序章
「キヒヒヒ、お前、クビね」
「え、ええええっ! どういうことですか、課長! 納得できる説明をよろしくお願いします!」
「うるせぇな! お前の解雇を決めたのは本社の連中なんだ。俺にナニを言っても無駄だっつーの! 悪いがあきらめてくれ、美樹原ァァ~~」
「あ、あきらめてくれって言われても絶対にノーですよ! こちとら生活がかかっているんです!」
「知らねぇよ、んなこたぁ! あ、そういえば、俺は昇進が決定したんだ。キヒヒヒ、うらやましいだろう?」
「げ、外道ォォォ!」
「ん、なんか言ったか? とにかく、お前は解雇されたんだ。さっさと帰れや! 鬱陶しんだよ、ボケェ!」
と、そんなわけで十年間も汗水滴ながら務めてきた会社から解雇処分を受けた俺は、自身の昇進を自慢する外道な元上司を恨みながら帰路に着くのだった。
「美樹原さん、今月から家賃は二万円UPだからよろしくな」
「え、えええーっ!」
ちょ、今度は俺が住んでいる築四十年のオンボロアパートの管理人さんからの衝撃の言葉であった。おいおい、失職した俺に対する嫌味か!
「やっべ……二万足りねぇ!」
「足りない? じゃあ、今すぐ出てってくれ! 俺は亡くなった親父ほど甘くはねぇぞ!」
「ちょ、絶対払いますって! 三日だけまってください!」
「いいぜ。ただし、延滞金をもらうぞ。三日だから占めて七万五千円ほど、キヒヒヒ」
「ちょ、延滞金を取るんですか! つーか、三日分の延滞金を搾取って……一日二万五千円の計算かよ! 高すぎだろう! 家賃の不足金よりも五千円高い!」
「嫌ならさっさと今日中に出てけよ、貧乏人がぁ!」
「う、うううう……」
俺が住んでいる築四十年のおんぼろマンションの管理人は、すっげぇケチな奴なんだよなぁ。おまけに家賃滞納の延滞金を取るとか言い出すし――そんな管理人に父親で先代の管理人は仏のような人だったのになぁ……。
「あのハゲデブ! 絶対ぇ許さねぇ! ふう、そう言ったところでなにもできないのが辛いぜ」
ぐぬぬ、文句を言ったところで、俺にはなにもできん。ふう、貧乏人って辛いなぁ……。
「オッサン、どけろよ! ブランコ使いたいんだ!」
「うっせぇ、ガキ! あっちへ行け! それに俺がまだギリギリ二十代だからオッサンじゃねぇ!」
「わぁぁぁん、オッサンが怒った! うわあああーん!」
「あああああ、うっぜぇぇぇなぁ!」
「うわあああんー!」
「がおおおおー! それ以上、騒いだらぶん殴るぞ、ゴルァァ!」
うう、情けねぇ、ガキンチョに八つ当たりをしちまったぜ。さて、そんな俺がいる場所は公園だ。んで、遊具のひとつであるブランコを占領するかたちで座っている。
「情けないわね。子供に八つ当たりをするとか――」
「うお、なんだ、お前は! ん、JKか?」
ムムム、そんな俺を例えるなら酔っ払って暴れるオッサンを見るような冷めた眼で見つめてくる髪の長い女子高生っぽい女のコの姿が――ったく、なんだよ、お前は!
「私? 私は山崎沙希、魔法少女よっつーか復讐代行人でもあるわ」
「はぁぁ~~魔法少女だぁ? それに復讐代行人だと!?」
自称、魔法少女で、おまけに復讐代行人だぁ? なにを言い出すんだ? コイツは電波系かよ!
「さて、アンタの名前は美樹原健司でしょう? んで、復讐の的はアンタをクビにした元上司とアンタを追い出そうとしているアパートの大家でいいかな?」
「うお、なんで俺の名前を!? それに俺が復讐してぇぇって思ってる外道の名前を何故! お、お前……ス、ストーカーだな!」
ちょ、なんだよ、コイツ! どうして俺が復讐したいって思っている相手がわかるんだよ! そ、そうかストーカーか!? 何故かは知らんけど、俺のことを綿密に調べていやがるのか!
「私がストーカーかってことはともかく、アンタをクビにした元上司だけど、実際は自分がクビになるところだったらしいわ。それをちょっとしたコネを使ってアンタに変更したらしいわ」
「な、なんだと!? おいおい、一体どんなコネなんだよ!」
「その元上司は、アンタが務めていた会社とは長年つき合いのある取引先の会社の社長のボンボンらしいわ。んで、アンタが住んでいるアパートの管理人だけど、他の住人からも犯罪紛いな家賃徴収をやっちゃってる外道みたいね。ああ、闇金融会社の社長もやっているらしいわよ」
「マ、マジかよ! 許せねェェェェ! 外道がァァァッ!」
「さ、お怒りのところ悪いんだけどさ。初回限定ってことで千円でいいわよ。ああ、復讐したい相手はふたりだったわね。んじゃ、二千円、お願いね、お兄サン☆」
「こ、この野郎! 金を取るのかよ! だけど、どうやって俺の恨みを――」
「フフフ、仕置きの方法を知りたい?」
「も、もちろんだァァ~~ッ!」
おい、お前も金を取るのかよ! く、この守銭奴め! だけど、どうやって俺の恨みを晴らしてくれるんだよ? ええ、お嬢ちゃんよぉぉ!
「結果は明日の朝のニュースで確認できると思うわよ」
「な、なんだと!?」
「ま、そんなわけだから、まったね~☆」
「お、おいィィ!」
山崎沙希と名乗る自称、魔法少女のJKは、俺の目の前からスラコラッサッサーと駆け足で立ち去る。むぅ、なんなんだよ、アイツ! つーか、俺の恨みを晴らしてくれるのかよ、本当に……。