幕間―魔術師は語る―
やや残酷描写は入ります。
ノンノンことゼノンの話。
残酷描写はどこまでがオッケーでどこら辺から駄目なんだろうか…
とりあえず、タグは入れました。
「すいません、相席してもいいですか?」
その一言が、それからのはじまり。
大陸全土を巻き込む大戦が、かつてあった。
始まりは、気の狂った小国の王が隣国との境の村を次々と滅ぼしたこと。
その数は100を越える。少人数の小さな村が多かったゆえに。村ごと焼かれ、酷いと山ごと焼かれ、無惨に善良な人々が犠牲となった。
狂った王は洗脳と炎の魔術で、国を焼き、あるいは支配していった。
そうやって、抵抗力する国々と戦い、勝敗や反乱を繰り返していった事で戦火は瞬く間に広がった。
俺は、はじまりの滅ぼされた村の生き残りだった。
生き残り、といっていいのか微妙ではあるが。
その時、俺は5つだった。
洗脳された兵に母と崖まで追い詰められ、俺は母に落とされた。
最後に見たのは俺に向かってなにやら叫ぶ母の顔と振り上げられた剣。
生きて、と。
おそらくそう言いたかったのだろう。
そこから先の記憶はなく、気付けば薄汚れたテントの中だった。
後の軍事大国といわれる小国ゲオルグの王、当時は王子のシュバルツに拾われた。
ゲオルグは元々傭兵都市が国に成ったのがそもそものはじまりで、王族といえど傭兵として働かなければならないという。
俺は、たまたま戦地に向かう途中のシュバルツ達に発見され保護されたらしい。
笑えるが、光っていたそうだ。
俺の体は。
ふわふわと浮き、シュバルツが触れると発光はやんだらしい。
妖精かなにかかと思ったそうだ。
黒髪に焦げ茶の目をした俺は、青銀の髪に金の目になっていたので無理もない。
あるかないかの魔力は、底無しとなった。
依頼した国が滅ぼされたのでシュバルツ達は国に帰ることとなり、俺も共に行くこととなった。
心を閉ざし、何も話さない俺に変わらず接し、世話を焼いたのはシュバルツと師匠となった魔術師のじいさんだけだった。
それから三年が過ぎ、戦火はいよいよ激しさを増していた。
俺は魔術師としての才能を開花させ、師匠をしのぐ程となった。
言葉少なにも戦地に共に行くことを希望するが、叶えられず悶々としていたときだった。
シュバルツが味方を逃がすために囮になり、籠城する城を囲まれるとの知らせが入ったのは。
頭が真っ白になった。
母の最後が目に浮かぶ。
焼かれる村。
逃げ惑い、なすすべもなく切り捨てられらる人々。
気が付けば、俺は、血塗れで立っていた。
目の前にはシュバルツがいた。
立っているのは、俺達二人のみ。
血だまりの中、生きているのは俺達だけだった。
無我夢中でよく覚えていないが、俺が全てやったのだと悟った。
すまなかった、と繰り返し男泣きするシュバルツをどこか遠くに感じながら、俺は思った。
復讐しよう。
大事にしたいものを、二度と失わない為に。
結果を出した俺は戦場に立った。
最後まで反対したのは、シュバルツとじいさん。
だが二人を振り切って、俺は狂った王と操り人形となり正気には戻れなくなってしまった人々を滅ぼした。
まだ10にもならない俺は世界最強の魔術師として名を轟かせ、恐れられた。
自分でいうのもなんだが人間ばなれした美しい顔をしておいて無表情に敵を殲滅する姿のイメージが強すぎたらしい。
仕方がないのだ。人は異質なものや過ぎたるものを恐れる。
排斥したがる。
平和に近付けば近付くほど、血塗られた俺の存在は傭兵業を主な産業にしている国にあっても浮いた。
恐れる目。
蔑む目。
媚びへつらう目。
まともに俺を見てくれるのは二人だけ。
ある時、どうしても耐えきれず城を飛び出した。
あちこち飛び、何処の国にいるかわからなくなり、疲労と空腹でベンチにもたれかかってへばっていた時だった。
「相席してもいいですか?」
人の良さそうな若い男か声を掛けてきた。
俺が頷くと、嬉しそうに笑って座り荷物を広げはじめた。
荷物は弁当だった。
腹の虫が盛大に鳴った。
「彼女が張りきって料理を作ってくれてね、食べきれないから一緒にどうかな。」
何度も頷くと、すすめられたので遠慮なく食べていった。
何だか懐かしい。城で食べるものは美味しいが、一人で静かななかで食べる食事は味気なくて、寂しかった。
若い男は俺が返事をしなくても色々話しかけてきた。
誰かとワイワイ食事するのはいつぶりだろうか。
シュバルツとじいさんと話したのはいつだったろうか。
二人とも、城のなかでも外でも必要とされて、毎日忙しくて、お俺が話しかけるすきも時間もなかった。
「さびしい。」
ぽつりと俺が言うと、男はお喋りをやめ「何故?」と問いかけてきた。
そこから俺は吐き出すように話した。
これまでの事を。
何故話してしまったのだろう。
俺が弱っていたからだろうか。
男が怯みもせず、まっすぐに俺を見てくれたからだろうか。
まるで幼い頃のように、ただの子どもに向けるまなざしで、態度で接してくれたからだろうか。
話終えると、男はハンカチを出し俺の涙を拭った。
泣いていたのか。
拾われてから、初めて泣いた。
俺も泣けるのか。
まだ、人間らしい所もあったんだな。
少し落ち着くと、男は微笑んで言った。
「私はユーリスといいます。ユーリでいいですよ。
よかったら家に来ますか?もう暗くなるので。」
俺の手を引いてユーリは歩き出した。
子ども扱いするな、と言ったけど繋いだ手は握ったままだった。
ユーリの家は狭い集合住宅街の狭い一室だった。
いいとこの坊っちゃんのような雰囲気だったので驚いた。
「驚いた?
実はね、好きな人ができて結婚したいと言ったら追い出されてね。
ここに住むことになったんだよ。彼女と一緒に。」
笑って言う事じゃない。
清々したとか言ってるし。
その後、帰ってきたユーリの彼女…後の妻ことカトレアと大喧嘩する事を、俺はまだ知らない。
次の日、泣きながらシュバルツが迎えに来る事を、俺はまだ知らない。
久しぶりに、昔の夢を見た。
俺はシュバルツに拾われ新たな生を手に入れ、ユーリと出会った事で、人間らしさを取り戻した。
ユーリの子ども達と過ごすことで喜怒哀楽や許す事を得た。
そして、目覚めたとたん固まる妻、ミチルのおかげで人を慈しんだり、愛する心を持てた。
俺の手は、この身は、血にまみれ、赤を通り越しどす黒くなっている事は分かっている。
どんな理由があろうとも、罪は消えない。
それでも、隣に居てくれる、手を取ってくれる妻を、友人達を守っていきたいと思っている。
「朝から心臓に悪いから、こっち見ないで。
というか来ないで。」
そんなことを言う妻でも愛しく思うのだ。
俺は、美しすぎる笑みを浮かべ、ミチルを優しく、そして逃げられないよう拘束…もといい抱きしめると、おはようのキスを贈った。
ギャアアアァ!
と、可愛らしくない悲鳴をあげ、逃げようともがくミチルをがっちり抱き締めながら、俺は幸せを噛みしめるのだった。
ミチルさんは可愛い顔ですが、区分的にリコと同じタイプです。