第五話 俺、邪神と遭遇しました。その6
「お、おいおい、一体、ここにナニがいるんだ?」
「それを聞かれても困る。わしも見たことがないからな」
光桜学園の旧校舎内には、一体、〝ナニ〟がいるんだろう? 神様を自称する蛾の妖精さんことサワメでさえ、そのモノの正体がわからないそうだ。なんだかんだと目撃者がいれば――。
「目撃者なら多数いるわ! ここに!」
「む、アフロディーテ! お前、愛梨と一緒じゃないのかよ!」
バアアアン! と、真っ白な翼を広げた一羽のアヒルが現れる――アフロディーテだ……え、自分が目撃者だって!?
「愛梨は今、授業中だから邪魔しちゃ悪いと思ってね。工房がある旧校舎で時間つぶしをってところよ」
「こ、工房!? ここでなにかつくっているのかよ、お前?」
「フフフ、化粧品を少々……」
「むぅ、化粧品ねぇ」
旧校舎内にはアフロディーテの化粧品工房があるようだ。そういえば、アライグマのヘパイストスも、旧校舎のどこかにいるんだっけ? ――と、それはさておき、旧校舎内でナニを目撃したんだろう!?
「ズバリ、怪物よ! 深夜の旧校舎を蠢く正体不明のモノを――っ!」
「あ、ああ、そりゃ都市伝説だな」
「うん、似たような話が多いパターンだな」
「ちょ、なによ! その期待外れも甚だしいって感じの白けた態度は!」
「いやぁ、だってさ。ある意味、お約束のパターンだなって……」
「ありきたりのパターンなんだよなぁ……」
アフロディーテには悪いけど、深夜の旧校舎で蠢く化け物の話は、ありきたりな都市伝説だったりするんだよなぁ――ほら、お約束の展開ってヤツだしね。
「ふう、気分的に萎えたわ。図書室に戻るわよ、アンタたち」
「うーん、そうだなぁ」
「ま、とりあえず、沙希はやって来るまで、あそこで待機しようぜ」
「むぅ、私が目撃したモノに関して詳しく知りたくないワケ?」
「なんつーか、さっきも言ったけど、ありきたりな目撃例だし……いいや!」
「ぐぬぬぬ、納得いかないわねぇ、まったく!」
「そんなことより、誰かやって来たぞ。用務員のオッサンじゃないか?」
ん、一旦、図書室へ戻る前にアフロディーテが目撃したモノについての詳細を知りたくないのかって? ああ、別にいいよ。ありきたりな都市伝説だろうし、おまけに清掃も兼ねた旧校舎を見回りとばかりに用務員と思われる作業服のオッサンがやって来たので早々と今いる古物のゴミ置き場のような状態と化している三年B組の教室から立ち去らないとね――と、その前に、穏行の術で姿を見えなくしておかなくちゃな。
「おや、君たち、どこへ行っていたんだ? せっかく、新しい依頼を伝えに来たっていうのに――」
ん、用務員のオッサンがやって来ると同時に、ブーンと空中を滑空しながらヘルメスもやって来る。俺たちを迎えに来たようだが――え、新しい依頼がある!?
「なあ、まさかと思うけど、この光桜学園絡みの依頼?」
「うん、ズバリその通りだよ。ハハハ、ビンゴってヤツさ!」
「そ、そうか……う、なんだ、そいつ!?」
「頭が血まみれの幽霊じゃないか! なんで、そんな輩を連れているんだ!」
「声が大きいわ! 穏行の術は姿を見えなくすることができるけど、声や足音を消せないことを知らないとは言わせないわよ!」
「お、おう、スマン……」
「ふむ、まあいいわ――と、ヘルメスと一緒にいる血まみれの幽霊さんが依頼主ってところかしら?」
「ま、そんなところさ――と、君はサマエルだったね。お姉さんがよろしく言っていたよ」
「うげ、もしかしてミカエル姉様も、この学校に!? と、とにかく、図書室へ戻るわよ!」
穏行の術は姿は消せども声や足音は消せず――と、そんな弱点があることは何度か説明したワケだが、そんな話はともかく、ヘルメスと一緒に仕置きを依頼してきた依頼者も現れる。んで、その依頼者っていうのは、脳天、そして額からダクダクと血を流す痛々しい姿の幽霊である。
「ヒュー、一瞬、大声を張りあげてしまうところだったぜ!」
「ゴメンなさい! ビックリさせるつもりは毛頭ないんですが、そこにいるヘルメスさん曰く、今の僕の姿は〝死んだ時〟の姿らしいんです……あ、僕は坂口智弘って言います」
「そ、そうなのか……ん、お前さん、まだ学生だろう? 制服姿だし?」
「はい、そうなんですが、ついさっき飛び降りて死にました――と、そんなことはいいんです! ヘルメスさんから聞きましたよ。僕が自殺をするハメとなった元凶に罰を与えてくれる仕置き人がいるって! それがアンタたちなんだよな? ホントに頼みます……そ、そうじゃないと僕、成仏できません!」
血まみれの幽霊こと坂口智弘が、ガバッと俺たちの目の前で土下座を――うへぇ、幽霊の土下座なんて奇妙すぎるな光景だなぁ。
「このままだと成仏できないだって!? うーん、自殺した時点で……」
「知り合いのオカルトマニア曰く、自殺者が集まる場所が、あの世にはあるらしいぜ。どっちかっつーと地獄寄りの場所に……」
地獄行き決定! というほどではないけれど、自殺者は死後、ろくでもない場所へ行くって聞いたことがある。それだけ罪深いことらしいねぇ、自死ってヤツは――ま、まあ、話だけでも、とりあえず話だけでも聞いてやるとするかな。




