第一話 俺、魔法少女になります。その6
沙希は小柄な女のコだ。身長は150㎝あるかないか――そ、それが約二倍の大きさに! しかもライオンやトラをも上回る肉食巨獣であるホッキョクグマに変身したぞ、おいィィ!
「「「チャンピオン! チャンピオン!」」」
「クロベエとタヌキチのコンビを一瞬で粉砕した時のことを思う出すと痺れるゥゥ~~!」
チャ、チャンピオン!? ここでなにかしらの試合でも行われているのかしら? うーむ……。
「さて、どこからでもかかって来なさい」
「お、おいおい、かかって来いだって!? ううむ……」
巨大なホッキョクグマに変身した沙希は、俺に対し、かかって来い――と、挑発してくる。く、だけど、足が竦んで動けない! あんな巨大な猛獣と素手でどうやって戦えばいいんだ! 俺は範○勇○郎じゃない……りょ、猟銃でもなきゃ倒せないレベルだァァ~~!
「怖いの?」
「…………」
「図星らしいぞ、ニャハハハ~♪」
「ぬ、ぬううう……」
ううう、確かに怖い……ず、図星だ! つーか、笑うんじゃあない、猫共! これから、あのクマ公をブン殴るんだ!
「うおおおお、怖くなんかない! 怖くなんかァァ~~!」
「気合の雄叫びか? だが、足がガタガタ震えているぞ?」
「これは武者震いだ! 武者震いであって動けないわけじゃない!」
「ふーん、そうなの? つーか、先に攻撃してもいいよね?」
「えっ……ぶべらぼぎゃ!」
え、先に攻撃してもいいだって!? う、その刹那、俺の身体は宙を舞う――痛ぇっ! 一体、俺の身になにがァァ~~!
「うわあああーっ!」
「お、目覚めましたね。約二分ほど眠っていましたよ」
「う、うう、懐中時計を首からぶら下げた猫!? はっ……俺はまた気絶していたのか!?」
んん、首から懐中時計をぶら下げた喋る真っ白なペルシャ猫が、胸の上にちょこんと座っている……おわっ! バッと俺は立ちあがる。実感がないけど、役約二分ほど気を失っていたようだ。んで、痛感する。俺は一瞬で敗北したのだと……。
「いきなり立ちあがらないでくださいよ。ビックリするじゃないですか!」
「あ、悪い悪い……ん、お前は何者なんだ!?」
「私は雪野愛琉。沙希殿が結成した組織の医務官を務めているモノです。あ、私のことはスノーとお呼びください」
「は、はあ、医務官のスノーさんねぇ……」
「あら、お目覚めのようね」
「うお、沙希! あれ、人間の姿に戻っている……お、俺は夢を見ていたのか?」
「夢じゃないぞ……カプッ!」
「ウギャアアアッ! ま、また尻に噛みつきやがって……だ、だけど、夢じゃないな、夢じゃ……」
沙希と狼姫の姿が、俺の双眸に映り込む――ん、沙希はホッキョクグマ姿から元の小柄な女のコの姿に戻っている。つーか、狼姫が、また俺の尻に噛みつく……ちょ、痛いんですけど!
「さてと、アンタの固有能力がわかったわ」
「お、俺の固有能力がわかった……だって!?」
「ええ、わかったわ。しかし、稀に見る堅牢な身体ね」
「はう、堅牢な身体? どういうこと?」
「つまり、アンタは度の過ぎた頑丈な身体の持ち主ってこと! ホッキョクグマに変身した私の攻撃をモロに食らったのに、それにも関わらず軽傷だったし、おまけに精神も破壊されていないしね」
「え、精神が破壊される!?」
うへぇ、沙希の攻撃を受けると物理的ダメージと一緒に精神的ダメージも同時に受けるってか!? うげぇ、何気にエグいんですけど!
「フフフフ、なんだかんだと、元気そうだから、次の段階へ移行しようかしら」
「次の段階? ま、またバトるのかよ、お前と……」
「違う違う、今度は儀式よ。はい、これを渡しておくわ」
「た、卵? うへ、気色の悪い配色のカラフルな卵だなぁ……うわ、今、動いたぞ、コイツ!」
ん、今度は儀式だって? ん、沙希から赤、青、黄、緑、紫――とにかく、気色の悪いカラフルな鶏の卵のような物体を手渡される……う、今、卵が動いた気がする! な、なんだよ、これは――っ!