身内経営王国(笑)
ちょっとアゲート国にスポットを戻します。
暇だなぁ~
用意された一室で真面目な顔で本を読みつつ若きゲオルグの外務官ルーヴィルは思った。
共に控えている騎士と魔術師も同様だろう。
真剣な顔しているが、普段から共にいるルーヴィルにとっては欠伸を噛み殺しているのが丸わかりである。
ゼノンによる模擬戦闘という名の一方的な蹂躙はアゲートの面々を震え上がらせる事には成功したが、ごり押しでこちらの要求を全て通すまではいかなかった。
まぁ、この程度でホイホイ言うことを聞くような国ならとっくに無くなっているでしょうが…
とルーヴィルは思うものの、叔父のゲオルグ国王のシュバルツは早々に飽き…いや、めんどくさく…いや、予定があったのでルーヴィルに全て任せると言って帰ってしまい、アゲートは話し合いをするので待ってほしいと足止めをくらいはや数時間。
手持ちの本も読みきってしまい退屈していた。
ちなみに残留組はルーヴィル含めたった三名である。
ルーヴィル以外は熾烈を極めたジャンケン大会での勝者が残った。
けっこうふざけた人選であるが、逆にいえば誰が残っても遜色ない面子ともいえた。
「ルー坊、どうなると思う?」
黙るのに飽きた魔術師が話しかけてくると、ルーヴィルは顔をしかめた。
「その呼び方止めてくれませんかね、メイズお祖父様。」
魔術師…彼はゲオルグの魔術師副長であり(ゼノンの後始末&フォロー係)、ルーヴィルの父方の祖父である。
「おじいちゃんと呼びなさい、ルー坊。お祖父様なんて他人行儀な!
ほら、リピート!おじいちゃん!」
「余所様のお城です…!!!
誰か入ってきたらどうするんですか!
というか、さっきはルーヴィル殿呼びしてたじゃないですかっ!家じゃないんです!他人行儀守って下さいよ!」
「フッ、ワシを誰だと思っておる。天災人外魔境のゼノン殿を補佐しきれるほどの男なのだ。防音と気配察知、そして目隠しの結界を張り済みだ!
しかも向こうの動きが見えるよう廊下に窓に監視つきだ!」
「無駄にハイスペックな事しないでくださいっ!
疲れるだけでしょうお祖父様っ!もうお歳なんですから!」
「結婚したの15で1児の父になったのが10代でルー坊生まれたのが30代、今現在60前だから現役だもん!」
「だもんじゃない!!!」
「はやくひ孫カモン!」
「黙れジジイ!」
「もージジイじゃなくて、おじいちゃん。」
冷静沈着に見えるメイズだが、けっこうはっちゃけた性格であった。
ゲオルグの頭脳と呼ばれるほどのルーヴィルでさえ遊ばれてしまう。
いや、城のメンツにはだいたいいじられてしまうのである。年若い故に。
元々傭兵集団が起こした国であり、血族や親戚、昔からの知り合いが多いゆえ家族経営国家と揶揄される事もあるほどだ。
ただ決して仲良しこよしではなかった歴史もある。
先王の頃は血で血を洗う凄惨な家督争いなどざらだったのだから。
今のよく言えば和気あいあい、悪く言えば軽いノリが許される現状はシュバルツとゼノン、そして祖父達のお陰というか、諸悪の根源というか…
それまで黙っていた騎士が立ち上がる。
手にはちいさな弦楽器。
「一番、レグルス、唄います!」
「何考えてんのお前っ!!!!!」
「おお~いいぞ!がんがんいけ~!」
陽気に弾き語り始める騎士にルーヴィルの絶叫が重なり、メイズが囃し立てる。
泥沼であった。
帰ったら叔父のシュバルツに特別手当てを請求してやると、怒鳴りすぎてぐったりしながらルーヴィルは思うのだった。
メイズさんは何話目か前に出た人です。
実はルーヴィル君のお祖父様。
シュバルツさんにはお姉さんがいてメイズさんの息子さんにぞっこんになり降嫁してます。
ガチムチで長身のシュバルツ姉に対し子犬のようなメイズ息子カップルは、ある意味けっこう衝撃を与え、男らしい乙女達と、軟弱系男子に夢や希望を与えたりしました。




