幕間―とある見習いのぼやき―
「ミチルさぁぁぁん!!!」
街で人気の食堂に駆け付ければ、黒髪の可愛らしい女性がにっこり微笑んだ。
「あら、今日はあなたが当番なの。
珍しいわね。」
「チルチル、どなた?」
似たような雰囲気の栗色の髪の女性が首をかしげて問う。
二人並ぶと姉妹みたいな雰囲気だ。
「ゼノンの部下の方よ。
ゼノンと違って良識あるがんばり屋さんよ。」
のっけから誉められやや照れそうになるが、気を引きしめる。
ミチルさんは誉めといて逃亡とかよくやるのだ。
まぁ…逃亡したくなる気持ちは分からなくもないけど…
だからといって見逃すとゼノン様に睨まれる。
かといって仲良くし過ぎると嫉妬されまくる。
あの方の睨みは怖い。
目線だけで人を殺せるんじゃないかと、本気で思うほどだ。
初めはね、憧れと畏怖の気持ちで見ていましたよ。ゼノン様のことを。
確かに仕事はできる人だけども、ミチルさん(奥さん)が関わるととことん残念仕様になる。
愛情というよりは執着心の激しさは天下一品。
妻が大体何をしているか知らないと気がすまない。
護衛という名の名目で部下を妻に付け、監視することに躊躇とかは欠片もなく、むしろそれがなにか?みたいな感じだ。
本当に、ミチルさん可哀想になるくらいのエピソードてんこ盛りなゼノン様。
二人はなんで夫婦になったんだろうか。
「私も気になる!」
キラキラとした目で栗色の髪の女性がずいっと身を乗り出す。
思ったことが口に出てしまっていたらしい。
だいぶおさまって、取り繕って仕事できるくらいになったと思ったのに…
ミチルさんといると、ついつい素がでてしまう。
「チルチル聞かせて!」
「お願いいたします!」
ダブルでお願いコールを連発すれば、苦笑いで折れてくれた。
「話しにくいんだけど…
ゼノンにあることないこと言われる前に教えておくわね。」
こそこそ話で打ち明けられた内容は、栗色の髪の女性と私どちらも赤面するものだった。
なんというか…うん、既成事実があってのゴールインだったそうで。
うちの国の城で働く侍女さんと魔術師さん達との飲み会に呼ばれて、なぜかいたゼノン様に唆され、酔いつぶれ、目覚めたら裸で、隣には同じく全裸のゼノン様。
寝起きで隣にゼノン様とかドキドキというよりは恐怖じゃないですか。
目がつぶれそうな美形を寝起きに見なきゃならないなんて…!しかも、予想外の出来事とかあるし。
大混乱のミチルさんの薬指に指輪をはめて、結婚しよう。とのたまったとか。
二日酔いと疲労とで頭が回らなかったミチルさんは頷いて再び寝てしまって、起きたら婚約発表なされてたそうな。
「世の中って何があるかわからないのね…というか無駄に顔がいい男はやることがぶっ飛びすぎてる…
やっぱり鼻フックはやるべきか…」
死んだ魚のような目をして、栗色の髪の女性が呟いている。
なにか似たような嫌なことでもあったのだろうか。
ミチルさんがトイレに行こうとしたので、ついていこうとすると、
「大事な連れがいるのに逃げないわよ。」
と苦笑いされた。
日頃の行いですよ、ミチルさん。
ミチルさんがいない間、自己紹介をし、話してみたらなかなか気さくで話しやすい人だった。
「にしてもノンノン見境ないね。チルチルが絡むと。」
「ホントに…」
「メイド長…あ、チルチルの養母様なんだけどね、結婚の挨拶に来たとき急所蹴りあげて悶絶するノンノン踏みつけて『この泥棒猫!』って怒り狂って大変だったの。
ちょっと可哀想かなぁってその時は思ったけど、今日真実を知って納得したわ!」
「凄い人もいたもんですね…」
あのゼノン様を攻撃して生きている人間がいようとは。
というかリコさん、ノンノン呼びは聞いて激しくむずかゆくなるんですが…
というか、爆笑ものなんですが…
知られざるゼノンとミチルのなれそめ。
仕組まれています。
仕組まれてたと我にかえるころにはもう結婚式。
見習いちゃんは女の子です。




