第八話 俺、とある女神の探し物に奔走します。その6
「なあ、ワンちゃん、以前、どこかで出逢ったことがなかったかな?」
「気のせいだ! わらわはお前なんか知らんぞ! つーか、わらわはワンちゃんではない、狼姫だ!」
「ふーん、そうかぁ、私の気のせいだったか……」
「そう、気のせいだ! 絶対に気のせいだ!」
ん、アルテミスと沙希に使い魔である狼の狼姫は、顔見知りなのか? でも、狼姫は何故か必死に誤魔化しているって感じだ。
と、それはさておき、○○県S市のベッドタウンこと白銀坂通り、またの名を白銀町へと俺たちはやって来る。
そうそう、この町には現在は閉鎖状態なので中に入ることができないが、かつてはシルバーラッシュで大いににぎわった銀鉱山が存在する。
まあ、そんな銀鉱山が白銀通り、または白銀町と呼ばれる由来ってところだろうか?
ああ、そういえば、閉鎖中の銀鉱山は有名な心霊スポットでもある。ウワサじゃ落盤事故で亡くなった工夫の亡霊が今でも廃鉱となった銀鉱山のトンネルの中を彷徨い歩いているらしい。
さてさて。
「猛獣界とやらはすごいな! 一瞬で、私の大事な弓矢を盗み出した不届き者共のアジトがある白銀通りとかいう場所に来ることができたし!」
「あそこを経由すれば地球上の様々な場所へ行けるし、デメさんが住まう天樹界以外の共同体――例えば、オリンポス山のような場所へも行けるわよ」
「おお、それはさらにすごい!」
「だけど、困ったことに戦争ばかりしている人間が住んでいる修羅界や悪魔共も巣窟である魔界のような物騒な共同体もあるのよねぇ……」
「うへぇ、それは確かに物騒だなぁ」
「うん、現在、私が所有者のこの本――死霊秘法は、所有者が変わる度に猛獣界の中の新しい共同体が増えていくわ。そんなワケで元がどんなモノだったのかわからなくなっているのよねぇ、ここは……」
「うっわ、それは面倒くさいなぁ……」
沙希が展開する固有結界でもある猛獣界は、そんな沙希が現在の所有者であるという死霊秘法という本が媒介となって半永久的に持続している異界だ。
しかし、困ったことに所有者が変わる度に猛獣界の中に新しい共同体が増えるという――ってことはデメさんことデメーテルが住んでいるという天樹界も沙希以前の死霊秘法の持ち主の誰かさんの心象風景が懲りかまってできた異界なのかも!?
「ま、それはともかく、コイツらのアジトを探さなきゃいけないんじゃないか?」
「む、むぅ、そうだったな」
「じゃあ、また誘惑樹の花の花粉を使って、あの少年から――」
「デメさん、アレの香りを一度でも嗅ぐと抗体ができちゃうんじゃなかった?」
「あ、そうだったわね。むぅ、困ったわね」
「ああ、もう細かいことはいい! ブン殴って私の弓矢の在り処やアジトを吐かせてやる!」
「待ちなさい! ここは私に任せてもらうわ! 愛梨、合体よ!」
「う、うん!」
誘惑樹の花の花粉は、一度でも嗅ぐと抗体ができてしまう!? ちょ、一回ポッキリかい! さて、ボキボキと両手を鳴らすアルテミスを制止するアフロディーテが、ポンッという軽い爆発音とともに愛梨と合体する――魔法少女アイロディーテ見参ってヤツだな。
「おお、大人の姿に変身したぞ。魔法少女の身体は不思議だなぁ」
「不思議というか、愛梨の場合、大人の姿にならないと無力みたいなモンだしなぁ……」
「あうう、ミケちゃんには言われたくないよ! えいっ!」
「ア、アイタァー! いきなり空手チョップとはやるじゃないか……」
「さて、この姿のなったワケだし、必殺の誘惑眼で!」
「うお、なんだ、俺をジロジロ見やがっ……うは、うにょおおお~ん!」
愛梨とアフロディーテが合体した存在である魔法少女アイロディーテの両目が、カッ桃色の光を放つ! と、同時に宮城の顔がグダァ~とだらしなく歪む。
「イ、イヒヒ……なんでも言うことを聞きます!」
「うわ、汚いっ! まるで餌をあげていない飢えた犬みらいに涎をダラダラと……」
次の瞬間、宮城はビッとアイロディーテに対して敬礼をする――が、ダラダラと緩んだ口許からは涎が……ったく、お漏らしに嘔吐、そして今度は涎かよ! まったく、小汚い奴だな!
「んじゃ、アンタたちのアジトへ案内をお願いするわ!」
「は、了解であります、少佐殿!」
「しょ、少佐ぁ?」
「はい、少佐殿! では、ご案内いたします!」
しょ、少佐殿って、おいおい――口許が緩み涎をダラダラと垂らした状態のまま宮城は、お花畑で戯れる少女のようにスキップをしながら、俺たちは泥棒団セラエノのアジトがある方角へと向かう。
「なんか気持ち悪い奴に変わってしまったな」
「あれも誘惑眼の効果ってヤツか?」
「まあ、そんなところね」
「そんなことはどうでもいい! あのチビを追いかけるぞ!」
「お、おう!」
「ん、気のせいかなぁ? 誰かがさっきから私たちをずっと見つめているような視線を感じるんだが……クククク、まあいい」
ん、ニャルラトホテプがグルンと背後をお気に入りの赤縁眼鏡を弄りながら振り返る。
むう、しかし、気配と視線を感じ取ったようだけど、ホントに気のせいで済ませてもいいんだろうか!? まあ、なにはともあれ、今は宮城の後を追いかけるとしよう。




