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第五話 俺、邪神と遭遇しました。その8

 その女が、いつどこで光桜学園の生徒として潜り込んだのかは、まったくもって不明である。同級生、上級生、下級生に問わず、全生徒の情報を知る沙希でさえつかむことができなかったようだし――。



「ん、とりあえず、写真の女の名前だけはわかったわ。黒木夜子だったかしら、ヘルメス?」



「そうそう、黒木夜子。表向きは高等部二年に所属する沙希の同級生だけど、裏側は謎……それを今から調べなくちゃね」



 ふーん、黒木夜子って名前なのか、件の謎の女は――と、沙希すら気づかぬうちに光桜学園の生徒として潜り込んだモノだ。その詳細をつかむのは至難の業のような気がするぞ。



「黒木夜子……ううう……許さん! この女も……同罪だ…うがあああっ!」



 誰、この女――と、言ってた方が正しいのかもしれない。正体不明(アンノウン)な存在こと黒木夜子のことはともかく、仕置きの依頼主である坂口の様子がヘンだ!? 思わず冷や汗が吹き出してきそうな近寄りがたい邪気のようなモノを放ち始めたし……な、なんだ、一体、坂口はどうしてしまったんだ?



「う、うがあああっ! 許さん、許さん、許さんぞっ……が、があああ!」



「さ、坂口、落ち着け!」



「もう我慢できん! なにもかもぶっ壊したい気分だァァ~~!!」



「ちょ、坂口の気薄な身体が真っ黒なオーラのようなモノを放ち始めたわ!」



「うーむ、荒御霊と化す前兆だな。あの黒いオーラなるモノは坂口の気薄な身体から噴き出した憎悪し……」



「うお、サワメさん、アンタもいたのか!? うーん、とにかく、あれは憎悪オーラって奴なのか!」



 ムムム、幽霊である坂口の気薄な身体を黒いオーラが包み込む! いつの間にか、俺の左肩に座っている蛾の妖精さん――いやいや、意思を持つ銅鏡が擬人化した存在サワメが荒御霊(あらみたま)と化す前兆だって言い出す。



「あ、荒御霊……そ、それって怨霊になるってこと?」



「ああ、幽霊ってヤツらの中には抱え込んだ恨みに強さから〝なって〟しまうモノにいるんだ。なんとかアイツの鎮め和御霊(にぎみたま)に戻さないと、お前たちまで奴の恨みの波動に飲み込まれて被害を受けてしまう!」



「うへ、マジかよ! 幽霊ってパネェ存在だな!」



「ふむ、そういうことなら任せておいて!」



「ん、沙希、それは虎のぬいぐるみじゃん! なにに使うワケ?」



「こうするのよ! うりゃーっ!」



「虎のぬいぐるみを投げた!」



 幽霊は恨みが増すことで荒御霊――怨霊にランクアップするようだ。そうなってしまった場合、俺たちまで被害を受けるようだ。そうならないためにも、坂口を和御霊(にぎみたま)という状態に戻さないといけないな――と、沙希が虎のぬいぐるみを坂口に標的に投げつける。



「わ、まぶしい!」



「ふむ、あれは封印の人形というワケか?」



「封印の人形? ああ、坂口が消えた……ひょっとして、あの虎のぬいぐるみの中に閉じ込めたワケ?」



「う、ううう……あれ? 僕はどうしたんだろう?」



「お、とりあえず、恨みの波動は鎮まったようだな、ふう……」



 沙希が投げ放った虎のぬいぐるみが、ムクッと立ちあがり、独りでに動き出す……き、奇妙な光景だ! ん、でも、そんな奇妙な光景を可能としているのは、虎のぬいぐるみの中に封印されている幽霊の坂口の存在だろう。



「お前、身に覚えがないのか?」



「う、うん、なにがなんだか、さっぱり……」



「ふむ、とりあえず、わしからの忠告だ。坂口よ、なにがあっても怒るな! お前は、どうやら深い恨みを抱いたまま死んだようだから荒御霊になりやすい状態だ。アレになってしまっては、神であるこのわしですら抑えるのが難しいからな」



「まあ、〝なって〟しまった場合は、私が強制的に和御霊に戻すわ。それか滅殺するわ」



「ヒ、ヒィィ! なんだかよくわからないけど、僕は怒っちゃいけないみたいだな……何事も我慢、我慢!」



 恋人を寝取られ、そのことを深く恨みと激しい怒りを抱きながら飛び降り自殺を計った坂口の場合、周りにいる俺たちも被害を受けてしまい兼ねない怨霊と呼ばれるモノと化する一歩手前の状態、荒御霊になりやすい危険な幽霊と化しているようだ。ま、沙希のおかげで怒りと憎悪が鎮まった状態である和御霊に一時的の戻ったのでホッとしたよ、まったく……。



「さてと、私はそろそろ戻るわ。昼休みになったら、また戻ってくるから、それまでここを離れちゃダメよ。アンタたちは部外者ってことを忘れないように!」



「あ、ああ、わかったよ、沙希」



 そういえば、俺たちは光桜学園の生徒ではない。部外者だ。故に、下手に動き回れないのが痛いな。警察沙汰になる可能性もあるしね。



「まったく、つまらないわね」



「つまらないっつうか、俺たちは本当に部外者だからな。下手に動き回れないだろう?」



「ところでインビジブルアーツを使えることを忘れちゃいない?」



「ん、なんだ、そりゃ?」



「アンタたちが穏行の術って呼ぶモノよ。アレを使えば姿を見えなくすることができるでしょう? 普通の人間には――」



「なんだ、穏行の術のことかよ……って、まさか!?」



「そのまさかよ! んじゃ、先の後を追いかけるわよ!」



「お、おい、サマエル! ったく、仕方ないなぁ……」



 むぅ、サマエルが沙希の後を追いかけるかたちで図書室の外に飛び出していく――ったく、サマエルを連れ戻すためにも、俺も後を追わなきゃいけないな。

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