第八話 俺、とある女神の探し物に奔走します。その5
俺たちは光桜学園の旧校舎一階にある演劇部の部室の奥にある物置部屋から、アフリカのサバンナの情景が完全再現された異界――猛獣界へと移動する。
「うううう……ぎゃああああああ!」
さて、演劇の部員であり、泥棒集団セラエノのメンバーでもある宮城憲正の周囲を十頭ほどのライオンが取り囲んでいる……あ、また宮城が小便を漏らしたぞ!
「ほら、お前がお漏らしをするから、そのニオイで猛獣たちが、さらに……」
「わ、ハイエナまで集まって来たぞ!」
「こんにちは、沙希殿。香ばしいニオイがしたモノでして……」
「うぎゃあああ、ハイエナがしゃべった! おおおお、おげえええっ!」
「コ、コイツ! 今度は嘔吐したぞ! まったく、小汚い奴だな!」
うへぇ、今度は勢いよく嘔吐を……まったく、お漏らしをしたり、嘔吐をしたりと忙しい奴だな。
「フフフ、吐いてしまえよ。君たちのアジトの場所もさ」
「ぐぎぎぎ、誰がしゃべるかっ……」
流石に猛獣のライオンやハイエナに囲まれたんじゃ素直になるよな――あ、でも、宮城のSAN値も限界を迎えていそうだし、これ以上、脅すと精神の方が、先に参っちまいそうだな。
「皆さん、強引ですね。ここはひとつ優しく接してあげてはいかがです?」
「む、デメさん?」
「ややや、伯母上ではありませんかー!」
「伯母上、お久しぶりです。珍しいですねぇ、ここに出張るなんて――」
白馬の背に跨った長い黒髪を風になびかせた眼鏡の美女がやって来る。んで、沙希はその女性のことをデメさんと呼ぶ。
ついでにアルテミスとヘルメスが、眼鏡の美女のことを叔母上と呼ぶ。
「おお、なんてクールな眼鏡なんだ!」
「あら、そこのお嬢さん……いえ、邪神さんには眼鏡の良さがわかるんですね」
「無論だ! 私はこの赤縁眼鏡が宝物として取り扱っている根っからの眼鏡属性だからね――と、そんなアナタは何者?」
「ああ、私はデメーテルと申します。そこにいるシロクマさんこと沙希ちゃんの保護者で天樹界という共同体からやって来ました」
俺たちと一緒にいる邪神ニャルラトホテプの化身こと黒木夜子は、眼鏡をこよなく愛する個体のようだ――と、それはさておき、猛獣界には天樹界という共同体が存在しているようだ。
デメーテルといえば、ギリシャ神話に出てくる豊穣の女神だったかな? なるほど、アルテミスやヘルメスが伯母上と呼んでいた理由がわかったぞ。
確か、彼女らの父親のゼウスの姉だったはずだし――と、なんだかオリンポスの神々が身近に何柱もいないか、何気に!?
「そこのアヒルさんはアフロディーテですか?」
「そうよ! でも、アヒルじゃなくて白鳥よ、白鳥!」
アフロディーテはアヒルなのに白鳥だって言い張っている。いい加減、アヒルだって認めてもいいんじゃないかと思うんだが……。
「天樹界?」
「ま、一応、説明しておこう。その天樹界は猛獣界を構成する共同体のひとつよ。他にも共同体があり、どこも独自の世界観を形成していて――と、それはさておき、ソイツの口を優しく割らせる方法はナニかしらね、デメさん?」
「ウフフ、では、私に任せてもらいましょうか――」
さて、猛獣界に存在する天樹界などの共同体の話は、今はどうでもいいことである――と、デメーテルが白馬の背中から颯爽と地面に降り立つ――あ、それと同時に転んだぞ!
「イタタタァ……むぅ、この花を使かえばイチコロです!」
アハハと苦笑するデメーテルは起きあがると同時に、スッと右手に紫色の可憐な花が咲いた小さな木を植えられた植木鉢を召喚する。
「その植木鉢に植えられている木に咲いている花の花粉を吸わせる気?」
「ビンゴです。この木に咲いた花の花粉を嗅いだモノは、例え狂暴で猛烈な獣神であっても大人しくなったりします」
「そ、そうなんだ」
「はい~☆ では、早速……」
「うおお、なにをする……はひっ! ああ、なんだか頭の中がボーッとしてきたぁ……」
デメーテルが右手に乗せている植木鉢に植えられた紫色の可憐な花が咲いた小さな木が、ガガガッと自立行動を始めるかのように動き出す――ん、紫色の可憐な花からブシャーッと大量の花粉が吹き出し、それがまるで意思を持っているかのように宙を舞いながら、宮城の鼻や口の中に侵入する!
「ふむ、流石は誘惑樹の花ってところかしら? さ、これで彼はなんでも素直のしゃべっちゃう良いコになったわよ」
「うへぇ、なんだか強引な気もするけど、暴力で解決するよりはマシかなぁ……」
ま、強引に仲間の居場所等を吐かせるよりはマシだろうけど、宮城の表情は虚ろでビローンと舌を口から出しいる。おまけに眼球はグルンと白目を剥き奇妙な笑い声まで……だ、大丈夫か、コイツ?
「じゃあ、訊くか! お前たち、泥棒集団のセラエノのアジトの場所を教えてもらおう!」
「キ、キヒヒ……仲間たちは白銀坂通りにある……安達泰子の父親名義の……別荘にいる……俺たちの……アジ……トに……うお、俺は一体!?」
ん、誘惑樹の花粉の効果は、すぐに切れてしまう代物なのか!? シャキーンと宮城の意識が夢幻の世界から回帰する――が、すでに仲間の居場所やアジトの場所をしゃべってしまった事後であるので、今更、ナニを言っても無駄ってヤツだ。
「白銀坂通りって、S市のベッドタウンだっけ?」
「うん、まあ、そんな感じだよ、ミケちゃん」
「I市へ行くためには、あの町に立ち寄らなきゃいけなかったな」
白銀坂通りは、所謂、S市のベッドタウンである。んで、隣町のI市へ行くために立ち寄らなければいけないS市とI市の中間に位置する町ってところだろうか?
「そういえば、あの辺はリゾート地としても有名だったわね、愛梨」
「うん、私のお爺ちゃんの別荘があるしね」
「な、なにィィ! 爺ちゃんが別荘持ちだと!」
ムムム、愛梨の実家って、ひょっとしてお金持ち? 爺ちゃんが別荘を保有しているし、そんな気がすりぞ……う、羨ましいなぁ。
「さて、連中のアジトの場所がわかったし、そこへ出張るのかい?」
「もちろん! だけど、ここからだと自動車でも一時間はかかる距離だな。それに白銀坂通りのどこらへんにあるかもわからんなぁ……」
「ううう、これじゃあっと言う間に朝になってしまいそうだ!」
「ああ、それなら大丈夫よ。この猛獣界を経由すれば、すぐに行けるわ。それにコイツを連れて行けばOKよ」
「そういえば、宮城を連れて行けばいいな!」
「ふむ、それじゃ早速頼む、真っ白クマちゃん!」
「私の名は山崎沙希よ、アルテミス。真っ白クマちゃんじゃないわ――と、それはともかく、白銀坂通りへと続く扉よ」
S市内にある俺たちが今いる光桜学園の旧校舎から、ベッドタウンである白銀坂通りへ行くには、自動車を利用しても最低、一時間はかかる距離だ。
しかし、猛獣界は便利だなぁ。ここを経由すれば、世界中のどこへでも一瞬で行けそうだ――と、そんなこんなで俺たちは、白銀坂通りへと難なく移動する!




