いきなりの旅立ち。
連載にしてみました。
頑張ります。
昨日、いきなりですが黒髪の美形な王子(次期国王)の近衛騎士団長に政略結婚を申し込まれました。
あんな人の隣に向かってバージンロードを歩きたくないぜ、憂鬱だと思っていたら本人から呼び出しがありました。
今度はなんだ、式の日取りとかもう決めたのか?
とりあえず、なるべくひっそりやりたいわ…とか思っていました。
だけれども、彼は予想の斜め上をいきやがりましたよ。
小さな一室に入れば控える司祭さん。
がっつり式典用の近衛服を着た彼。
ひきかえ私は普段着。
寝たり起きたりできるような服だから、限りなく寝まきに近い格好。
わぁ、美形が更にキラキラしいわ~
花嫁殺しだわ~
自分だけ目立ちたいなら、独りで式やれ。というかキサマが花嫁衣装着やがれ。私が式典用の近衛服来てやるよ!
適当に相槌うちながら殺意を膨らませていると、
美形な顔が間近に迫りキスをされたのだった。
え?感想?
美形はまつ毛も長い。むしりたくなるほど。
目玉まんまるで閉じもしなかった私と対照的ですね♪ケッ
そんなこんなで、内心怒っているうちに誓いはなされてしまった。
私も年頃の娘らしく誓いの儀式に夢や希望をもってたのに、木っ端微塵である。
嫌々だからって、こんなやっつけ仕事なのは悲しすぎると思うの。
でもきっと彼は美形だからって、許されるんだろうな~腹立つなぁ~
ぼんやりして考えていたら、扉に父様が。
しかも怒ってる。
そんでもって、愛しているかと聞かれても困る。
父様の話を聞く限り、彼は私に気があるらしいようで、どうすればいいんだ。
正直、迷惑だ。
美形の隣にいる大変さは、私の大事な親友だけでお腹いっはいなのに。
親友には友情があったが、今の所は近衛騎士団長には愛情もないので色々な事が耐えられないだろう。
親友は幸せいっぱいにロイヤルウェディングにむけて歩むというのに、私は一体なんなんだ。
そもそも、気があるならなんだってこのようなお粗末な儀式になるんだ。
バカですか、バカなんですか。
つらつらと考え込んでいたら、いつの間にか父様に手を引かれ城の廊下を歩いていた。
キョロキョロすると父様が苦笑しながら言った。
「考えすぎて周りを見てなかったろう。」
まさしくその通りです。
「とりあえず、家に帰ろう。話はそれからだね。」
「勝手にいいんですか?」
「元々、城が…まぁ婿殿(仮)と彼女を安定させるの為だろうけど、強引にお前を城で療養させていたわけだしね。
このままだとお粗末とはいえ儀式をしたから初夜とかになりそうだけど、居たかったかい?」
(仮)に怒りを感じます、父様。
首がちぎれんばかりにブンブン振ると(もちろん横に。拒否だ。)、笑い声があがった。
先程の司祭さんではありませんか。
「これは失礼。
貴女は聞き流すのがうますぎるのですよ。
聞いているようで聞いてないし、見ているようで見てない。
こちらが目でうかがって上の空だというのに、まともに返事はするから儀式をしないわけにはいきませんでした。」
ため息をこぼされてしまった。
私もため息つきたいですが、なんか悪いことをしてしまったな。
司祭さんなりに気を回してくれたらしいし。
「彼を覚えてない?
昔来るたびに喜んでいたじゃないか。」
父様が不意に言う。
司祭さんが苦笑しながら司祭帽子?をとると、淡い金髪がふわりと広がり、見覚えある顔となった。
「ヒルフェのパイのお兄さん!」
初恋の人だった。
あれは15年前。
まだ3才だった私は、父の元に遊びに来たヒルフェのパイのお兄さん=司祭さんに恋をした。
司祭さんは格好いいし、優しいし、なによりヒルフェのパイは絶品だったから。
食欲六割な恋愛感情で「お嫁さんにして」と告白すれば、聖職者は結婚できないからと断られた。
私の初恋は破れ去った。
だが、司祭さんはそれからも父に会いに来るたび、私に大きなヒルフェのパイを土産にしてくれたので失恋の痛みはさほど感じなかったのだけど。
親友に以前話したら、「恋っていうの?それ…」と微妙な顔されたが。
「ヒルフェのパイのお兄さんですか…懐かしい呼び名ですね。今度また持って行ってあげますよ。」
微笑み司祭さんは約束してくれた。
笑顔でお礼を言うと、
「貴方たち親子は変わりませんね。
私にはそれが嬉しい。そのままでこれからもいてください。」
よく分からないことを言って去って行った。
「あまりわがまま言っては駄目だよ、彼は大司教なんだから。」
司祭さんが去って父様が言った。
「どえぇ?!」
「まだ30代だけどね、歴代初の若さだよ。
うちにもなかなか来なかったのは出世コースを猛進していたからなんだ。
本人は来たかったらしいけどね、まわりがね…」
大司教とは知らなかった。
でもヒルフェのパイのお兄さんはヒルフェのパイのお兄さんだ。
なにかかわるわけじやない。
私がそう話すと、父様も頷いた。
「でもね、地位や名誉を大切にする人もいる。
その人たちの考えも尊い。場合によっては良い方向にもいくが、悪い方向にもいく。
だからこそ、自分なりの基準をしっかりと持ちなさい。譲れないものもね。」
そういって父様は笑って、私の頭を撫でた。
穏やかな父様だが、五男とはいえ公爵家を捨て、母様を選び結ばれた。
幼い頃、その話を母様から聞くたびわくわくした。
成長するにしたがって、決して話されない軋轢や苦労に気付くことになるが。
それでも二人は笑う。幸せそうに。
苦労や軋轢も乗り越えて、けれどもそれすらもなんでもないことのようにして。
だからこそ、結婚には憧れや理想があった。
両親のようなものじゃなくていい。
ただ、互いを大切にし合える人と結ばれたいと思っていたのだ。
物語のような恋なんて、私には無理だ。
親友の物語のような恋でお腹はいっぱいなのだ。
ささやかな願いをぶち壊してくれた近衛騎士団長にいつか顔面パンチを贈ってやると、私は静かに決意した。
「お嬢様、起きてください。」
肩を揺すられ、目を開ければ見慣れた天井。
見慣れたメイドがにっこり微笑んでいる。
かえりの馬車で爆睡して、夕飯も食べずに眠りこけたらしい。
空腹が限界だ。
珍しくせかされ慌ただしく朝食をとったら、歯を磨く余裕もなく玄関に急き立てられる。
まったくもって怪我人にみんな優しくない。
不機嫌になりながら玄関ホールへ行くと、屋敷の使用人さん達や母様の商会のメンバーの人達やらが全員がずらり。
人のアーチが出来上がっている。
あまりにも人多すぎる。人の単位が軽く3桁なんですが。
おののいていると、
『おはようございます、お嬢様。とりあえずの回復おめでとうございます。』
恐ろしいほど言葉を唱和させ、ザザザザ―と波のように皆さん頭をたれる。
玄関に唯一頭を下げない人影が二つ。
私はまだ走れないので、今の所できる最大限の早歩きで二つの人影…両親の元へと向かう。
「おはようございます。」
「おはよう、急かして済まないね。」
「おはよう、私の子リスちゃん!会いたかったわ!!」
お日様よりも眩しい母様ががっしりと抱きしめてくる。
今日も朝から美の女神降臨したかのような美しさ。
父様と私の普通顔と、どえらい落差ですね。
というか、ヒールを履いた状態で抱き締められると谷間に埋まって死にそうなんですが。
相変わらず年齢無視したプロポーションの良さ。
二人の子持ちで尚且つ孫までいるようには見えませんな。
我が母ながら超人っぷりに驚かされっぱなしですわ。
「ハイハイ、そこまで。
白目むく前に止めようか。」
一瞬気が遠くなりかけたが、父様のおかげで解放される。
いつもながら母様のスキンシップは激しい。
ごめんなさいね、といってするりと離れたら直ぐ父様の腕にしなだれかかっている。
朝からお熱いこって。
母様のハートがとぶような熱視線を、和やかな微笑みでスルーして父様が口を開いた。
「皆さん早朝より集まってくれてありがとう。
理由は昨日話した通りです。
こちらの我が儘に付き合わせてすまない。」
水を打ったように静まり返るなか、頭を下げる。
とたんに、滅相もない!旦那様の判断は当然です!など父様を庇う言葉が飛び交う。
え?何なんですか?
私、よくわからないんですが出遅れた感をひしひしと感じます。
昨日眠りこけた自分をどつきたい。
「…ありがとう。
君たちのような人に囲まれて我々は幸せだよ。
何かあれば、作戦を決行するようにしてほしい。
では残留組の皆さん留守を頼みます、帰省する皆さんは道中気をつけて。」
にこりと優しく父様が笑う。
暖かな春の日差しのような笑みに、皆さんもつられ穏やかな顔になる。
おい庭師の青年、頬を染めるな。
憧れなんだかガチなんだか分からないぞ。怪しすぎる。
他にも頬を染めた男性を発見し、どっちだろうと考え込んでいたら馬車に乗せられ、
一斉の『行ってらっしゃいませ』に見送られ出発する。
はて何処に?
「おいおい説明するから、一度眠りなさい。」
口を開く前に父様に言われたので、一晩のうちに簡易ベットに改造された元シートに横になる。
突貫工とは思えない寝心地にうっとりウトウトしてると、
窓から見える山の向こうから少しずつ朝日が昇るのが見えた。
どんだけ早朝なのさ…
そこから先の記憶はない。
起こされたのは夕方。
眠い目を擦り外を見れば、そこは隣国の首都。
隣国の首都…!!!?
家から馬車で行ったら、
のんびりで2日、急いだって片道1日はかかる。
私、そんなに眠りこけた?!
なんで?どうして?!
寝ぼけ頭で冷静な思考ができなかった私はまだ知らない。
これから各国を約一年渡り歩く事になるなど。
父様の人たらしっぷりにおののく事など。
私は、まだ知らなかった。
近衛騎士団長の明日はどっちだ!?
好感度は最低ラインです。
ジャンル、恋愛で良かったのだろうか…?