第五話 俺、邪神と遭遇しました。その14
登場人物紹介
・ニャルラトホテプ――千の化身を持つ邪神。美樹原たちに興味を抱き接触してくる。
「そういえば、まだ生徒たちは授業中だったな」
「ああ……ってことは!?」
「なにか悪い予想をしちゃってない? ま、インビジブルアーツのおかげで姿が見えない状態だし、様子をうかがいましょう」
「お、おい、俺は姿を消せないぞ!」
「アンタはタダの人形のフリをするっす!」
そういえば、今の時間帯は光桜学園の生徒なら誰しも、なにかしらの授業を受けている時間である。そんな時間の馬術部の部室兼馬小屋にやって来るモノって一体――悪い予想が頭の中に浮かんでも当然だよな?
「なんだ、誰もいないじゃないか……ビックリさせやがって!」
ん、馬術部の部室兼馬小屋に現れたのは、竹刀をたずさえた白いTシャツに黒いジャージといった格好をした無精ヒゲのオッサンだ。ひょっとして見回りの先生ってところかな?
「まったく、今の時間は俺が受け持つ体育の授業がないからって面倒なことを押しつけてくるもんだ。まあいい、授業をサボってる生徒がいたらビシバシしごいてやるか暇だしな、クククク」
と、竹刀をたずさえた無精ヒゲのオッサンは、ニタニタと嫌らしい笑みを浮かべながら、馬術部の部室兼馬小屋の中をうろうろと徘徊する。どうやら体育教師のようだが、あの調子だと、もし授業をサボってる生徒がいた場合、日頃のストレス解消とばかりにあーでもない、こーでもない、と言葉攻めに遭うんだろうなぁ……。
「ん、虎のぬいぐるみ? 誰の私物だ、これ……ポイッと」
ん、タダのぬいぐるみのフリをしている坂口を無精ヒゲの体育教師は拾いあげる――わ、ひでぇ、拾った直後にポイ捨てしたぞ!
「うむ、誰もいないな。さ、戻るとするか……おわあ、なんだ、お前は!? ぐ、ぐぎゃあああっ!」
「「「――っ!!」」」
な、なんだ、なにがあったんだ!? 馬術部の部室兼馬小屋から立ち去った直後、見回りにやって来た無精ヒゲの体育教師の悲鳴のような大声が響きわたる――と、同時にゴギンッというナニかが折れる音も聞こえてくる!
「う、なんだ、なんだ!」
「馬小屋の外になにかいる!」
「アンタたち、声が大きいわよ! 外にいるモノに気づかれるわ!」
「な、なあ、馬小屋の外にナニがいるんだぁ?」
「と、とりあえず、見に行ってみようぜ」
「わお、腐った犬人間がいる!」
「い、腐った犬人間!?」
「でも、右腕の二の腕から下が異常にでかいっす!」
腐った犬人間? そてに右腕が異常にでかい? アリスとアワメが先行するかたちで馬小屋の外の様子を窺いに行く――ナ、ナニがいるわけ!?
「あれは屍食鬼ってヤツじゃないのか、みるく? お前、アレを以前、退治したことがあったよな?」
「お、おう……だけど、なんか違うような気がする」
屍食鬼!? 外にいるモノのことをテュポンがそう呼ぶ――が、みるくは怪訝そうに眉をひそめている。さて、馬小屋の外にいたモノは、頭のあっちこっちが腐敗した狼や狐といったイヌ科の動物に類似した異形の獣頭、それに首から下は光桜学園の男子生徒の制服を着た人間であるが、右腕の二の腕から下の大きさが左腕の二の腕に比べると三倍は確実にありそうなバケモノである!
「あああ、反故しちまったぜェェ~~! 蔵内さんには人殺しをするなって言われてたのによォォ~~……クククク、本能には勝てねぇっつうヤツだな。まあいい、証拠隠滅のためコイツを食っちまえばいいワケだ!」
バケモノの巨大な右腕の二の腕から下をよ~く見ると、赤黒い蛇のような鱗が随所に見受けられるモノである――と、そんな手には生死はともかく、白目を剥き口から舌を出した状態の無精ヒゲの体育教師の首が握られている。
「奴め、証拠隠滅をするみたいだな!」
「ああ、ここは何気に死角になっているし、証拠隠滅には打ってつけな場所じゃないか?」
「おまけに、今の時間は授業中ということで誰もやって来ない気がするわね」
バケモノは証拠隠滅を企てようとしているようだ。さて、馬術部の部室兼馬小屋は新校舎の端っこにあり、非常口があるだけで窓等が見受けられない場所である。おまけにコンクリートの壁によって外からも周囲の様子が見ることができない場所だ―――要するに死角なんだ、ここは!
「不味そうだが……いただきまぁぁす! うががが、このニオイは!?」
「「「――っ!!」」」
うお、ニオイでバレた!? バケモノとはいえ、流石はイヌ科の動物の特徴を持つモノってところなのか? とにかく、ドシャッと巨大な右手に握る無精ヒゲの体育教師を投げ飛ばすと、俺たちが身を潜める馬術部の部室兼馬小屋の方へやって来る!
「ふむ、あれは屍食鬼型の人造獣人だね。私が蔵内君に預けたモノの一体だな」
「わ、ニャルラトホテプ! おおお、お前、いつから、そこに!?」
「フフフ、そう驚くことはないじゃないか、子猫ちゃんたち。私はいつもニコニコ君たちの背後に這い寄る――と、それはともかく、どうするんだい? あの屍鬼型の量産型だが、そこそこ強いぞ? それでも一戦交える? それとも逃げるのかな?」
「う、うぐぅ……」
「なにためらっているのよ! そんなの決まってるじゃん! 見つかってしまった以上、奴を打ちのめすだけよ! キョウタロウ、行くわよ……うりゃあああ!」
「お、おい、サマエル! ったく、仕方がないなぁ……」
はわわわ、気づけば、俺の背後にニャルラトホテプの姿が!? そ、それはともかく、バケモノ――屍鬼型の人造獣人を叩きのめすべくサマエルは意を決し、身を潜める馬術部の部室兼馬小屋の外へと使い魔の黒猫ことキョウタロウを伴いながら飛び出す! く、仕方がない、俺も行くしかないな、この場合は!




