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幕間―庭師は語る―

ここから人名入ります。

頬を染めた庭師の青年の視点。

あの方に会ったのは、どしゃ降りの雨の中だった。


秋の終わりに親に捨てられ王都のごみ溜めのような貧民街で這いつくばるように一人で生きてきた。

冬をなんとか越し、春の陽気に誘われつい表通りの市に来てしまったのが運のつきだった。

空腹に耐えかね、小さなパンをくすねたのが見つかり散々殴られ蹴られ虫の息になった。

ゴミ捨て場に投げ込まれながらもなんとか這い出した所に降り注ぐ雨。


このまま死んでいくのか、とぼんやり思った時だった。


「しっかりしなさい、今助けるから。」


暖かな手が、この体を抱き上げてくれた。

その真っ白なシャツは泥と血に汚れて、汚いからだめだと言ったら「かまわないよ」と笑った。

誰かに笑いかけられるのなんて、いつぶりだろうか。

ずっと嘲りや虫けらをみるような目でばかり見られていた。親でさえも、おれに笑みを見せた記憶は、数えるほどしかなかったというのに。

本当に嬉しくて 幸せになり涙が溢れたが、おれを抱えて必死に走るあの方は気付きもしなかった。

春の雨は、おれの涙と過去を洗い流してくれた。


あの方…旦那さまに引き取られてから、おれの人生は変わった。

住まいと食事、暖かな愛情を与えられ、生きるすべを学んだ。

名前もいただいた。

読み書きができるようになると、旦那さまに呼ばれ分厚い本を見せられ、おれの名前の意味を教えられた。

名に恥じない生き方をするのだと幼いながらおれはその時誓った。


屋敷のみんなも、旦那さまの家族もみんな優しかった。時々厳しいが、それは必要なものだった。

そんな人達のために役に立ちたかった。

色々試したり手伝わせてもらい、庭師見習いとなった。

親方は筋肉粒々な上に強面で顔に大きな傷かあり山賊や海賊の親分みたいで、はじめは怖くてしかたがなかったがすぐに慣れた。

見た目に反して、優しい所もけっこうある事に気付けたから。


幸せに暮らしていたので、忘れていた。

自分が捨て子で盗みを犯していたことを。


13歳の時に、市でパンをくすねた店の男がやって来て盗人だと言いふらされたくなければ金を寄越せと脅してきた。

迷惑をかけたくなくて金を払うと、もっと寄越せと更に脅してきた。

出せるものもなくなると、今度は旦那さまを脅しにかかり出ていこうと決意したとき、小さな手が止めた。

お嬢さまだった。

おれの手は汚いから触れないでほしいと言うと、


「あらえばいいよ。

それにね、きたないのはおにわをまもってくれてるからでしょう。

きれいなはなをさかすまほうのてだわ!」


そう言って笑うお嬢さまの顔が、あの日の旦那さまにそっくりで、

恥ずかしげもなくわんわん泣いてしまった。

脅した男は何故かすんなり去り、おれの平穏は戻ってきた。


あれから15年。

変わらず屋敷に仕えるおれは今日も庭師の仕事にせいをだす。

名前と、魔法の手に恥じない仕事をする為に。

いつだって全力をかけている。



「全力の向きが違うと思いますよ。二人とも。」


執事さんが溜め息をこぼす。

その横には、びしょ濡れの黒髪の騎士が一人。

奥さまと若旦那さまを見慣れたおれでも、目をひかれるほどの美形っぷりだ。

本当に水も滴っているいい男。

お嬢さまに結婚を申込み、お粗末な儀式を挙げさせた憎むべき美形こと近衛騎士団長である。


「落とし穴は、ちゃんと埋めますから大丈夫です。」

おれは恋人のメイドと共に、近衛騎士団長をぎゃふんといわせる為に落とし穴を作って、奴は見事はまってくれた。

大成功だ。


「仕事はどうしました?」

「もちろん終わらせました。

一応お客様に失礼した自覚はありますよ。

けれど謝る気はさらさらありません。

うちの旦那さまとお嬢さまにひどい事をしたのはその人でしょう。

それにね、その人は屋敷のみんなもおれ達も傷つけたんだ。」


「それはどういう事だ?」


騎士団長が聞いてくるが、あえて無視する。

苦笑しながら執事さんが代わりに答えた。


「お分かりにならないのですが?

我々は大事なお嬢様の結婚を楽しみにしていたのです。

クレアは花嫁衣装を作る約束をしていました。

カイムはブーケや飾り付け用の花を作る約束を。

大なり小なり約束を皆がしていたのです。

まさか、式なし、粗末で貧相、失礼極まりない儀式をされるなど思いもよらなかったのですよ。」


穏やかに和やかに執事さんが毒をはく。


「私達の式も延期です。

ご自分の幸不幸に酔ってないで、回りをみてください。

一生恨んでやるぜこんちきしょう!!」


笑顔でクレアがとどめを刺す。

さすがだ、クレア!!


「謝罪など不要です。

そんなものお客様の自己満足ですので。」


おれも一言添えておく。



「申し訳ないのですが、主は暫く戻りませんのでお引き取りください。


お前達も片付けをはやくなさい。」


執事さん…

優しい感じだが追い出したいんですね、そうなんですね。


『お気をつけてお帰りください。』


三人で一礼すると、なにか言いたげな顔をしつつも、憎き近衛騎士団長は去っていく。

哀愁が漂うが、哀れみなど感じない。


我らが旦那さまの屋敷では、美形だからってなにしても許されない。

美の神の化身のような奥さまと若旦那さまがいるからだ。


「クレア、式を延期にしてごめん。」

「いいのよ。旦那さま達に式に出てもらう約束だったし。

カイムが旦那さま大好きなの知ってるもの。」

「クレア…こんなおれを愛してくれてありがとう。

おれからの愛の印に毎日花を贈るよ!」


ポケットに忍ばせていた小さなブーケを渡すと、クレアが頬を染めて笑った。


「明日も掘ろうね、落とし穴。」

「ああ、そうしよう!」


おれ達が盛り上がっていると、執事さんがこそりと言った。

落とし穴の中身は泥にしては…?と。

明日はそれにしよう。

水から泥にランクアップとは執事さんもなかなかやるなぁ。



さあ、麗しの近衛騎士団長殿みせてもらおうじゃないですか。

お嬢さまへの愛の強さを。

どうあがき、掴み取れるのかを。

あんたが旦那さま達のためになると認めるに足りるならば、我々も協力してやってもいいですよ。



カイムは庭師ですがフラワーアレンジメントもこなします。

速くて美しい、もしくは可愛い花束やなんかお手の物です。

クレアはメイド兼裁縫師。

何でも作れます。


カイムにとって旦那さまは神様みたいな存在。

男性好きなわけではない。


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