第五話 俺、邪神と遭遇しました。その15
「うおおおっ! 来たぜ、来たぜ、来たぜェェ! この感じはタダ事じゃねぇことが起きてる感覚だぜぇ!」
「む、アーロン起きたのか! 夜行性のお前が昼間に起きるなんて珍しいなぁ! つーか、都合よく目覚めるんだな、お前……」
「うっせぇな! 俺は太陽の光が大嫌いなんだよ! だから昼間は大人しくしているんだ……って、ぐわあああ! 太陽の光はマジで苦手なんだよ! だから、また寝るぜ、グガ~!」
ムムム、普段なら日が暮れるまで絶対に目覚めない俺の右足と融合した厄介な夜行性生物(?)こと人造神アロンダイトが、突然、目を覚ます――ああ、また眠ってしまった!
ま、それはさておき。
「大蛇拳! オラアアアアッ!」
光桜学園新校舎の端っこにある馬術部に部活兼馬小屋から飛び出したサマエルは、穏行の術を解除すると同時に、屍鬼型人造獣人に対し、ヴォンッと空を裂くような右ストーレートを放つ! むぅ、一瞬だけど、サマエルの右ストレートが獲物に襲いかかる大蛇に見えてしまったぜ。
「う、うおお、なんだ、テメェ……グ、グギャンッ!」
「おし、クリティカルヒットね!」
「ガ、ガルルル……や、やってくれるじゃねぇか! つーか、テメェらは何者だァァ~~!」
よくよく考えてみると不意打ちだよな。とにかく、サマエルの猛烈な拳打が屍鬼型人造獣人のドテ腹を直撃し、ゴシャッ! グシャッ! ドシャッ! という嫌な音を奏で地面をバウンドしながら、四、五メートルは吹っ飛ぶ――が、何事もなかったかのように立ちあがる。流石はバケモノってところだな。
「タフね。今度こそ仕留めるわ……って、ムググ! いきなり、なにをするわけ!」
「ま、ここは私に任せてもらおう」
「ちょ、お前が戦う気なのかよ、ニャル!」
「まあ、そんなところさ。フフフ、さて、親切な私がアイツの倒し方を伝授してあげよう!」
「し、親切だって!? あんなバケモノがここにいる原因をつくったのは、なんだかんだと、お前だろうに!」
ムギュッとサマエルを押し退けるかたちでニャルラトホテプが、屍食鬼型人造獣人の目の前に立ちはだかる。まったく、メチャクチャなことを言う奴だな。光桜学園内に危険なモノを持ち込んだ元凶のクセに!
「なんだぁ、テメェは? しかし、気分が悪いぜ。蔵内さんの命令を本能のせいで反故しちまうし、おまけにいきなり殴り飛ばされるしよぉ……決めたぜ! お前に八つ当たりをする!」
八つ当たりだぁ? 屍鬼型人造獣人はニャルラトホテプに対し、八つ当たりを決行しようと目論む――うわ、さらに右腕が……拳が巨大化した!?
「八つ当たりかぁ、クククク……と、まあ、見ていたまえ。コイツらは頑丈そうで頑丈ではないってところを――」
ん、弧を描く三日月のような笑みを浮かべるニャルラトホテプは、スゥと応戦の構えを――って、おい! ビンッと立てた左手の人差し指をクルクルと回し始めたけど、なにをする気だ?
「テメェ、なにかする気だな! させるかよ、ウガアアアッ!」
「あ、待て待て、私が今から繰り出そうとする技の名前くらい聞いてから攻撃しろよな。ヒーロー、ヒロインの変身に邪魔をしないとか、そんなお約束があ……ぐぎゃん!」
ギャンッ――と、疾風のような勢いで屍食鬼型の獣人はニャルラトホテプに詰め寄り、巨大な右拳を突きあげる! ああ、クリーンヒット! そしてドパアアンっと身体が空中でバラバラに砕け散ってしまったんですけど!
「うお、再生した!」
流石は邪神、屍食鬼型獣人の猛襲を受けバラバラに砕け散ったニャルラトホテプの華奢な身体の破片が、瞬時に再生する……ちょ、まるで時間が巻き戻ったかのようだ!
「うう~イタタァ! いきなり、身体がバラバラになってしまったじゃないか! そのおかげでお気に入りの服がボロボロだよ、ウフフフ」
バラバラになった身体が瞬時に再生したのはいいけど、着ている衣装は別ってワケね。でも、大事なところを覆う白い下着、それのお気に入りの赤縁の眼鏡だけは無事なのは、ある意味でお約束ってヤツなんだろうか?
「これでよしっと……んじゃ、今度こそ私が攻撃する番だね」
ヴォンッと一瞬のニャルラトホテプの身体を白と赤を基調した光桜学園指定の女子生徒の制服が覆う。流石に下着姿で戦うのは気が引けるよなぁ――え、それは世間的にはダメな展開だって? ま、まあ、そうなんだろうな、うんうん。
「テメェが何者かは知らんが攻撃なんぞ、させん! ウガアアアッ!」
「あっそう? でも、君の攻撃は見切っている……ひょっと!」
「な、なにィィ!」
「んじゃ、君たち屍食鬼型の獣人は一見強そうだけど、〝ここ〟の皮が異常に薄いんだよね……暗黒の指だ!」
聖○○のは同じ技は二度と通じない――とまあ、そんな感じの某漫画にある展開を連想してしまう展開が眼の前で繰り広げられる! 屍食鬼型獣人の巨大な右拳をニャルラトホテプは白くて細く、そして小さな右手でパシィと軽く受け止め、それと同時に黒い光のようなモノが収束した左手の人差し指を屍食鬼型の獣人の額に押し当てる。
「な、なんだ、俺の頭が……グゲガゴォォ!」
「ん、なんだ、黒い棒状の物体が屍食鬼型獣人の後頭部に生えている?」
「ミケ、ありゃ、ニャルラトホテプの左手の人差し指だ!」
むぅ、屍食鬼型獣人の額をニャルラトホテプの左手の人差し指が貫いたってところか!? あ、グルンと白目を剥いたぞ……事切れたのか?
「暗黒の指を使うまでもなかったね。ああ、コイツらはね。頭蓋骨は異常に柔らかいんだ。例えるならガラス細工――ま、そんなワケだ。君たちでも十分に砕けるレベルだと思うよ、フフフフ」
頭蓋骨はガラス細工のように脆い!? じゃあ、俺たちにでも倒せるレベルかも――あ、でも、ニャルラトホテプが強すぎる故に、そう思うだけかもしれないなぁ。




