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第七話 「月光照らすはシリアルキラー」

第七話 「月光照らすはシリアルキラー」


 皆さんこんばんは、びーこです。


 現在の時刻は、草木も眠る丑三つ時。

 今、私は、とある理由で英子ちゃんを尾行しています。

 私は知っているのです。

 ここ最近、英子ちゃんがこの時間になるとマンションをそっと抜け出す事を。

 勿論、私に内緒で。

 … うーっ、英子ちゃんのばかばかばか。絶対許さないんですからね!


 と、まぁ、そんなわけで、こんな真夜中に私は英子ちゃんを一人でつけているのです。

 正直言ってとても怖いです。恐怖です。

 でもでも、私にとっては英子ちゃんに隠し事をされたり、英子ちゃんに見放されちゃうほうがよっぽど恐怖なのです。

 幸い、今のところ英子ちゃんに尾行がバレた様子はありません。 

 それにしても英子ちゃんってば、さっきからどんどん人気の無い方へ進んでいってます。

 うぅう、暗いよー、怖いよー、寂しいよー。今にも何か出てきそうな、そんな雰囲気なのです。


 最近、この町では嫌なニュースが飛び交っています。連続殺人鬼、シリアルキラーの出没です。

 ホラーや幽霊、怪奇現象も確かに怖いですが、やっぱり一番怖いのは人間。

 被害者は既に数人。それも全て10代の少女。今、この町は混乱と恐怖の真っ只中にあります。

 … 分かっています。そんな大変なときに、こんな時間に、それも一人で出歩くなんて自殺行為だってことくらい。

 それでも、それでも私は、英子ちゃんを放っておけない。英子ちゃんを信じたいのです。

 

 そんな事を考えていたその時、確かに先程まで私の目の前を歩いていたはずの英子ちゃんが、忽然とその姿を消してしまいました。

「英子ちゃん? そ、そんなー」

 見失った? 


 慌てて走り出そうとしたその瞬間、後頭部を激しい衝撃が襲うと共に、私は、唐突に、その意識を失ってしまいました。


 

 … ああ、私って、ほんと馬鹿。



       ◆ ◆ ◆


「とっとと消えやがれ!」

 あたしは、今夜7匹目となるその獲物に、蒼く煌くナイフを突き立てた。

 獲物は、音もなくその場で倒れ、やがてぴくりとも動かなくなった。

「へっ、ざまーみろだぜ」 

 あたしは、息を切らせながらその場に座り込む。

 ふと、昨日降った雨によって出来た水溜りに、自分の顔が映りこむ。

 ……… 我ながら何てツラだ。こんな顔、びーこのやつには絶対みせられない。

 

 何故なら、今のあたしは、あたしが先程まで相手をしていた輩より、よほど酷い顔をしていたからだ。

 

 どうやらあたしは、笑っていたらしい。

 醜く顔を歪ませながら、ケタケタと笑っていたらしい。

 

 … あたしは、こんなところで何をやっている?

 そんな取りとめも無い自問自答を始めた矢先、あたしの眼の前に、あたしを一気に現実へと引き戻す光景が飛び込んできた。


 どういうことだ?


 迷っている暇も、眼の前の光景を疑う暇も無い。あたしは、無我夢中で走り出した。

 糞ッ、頼む、間に合ってくれ。


       ◆ ◆ ◆


「知っているかな、お嬢さん。人間の肉は酸っぱくて食えたもんじゃない。一般的にはそう言われているだろ? あれは嘘だ」


 ここはどこかの廃屋でしょうか?

 頭が痛い。気分が悪い。そして、動けない。

 私は、そんな最低の状態で眼を覚ましました。

 でも、何より一番最低なのは、眼の前の相手が、件のシリアルキラーだと、すぐにそう確信出来てしまった事です。

 いっそのこと悪い夢であれば、どれだけ良かった事か。

 私は、目の前に横たわる数人の少女とおぼしき遺体を一瞥しながら、そう思ったのでした。

 おぼしき。私がそんな曖昧な表現を使ったのには、勿論理由があります。

 私は、吐き気と震えを押し殺しつつ、再び目の前の、かつて少女であった物に眼を向けました。

 人間、心の底から絶望と恐怖で満たされると、涙すら出ないものなのですね…。


「僕はね、自分で試してみないと気がすまない性質なんだよ。何でも実験して、実践して、納得しないと気がすまない性質なんだ。だからさ、食ったんだよ、僕は」

 

 腕、足、胴、そして頭。

 眼の前の少女達の亡骸は、私の見る限り、そのどれもがどこか一部を欠損し、苦痛に歪んだ表情を浮かべていました。

 まるで、生きながらにして、体を食いちぎられたかのように、苦痛と恐怖に満ち満ちた顔をしていました。


「結論から言うとね? すっぱいだなんてとんでもない。きっと、僕の選別眼が良かったんだろうね。君くらいの年齢の少女の肉ってやつはね、… 甘いんだよ。嘘じゃない。全部本当のことさ。だって、ほら、こんなに実験… いや、実食したからね」


 そう言って一歩ずつ、まるで私のどこを食べようかと値踏みするように、男はゆっくりと私に近づいてきました。

 ごめんね、英子ちゃん。今までずっと英子ちゃんに迷惑掛けてきて、助けられて、その結果がこれだなんて… そんなの絶対可笑しいよね。

 英子ちゃん、やっぱり私は最後までダメダメなのでした。


「今夜君に出会えたことは、僕にとって実に幸運だった。日本人の少女の肉は、酸っぱいどころか甘かった。確かにそれは実験から導き出した答えだ。それじゃ今度は、君のような外人の少女はどんな味がするのか? それって、実に興味深いとは思わないかい?」


 眼の前の男は、とうとう私の目の前までやってきて、興奮気味に私の頭を撫でるのでした。

 英子ちゃんとはまったく違うその穢れた手で、私を撫でるのでした。


「特に、君のような透き通るように色白で、輝くような銀髪を持ったオッドアイの少女なんて、どんな味がするのか見当もつかないよ」

 

 男はポケットから赤く染まったナイフを取り出し、私の顔に手をかけ、そして…


 が、その時、静寂に包まれた暗闇を切り裂くように、あの人の声が響き渡りました。


       ◆ ◆ ◆


「そいつはあたしも同感だ。けど安心しな、これから先、てめーにそれを確かめるチャンスは巡ってこない。永遠にな!!」

 そんなセリフとともに、あたしの投じたナイフは見事殺人鬼の右肩に命中。

 あたしは、バッドを片手にしながら、一気に殺人鬼の元へ駆けた。

 

「誰だ? 僕の崇高な実験を邪魔するヤツは」

「はん、誰だと思う? … 言ってみろ、あたしは誰だ!!」

 あたしの振り上げたバッドを、コンバットナイフで受け止める殺人鬼。

「知らないな。興味も無い。だって君は、酸っぱいって言うより、激辛っぽいしね。残念だな、僕は辛いものが嫌いなんだよ」

「奇遇だな。あたしもてめーみたいなヤツが大嫌いなんだ」

 威勢よく飛び出したのは良かったものの、あたしのバッドは尽くかわされていく。 

 逆に、あたしはヤツの攻撃を防ぎきれず、徐々に押されていってしまう。

 ちっ、糞野郎のくせして、一撃一撃が早い。まるで頭のネジが何本か飛んじまってるような動き。

 いや、この惨状を見る限り、確実に飛んじまってるんだろう。

 だが、このままだと…。

「成る程、正義の味方気取りかい? 言っておくが、僕は何も悪くない。ただ追求しただけ。納得したかっただけさ」

 弾かれ飛ばされるバッド。

 ただでさえ、あいつらとの連戦で体力が残ってねー状態。加えて、どうやら血を流しすぎちまったらしい。やばい、ふらふらしてきた。

「威勢良く登場したわりには、随分とあっけないんだね」

 糞が、好き勝手いいやがって。こっちにはこっちの都合ってもんがあんだよ。

 あたしは、足元に転がるあるものを確認した後、その場でしゃがみこんだ。

「… そんなに人の肉が好きなら、こいつでも食らいやがれ!」

 あたしの足元に横たわる、腹を大きく裂かれた少女の遺体に手を突っ込み、その臓物を男の顔に思い切りぶちかます。

 仏さんには悪いが、使えるものは何でも使うのがあたしの主義だ。

 ドス黒いその塊は、男の顔にぶちあたり、不気味な音を立てながら破裂した。

「がぁあっ、き、きさま」

「命の賭け合いに、奇麗だとか汚ねーなんて概念はねーんだよ」

 よろめく男を尻目に、数歩引いた位置であたしは、精神を集中し始める。

「外面如菩薩… 内心如夜叉、鬼面仏心」

 あたしは、懐から紅く煌く10本のナイフを取り出した。

「てめーがどこで何をしようが、どこで誰を殺そうが、あたしの知った事じゃない。勝手にやってくれ。正義を気取る気は全くねーからな。だがな、あいつだけは駄目だ。びーこに手を出す不届き者だけは、絶対に許しちゃおけねー。… さて、お仕置きの時間といこうじゃねーか。準備はいいか? あたしはとっくの昔に、出来てる、ぜっ!!」

 紅い閃光を描きながら、あたしの放った10本のナイフが男の四肢に突き刺さる。

 聴きたくもない男のきたねー断末魔が、月の輝く夜にこだまする。

 それと同時に、男は大の字でその場で倒れこんだ。ちなみに、そのナイフによる血は、一滴たりとも流れていない。

「あたしは、あんたと違って絶対に人間を殺したりはしない。いや、人間だけは殺せないのさ。そして感謝しな、代わりといっちゃ何だか、あんたのその 異端 を奪ってやった。って、もう聴いちゃいねーか。まぁいい、暫くそこでおねんねしてな」

 あたしは大の字で横たわる男をスルーし、椅子に縛られ顔を真っ青に染めたびーこに駆け寄った。

「よぉ、びーこ。今夜は随分と妙なところで出会うじゃねーか。何だ、夜の散歩か? まぁ、言いたいことは山ほどあるが、とりあえず帰ろうぜ。そこらじゅう痛てーし、貧血でぶっ倒れそうだぜ」

 そういいながら、びーこの口元に張られたガムテープを一気にはがす。

「ッつ。… ばかばかばかばかばかばかばかばかー。英子ちゃんのバカー」

「おまえなぁ、それが命の恩人に対して言うセリフか?」

「え、英子ちゃんこそ、いつもいつも、一人で何やってたんですか! 私、凄く心配してたんですよ!」

 成る程、合点がいった。それでわざわざあたしをつけてきたってわけか。

 つーか、あたしとしたことが、たかがびーこ程度の尾行にすら気がつけなかったのか。一生の不覚だなこりゃ。

「いや、まぁ、確かに何も言わなかったのは悪かったと思ってる。… ほら、この前のゾンビ騒ぎ覚えてるだろ? あの時のゾンビの残党がこの辺りにいるって噂を小耳に挟んでな。所謂、後始末ってヤツだ」

「そうならそうと言ってくれれば良かったじゃないですか! 私、私、てっきり…」

「ま、まぁまぁ、そう怒るな。話の続きは帰ってからにしよーぜ。よし。今回はあたしも悪かったからな、ほら、特別におぶってやるよ」

 そう言ってあたしが背中を差し出すと、びーこは素直にあたしの言葉に従った。

「英子ちゃんの、ばか」

 びーこは、そう呟いたきり、何も喋らなくなってしまった。どうやら、緊張と恐怖から開放された事で彼女の疲労は臨界を突破してしまったらしい。

 つまりは、ぐぅぐぅと、安心しきった顔をしながら、あたしの背中で眠っちまったってこと。


 ったく、あたしはあんたの保護者かよ。

 …… そういや、保護者だった。まったく、やれやれだぜ。 


END


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