虚ろな響き
はじめまして、こんにちは。
カミリアです。
この度は『虚ろな響き』をお読み頂き、まことにありがとうございます。
かなり展開が早いです。
面白くなかったらすいません。
五月雨和羽は、五月雨病院の院長の息子だった。
彼は、医者になる気は無かったが、病院内を歩き回り患者と話すのが日課だった。子供から老人までみんなと話した。
ある日和羽は院長に呼ばれた。
「父さん、何か用?」
「昨日、お前と同い年の女の子が入院したんだが、話してくれなくてな。……大人ばかりで気まずいのかも知れない。お前も気遣ってやってくれ」
「うん。」
早速和羽はその女の子の病室へ向かった。
「失礼します」
和羽は扉を開けた。
息をのんだ。
少女はこの世の物とは思えない程美しかった。
透き通るような黒い髪、雪のように白い肌、整った顔。
和羽は一瞬、見とれた。
「だぁれ?」
少女はか細い声で呼び掛けた。
「……こんにちは」
「…………」
「君の名前は?」
「…れい。あなたは?」
「和羽って言うんだ。よろしくね」
れいは軽く頷いた。
「……かずはってどう書くの?」
「平和のわっていう字にはねで和羽って言うんだ。」
「……いい名前。私はぜろって書いて、零。何もない、空虚な名前。」
悲しげに笑った彼女は、とても心惹かれた。
「そんな事ないよ。いい名前だよ。」
「……そうかな」
「そうだよ」
「…………」
「零はいくつ?」
「知らない」
「え?」
「………記憶ないの。名前にピッタリ」
「記憶喪失、なの?」
「無くてよかった。ろくでもない人生だったに決まってる。」
零は笑った。
「……じゃあ、僕が傍に居る」
「………え?」
「傍に居て、君の人生を照らしてあげる。」
それから毎日、和羽は零の所へ行った。
「零、好きな事は何?」
「………歌。歌う事が好き。」
「こんど聞かせてね?」
「……いいよ。和羽は何が好き?」
「ヴァイオリン。将来はプロになりたい。」
「え?和羽は将来お医者さんにならないの?」
「なりたくない。病院は兄さんが継いでくれるだろうし」
「兄弟いるの」
「兄と妹が。」
「いいな家族って。」
零は窓の外をを見た。
―――悲しげに。
「私、和羽とずっと一緒にいたい。」
ある日、零は言った。
零は僕以外の人と喋らない。
だから和羽は零とかなり仲良くなった、と思っていた。
だけど時間がない―――
和羽はまた零の所に行った。
零は―――寝ていた。
触れたら壊れてしまいそうな程脆くて、温かい所にいたら溶けてしまいそうな程冷たい。
「――和羽?」
零が瞼を開けた。
「起こした?」
「ううん。」
零は身体を起こした。
「和羽―――私、夢を見たの。和羽がどこかへ行ってしまう夢。私は動けなくて、腕を掴めなかった。」
細い腕か、和羽を掴んだ。
手を握りしめようと手を伸ばした。
「行かないで。」
手を止めた。バレてる――?
「一人にしないで。もう一人は嫌。」
「………零」
伸ばした手は空を掴んだ。
彼女には隠し事が出来ない。
「僕、ドイツに留学するんだ」
「………」
「ヴァイオリンで。実力つけたいんだ。夢のまま終わらせたくなくって。」
「………何年?」
「……5年」
「………いつ……行くの…」
「一周間後。」
「…………………………」
「零、僕は」
「……ぃ…」
「え?」
「嫌い!!和羽大嫌い!!!私の傍に居てくれるって言ったくせに!!!もう二度と会いたくない!!!!」
彼女の言葉は深く、和羽に突き刺さった。
悲しそうに瞼を閉じると、和羽は病室を去った。
旅立つ前日、和羽は久々に彼女の病室に立ち寄った。
彼女は、いなかった。
退院したらしい。和羽は心の中で『ベタな恋愛小説みたい』と思った。
「……。」
何気なく屋上に立ち寄ってみる。
ここから見る空が大好きで、一回だけ零と来たっけ。
零にも見てほしいなと思ったから。
案の定、彼女はかなり気に入っていた。
『また来たい。退院しても』
とか言って笑ってて。
可愛くて綺麗で――儚げで悲しそうに笑ってた。
思わず抱きしめそうになるくらい、胸が締め付けられた。
「会いたいよ」
和羽は空に手を伸ばした。
記憶は戻ったのかな?元いた場所に戻ったのかな。
僕は君の居場所にはなれなかったのかな?
ただが二週間くらいしか一緒にいなくて馬鹿馬鹿しい。しかも自分から突き放したくせに。
「嫌われちゃったかな」
彼女に好かれたかった。
彼女にもっと笑って欲しかった。
彼女に――
「――会いたい」
ギィ………。
扉の開く音がした。和羽は振り向いた。
「――和羽…!」
そこには零が立っていた。
「どうしてここに?」
零に聞いた。返事は返ってこない。和羽もわかっていた。
「………風が気持ちいいね…」
和羽は独り言のように呟いた。
「…零、僕はね…」
「聞きたくない!!!!」
零は耳をふさいだ。
「言い訳なんて聞きたくない。そうやって皆裏切る!騙す!私はっ………」
「……これは僕の独り言、聞きたくなければ聞かなければいい。」
和羽はそう言い、床に寝そべる。零も隣に寝そべった。
「君にはきっと全てが言い訳に聞こえるだろうね。だから君に言いたい事は一つなんだ。」
和羽は零を見た。
「……君が好き」
零は驚いて上半身を上げた。
「……信じられない」
「だろうね。でもホントだから」
和羽は身体を上げ、立ち上がった。
「行く前に言えてよかった。じゃ、もしかしたら…もう会えないかも知れないけど。」
和羽は屋上から出ようとした。
「………私、記憶……少しだけど思い出した。」
零は呟いた。和羽は立ち止まる。
「…記憶を無くす…少し前かな…。」
〓零Side〓
私は、歩宮 零だった。今は16歳。
私が思い出した記憶は冬。
凍えるような寒さの日。
私は母親しかいなかったらしい。そんな母親からの、
―――虐待
母親は事あるごとに、殴り蹴り、そして『アンタなんかいなきゃいいのに』と言うらしい。
分かっていたよ。あなたに私が必要なく、そして私にあなたが必要なかったらしい。
思い出した記憶。
私は母に口ごたえをした。
ぱぁんっ!!
平手打ちされた。だけど痛みを感じない。
いままで痛みを感じすぎて、感覚がおかしくなったかな。
母はなんか言った。
『―――――!!!!!!』
そして私が着ていた、白いワンピースを剥ぎ取ると、外にほうり出した。
冬の寒さは裸の身体にはキツイ。でも、あの白いワンピース着ていても変わらなかったかもしれない。
寒い。死んじゃう
寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い――――――――――。
コレラカラドウシタラカイホウサレル?
トラックだろうか。
道から車の光が見えた。
私は迷わず飛び込んだ。
〓〓
「思い出したのはこれだけ。やっぱり思い出さない方がよかった―――」
和羽は彼女の身体を思い切り抱きしめた。
「―――!!」
零は思い切り離そうとする。が、やはり力の差があるのか離れない。
「……離れなさい、このヘンタイ。」
「離さないよ。」
和羽は一言言った。
「離さない」
――――温かい。
人ってこんなに温かいの?
「君は、今まで人と一緒にいた?」
零は首を振った。
「君は、人の温かさを知ってる?」
また首を振る。
「どうりで君はこんなに―――冷たいんだね」
―――あなたは温かいのね
彼女は泣いた。温かい腕の中で 。
彼女は一人じゃない。
次の日、空港で零と和羽は話した。
「ゴメン、零。一人にさせるけど……。」
「いいの。一人だけど、私は貴方とつながってるから」
にこっと零は笑った。悲しみも儚さも感じない彼女の笑いは、和羽の心を貫いた。
「可愛いなぁ……。あ、そうそうこれ、僕のケータイの番号。」
和羽は紙を彼女に渡した。
「記憶が戻って辛くなったら電話して。必ず出るから。」
「ありがとう」
零は紙を受け取る。
「行ってくる」
「いってらっしゃい」
和羽は彼女の耳元で囁いた。
「好きだよ、零」
零は真っ赤になってしまった。
「改めて言われると……」
「可愛いね」
「それじゃ」
彼は搭乗口へ向かった。
「……和羽!」
和羽は振り向いた。
「大好き!!!!」
もう、独りじゃない―――。
最後までお読み頂きありがとうございました。
感想など頂けたら嬉しいです。