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第五話 俺、邪神と遭遇しました。その10

 這い寄る混沌ニャルラトホテプという存在は、千の化身を持つと言われる邪神だ。俺はそいつと遭遇してしまったワケだ――く、なんてこった! どうする、俺っ!



「そう警戒することはない。私は君たちの敵ではない。むしろ仲良くしたいとさえ思っているんだ、クックックック」



「う、嘘を吐くな! そんな言葉を信じるとでも思ったか!」



 警戒するなとか、敵ではないとか、仲良くしたい? 邪神の言葉を誰が信じられるものかよ!



「信じてもらえないなんて悲しいなぁ~」



「悲しい? そう言っているクセに口許に笑みを浮かべやがって!」



「お、そうかい? さて、君たちかな? この○○県S市内の外道共に仕置きを行っているという正義の味方……いいや、闇の仕置き人であり、魔法少女っていうのは?」



「う、コイツ!」



「お、俺たちが何者かってこともバレているぞ!」



 く、ニャルラトホテプに俺たちのすべてがバレている気がする。(よこしま)な存在とはいえ、流石は超越者――神なのか!?



「私たちにナニをする気!?」



「フフフ、なにもしないさ。タダ単に君たちと接触したくなっただけさ」



「う、本当かよ! 嘘くせぇ……」



「ハハハ、私って本当に信用されていないようだねぇ――と、それはともかく、君たちは私のオモチャたちに対し、正義に鉄槌を下すとばかりに仕置きを行う気なんだろう?」



「「「――ッ!!」」」



 ニャルラトホテプが言うオモチャというのは、蔵内や坂口の彼女こと由梨のことだろう――って、俺たちの計画もバレているじゃん!



「ああ、そうそう、正確なところ〝元私のオモチャ〟と言い換えておこう。あのふたりは、すでに内に秘めた思いを表面化させてしまったことで破滅の道を歩んでいる。これ以上、私がナニかをするっていうのは酷な話だろう? それにアイツらにつき合うのも飽きちゃったんだよねぇ。ま、そんなワケだ。君たちの手で止めてやってほしい――仕置きというかたちでね、クククク」



「む、むぅ……」



 ちょ、蔵内が仕置きの標的だってこともバレているのかよ! 流石は邪な神とはいえ、神だ。抜け目がないなぁ――。



「止めてほしい!? は、なにを言うと思えば、私たちに尻拭いをさせる気!」



「ま、否定はしないよ。あのふたりを使って色々と楽しんだけどさ。なんだかんだと、その後始末が面倒くさくてァァ~~!」



「げ、外道ォォ~~!」



「お、お前ーっ!!」



 クイッとお気に入りの赤縁眼鏡を左手の中指で押しあげながら、ニヤニヤ微笑むニャルラトホテプのいい加減な性格に対し、俺は苛立ちを覚える。



「フフフ、まあいいや、そろそろ立ち去るとしよう」



「な、なにィ!」



「フフフ、私は忙しいんだ、色々とね。んじゃ、まったねぇ~――と、君たちの仕置きの対象である蔵内翔真の周辺には、私の友人から預かった兵士が一緒にいるから気をつけたまえ」



「な、なんだと!? どういうことだよ!」



「要するに、簡単に仕置きされちゃ困るんでバケモノの警護をつけたっていうワケね!」



「ま、近いかなぁ――ああ、ちなみに、人造獣人というモノだ」



「じ、人造獣人!? それって財団Nの……」



 く、ニャルラトホテプの奴、余計なことを――う、人造獣人だと!? おいおい、それって、あの財団Nが開発した生物兵器じゃないのか!?



「おやぁ、財団Nを知っているのか?」



「あ、ああ……お、お前も、アイツらの仲間なのか!?」



「違うね。私はフリーの存在だ。誰かに支配されるとか、組織の掟の従うなんてことは超がつくほどゴメンだ。故に、私を縛ることは誰にもできん――あああ、財団Nにいる別の〝ニャルラトホテプ〟から、件の人造獣人を預かり、それを蔵内に与えたって感じかな?」



「別にニャルラトホテプ? そういえば、千の化身がいるらしいわね。そのうちの一体が財団Nとやらに属しているってこと?」



「正解だよ! あの組織に組する〝ニャルラトホテプ〟は、この私とは別の個体だ」



 ニャルラトホテプは、あの厄介な財団Nが関わっているようだ。だけど、俺たちの目の前にいる〝ニャルラトホテプ〟とは別の個体のようだ。流石は千の化身を持つという邪神だ――と、そう言いたくなる事態だな、こりゃ。



「私たちニャルラトホテプの化身は多い。まったく困ったものさァァ~~っと、私はもう行く。んじゃ、私になにか用事があれば、先ほど渡した名刺に載っているホムペにアクセスするといい」



 だ、誰がお前なんかに――と、言おうと思った刹那、フッあっと言う間にニャルラトホテプの姿が消え失せる。



「邪神の奴、消え失せやがった!」



「ああ、気配が全くないな。本当にいなくなったようだ」



「だけど、コイツを残していったわ」



「あっちこっちに赤い線の入った丸い黒い石か……ううっ!」



 ん、なんだ、これは? ニャルラトホテプがあっちこっちに赤い線の入った野球の硬球ほどの大きさの黒い石という落っことしていったみたいだ――う、だけど、コイツを拾いあげると同時に、突然、吐き気が……なんだ、この嫌な置き土産は!?



「お、おい、ミケ、どうしたんだよ?」



「な、なんでもない。タダの吐き気だ」



悪阻(つわり)か、おい?」



「莫迦、そんなんじゃねぇ! つーか、気のせいかな? この石から危険な匂いがするんだ……」



「どうでもいいけど、改めて新校舎へ向かうわよ」



「あ、ああ!」



 うーん、やっぱり沙希を追いかけるかたちで新校舎へ行くのかよ。ま、まあいい、ニャルラトホテプという邪悪の権化のような存在との遭遇、そして手に取った瞬間、吐き気を催してしまった危険な石の存在で、今、俺の気分は最悪だよ。ま、それを晴らす憂さ晴らしとばかりに新校舎へ行ってみるのもいいかなぁと――。

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