模擬戦闘の結末。
圧倒的有利なはずだった。
『俺は3分は反撃しない。』
ゼノンは言った。
ご丁寧に懐中時計を取り出して。
剣が、槍が、弓矢が、そして攻撃魔術が雨あられと彼に降り注いだ。
だが、ゼノンは倒れるどころか、無傷。
もう終わりか?と言えば、無詠唱で炎の矢を降らせる。
『一度防ぐか、弾けば無くなるように調節している。
まぁ、頑張れ。』
次々と倒れる兵士達。
仲間と息を合わせ、なんとかしのぐ。
いつまで持つのか。
悪夢のような攻撃魔術の連続に、ゼノンに背を向け逃げる者も居た。
その背にも、容赦なく魔術は放たれた。
先に倒れるのは魔術師や新米達。
魔術師達は自身を省みず、加護の術や結界で兵を守ろうとして自衛が間に合わず倒れるものがほとんどであった。
家柄だけで選ばれた実力無しの貴族はすでに全滅。
特攻で切りつける猛者も居たが、風の刃で返り討ちにあい、血飛沫を撒き散らし倒れ伏す。
絶望的な力量の差に、恐怖が生まれ段々と防戦になっていく。
ゼノンは…
笑っていた。
返り血を浴びてもなお美しい顔で朗らかに。
どこか狂気をはらんだ笑み。
不意に攻撃がやみゼノンが言った。
「恐ろしいか俺が。
だが本物の戦争はこれ以上だ。
ふんぞり返った貴族や王族は犠牲にならなくとも、お前ら騎士や兵士、平民は犠牲になるだろう。
争いはいつだって、弱者やそれを守ろうと立ち上がる者の命を奪う。
さて、この国の王族はどうかな?」
ゼノンは今度は侮蔑の笑みを浮かべる。
血が沸騰する気がした。
陛下を、主を嘲る事なと許しはしない。
「我らが王を侮辱するな!
皆のもの、立て!我らが戦わずして、国を守れるか!」
王の近衛騎士団長が声を上げ、自らもゼノンに立ち向かう。
彼は強かった。
攻撃を切り伏せ、吹き飛ばされてもなお剣を掴み立ち上がる。
その姿に、半分以下になった騎士や兵士達も奮い起ち、向かっていく。
それでいい、とゼノンが呟く声が聞こえた気がした。
気付けば、自分一人が剣を持ちゼノンと睨み合っていた。
仲間は地に倒れ伏し、呻き声を上げ、あるいは気を失っている。
この身も満身創痍だ。
自分を支えるのは主への忠誠心と、どこかにいる彼女に無様な姿は見せられないとの自尊心。
「団…長…、降参を…」
この身を庇い、無数の風の刃をうけ血を流し倒れ伏す副団長が弱々しい声しか出せず自分に言う。
「できはしない。
例え惨めに地に伏すと知っていても、主を守る剣で有る限り…いや、この国の騎士を名乗る限り立ち向かい続けるッ!!」
攻撃魔術を切り伏せつつ、一気に距離をつめる。
魔術師は戦闘には優れない者が多いという。
間合いに入ってしまえば、例え身体能力がそこそこ高くとも倒す自信があった。
懐に入り込めれば、共倒れ覚悟でも勝機はある。
そう、思っていた。
「甘い。」
懐刀をゼノンが振るった瞬間、
体が吹き飛び、結界の壁へと叩き付けられた。
むせると、血も吐いた。
痛みが体を襲う。
『エドッ!!
もういい!もう十分だ!』
結界ごしに主のくぐもった声が聞こえた。
いつもの余裕の笑みが台無しだ。
昔、主は…親友はよく泣いた。
からかわれては泣き、期待に応えられないもどかしさに泣き、誰かが傷付くと泣き、情けないと泣いた。
対して、幼い頃よりあまり表情の起伏もない自分。
それでも悲しかったり、悔しかった事はあった。
ただ、親友のように泣けないだけで。
けれど、親友はその分も泣いた。
『痛いときは痛いっていえよ、ばか!
平気じゃないのに平気そうな顔するな!』
家族以外で自分を理解し思いやってくれる親友を護りたいと、その時思った。
だからこそ、ここまで来た、ここまで来れた。
笑みが口元に浮かんだ。
親友が泣き出す前に立ち上がる。
「ははは、まだやるか?
生憎、俺は魔術だけが取り柄ではないからな。
剣の腕はお前には遥かに劣るが、魔術を織り込んだ剣と強化の術があれば万全でないお前の相手は容易い。」
そう言いながらも、ゼノンはこちらが攻撃を仕掛けるまでなにもしない。
随分と余裕だ。
こちらは命懸けだというのに、彼に取っては遊びみたいなものでしかない。
悔しさが込み上げる。
かすり傷でもいい。
奴に、一矢報いる。
呼吸を整え、剣を構え直す。
ふらつく足を気力で立たせる。
神経を研ぎ澄まし、その時を待つ。
「来い。」
大袈裟にゼノンが両手を広げて見せる。
全力をかけた一撃を放つ。
同時に、ゼノンが懐刀を振るう。
吹き飛ばされる寸前、その頬に傷をつける事に成功した。
再び結界に叩き付けられるが、自分で立ち上がるより先に頭を捕まれ、引きずり立たされる。
間近に端正な顔があった。
背筋が凍るような狂気を感じるが、負けずに睨み返す。
「たいしたもんだな。
腕が折れても剣を離さんとは…なぁ。」
剣を振るってやろうにも、腕が挙がらないのはその為か。
体が痛みすぎて分からなかった。
ギリリ…とゼノンの手に力がこもり更に高々と持ち上げられる。
「だからこそ、捻り潰しがいがある。」
その手が淡く光る。
殺られる。
そう、思った刹那声がした。
「もう終わりよ。」
不意にゼノンの手が離れ、どさりと地面に崩れ落ちる。
顔をなんとか上げると、ゼノンの腰に白い華奢な腕が見えた。
「時間切れだし、これは模擬戦闘なの。
だから、もう終わり。お願いだから終わりにして。」
呆然とした顔で、ゼノンが腕を掴み振り返えると声の主を抱き締めた。
「苦しいわ。」
囁くような声だったが、すぐさまゼノンが離れる。
その声の主は、
謁見の間に現れた鏡のようなものに映された女性だった。
「ミチル…?」
恐る恐る、ゼノンが彼女の頬に手を伸ばす。
その手についた血があるのに気付き、手をひこうとするがミチルという女性が手を掴み、頬に引寄せる。
淡い色のドレスは、抱き締められたときに返り血がついてしまっていた。
「いつまでも呆けてないで、治してあげてゼノン。」
優しく慈しむような微笑みに、思わず見とれる。
リコリス嬢もいつか、そんな笑みを自分に向けてくれる日は来るのだろうか。
意識が飛びそうになりながら、ふとそんなことを思った。
ゼノンが指をならすと、暖かな光に全てが包まれた。
近衛騎士団長の名前はエドワード。
略してエド。
シリアスモードは後二話くらいで終わるはず。
はやくコメディパートになってほしいもんです。
あ、恋愛パートも入ればいいね!
保証は出来ないけど!
誤字脱字あれば教えてくださると助かります。




