第五話 俺、邪神と遭遇しました。その16
「なあ、屍鬼型獣人に死骸の後始末はどうするんだよ!」
「その死骸は私がなんとかしよう。それより、あの〝死骸〟をどうするか考えた方がいいじゃないか?」
「むぅ、体育教師の遺体のことね。うーん、困ったわね」
「うげ、どうするんだよ、おい!」
「むぅ、この学校で殺人事件が起きたのは、なんだかんだと黒魔術殺人事件以来だな、やれやれ……」
屍食鬼型獣人を斃したのはニャルラトホテプなワケだし、その後始末はやってもらわなきゃ困る! と、それはともかく、屍食鬼獣人に殺害された体育教師の遺体をどうするかだな。
「このまま放置するワケにもいかないよな?」
「当然でしょう! うーん、困ったわね……」
「お、そうだ、そうだ! テュポン、あのオッサンの死体を食べてくれ!」
「冗談じゃない! あんな不味そうなオッサンなんか……オエエエ!」
「ハハハハ、仕方がないなぁ。あの死骸についても、この私に任せたまえ」
「うわあ、ご主人様! ニャルさんの右手から黒い粘液状の物体が滴り落ちてるっす!」
ん、体育教師の遺体も、自分がなんとかする!? ニタニタ笑いながら、そう言うニャルラトホテプの右手から真っ黒な粘液状の物体がボタボタと地面に滴り落ちている。
「う、ううっ……く、臭い!」
「い、硫黄臭ってヤツだな!」
「ぐええ、わしの鼻は死んだぞ!」
「な、なんすか、その黒い粘液状の液体は……オエエッ!」
「あ、ゴメン~☆ この悪臭の原因はさぁ、多分、私の右手から滴り落ちる〝コレ〟だと思う、クククク」
うぐ、激しい刺激臭がっ! い、硫黄臭ってヤツだ……く、腐った卵が放つ悪臭が俺の周囲を漂い始める! 悪臭の元凶はニャルラトホテプの右手から滴り落ちる黒い粘液状の物体のようだァァ~~!
「うう、なんだよ、これは……うう、鼻が痛い!」
「ああ、コイツはショゴスだ」
「う、聞いたことがあるわ! 南極に住んでいる粘液状の怪異でしょう?」
「博識だねぇ、おチビさん~☆」
「チ、チビ!? ス、スモールガールじゃないわ、莫迦!」
「ま、とにかく、見ていたまえ……ショゴス君、そこにある遺体の中に入るんだ」
「テケリ、テケリ、テケリリリッ!」
ニャルラトホテプの右手から滴り落ちた黒い粘液状の物体――ショゴスという異形の生物のようだ。さて、そいつがシャッと、その姿とは裏腹なスピードで移動を開始する――うお、体育教師の遺体の口の中に入り込んだぞ!?
「うごっ!」
「うぎゃー! ゾンビ……ゾンビよ!」
「むぅ、間違いなく死んでいた体育教師のオッサンが蘇ったぞ!?」
「うわあああーっ!」
「お、おいおい、お前ら俺に抱きつくなよ! がふっ……アリス、顔面にしがみつくな! 苦しいィィ!」
な、なにが起きたんだ!? ショゴスが口の中に入り込んで数秒後――カッと間違いなく生命活動が停止し、死んだはずの体育教師の両目が開く! よ、蘇った……ゾ、ゾンビだァァ~~!
「こ、怖くなんかないんだからァァ~~!」
「お、おう、怖くなんかねぇぞ!」
「そうっすよ! まったく怖くなんかないっす!」
「…………」
ホントに怖くないのか? 絶対、嘘だな。サマエルとみるく、それにアリスは悲鳴をあげ、俺に抱きついてくる。うーむ、間違いなく死んでいた体育教師が蘇ったワケだし、それを目撃した俺だって悲鳴をあげたいところだが、ここはあえて我慢をする他ないなぁ……。
「むぅ、摩訶不思議な光景だ。死んだ人間が蘇るなど、普通ではありえん話だ! 黄泉の国のイザナミ神も、この事態を知れば、さぞかし驚くことだろう!」
分霊という存在らしいけど、一応、神であるサワメも驚いている。確かに普通に考えるとありえない状況だよな。
「ところでミケよ。お前らが口にするゾンビとはなんだ?」
「簡単に言うと、なにかしらの薬品、死霊使いと呼ばれる魔術師が使う呪術、そして宇宙から降り注いだ謎の光線等々を浴びて蘇った死体のことださ」
「ふむ、屍鬼という死者を操る呪術師の知り合いがいたが、そいつが使役していたモノに近い存在というワケだな?」
「屍鬼? まあ、死者を操るモノがいたのなら、そいつが使役するモノもゾンビの一種でいいと思う」
「そんなことより、あのオッサンがいなくなってるぞ、ミケ!」
「わああ、いつの間に!? ど、どこに行ったんだ?」
「ムムム、あのオッサンがゾンビ化していないか心配だわ!」
「その心配は無用だ。この私が言うんだ。間違いはない、クククク」
「…………」
蘇った体育教師の姿がフッと消え失せている。職員室がある新校舎内に戻ったのかな? さて、ニャルラトホテプ曰く、ゾンビ化の心配はないようだけど、邪神であるコイツの言葉は信用できないな。仮にもショゴスとかいう粘液状の化け物が、あの体育教師の体内の入り込んでいるワケだし――。




