第八話 俺、とある女神の探し物に奔走します。その7
「この辺は自然豊かな場所だな」
「まあね。この辺はS市内の他の区域よりも都市開発が遅れているからね。そんなワケで樹海に覆われた町と言っても過言じゃないわ」
「そういえば、絶滅したはずのニホンオオカミが目撃されたってウワサもあったなぁ……」
「ふむ、わらわの同胞か!?」
「え、狼だったの? ワンちゃんじゃなくて?」
「うぬぅ、わらわをワン公と一緒にするな!」
ま、まあ、とにかく、S市のベッドタウンこと白銀通りがある周辺は自然豊かな場所だ。
樹齢百年は軽く超えている背の高い樹木が生い茂る鬱蒼とした森林が街を覆うように存在し、おまけに明治時代に絶滅し、今じゃUMA扱いのニホンオオカミが目撃されたってウワサがあったりするんだよなぁ、ここら辺は――。
そういえば、今は午前零時半――深夜ということを忘れちゃいけない。んで、耳を澄ませば闇が支配する森林の中から、ホーホーとフクロウの鳴き声なんかが聞こえてくる。
「今の鳴き声はオオコノハズクの三田村かな? ふむ、夜の魔女の連中は、この辺まで見回りに来ているみたいね」
「オオコノハズクってフクロウの一種だよね? それに三田村? 夜の魔女?」
「ああ、フクロウやコウモリといった夜行性の動物たちで結成された私の使い魔たちの集団よ。アイツらは真夜中に徘徊する屍食鬼等の都会の闇に生息するクトゥルフ眷属邪神群のような害悪な連中の発見に一役買っているから重宝しているわ」
まったく、沙希の使い魔の数は計り知れないなぁ。常に連れて歩いている狼姫を筆頭に猛獣界にもたっくさんいるし――と、そんな使い魔たちを沙希は自由に召喚し、知り合いの魔法少女に貸し与えているらしい。
「……と、そんなことより豪華な家が立ち並んでいるぞ!」
「ああ、この先はセレブな人たちの別荘地だったな」
「みんな、あそこに建っているのが、私のお爺ちゃんが所有する別荘です!」
「愛梨のお爺ちゃんってセレブなんだなぁ……」
「ん、宮城とかいう男は、そんな愛梨のお爺ちゃんが所有する別荘がある場所のさらに奥へと進んで行ったぞ!」
さて、S市内に住むセレブな連中が所有する別荘が建ち並ぶ別荘地に俺たちはやって来る。
「夏休みが終わった途端、ここら辺は静かになるのよね」
「まあ、そうだろうけど、夏休み気分が抜け切れない連中も、まだまだいたりするなぁ」
「お、そこのお嬢ちゃんたち、俺たちと遊ばない? 俺の別荘は、すぐそこなんだ」
む、チャラチャラした若い男が現れる。愛梨の爺ちゃんは所有する別荘の向かい側の別荘の所有者のようだ――む、香ばしい肉の香りが漂っているぞ!?
「おい、島田! なにやってんだー!」
「お、女のコがいっぱい! 君たちもバーベキューパーティーに加わらないかぁ?」
むぅ、深夜だっつうのに広い庭でお仲間と一緒にバーベキューパーティーかよ、贅沢な野郎だ! まったくセレブな連中は……。
「悪いけど、俺たちは、この先に行かなくちゃいけないんだ」
「そういうことよ、お兄さん」
「え、この先へ行くって!? ちょ、この先には安達さんの別荘が……い、行かない方がいいぞ!」
ん、なんだ、チャラチャラした若い男こと島田の顔色が、次の瞬間、サーッと青ざめる。んで、行くなと引き止めてくるんだが――。
「安達さんの別荘がある周辺は、タダでさえ鬱蒼とした森に囲まれている白銀通りの中でも、特に深い場所なんだ。それにちょっとしたウワサも飛び交っててなぁ……てか、信じてくれるか心配だぜ」
島田は苦笑を浮かべながら、鼻の頭を右手の人差し指で掻く――おい、ナニが心配なんだよ、最後まで語れよ! と、俺は無言で命令するかのように、キッと島田をにらむ。
「アンタたちが信心深いと信じるぜ……で、出るんだよ、あそこには!」
「出る? ナニが?」
「幽霊の類が出るとか?」
「ビ、ビンゴ!」
「なんだぁ、幽霊が出るのかぁ!」
「ま、今更、驚きはしない展開んだな!」
「幽霊だと? は、この私が驚くと思ったか?」
「ご、豪気だ女のコたちだなぁ――ってか、安達さんの別荘の周辺には幽霊は幽霊でも鎧兜を身につけた落ち武者の幽霊らしいぜ! ま、まあ、あくまでウワサ話だけどな」
「落ち武者の幽霊ねぇ……ああ、思い出したわ。確か、この先に戦国時代の城跡があったわね」
「つーか、そこだよ、そこ! 安達さんの別荘は戦国時代の城跡をぶっ壊して建てたらしい!」
白銀通りには戦国時代の城跡があるようだ。へえ、それは知らんかったぞ! なんだかんだと歴史が古いんだなぁ、ここら辺は――。
さて、泥棒集団セラエノのリーダーこと光桜学園高等の演劇部の部長、安達泰子の父親が所有者である別荘は、そんな戦国時代の城跡を破壊し、そこに建てられたモノっぽいぞ。
「落ち武者の幽霊が出るってウワサが流れ始めたのは、確か安達さんの別荘が建設が始まった頃だったな」
「お、おう、オカルトマニア垂涎の場所になっているから、あの辺へ行けば、アンタみたいな連中が他にもいるかもしれないぞ」
「ちょ、俺たちは、そんな物好きな連中と一緒にすんなよ!」
むぅ、島田やそのお仲間は、俺たちを心霊体験を楽しむために出張って来たオカルトマニアだと思っているようだ。まったく、コイツらはナニも知らない一般人だし、魔法少女ですって言ったところで馬鹿にされるのがオチだしなぁ……。
「なあ、俺の話を聞いて怖くならない? つーか、マジで行かない方がいいぜ。大怪我をした奴もけっこういるみたいだし……」
「ううう、だが、俺はあそこへ行かなくちゃいけないんだ!」
「その通りだ! 行くぞ、ミケ!」
と、なんだかんだと、俺たちは安達の別荘へ行かなくちゃいけないんだ! 俺は行くなと再度、引き止めてくる島田の手を振り切り、先に向かった宮城の後を追うのだった。




