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第七話 俺、メイドになります。その9

「うお、地平線まで続くご馳走がっ……あうあう!」



「お、おい、みるく! う、うわああ、札束の山があっちこっちにィィ……ぐ、ぐええ、めまいが!」



 ううう、ヒュプノスが吐き出した夢幻煙(ドリームスモッグ)を俺とみるくも吸ってしまう! 現実のモノではないけれど、俺の目の前には札束の山がいくつもそびえ立っている! 



「イイ夢を見させてもらったぜ……」



 そんな言葉をつぶやくと同時に、俺の意識はぷっつりと途切れるのだった。



「おい、ミケ、起きろ!」



「あうう、札束の山ァァ~~! これは俺のモノだぁ……う、みるく! あれ、ここはどこだ?」



「二年B組の教室の前だな。俺たちは猛獣界から現界へ戻って来たんだよ」



「しっかし、イイ夢を見たぜ……あれが現実なら……ガックリ」



「う、うむ……」



「ハハハ、イイ夢を見られて良かったじゃないかぁ~☆」



「「げ、ニャル!」」



「あ、そうそう、二年B組の生徒たちも現界に無事、戻って来ることができたようだ。後は記憶がちゃんと操作されていればいい話だ」



 俺はどれくらい眠っていたんだろう? 相当な時間、眠っていた気がするんだが、猛獣界と現界では、時間に進み具合が違うようなので、なんだかんだと数分しか時間が経っていないようだ。



 さて、そんな俺やみるくと同様、二年B組の生徒たちも現界へ戻って来ることができたようだ――む、サマエルやミーア少佐はともかく、沙希の奴、遅刻をしたくせに、それを誤魔化すかのようにちゃっかりと二年B組の教室の中にいるんだが……したたかだねぇ。



「お、誰か来たぞ……う、アイツは!?」



「た、高瀬洋一郎ってヤツじゃないのか? アイツは人造獣人で、おまけに死んだはずでは……」



「あの人造獣人は彼の姿を模倣しただけの偽物だったのさ」



「そ、そういうオチかい!」



 あの人造獣人――高瀬洋一郎は偽物だったわね。んで、本物が登校して来たようだ。



「ふう、なんだかんだと、本物が生きていて幸いだったなぁ」



「うむ……お、二年B組の生徒たちが目を覚ましたっぽいぞ」



 本物の高瀬洋一郎が無事になにより! と、二年B組の教室内がワイワイガヤガヤと騒がしくなる――ヒュプノスが吐き出した夢幻煙の効果が切れたってところかな?



「あれ、俺はいつの間に眠っていたんだ? うお、高瀬、お前が登校しているだなんて珍しいなぁ!」



「や、やあ、山田君だっけ? てか、なんでみんな寝てたんだい?」



「し、知らねぇよ! つーか、俺は山田じゃなくて鈴木だァァ~~!」



「もう、イチイチ面倒くさいわね! アンタはこれから山田よ、山田! それで決まりよ!」



「うわああ、サマエルさん、酷いよォォ~~!」



 アハハハ、まあ、あの調子だと、二年B組に生徒たちの記憶操作が上手くいったようだ。



 さて、あえて高瀬洋一郎に化けていた人造獣人や猛獣界のことを覚えている者がいるとしたら、クラス委員の豊崎くらいかなぁ――うお、沙希がギランと獲物を狙うホッキョクグマのような視線を、そんな豊崎に向けているんだが、ひょっとして無言で威圧してる?



「さ、残りの人造獣人でも探しに行こうぜ、ミケ!」



「うむ、そうだな。一応、コイツのおかげでアイツらを倒せそうだし……って、眠りやがったな、アロンダイト!」



 むぅ、俺の右足に寄生する迷惑な存在――が、その一方で心強い味方でもある人造神アロンダイトだが、再び眠りについてしまったようだ。



 そ、そういえば、アロンダイトは夜行性の生物のような存在であったな。



 あちゃ~、今は昼間だし、再び眠りについても仕方がないよなぁ……。



「やあ、みんな無事戻って来れたみたいだね!」



「うお、ヘルメス! ん、それは人造獣人が化けている生徒の詳細が載ったリスト帳!」



「フフフ、あのクマさん頼まれて生徒会室から持って来たのかい?」



「まあ、そんなところだね――と、このリスト帳に載っている人造獣人が化けている〝生徒〟のひとりが、ついさっき校舎の外に出て行ったよ。なんだか、まるで逃げ出したって感じだったなぁ」



 ん、ヘルメスが突然、現れる。まったく、神出鬼没だなぁ、コイツ。



 そんなヘルメスが生徒会室から、人造獣人が化けている生徒が載っているニャルお手製のリスト帳を持ってくる――え、人造獣人が化けた生徒のひとりが逃げ出した!?



「きっと、仲間がやられたことを察知したんだと思う。アイツらは感覚がリンクしているってイシュタルが言っていたことを思い出したよ」



「むぅ、それは本当かよ、松永!」



「え、襟首をつかむなよ! 僕は嘘なんか言わないぞ! イ、イシュタルが間違いなく言ってたんだって!」



「おい、そのイシュタルって何者なんだよ!」



「科学者さ! 財団Nお抱えのね! ちなみに、ソイツがそこいるニャルラトホテプとは、〝別の個体〟と共同開発したモノが人造獣人だ!」



 松永の曰く、あの財団Nには、俺たちと一緒にいるニャルラトホテプとは別の個体のニャルラトホテプが所属しているようだ――むぅ、流石は千の化身を持つと言われる邪神だ。



「あああ、思い出したよ。イシュタルって科学者から、私は人造獣人を何体か譲ってもらいそれを蔵内翔真に与えたってところかな? ついでにだけど、私はあの組織に属していないフリーのニャルラトホテプだ」



「まったく、迷惑すぎる経緯だな! お前の行動はマジで怪しく思えてくるぜ……」



 迷惑の極みってヤツだな! 中立だとか、善だとか――と、自称したところで、ニャルラトホテプの行動は信用できないぞ、まったく!



「フフフ、これからどうする気だい?」



「もちろん、人造獣人を探す!」



「ミケの言う通りだ!」



「だけど、連中は一斉に逃げ出した可能性はある。ほら、感覚がリンクしているらしいしねぇ、クククク」



 感覚がリンクしているって言うのは不味いな。仲間がやられたことが他の人造獣人にもバレてしまうってことだし――と、下手すりゃ光桜学園内に潜んでいるモノすべてが逃げ出してしまう可能性だってあるぞ。



「ま、とりあえず、このリスト帳に載っている奴らを偵察しに行こうぜ」



「お、おう! 逃げ出しそうなら斃す……それでいいかな?」



 叩きのめすことができるかはわからんけど、とにかく、人造獣人を探しに行こう! とまあ、そんなこんなで俺とみるくは、二年B組の教室の前から踵を返し、上の階へと通じる階段へと向かうのだった。


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