第一話 俺、魔法少女になります。 その1
「な、なんだってー!」
俺、美樹原健司は、ほとんどの人間がまだまだ寝静まっている午前五時半という朝っぱらから、ご近所迷惑な大声を張りあげる。ちなみに、俺は一時的に実家に身を寄せており、そんな自宅の前で――。
うーむ、昨日、近所の公園で出会った魔法少女を自称する電波女が言っていたことが、まさかまさかの的中――本当のことになったわけだからなぁ。
「俺を個人的な理由でクビにしやがった元上司……高瀬洋一郎が逮捕されただけど!? うえぇ、危険薬物のバイヤーで、おまけに自身は常習犯だったのかよ! うおおお、大家の平崎譲二の奴が運営していた闇金会社に警察の捜査官が乗り込んで社員共々、現行犯逮捕だぁ? ハハハ……ざまぁないぜ!」
と、憎きふたりが逮捕された――という記事が、ついさっき受け取った実家に配達された今朝の朝刊に記されていたわけだ。フフフフ……ざまァァ! 心の底から笑いが込みあげたよ。
「あの沙希って電波女の二千円払わないといけないな。俺の願いが叶っちまったことだし……」
むぅ、その一方で、あの電波女がやってくれたのかはわからないけど、復讐というか名の願いが叶っちまったわけだしなぁ。アイツに二千円払わなくちゃいけないかも――。
「おはよう、お兄さん」
「うおおおお、お前は昨日の電波女ァァ~~!」
うわあああ、ウワサをすれば影ってヤツだな! あの電波女――自称、魔法少女である山崎沙希が現れる――ちょ、なんで俺の実家がある場所がわかったんだよ!?
「な、なあ、この新聞に書いてあることはマジなんだよな? つーか、お前の仕業なのか?」
「そうよ! びっくりしたでしょう、クククク……」
ちょっ――マジかよ! しかし、どうやって、あのふたりの悪事を警察に通報したんだ!?
「どうやって警察に通報したかってことが知りたいって顔ね」
「おう、当たり前だぜ!」
「ま、教えておくわ――あ、ところでお兄さん。私と一緒にいるコが見えるかしら?」
「一緒にいるコだって!? ム、ムムム、狼みたいな大きな犬が一緒だな」
「ふーん、見えるんだ。じゃあ、決まりね」
「えっ!?」
ん、沙希は狼の連想させる一頭の大きな犬を連れている。いや、狼、そのものでは――と、それはさておき、なにが決まりなんだぁ?
「お兄さん、魔法少女にならない?」
「は、はあァァ~~!? ば、ばっかじゃねぇのォォ~~!」
な、なにを言い出すんだ、コイツ! うう、やっぱり電波系かも知れない。男の俺に魔法少女にならないかって言い始めたわけだし――。
「ああ、男が魔法少女になれるわけきゃねぇだろ――って、思ったでしょう? そこらへんは大丈夫よ。この指輪があればね。ああ、これをアナタにあげます」
「ゆ、指輪だと!? お、カッコイイな、これ――え、くれるの? サンキュー……って、おい! これけっこうな値段がする指輪じゃないのか? 安物じゃないってことくらい俺でもわかるぞ?」
今度は指輪を手渡されたぞ。ふむ、俺にくれるようだ――お、カッコイイ指輪だ! だけど、けっこうな値段がしそうな感じだぞ、コレ……。
「値段ねぇ……ま、とにかく、ついて来てよ。ここじゃ目立つからさ」
「お、おう!」
ニヤリと沙希が弧を描く三日月のような笑みを浮かべる。おいおい、どこへ行く気なんだ? ま、ついて行ってみるか――。