第三話 俺、ライバル宣言されました。その13
沙希の友人である女装少年のデュオニュソスが住む超高層マンションことアトランティスに2901号室のベランダからは、超高層階限定の光景――S市全域が眺望できる巨大な城に住まう支配者になった気分になれる超がつくような圧巻が光景が、ドンッと俺の眼下に広がっている。お、海も見える! そういえば、今年はまだそんな海へ行っていなかったなぁ。
ま、まあ、そんな話はさておき。今は壁をよじ登って標的の柳原が住むアトランティスの三十五階へ行かなきゃいけない。さ、どうしたものか――。
「壁をよじ登るなんて簡単さ。ほら、見て見て~☆」
「お、おい、ベランダに出てどうするん……わああ、デュオニュソスがベランダから飛び降りた! おわ、壁にへばりついている!」
「ウフフ、一見、真っ平だけど、実はくぼみがいっぱいあるんだよ」
「そ、そうなのか!?」
一見、真っ平だけど、実はくぼみだらけだぁ!? おいおい、トンでもない指の力を自慢したいだけじゃないのかよ! そ、それはより、一歩間違えれば、今いる2901号室――超高層マンションのアトランティスの二十九階から、真っ逆様に落っこちてしまうじゃないか!
「君たちは魔法少女なんでしょう? 私のような方法を使わなくてもヤモリのようによじ登れると思うよ、クククク」
「おいおい、ヤモリって……ま、まあ、試してみっか」
「両手の五指に魔力を集中させてるんだ! 俺の場合は肉球に魔力を集中させて……とぁー!」
そうだ、俺は魔法少女だ! 見た感じは真っ平らな壁でもヤモリのようにはよじ登ることができるかもしれない! うお、クロベエが真っ平らな壁のよじ登り方を伝授するとばかりダッと壁を駆けあがる。そんなクロベエの四本のまっ黒な足が青白い光を放っている。肉球に魔力を集中させた状態ってヤツかな? よし、俺は両手の五指に魔力を――。
「う、うわあ、ダメだ! 高すぎるっ……お、俺は高所恐怖症なんだ!」
ゲゲッ……俺は肝心なことを思い出す。高所恐怖症だってことを――うぐぐ、壁をよじ登るなんて、そもそも無理な話だァァ~~!
「お、俺も高所恐怖症だ!」
「わ、私も……」
「愛梨、ついでにみるくも高所恐怖症なのかよ!」
愛梨とみるくも高所恐怖症のようだ。いや、その前に、誰だって恐怖心を抱く場所だってことを忘れちゃいない。ここは地上二十九階――仮に落っこちたら、例え一般人を凌駕する魔法少女であっても一貫の終わりだ……死を免れることはできない!
「なに、嘆いちゃってるワケ? つーか、アンタ達って馬鹿? こうすりゃ壁をよじ登る必要もないわよ」
「おわ、空飛ぶホッキョクグマ!? さ、沙希かよ!」
「わらわもいるぞ! ハッハッハ、空を飛ぶのは気持ちがいいなぁ~☆」
「うんうん、それは言えるね~☆」
「なんだか奇妙な光景だね、ミケちゃん……」
「あ、ああ、空飛ぶホッキョクグマ、それに空飛ぶ狼と豹がいるわけだし……」
「じ、実に奇妙だ。そして、すっげぇ矛盾した光景だ!」
ドンッ! と、そんな本来、空を飛ぶことができないはずの三頭の獣――ホッキョクグマに変身した沙希、それに狼姫と茜が空中に舞いあがったので、当然、俺と愛梨、そしてみるくは、驚きを通り越し、ドシャッと尻餅をつき苦笑は同時に苦笑を浮かべるのだった。
「みるく、私の背に乗るんだ!」
「お、おう!」
む、みるくの相棒のテュポンも空へと舞いあがる。うへぇ、なんだか、さっきから奇妙な光景を連続で見ているぞ、俺……。
「これでよし!」
「わ、私、空を飛んでいる!」
「うお、愛梨まで……ア、アイロディーテに変身すると空を飛べるようになるのかよ!」
ムムム、アフロディーテと合体し、魔法少女アイロディーテに変身することで愛梨も空を飛べるようになるようだ――ん、待てよ? アフロディーテは空を飛ぶことができない鳥のアヒルだったような?
「ご主人様、あたしらも合体っす! とりゃー!」
「お、おげええっ! アリスが口の中から俺の身体の中の入り込んだ! ううう、背中が熱いッ……つ、翼が生えた!?」
使い魔のアリスが俺の口の中の入り込んでくる。これが合体なのか――と、その刹那、俺の背中に真っ黒な蝙蝠のような一対の翼が生える。こ、これで空を飛べる……飛べるはずだ!
「ハハハ、まるで悪魔のような姿だな、ミケ!」
「な、なんだよ、悪魔って!」
『ご主人様、私と合体した影響っすよ』
「うお、頭に山羊のような角が生えた!」
『これでご主人様も悪魔っ娘の仲間入りっすね』
「ぐ、ぐぬぬぬ……」
背中に生えた蝙蝠のような翼、それに頭に生えた山羊のような角は、女性型夢魔であるアリスとの合体による身体的変化ってヤツだろうけど、俺は悪魔なんかじゃないぞ~~! ま、まあ、これで柳原のアジトと化しているアトランティスの三十五階へと行けるはずだ!




