第六話 俺、不死者を退治します。
偏に魔法少女といっても、当然、得意分野が個人個人で違うワケだ。
魔法少女歴十年になる十代ながらもベテランの部類に入るサマエル曰く、非戦闘員な魔法少女もけっこういるらしい。
そんなサマエルには、戦闘に関してはまるっきりダメだけど、武器や防具をつくることだけには、トンでも長けた知り合いがいるらしい。
とまあ、それはさておき。
約三ヶ月ほど前に交通事故で死んだはずなのに、何故か肉体が腐敗せず生前の姿を維持したまま生活を送っている奇妙な死者がいる光桜学園の新校舎二階にある生徒会室の中を俺たちは、そっと出入り口のドアを開け、恐る恐る覗き込むのだった。
「ゆ、由梨だ! ああ、声をかけられないのが苦痛だ……」
「耐えろ、坂口! 今のお前はラーテルだ。もしも姿を見せたら騒ぎになる!」
「ぐ、ぐぬぬぬ……」
「ねえ、あのコって本当に死んでいるのか? 俺にはそうは見えないんだけどなぁ?」
「右に同じく! 死んだら身体の表面の死斑ってヤツが浮き出してくるはずだしな。それが見受けられないし……」
「莫迦、身体の見せないところや化粧で隠しているのよ、きっと!」
ギギギギッという唸り声を張りあげるラーテルとして蘇った坂口は、今にも生徒会室の中に入り込んでしまいそうな勢いだ――と、そんな坂口の彼女である中川由梨は、本当に死んでいるのか!? 死斑という皮膚表面に現る痣状の死後変化などが見受けられないしね。
「ん、なにか独り言をぶつぶつ言っているぞ」
「アイツを仕置きするかはともかく聞いてみよう」
「なあ、独り言というか呻き声じゃないのか?」
生徒会室の中には、とりあえず坂口の彼女の由梨の姿しか見受けられない。サボりの生徒は彼女だけのようだ――と、なにやら独り言をぶつぶつつぶやいている声が聞こえる……呻き声っぽいんですけど!
「由梨はなにかを必死に投げ捨てているって感じだ」
「あたしが見てくるっす!」
「おう、頼むぜ、アリス!」
「――っ!!」
「も、もう戻って来たのかよ!」
偵察とばかりに、スゥとドアの隙から生徒会室の中に入り込むアリス――が、すぐに生徒会室に戻って来る。なにがあったんだ、まったく!
「ううううっ!」
「おいおい、焦らないでゆっくり喋ろよ」
「う、ううううじ、うじ……蛆虫を捨ててたっす! あのコの身体から蛆虫が湧いてたっす!」
「ヒッ……気持ちが悪い!」
「でも、あのコが蛆虫の湧く死体であることが。これでわかったわね」
「うーむ、なんだかんだと、今のあのコは防腐が間に合わず蛆虫が湧いた状態なのかもしれないな。んで、それを取り除いている最中って感じ……かな?」
「だ、誰っ! そこにいるのは!」
身体から湧いて出た蛆虫を取り除いている最中!? 肌が露出していない箇所は腐敗している? 或いは身体の中身が腐敗しており、そこから蛆虫が湧いて出たってところか――と、アリスが大きな声を張りあげたせいで気づかれてしまったようだ。
「チッ……仕方がない! あの生ける屍を捕らえるとしよう!」
「はっちゃん! 捕まえるってどうやって?」
「こうするんだよ、あっちゃん! まあ、見てな!」
俺たちの存在がバレた以上、隠れていても埒が明かない――とばかりにハーデスが動く! ん、緑色に輝く鶏の卵ほどの大きさの四角い物体がボウンと彼の目の前に出現したぞ。なんだ、これは!?
「きゃああ、なにっ……ペ、ペンギン!?」
「おう、俺は可愛い可愛いペンギンさんだぜ! だが、冥界の王ハーデスでもある! そんなワケでお前のような特殊な方法で、現世に居続ける死者の存在を黙認できんのだァァ~~! 行け、プルトンキューブよ!」
「キキィィ!」
ハーデスは緑色の輝く四角い物体――プルトンキューブを由梨を目がけて投擲する! う、プルトンキューブとやらには意思を持っているっぽいな。甲高い声を張りあげたことだし……お、由梨の身体にクリーンヒットしたぞ。
「な、なによ、これ! わ、わあああ、吸い込まれるぅぅ~~!」
プルトンキューブが由梨の身体にぶつかると当たると同時に、フッと由梨の身体が消失する――プルトンキューブの中に吸い込まれた!?
「フッフ~ン、捕獲完了~♪ タナトス、彼女を哀香のラボへ!」
「ハーデス様、了解しました!」
「わ、ペンギンがもう一羽現れた!」
「はっちゃんは大型のコウテイペンギンで、タナトスは小型のフンボルトペンギンよ」
「ま、まあ、見ればわかるよ」
タナトスはギリシャ神話に出てくる死の神だったな。なるほどね、冥界の神を自称するペンギンのハーデスと行動を共にしていて当然かな? さて、哀香っていうのか、ハーデスの相棒の魔法少女は――。
「お、おい、由梨をどうするんだ! まさか仕置きの対象として……そ、そんなことはさせんぞ、うがああ!」
「おわああ、噛みつくな! あのコは珍しい死者だからな。冥界へ連れて行く前に調べさせてもらうつもりだ!」
「ですよ、ですよ! すでに死んでいるクセに生前と同じ生活を続けている不思議な死者だから、どんなメカニズムで死した肉体を動かしているのか気になるじゃないか! 〝死〟に関わる神としては――」
ハーデスやタナトスの言い分はよくわかるなぁ。彼らは本物かは知らないけど、冥界の神、そして死の神だしねぇ。
「それに特殊な死者である彼女を狙っている人間や、他の冥界絡みの神から保護したい思ったのさ! ほら、ウワサをすれば、なんとやら――」
へえ、そんな魂胆もあったね――って、由梨に興味示す冥界絡みの神が他にいるだって!? むぅ、そういえば、窓から妙な奴が覗いているんですけど!




