の願いだった。


「……ねぇ、ビレア」


 そんなことを考えていると、ロサが声を上げる。また何か血迷ったことを喚き出すのかと思い、構えた彼女だったが、それが違うことに気づいて力を抜いた。

 ぽつりと、ロサが口を開く。


「僕が王になって、誰とも結婚できないまま余生を終えるなら。ビレアも僕に仕えたまま、どこにも行かないでくれる?」

「……それは」


 ブーゲンビレアは首を傾げたが、言葉の意図を知り目を細める。

 おそらくロサは怖いのだろう。ブーゲンビレアがいつの日かここを立ち去ってしまうことが。

 幼い日から隣りにいてくれた者がいなくなるのが、恐ろしいのだろう。


 だからそばにいて欲しいのだ。たとえ王という立場を利用してでも、ロサはブーゲンビレアを縛るつもりだ。

 それを知り、彼女は口を開く。


「お望みとあらば、死するときまで永遠に」

「……ほんとう?」

「騎士に二言はございません。それにわたしがいなくなったら、アスセーナ様にご迷惑がかかりそうな気がしますので」

「……どうしてそこで、アスセーナの名が出てくるわけ」

「何を言いますか、ロサ様。アスセーナ様はあなた様の宰相ですよ? 今だって十分に迷惑をかけているのに、これ以上気苦労をかけるなどあり得ません」

「アスセーナはいいじゃないか。ティーナと結ばれることができるんだから」


 ふてくされたようにそっぽを向くロサに、ブーゲンビレアはため息を吐く。


「結婚という制約が必ずしも、相手と結ばれる方法ではないかと存じますが」


 それだけ言い残し、ブーゲンビレアは口を開かなくなった。

 ロサは部屋の端で警護を続ける彼女を見つめ、再び頭を落とす。

 その相貌は心なしか、緩んでいるようにも見えた。



 ***



「……以上、本日の報告です」

「そうですか。ご苦労様です、ブーゲンビレア」

「いえ、職務ですので」


 その日の夜。

 夜の番を他の者と交代したブーゲンビレアは、アスセーナに本日の報告をした。白銀の髪を持つ麗人はそれを聞き終えると、眼鏡を外して頷く。その横では白銀のくせ毛を持つエグランティーナが、心配そうな顔をしていた。


「ビレア。ロサはどう?」

「相変わらず、わたしを口説いてきます」

「そう……」

「まったく王は、ご自身の立場をあまり理解していない様子ですね」


 書類から目を離さないまま、アスセーナはそう小さくこぼした。

 ロサがブーゲンビレアに対して、熱烈な告白していることは、周知のことだった。もし彼が何かおかしなことをしたら、再度エグランティーナに王位が渡ることになる。その忌避もあり、二人は未だに籍を入れていなかった。


 アスセーナのその様子に、エグランティーナは困った顔をする。


「アスセーナ、何言ってんのよ。あんだけ色々調べておいて、立場云々言える?」

「何を言っているのですかエグランティーナ。わたしはあのちまっちい王のためにそれを調べたわけではありません。あなたのために調べたんです。間違ってもそんな気持ち悪いこと言わないでくださいよ」

「……ロサは一応王なんだから、その言い方ヤメテ」

「嫌です。あんな若造が王だと、誰が認めるものですか」


 ブーゲンビレアは首を傾げた。アスセーナがロサのことを認めていないことは知っていたが、調べ物とは一体なんのことだろう。しかし騎士という立場柄、それを聞くことはできなかった。

 されどエグランティーナは、ブーゲンビレアに説明するべく口を開く。


「簡単よ、ビレア。アスセーナは現在の薔薇王の仕組みがおかしくて歪んでるんじゃないかって、片っ端から文献漁った人なの」

「ええ、そうですよ? もしエグランティーナがこのまま王になる場合のことを考えて、調べていただけです。断じてあのチビのためではありません」

「はいはい分かったから黙ってて。うるさい」


 ブーゲンビレアはそのやり取りを見て、昔を思い出した。

 薔薇王代理のエグランティーナ。

 宰相のアスセーナ。

 宰相という立場柄、他者から敬遠されていたアスセーナに、エグランティーナは真っ向から喧嘩を売った。当時は「なんだこの馬鹿な女は」と思っていたブーゲンビレアだったが、彼女の騎士として過ごしているうちに、その存在がアスセーナにとって良い方向へもたらされていることを知る。


 アスセーナとて人なのだ。百合の花から生まれただけで宰相になり、尚且つ努力を欠かさなかったアスセーナ。しかしそれを認めてくれた者は欠片たりともいない。ただ『百合の宰相』という立場だけ見て、恐れていただけだ。


 それをぶち壊したのが、エグランティーナだ。

 彼女はアスセーナの嫌味に嫌味を返し、注意されたことを徹底的に直し彼に歯向かって見せた。その結果が、ロサの再誕だ。このふたりがいなければ、薔薇王が再び生まれることはなかったかもしれない。


 だからこそブーゲンビレアも、ふたりのことを認めていた。アスセーナがロサを目の敵にする理由も、彼なりのプライドなのだと理解できる。

 しかしふたりの会話には首を傾げざる得ない。


 しばらく言い合いを続けていたふたりだったが、ブーゲンビレアのことを思い出したエグランティーナがこほんと咳をこぼすことによって終結した。


「ま、まぁ簡単に言えば、どうして薔薇王だけに負担がかかってるのか、っていうことよ。大陸に住んでる花はたくさんあるのに、薔薇王だけに全てを押し付けるのはおかしいんじゃないかって、アスセーナは思ったわけ。その意見にはあたしも賛成よ」

「それは……」

「あの若造に賛同するような感じで嫌ですが、わたしとてエグランティーナと結婚できないことはさらに嫌です。その気持ちが分かるからこそ、現在の仕組みがおかしいのではないかと感じました」

「結婚しなくてもいい。それは確か。それでもおかしいじゃない。ロサひとりだけに背負わせてはい終了、なんて後味悪いわ」


 結婚しなくてもいい。その言葉は、ブーゲンビレアがロサに向かって言ったものと同じだ。しかしフィオーレにおいての結婚は、花同士の永遠の誓いとなる。薄っぺらい関係ではないのだ。内容は人よって様々だが、大抵の場合『死が二人を分かつまで』となる。つまり、どちらかが死ぬまで離れない、という誓いなのだ。

 だからこそ結婚は重要視される。ロサもそのように、見えないものでブーゲンビレアを縛り付けたかったのかもしれない。

 それを思い、彼女は胸にわだかまる気持ちを抑えつける。そして絞り出すような声で言う。


「……しかし精霊と会話ができるのは、薔薇の名を持つ方だけです」

「そう、そこ。アスセーナが注目したのは、精霊との関係」

「……え? それは一体どういう……」


 楽園大陸フィオーレがここまで長く繁栄してきたのは、大気や地を守る守護者、精霊との契約があってこそだ。その契約者こそ、薔薇王である。

 薔薇王が契約を守っている間は、精霊たちが大陸を守護してくれるのだ。

 エグランティーナは指をくるくると回しながら言う。


「あたしなんかは向こうの言っていることが一方的にしか聞こえなかった。けどロサは違う。精霊の声を聞き、対話ができるわ。だからこそあたしたちはロサに、契約内容を変更してもらうよう説得したらいいんじゃないかって考えたのよ」

「そ、れはっ。確かにそれは正しいですが、もし失敗して精霊の加護がなくなったら、どうなさるおつもりですか! 精霊はただでさえ気まぐれと聞きます。機嫌を損ねられでもしたら、この大陸は終わりますよっ!?」

「それならば滅びればいいと思いますが」

「なっ……」


 アスセーナが冷ややかに告げた言葉に、ブーゲンビレアは声も出せない。しかしその瞳が冷徹で、彼女はそれっきり何も言えなくなってしまった。

 アスセーナはさらに言葉を重ねる。


「たったひとりに頼らなければ生きていけない大陸など、滅びればいいのです。むしろ今まで耐え忍んできた薔薇王たちに、我々は死んでも感謝しないといけない。それなのにそれを軽く見て、甘んじていることこそ恥です。そんな大陸、とっとと滅びろ」

「アスセーナ、言い過ぎ。……でも、あたしもそう思うわ。だってロサは、あたしたちの子どもみたいなものだもの。あの子にだって幸せになってほしい。あの子にだって、好きに生きる権利はあるはずよ」

「誰があんな若造を子どもだと……」

「アスセーナ、うるさい。黙ってる」


 ぴしゃりと一喝したエグランティーナは、ブーゲンビレアに向けて視線を送った。その目は真摯で、彼女は思わず固まる。

 するとエグランティーナは、彼女に近寄りその手を取った。


「ねぇ、ビレア。ロサのこと、お願いしてもいい? もし迷惑じゃなければ、あの子の手を取って一緒に歩いて欲しいの」

「……それ、は」

「別に強制はしないわ。あなたにもあなたの考えがあって、あなたの生き方があるもの。だからこれは本当に、ただのお願い」


 エグランティーナはそう言って、クスリと微笑んだ。


「ロサのこと、お願いね」


 ブーゲンビレアはそれに、答えられなかった。



 ***



 それから二週間ほどしか経たないのに、ロサはすくすくと成長した。栄養不足による副作用であったため、栄養水を飲み続ければ大きくなることは分かっていた。

 今となっては彼はブーゲンビレアの背を抜かし、立派な青年になっている。

 しかしここ数日、彼がアプローチをかけてくることはなかった。


(てっきり力技でもかけてくるのかと思っていたのだが)


 彼女はそう思ったが、気にしないことにした。それよりも二週間前に言われた、エグランティーナの言葉を気にしていたからかもしれない。


(わたしは……ロサ様にどんな感情を抱いているのだろうか)


 自身の薄紫色の髪を撫で、彼女は思う。今日は夜勤だ。その上天気がいいため、彼女は日向ぼっこをしながら思考する。日の光が、彼女は好きだった。

 ロサは初めは、小さな赤子の体をした赤い髪の男の子だった。しかし今は、美しい青年に変貌している。それに時折胸を高鳴らせていたのは、彼女自身であった。


 赤い髪。翡翠色の瞳。


 あまりの美青年っぷりに、城のメイドたちが噂をしていることも知っていた。城一番の美男子として知られるアスセーナがエグランティーナと付き合っていることが知れていたから、その反動がきたのだろう。


 それにもやっとしているこの感情は、恋などと呼べるものだろうか。


 庭の芝生に寝転がったブーゲンビレアは、はぁ、とため息を漏らした。


「恋を知っているエグランティーナ様に聞けば、分かるだろうか……」

「何が?」

「っ!! え、な、……ロサ様!?」


 ふとこぼした独り言に返事が返ってきた。

 その上その相手がロサであったことに、ブーゲンビレアは狼狽える。上から覗き込むようにして見つめてくる彼は既に、子どもとは呼べない見目になっていた。

 不覚にもときめいてしまったブーゲンビレアは、体を起こしてため息を吐く。心臓に悪いことだ。

 しかしその横にちゃっかり腰を下ろしたロサは、彼女の手を軽く握った。


「っ、ロ、ロサ様。お戯れはよしてくださいとあれだけ……」

「戯れなんかじゃないよ。僕は本気」

「……もしや、アスセーナ様から、お話を聞きましたか?」

「その口振りだと、ビレアはもっと前から知ってたみたいだね」

「……はい。二週間ほど前にお聞きしました」


 その言葉のためか、握られていた手に力がこもっていく。

 ブーゲンビレアは仕方なく、そのままでいることにした。


「まぁ正直、アスセーナの言うことは正しいと思う。というかあいつは、ティーナに薔薇王になって欲しくないからだろうけど」

「アスセーナ様ですからね」

「うん。……僕ね、実を言うと、ティーナのことも、本当は嫌だけどアスセーナのことも、好きなんだ。あのふたりは家族みたいだから」


 アスセーナがそれを聞いていたら嫌がりそうだな、と関係ないことを、ブーゲンビレアは考えた。そんな信条などつゆ知らず、彼は言葉を重ねる。


「僕を生むために、ふたりが苦労してくれたことは知ってる。その生まれた後も、かなり世話を焼いてくれたし、助けてくれた。だから僕も、ふたりには幸せになって欲しいんだ」

「ロサ様……」

「でも、僕も幸せになりたい。結婚して、ビレアと一緒に、ずっと一緒にいたい。ビレアがいつ誰か他の男にとられるんじゃないか、なんて考えて過ごすのは、ちょっと嫌かな」

「左様ですか」

「うん。だからさ、ビレア。約束して」


 ロサはそう言うと、彼女の目を見た。それはエグランティーナのものとよく似て真摯で、ふたりはなんだかんだ言って親子なのだと思ってしまう。

 だからこそブーゲンビレアも、しっかりと返事をしようと思った。


「もし、僕が洗礼の儀で精霊たちと話して、結婚しても加護がもらえるように契約内容を変更できたら……そのときは、僕のものになってくれる?」


 ブーゲンビレアは、息を吸い込んだ。少しばかり気を静め、目を瞑る。

 そして目を合わせると、ゆっくりと口を開いた。


「……わたしでよければ、喜んで」


 その髪が、薄紅色に染まった。

 花の乙女たちは恋をし心を動かされると、その髪を薄紅色に染めてしまう。

 それが何よりの証で、結果だった。


 それを見たロサは目を見開き、満面の笑みを浮かべる。


 ブーゲンビレアはそっぽを向いた。最近彼との接触を避けていたのは、それが理由でもあった。髪の色が変わらないよう細心の注意を払っていたのにこれだ。情けないとは思いつつも、捕まってしまったのなら仕方ない、と諦め、ブーゲンビレアは言った。


「言っておきますが……わたしの愛は重いぞ、ロサ」

「僕の方が重いから安心して!」

「たわけが。まだ精霊たちとの話し合いが解決していないのに、そんなことを言ってどうする」


 ブーゲンビレアは素に戻した口調できっぱりと言った。


「いいか、ロサ。もし成功したら結婚、無理だったら滅亡だ。二択だ。わたしと結婚したいなら、死ぬ気で説得しろ」

「もちろん! だからビレア、待っててね!」

「……分かった分かった。待っているから仕事に戻れ」


 はぁ、とため息を吐いたブーゲンビレアはロサを追い払うと、かっくりとうなだれる。


「もしこれで滅亡となったら、最悪だな」


 その二日後。

 世界の命運を決める儀式が行われた。



 ***



「……いや、まさかわたしも、こんな結果になるとは思っていなかった」

「うん、僕もだよ。というか、精霊たち曰く『薔薇がそういうならいいよ』って言われるとは思わなかったよ。話し合いという話し合いもせずに終わったからね!」

「ならば、今までの心労はなんだったのだ……!」


 二日後。

 洗礼の儀を終えたロサは、ニコニコの笑顔で報告してきた。


『精霊たちとの話し合い、成功したよ』


 そう聞いたときは涙をこぼすほどホッとしたが、まさかその話し合いに言い合いひとつなかったことを聞いたブーゲンビレアは、思わずあんぐりと口を開けてしまった。


 どうやら初代薔薇王は、精霊に恋をしたためにそのような制約を結んだらしい。


 それが時を経ていろいろな解釈で語り継がれ、まさか『薔薇王は結婚してはならない』などという結果に行き着くとは、誰も思うはずがない。

 精霊たち曰く『報告さえしてくれるなら、別にどうでもいい』とのことだったらしい。

 世も末だ。ブーゲンビレアは頭を抱えた。

 そんな彼女を見てひとしきり笑ったロサは、ニコニコと笑うとソファの上に座る彼女を端に追いやる。

 覆い被される形になった状況に、ブーゲンビレアは引きつった顔をした。


「さて、成功したことだし……ビレアのこと、食べちゃってもいいよね?」

「待て待て待て。ここをどこだと思っている。執務室だ。不埒なことをするのはよせっ!」

「いいじゃない、キスくらい。というかそろそろ、僕も限界」

「な……、んっ……!?」


 一呼吸置いて重ねられた唇に、ブーゲンビレアは目を見開いた。

 柔らかい感触は妙に心地良く、なんとも言えず気恥ずかしい。

 それが伝染したらしく薄紅色に染まった髪を見て、ロサはにやりと笑った。


「かわいーなー、ビレアは」

「な、何を言う……!」

「髪を薄紅色に染めて、顔を真っ赤にしちゃってる恋する乙女が、それを言う? あんまり反抗してると、反抗した回数だけキスするよ?」


 ブーゲンビレアは口を隠そうとしたが、その手は軽々と止められた。ロサが手で、彼女の両手をソファに縫い付けたのだ。

 数週間前までは軽くいなせていたはずなのに、今となってはビクともしない。そのことに気づき、ブーゲンビレアは内心冷や汗をかく。


 どうやら彼は養父アスセーナに似て、手が早いらしい。


 エグランティーナから赤裸々な体験を聞かされていた彼女は、これからくるであろう過度な愛情表現を想像して、ぞっとした。

 しかしそれを逃すロサではない。まるで獲物を狙う獣のように瞳を輝かせた彼は、ブーゲンビレアの耳元で一言、こう囁いた。


「ビレア……今まで溜まってた分いっぱい愛してあげるから、覚悟してね?」


 それから数日、ブーゲンビレアが寝室から出れなくなったのは、言うまでもないことだった。



 こうして薔薇王とその騎士は、幸せな余生を送ったという。

新年明け短編祭り第六弾にして、最終。


「エグランティーナ」と同世界観でお送りしました。予定より約一時間遅い投下で申し訳ありませんでした。

ただひとこと言えるのは。


どうしてこんなに長くなった。


それだけですね。手が冷たくてかじかんでおります。わたし執筆はiPhoneでやってるのですが、手が冷たすぎてやばいです。誤字多いかもしれませんが、ごめんなさい。後でちゃんと見直しします。

はい、男装騎士とチビ王子という形がやりたくて、こんなことをしました。楽しかったです。

(ブーゲンビレアと深紅の薔薇の花言葉をお調べになったら、さらに楽しめるかと思います)


最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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