第五話 俺、邪神と遭遇しました。その7
どんな外道に対してかは知らないけど、ヘルメスを介し、俺たちに仕置きの依頼をしてきた坂口智弘って幽霊BOYは、そんな俺たちと出会うほんの一時間ほど前までは生きていたらしい。
そうそう、後日、彼の痛々しい姿に変わり果てた遺体が、S市の繁華街こと浪岡商店街アーケードの人気のない路地裏で発見される。どうやら路地裏にある古ぼけた雑居ビルのどこから飛び降りたようだ。まったく、命を粗末にするなって言いたくなるぜ。
ま、それはともかく、用務員のオッサンに気づかれないように、俺たちは抜き足、差し足、忍び足で図書室の中に入り込む。ちなみに、光桜学園に勤務する数人の用務員の中には、池口さんという様々な武術に精通し、おまけに度がすぎるほどのオカルトマニアな御大もいるらしいので油断できないって沙希が言っていた――ふう、どうやら、旧校舎の四階にやって来た用務員のオッサンは、その池口さんじゃなくてホッとしたかも!
そんな与太話はさておき。
「え、自殺に原因はNTRだって!? うへぇ、生々しい理由だなぁ……」
「NTRってなによ、それ?」
「寝取られのことだよ」
「あらら、恋人を他の男に奪われたワケね……な、なんて言っていいのかしら、こういう場合?」
「NTR……そ、そんなはずがない! 由梨が僕を裏切るはずがないんだ! きっと、アイツに魔術をかけられたんだ! あの魔術師野郎、呪ってやる、呪い殺してやるゥゥ~~!!」
今は十八歳の美少女である! が、元は三十路間近の奥手な草食系男子だった俺にはイマイチわからないんだよなぁ。恋人を寝取られた坂口智弘の気持ちが――。
「うーん、その寝取られ恋人のことを忘れて、おまけに自殺なんかしないで、新しい恋人を探そうって思わなかったのか?」
「ゆ、由梨は僕もすべてだったんです! 他の女なんかァァ~~クソも同然だァァ~~!」
「は、はあ……」
「と、とにかく、コイツが僕の彼女の由梨を寝取った魔術師の写真です!」
新しい恋人を探せばいいのに――と、諭したところで、すでに死亡し、成仏できずにこの世を彷徨っている幽霊と化した坂口には、なにを言っても無意味だろう。さて、フワリフワリと一枚の写真が頭上から落っこちてくる。坂口の恋人を寝取った魔術師が写った写真のようだ。どれどれ、どんな輩なのか拝見しておくかぁ。
「お、イイ男じゃん。だけど、いけ好かない目つきだな」
「イイ男って……ゲ、ゲェ! お、お前、ホモだったのか!」
「ち、違ぇよ! なに勘違いしているんだ、お前! お、俺は姿は女だけど、心は男のままだ!」
「うへぇ、それじゃレズ! ヒイイ、俺はその気はないからな!」
「こ、この変な誤解をすんな! とにかく、コイツは何者なんだ?」
「生徒会長の蔵内翔真よ」
「お、沙希! もう昼休みなのか?」
「ふう、アンタたちが問題を起さないか心配で具合が悪いから保健室に行くと言って嘘をついて、ここげ来たのよ」
「お、おい、サボりかよ!」
む、むぅ、俺たちが問題を起さないか心配だって!? だからって授業をサボるなっつーの! まったく、俺は大人だ。問題行為なんて起こすかっつーの! それはともかく、例の写真に写っているのは蔵内翔真って男のようだ。沙希曰く、光桜学園の現生徒会長らしい。
「さて、私が注目したいのは蔵内じゃなくて、一緒に写真の中に移り込んでいる女の方かなぁ」
ん、蔵内よりも注目したい人物が件の写真の一緒に移り込んでいるって!? そう言いながら沙希は、ビッと写真の中央に見受けられる眉目秀麗なイイ男だが、その一方でいけ好かない目つきをした嫌な雰囲気の男こと蔵内翔真に寄り添う髪の長い女子生徒を指差すのだった。
「沙希、写真の女のコの方に注目したいってどういうこと? まさか、人間の化けた魔物の類だって言うんじゃないでしょうね?」
「人を皮をかぶった邪神人か!?」
「アンタたち、焦りすぎよ。でも、否定はしないわ」
「ゲ、ゲェ、やっぱり?」
「魔物とか邪神人かはわからないけど、その写真に写っている女は、私のチェックを逃れたモノなのよ!」
「チェ、チェック? なんのチェックだよ?」
「私は同級生、上級生、そして下級生に問わず、光桜学園に通う生徒全員の名前、容姿なんかをチェックしているわ」
「うっへぇ、ホームラン級の物好きだなぁ……」
「とまあ、そんなワケよ。その女は私のチェックを逃れた存在だから注目している――人にあらざるモノかまでが把握し切れてはいないけどね」
沙希は物好きだなぁ、光桜学園の通う生徒全員をチェックしているだなんて――と、そんな沙希のチェックを逃れた人物らしいけど、一体、何者なワケ!? あの写真の女は……。
「私の予想だけど、蔵内がアンタの恋人を寝取った背景には、あの女が関わっているはずよ」
「ム、ムムム……魔術を使って蔵内が由梨と関係を持つように仕向けたとか!?」
「うん、否定はしないわ。人の心を操るのも魔術の基本だしね」
「ぐ、ぐぬぅぅ! 魔術師め、許さん!」
「ま、とりあえず、仕置きを行う前に、蔵内とあの女を調べてみましょう」
「あ、ああ!」
ま、なんだかんだと、今はそれしかないよな。蔵内はともかく、沙希のチェックを逃れたモノのついての詳細を知っておく必要がありそうだしね。




