一幕-1 季節性の七不思議
旅館に入った俺たちは夜まで、温泉に入ったり美味い飯を食ったりと、あの地獄を忘れるようにこの場所を堪能した。いやぁ、やっぱいいよな、美味い飯って。あの地獄の後だし、ここ天国だわ……。
「なんでこいつと同じ部屋なんだ!」
「こっちが聞きたいわよ!!」
……男女別室だったらもっと良かったのに……。とはいえ、ここで女子一人にすんのもアレだ。更にいえば、これは後藤が悪いわけではなく、旅館側に原因があったりする。何でも、急な団体さんのせいで部屋が足りなくなったそうで、部屋を急遽変更せざるをえなかったらしい。
「ごめんって、長浜さん。急に部屋が足りないって言われたらこうするしかないだろ? 障子もあるし、今回は勘弁してよ」
「うぅ~……。分かってるけど……」
「さすがに、女子一人で別室はいろいろまずいってモンだ。今回は我慢しろ、長浜」
堅山先輩、かっこいいこと言うな。端の布団占領しながらだけど。もう完全に寝る体制になってる。ちなみに、時間は午後八時を回ったところ。俺も正直なところ、もう寝たい……。あのスピード地獄、予想以上に身体にキテる。って思ってる俺は、後藤が窓の外を見てニコッと笑ったのを見てしまった。……やばい、嫌な予感がする。そういえばこいつら、何で浴衣着てないんだ?
「よーし、いい時間だな。みんな、部活の時間だぞッ!」
「俺は拒否権を発動するぞ!」
「えぇ、なんで? いいだろ、ほら行こうぜ!」
嫌な予感しかしないからだよ! なんて言った所で、後藤は聞きやしない。だが、ここは粘るしかない。何故なら、物凄い嫌な予感がするからだ!!
「部長、何処へ行く予定なんだ?」
おい衿真、何故聞いた!
「ふふふ、聞いて驚け。この上弦町で有名は心霊スポットの一つだ!」
……ヤバイ……。嫌な予感が当たりつつある……。まさか、神社じゃないだろうな? あそこは心霊スポットじゃなくて、危険スポットだ! だが、後藤ならまたあそこに行くって言い出しそうだ……!
「下弦川の川原だ! 何でも、この季節限定の心霊スポットらしい! これはオカルト研究部の活動に相応しいッ!」
拳を振り上げて演説する後藤に、長浜も衿真も納得した様子で頷いてる。おい待て、そんな理屈でいいのか?! やばい予感しかしねぇぞ!
「というわけで、懐中電灯持ったら行くぞ! ほら山手、とっとと着替える!」
「断る! 俺はいかねぇぞ、そんなあぶねぇとこ!」
「え~、だって山手、霊媒師だろ? すげぇの見たくねぇの?」
「だから、俺は霊媒師じゃねぇって言ってるだろ!」
何度目か分からない会話だが、俺のささやかな抵抗は常に無視される。それで結局、オカルト研究(残念)部の面々と一緒にその川に行く羽目になる。その会話はもう、思い出すだけでも辛いので割愛だ!
ちなみに堅山先輩は、もう布団の中で熟睡してて起こせなかったから、この肝試しには付いて来なかった。
川への道は街灯のおかげで明るくて、前回のように迷うようなことはなかった。……いや、前回はヘンな感じがしたが、今回はなんともない気がする。……相変わらず怖いけどなッ! だが、そう思えたのもつかの間で、川原に街灯にの光は届いていない。しかも、月も出てないから真っ暗。くそ……懐中電灯の明かりも、あんまり遠くまで照らせない! しかも川原は石ばっかりで、気を抜いたら滑る石踏んで転びそうだ……。
「ねぇねぇゴトーちゃん。この川、何で心霊スポットなの? もしかして、悪魔でも出てきたりするの?」
「悪魔なんて非現実的なもの、出るわけがないだろうチビ。あるなら妖怪に決まってる。」
「はぁ? 妖怪のほうがもっとありえなわよ!」
「言ったなこのバカ女!」
あーあ、また始まったよ、この二人。そうは言ってもこの川、なにが心霊スポットなんだろうな。別に怪しいところは光の範囲では見えないし。単に橋が架かってるだけじゃないか。
「なぁ、後藤。一体この川の何処が心霊スポットなんだ? 単に橋が架かってるだけの川じゃないか」
「お、さすが霊媒師の山手、橋に気付いたんだな! 実はこの川、夏の夜だけ橋が架かるんだって。それで、その橋を渡ると、生きながらあの世に行けるらしい。まぁ行っても、帰ってくる方法がないから試した人いないんだけどね」
「……は……?」
おい、嘘だろ……。こんな、一見普通橋がとんでもないところに繋がってるなんて……。俺は懐中電灯でその橋を照らしながらそれを見上げた。だが、確かに言われて見ればこの橋、ちょっとぼろ過ぎないか?普通に渡ったら崩れそうなほどボロい。いや、下のほうから見てるから、そう思えるのかも……。
「も~うるさいな、この変態!」
「黙れチビ! 変態じゃねぇ!」
あの二人、まだやってる……。そろそろ後藤が、止めに入ろうかどうしようか悩み始めてる。今に始まったことじゃないが、そろそろなぁ……。
「ちょっと二人とも、落ち着いたr」
「あぁーもう! ホンット頭固すぎなのよ、変態エリマキトカ……、キャッ!」
「うわっ!」
「え、ちょ、わっ!」
「え。うわっ!!」
いってぇ……。長浜が衿真を殴った衝撃で体制を崩して、後ろにいた後藤がそれに巻き添えを食って、さらにその後ろにいた俺が巻き添えを食って倒れるなんて……。ギャグ漫画でもありえない展開だぞ! あと、前のめりに倒れたせいで、顔面とか鼻の頭とか手のひらとかいてぇ……。それに、なんか掴んでる……。
「うぅ~……、腹筋固すぎ!」
「人にぶつかっといてそれか!」
「いたた……。山手、大丈夫?」
「……お、おう……。くっそ、鼻いてぇ」
マジで災難だ……。くそ……。とはいえ、この川原では特に何もなかったわけだ。後藤は少し残念そうだが、俺としてはこうなってくれたほうがありがたい。もうちょっと見て回りたいな、とかほざいてたが、出際に女将さんが、午後十一時には旅館の鍵を閉めるから、と言われていた事を思い出させて、引き下がらせた。……ホント、転ぶ以外に何も起こらなくて良かった。そう思いながら俺は、掴んだものをポケットの中に押し込んで、あまつさえそのことをすっかり忘れてしまった。
それが、何を引き起こしてしまったのか、俺は後になって知ることになる。
よし……。これで、少し投稿時間が空きますが、なるだけ早く、更新したいと思います。GWにも入りますし……w




