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一幕-3 再会は惨劇の始まり?

 お面の二人に連れられて、俺達は濃い霧の中を一列になって、懸命に走っていた。時折、霧の向こうから巨大化した昆虫が現れるが、そいつらは全てお面をかけた二人によってバラバラにされていく。先頭の鬼の面の人が、昆虫ばけものを片付けてくれているから、俺達はあんまり危ないと思わない。

「もうちょっとで鳥居が見えるはずなんだけどなぁ……」

 一番後ろを走ってる天狗の面の人がボソッと呟いたけど、辺りは霧が濃すぎて何も見えない。ついでに、視界が利かない中で走り回ってるせいで方向感覚も若干危うくなってる。だが、走らなきゃもっと危なくなるのは分かってる。足が言うことを聞かなくなってきても、だ。

「っ嘘だろ、こんなところで……! 全員止まれ!!」

「「「えっ?」」」

 ……って、急に止まるなよ……! 後藤の背中に追突しかけた俺は、先頭で二本の剣を構えた鬼面の人と、霧の向こうに見えた影に言葉を詰まらせた。……カマキリとかハチとか、そんなのよりもっとでかい何かがいる。慌てたように天狗の面の人が前に出て、鬼面の人の隣に並んだ。一体、何がいるんだ? 影だけじゃ、判断できねぇ……。

「ばかでけぇトカゲだな……! 鱗貫通させるのにどれだけ時間がかかると思ってやがる!」

「連続攻撃で鱗ごと押し切れると思う?」

「無理だろ。だが何でもいい、後ろにいる子どもに被害がなけりゃな」

 会話が不吉だ……。そう思った直後、霧の向こうからでかいトカゲが姿を現した。影だけ見ても結構でかいと思ったのに、実際は四メートル位ある。こんなの相手にするのかよ……。衿間は物凄く嬉しそうだけど……。

「来なさい、空狐! 焼き尽くせ!!」

 だけど、お面の二人が攻撃する前に、鋭い声が霧の向こうから聞こえ、白い狐が飛び込んでいた。……この声、まさか……? 俺が記憶を手繰り寄せている間に、馬鹿でかいトカゲが燃え上がった。しかも、青白い炎で。

「……来たか……」

「予想以上に早かった?」

「……予想以上って……酷いです。走ってきたんですよ、兄さん」

「「兄さん?!」

 俺と後藤は一緒に声を上げてしまった。だって結美先輩、どう考えても長女じゃないですか?! って言いたかったが、俺達に気付いてこっちを向いた結美先輩は、白い狐のお面を被ってた。それ、未希先輩のじゃないですか?

「あ。やっほー、久しぶり。よく来るね~」

「何? 知り合い?」

「はいっ! お久しぶりです! 結美先輩!!」

「ところで兄さん、もう一人の合流が間に合わないそうです。どうしますか?」

「えっ、無視?」

「神社の鳥居にいるよう連絡しとこうか」

「分かりました」

 完全に置いてけぼり食らった上に、話がわけの分からない方向へ飛んでいった。……なんで無視されたんだ……。後藤が若干しょげてる。でも結美先輩は、完全に無視したわけではなく、返事をしなかっただけだ。返事をしないイコール無視になるんだが、先輩はしっかりジェスチャーで答えてくれた。そして業務連絡(?)を終えて俺達の方をちゃんと見て謝った。

「ごめんね、名前を呼ばれた上で、反応したくなかったの。名前を知られるのは危ないから……」

 狐のお面を外し、結美先輩は困った顔で謝ってくれたが、なんで名前を知られると危ないんだ? その理由は教えてもらえないのか……?

「空狐って……空狐って言いましたよね?! あの妖怪の空狐ですか?! 四百年以上生きた狐の妖怪の!!」

「えっ、ちょっ、何?!」

「うわ……でたよ変態……」

 雰囲気をぶち壊してくれてありがとう、衿間。おかげで何聞こうとしたか忘れた……。しかし、長浜の罵倒すら聞こえないとは、相当興奮してる……。結美先輩、ドンマイ……。とはいえ、何でここまで大事になったんだ? 聞いても原因は俺達って言われそうだから、やめておこう。そしてさりげなく、堅山先輩は結美先輩から距離をとっている。……お面の人の時もそうだが、何で堅山先輩この人達避けてんだ?

「堅山先輩、どうしたんですか?」

「ん……? あぁいや、気にするな」

「……? そうですか」

 そんな感じで良い休憩がとれたところで、また俺達は走り始めた。いつまでも同じ場所にいるのは良くないそうだ。


 そして数分後。俺達は霧の中でも分かる、赤い鳥居を見つけた。更に、そこでかなりの数の昆虫ばけものを相手にする巫女さん(多分じゃなくても未希先輩)まで見てしまった。……多勢に無勢って……ああいうのを指すんだろうな……。現実逃避したいが、これははっきりした現実だ。

「うわっ、こりゃ酷い! 援護した方が!」

「……いや、する必要はない……。もうすぐ、片付く……」

 今にも飛び出していきそうな天狗の面の人を、鬼面の人が手で制した。だが、素人が見ても危ない状況に見える。が、

「兄さん、応援に行けなくてすみません……」

「いい、気にするな」

 早っ!! さっきまで結構、昆虫いたよな?! 何処に消えたんだ!!

「かまいたちなら瞬殺だな……。俺見えなかったよ……」

「霧が酷いですから……。それより、早く上へ」

「ああ。……おい、もう少しの辛抱だ。この林を抜けて、階段を上がれば、安全地帯だ」

 鬼面の人はそういったが、ホントに神社って安全なのか? 前みたいに、スライム見たいなのが襲ってきたりしないのか?

「安心しろ、アレが神社まで出るのは稀だ」

「兄さん、先導してください。後ろと“上”は守ります」

 鬼面の人……、未希先輩と同じように読心術が使えるのか……。あと、兄さんって……。未希先輩って、妹だったのか?

「今はどうでもいい。早く行け。……来る……」

「早く、二人とも! 囲まれるよ!!」

 未希先輩、やっぱり怖い……。しかも黒い狐のお面が似合いすぎてる……。だけど、今は気にしてる場合じゃない。結美先輩に言われるままに、俺は前を追って走り出した。かなり距離があいてしまっているが、すぐに追いつけた。未希先輩も、俺の後ろに少し距離を置いて走ってくる。チラッと見た未希先輩のその横には、身体の長いイタチのように見える何かが憑いている。

「迫り来るモノ共、ことごとく引き裂け……。け、かまいたち……」

 冷たい声が、俺の後ろから聞こえると同時に、下から風の唸り声が届いた。……下で何が起きているのか、俺は恐怖と戦いながらも見ることは出来なかった。

 ようやく中間地点の踊り場にたどり着いた時には、堅山先輩以外のオカ研メンバーの息は完全に上がっていた。俺なんか、喋る元気がない程疲れてた。……マジで、運動したほうがいいなこりゃ……。膝が笑ってる。

「……霧が薄くなったが……」

「ですが、結界がかなり侵食されています……。どうにか補強しないと、防げません」

「でも、今は無理だよね?」

「ああ、難しい。……力を借りることが出来れば別だが……」

 ……何の話してるんだ……? 結界がどうとか、力を借りるとか、どう考えても中二病の世界なんだが……。

「あ。そろそろ休憩終わって大丈夫?」

「ま……、待って……下さい……。息が……」

「でもなぁ……」

「もう少しなら……、“持たせます”」

 持たせる……? 一体何を? でも、俺はその疑問を未希先輩にぶつけることが出来なかった。何かに集中するように階段の下を見るそのお面が、俺を恐怖させたからだ。

「じゃぁ、今のうちに質問タイム! 名前以外の質問に、答えられる範囲で答えるよ」

 未希先輩がじっと動かなくなったのを見計らったのか、天狗のお面を外した黒目のイケメンのお兄さんが手を叩いてこう言った。ついでに、未希先輩以外の人もお面を外してくれた。……鬼の面の人も、結構なイケメンだ。何処となく、未希先輩に似てる。

「言っとくが、時間は限られてるし、俺達が知らないことは答えられない。分かってるだろうがな」

 ……ですよねー……。でも丁度いい。未希先輩の様子も気になるが、今は疑問ばっかでモヤモヤするんだ。

「じゃあ俺から! 何で皆さんお面被ってるんですか?」

 さすがだ、後藤! 俺もそれ気になってたんだ!!

「ああ、お面の意味ね。簡単なことさ。顔を知られないためだよ。こういう、新手の怪異に顔を知られるのはちょっと、大変だからね」

「新手の怪異って、どういう意味ですか? もしかして、悪魔とか?!」

「えっと……。悪魔はさすがに……見たことない……かな」

「えーーー!」

「黙れクソチビ。どう考えても妖怪しか出てないだろ。これで妖怪の存在が証明されたな!」

「うっさい、変態!」

 また始まった……。もう俺は止めないぞ。結美先輩がオロオロし始めたけど、俺と後藤でほっといてくれ、とジェスチャーする。それに頷いたところで、俺も疑問をぶつけた。

「名前を聞いちゃいけない理由って何ですか? 普通に呼び合っちゃ不味いんですか?」

「あぁ、名前ね……。お面を被ってる理由に繋がるけど、新手の怪異に覚えられると不味いんだよ。ほら、知らない人でも、自分の名前を知ってたら妙に安心するだろ? あれと同じようなものさ」

 う……。う~ん……、分かるような、分からないような……。でも、もっと詳しく聞くことは出来なかった。動かなかった未希先輩が、ゆっくりした動作でこっちを向いたからだ。

「兄さん……。もう無理……」

「結構耐えたな。仕方ない、休憩は終わりだ。駆け上がる!」

「ほら、お前らもケンカしてる暇ねぇぞ」

 さりげなく、堅山先輩が長浜と衿間のケンカをやめさせる。こういう時、先輩って肩書きは役立つよなぁ……。ま、いまはそんなこと考えてる余裕はないんだけどな。

「3……、2……、1……、走れ!!」

 お面をかけ直した天狗の人の合図で、俺達は一気に階段を駆け上がる。下からは何かが這い上がってくる音が、上からはハチの羽音が聞こえる……!! もしかして、かなりピンチ……? と、思ったときだった。ものすごい音がしたのは。

「頭上より来る全てを落とせ……。黄龍……」

 未希先輩がそう言ったのと、俺達の視界が晴れたのは同時だった。霧が……どこにもない……? どういう事だ?

「はい、お疲れさん。無事、結界内に保護完了だ」

「待って、未希!! どこ行くの?」

「結界を補強する。先に彼らを頼む。ここより上の方が安全だ」

 不満そうな結美先輩をそのままに、未希先輩は下に降りて行ってしまった。ため息をついた結美先輩に連れられて、俺達は神社に行き、そのまま未希先輩の自宅に泊まる事になった。旅館の人には、未希先輩のお兄さんで、鬼の面をかけていた貴仁さんが連絡してくれた。あとは、結美先輩の従兄のお兄さんである拓人さんから続きの質問を受け付けてくれた。未希先輩が戻ったのは、それから一時間後だ。


そして、何事もなかったかのように、俺達は一夜をそこで過ごした。だがこれが、嵐の前の静けさだとは誰も知らなかった。

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