鬼の居ぬ間に洗濯。
熱烈なキスをかまされたショックからチルチルが立ち上がったのは、5分後だった。
「チルチル、私びっくりして妊婦は優しく労るべきってノンノンにいえなかったわ。ごめんなさい。」
「リコちゃんいいの。言わなくて正解。
『優しくやればいいのか、ハハハおねだりか』とか言われて酷いめ見るから…」
チルチル遠い目してる。
ノンノン、チルチルに何してるんだ。
まあとりあえず…と、少し立ち直ったチルチルの部屋に案内される事となった。
「で、なんでこんなとこに…?」
「しっ!
誰かに気付かれたら面倒だわ。」
リコリスです。
さっきまでチルチルの部屋にいて話していたのですが、
執事さんがお茶とお菓子を出してくれた後すぐにチルチルは窓から部屋を抜け出したのです。
チルチル、お腹大丈夫なのか。
庭の垣根の隙間を蟹歩きとは思えない速さで進んで行く。
追う私も同じような速さなのでどうこう言えないけどさ、人に見つかったらかなり恥ずかしいと思う。
無言の蟹歩きはしばらく続き、ちょっと疲れてきた頃、街に出た。
素敵な煉瓦の家が並ぶ。
パステル系の淡い色なので可愛いらしい。
傭兵国家が元となっているとはいえ、ゲオルグは大戦後から観光に力を入れてきた。
城下町は可愛い建物で統一され、花々溢れる都だ。
初めは王都のみだったが、今ではゲオルグの国全体が可愛い建物で溢れている。
チルチルは私と自分についた葉を落とすと、ゆっくりと歩き出した。
「この子が生まれる前にリコちゃんとは二人で街を回りたかったのよ。」
お腹を優しくさすりながらチルチルが微笑む。
昔みたいに手をつなぎ歩く。
昔は見上げていたチルチルは、今では私の方がわずかに高い。
幼い頃から私はチルチルの前ではワガママを言えた。
どんなことでも話せた。
何があっても受け止めてくれると信じていたから。
父様や母様とはまた違う、親友とも違う、なんとも言いがたい絆で私達は結ばれていた。
子供が生まれたら、その絆はまた変わるのだろう。
「さびしいけど思っているでしょう。」
「えっ!?」
心を読まれたようで驚く。
「顔に書いてあるわ。
生まれてから私がお嫁に行くまでずっと一緒に居たもの。何を思ってるかぐらい分かるのよ。
リコちゃん、私がお嫁に行って変わったこともあったけど、変わらないことだってあるのよ。
子供が生まれたって同じよ。」
そんな風に言われればそんな気がする。
「それにね、リコちゃんも一応結婚したし…仮だけども。あくまで。
だからこそ話せる話も出てくるわ。」
そうか、そんな考えもあるんだ!
大好きなチルチルとの共通の話が増えるのは良いかもしれない。
下がりっぱなしだった近衛騎士団長への評価がわずかに上向いた。
しょうがない、鼻フックは勘弁してやろう。
この後、雑貨屋めぐりをして街の食堂で食事中にノンノンの部下の人が半泣きで迎えに来ようなど思いもよらなかった。
ノンノンにチルチルの行動報告しなきゃならないそうな。
話を聞いて、ノンノンの粘着質過ぎる執着にちょっと引いた。(いや、けっこうか。)
顔が美形過ぎるからって、なにしても許されないんだよ…ノンノン…
ゼノンの部下がついて回ったり、本人がついてきたり、屋敷の人が側にいたりするので、ミチルは時々嫌になって屋敷を抜け出します。
鬼(ゼノンやその部下)の居ぬ間に洗濯(気晴らし)。




