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第四十九話 「ご想像にお任せしますって言っとけば大体おk」

第四十九話「ご想像にお任せしますって言っとけば大体おk」



 人生において、最も幸福な事とは一体何だろうか?

 答えは一つじゃない。んな事は、当然分かりきってる。

 

 それでも、あたしにとってその解はたった一つだし、今までもこれからも決して変えようが無い。


「悪いな。今度はあたしが、びーこの力を利用させてもらったぜ」


 白い空間。何も無い。虚無の世界。

 そう。いつかと同じ、白の世界。


「あんたと… 再び、ここで死合うためにな」


 これは、あたしが前に進むためのけじめであり、通過儀礼。決して避けては通れない、あたしの奥深くに突き刺さった楔であり、禊。


「首無し騎士、デュラハン。分かるか? あたしがどれだけ、この日を待ち望んでいたか。このセカンドチャンスってやつを」



 セカンドチャンス。


 誰にでも、消したい過去、やり直したい過去ってやつはある。

 あの時ああしていれば、あの時別の選択肢を選んでいたら… あの時、負けていなければ。

 そうだ。

 つまり、これは首無し鎧野郎へのリベンジ。

 びーこのためでも、誰のためでもない。紛れも無く、あたしのためだけの私闘であり、エゴ丸出しのリベンジ。私利私欲のための戦い。完全なる自己満足の領域。

 

 あの花見の帰り道。びーこに願い出たあたしの我が儘。それこそが、この鎧野郎を再び惹きつけ呼び出す事、だった。 

 ここ最近のびーこの力は、目に見えて強力になっていく一方だったし、当のびーこ本人も、少しずつだがその力を制御出来つつあった。少なくとも、それだけの覚悟ってやつがあった。


 だからこそ、このタイミングで、あたしはびーこにそんな我が儘を言い放った。


 あたしの、そんな狂気染みた想いってやつが通じたのか、はたまた単に呆れ果てただけなのかは分からねーが、びーこは何も言わずあたしの顔を暫く見つめた後、黙って頷いてくれた。了承してくれた。許してくれた。祈ってくれた。


 だからこそ、今、あたしはこうして再び、デュラハンと対峙している。この白の舞台に立っている。


「これ以上の戯言は野暮ってもんだな。所詮、あたし達はこいつでしか、自分を正当化出来ねー存在」


 言わば、ある種の究極的コミュニケーション障害。


 あたしは、いつの間にか右腕に納まっていた秋艶を鞘から抜き、その刀身を白の世界へと晒す。

 

 そんなあたしに対し、答えるように笑うデュラハン。

 奴に顔は存在しないが、その口元をキザったらしく歪めて、確かに奴は笑った。少なくとも、あたしにはそう見えた。

 

 そしてその直後、いつかと同じく、そしてあたしの黄の力と似て非なる黄金色の輝きを纏ったその剣を、自らの鎧のぽっかりと空いた首の穴から取り出す。

 … 成る程、今回は最初っから全力らしい。


 あぁ、最高だ。

 嬉しすぎて震えが止まらねーぜ。さっきから武者震いが止まらない。


 相手にとって不足は無い。

 あたし達は、示し合わせたように同時に剣を振り上げた。


          ◆


 剣響は静かに奏でられるか?

 当然、答えはノーだ。 


 黄金色の一撃を交わし、受け流し、捉える。


 視得る。


 前回同様、いや、それ以上に奴の一撃一撃は正確で、速く、そして重い。それでも、今のあたしにはそれが視得るし、対処出来うるだけの冷静さがあった。

 

 ただ闇雲に噛み付くだけじゃ、どうにもならねーこともある。

 力押しだけでは、勝利できない道もある。

 触るもの皆傷つけるだけじゃ、何一つ救えない。たった一人も救えない。


 それを教えてくれたのは、何を隠そうこの鎧野郎だ。


「だからこそ、あたしはあんたを超えなきゃならねーのさ… 是が非でもなっ!」


 大きく振り上げてからの一撃をあえて受け止め、その剣戟に押されつつも、奴のどでっ腹に蹴りを入れつつバックステップで後退を図る。

 尚も休む事無く追撃を加えんとする奴の黄金色の剣を、ギリギリで見極めながら秋艶による連撃を見舞う。

 周囲に障害物は何一つ無いし、そもそもここには広さという概念が無い。見渡す限り一面の白の世界。あたし達を邪魔立てする存在は、皆無。


 一撃の重さや威力そして正確さはやつに分があるが、手数と身軽さではこちらが上。

 騎士道だが何だかしらねーが、やたらとキザったらしく、いちいち行動の枠、型ってやつに嵌っているのが奴の弱点。だからこそあたしは、優雅さも華麗さも無い、そんな泥臭い身勝手で何でもありな剣で奴に対抗する。

 

 拮抗。


 互いに手傷を追い、互いに相応の焦燥感とアドレナリンが体中を支配し始める中、あたし達は剣を構えたまま、じりじりと小康状態にもつれ込む。


 場が乱れている。


 何一つ障害物の無いはずのこの白の空間において、唯一の例外である空気が乱れつつある。

 次の一撃で、その流れをあたしに向ける。あたしに傾かせる。

 恐らくだが、奴も今、同じ事を考えているのだろう。だからこそ、次の一撃はこの勝負において流れを決定付ける一打となる筈。


「…」


 あたしの頬を伝う汗が地面へと吸い込まれたその瞬間、あたしは動いた。

「喰らえっ」


 フェイクだ。

 奴へ向けた秋艶の動きを途中で放棄し、あたしは左手で懐を探る。

 あたしの一撃を受け止めようと構えていたその鎧野郎の鎧、その右腕の関節部分に常備していた隠しナイフを、一気に放つ。

 鎧ゆえに。その状態から腕を曲げる事は不可能。


「悪いな、今度こそ… 喰らいやがれっ!」

 

 あたしの一撃を受けきれなかった奴の刀身は、虚無の空間に黄金の軌跡を描きながら、あたし達からしばし離れた無限の虚構へと音も無く突き刺さる。


「やれやれ、だぜ」


 勝負アリ? 馬鹿言っちゃいけない。この程度で決着がつくようなら、あたしもそして奴も、ここまで酷く歪んじゃーいねーって話さ。


「成る程。あたし同様、あんたも得物が一本だけとは限らねーってわけだ」


 首無し鎧野郎は、その底無虚無のぽっかり空いた鎧の首の穴から… 大量のシャレコウベを解き放つ。

 やがて、宙に浮いた数十の頭蓋骨がこの空間と相反する闇色のオーラを纏いながら一つに溶け合い、そして…


 自らの身の丈以上の長さを持つ、闇色の「鎌」となってデュラハンの手元へと舞い降りる。

 

 これは、そう、まるで死神の鎌、デスサイズだ。


「それが… あんたの奥の手ってわけだ」


 伝承クラス。

 あたしの目の前にいるこの首無し鎧野郎こと、デュラハンもまた、ご多分に漏れずそこにカテゴライズされるべき存在であり、その伝承はあまりに有名。が、その奇異な姿かたちばかりが先行されがちだが、デュラハンの本質、正体とも言うべき逸話を忘れてはならない。

 デュラハンの正体、それは人間に死を宣告する妖精。そして、宣告だけに留まらず、自らも「魂を刈り取る」存在であるという事。その姿かたちに差異はあれど、何十年何百年語り継がれようとその本質だけは変わらない、変えようが無い。


「ま、庭の草刈には便利そうだな」

  

 なんて、いつまでも強がりを言っていられる状況じゃねーってことくらい、あたしも分かってる。充分理解しているさ。

 あたしだって、何も考えず、奴にリベンジを挑んだわけじゃない。

 そう。

 ハードルは高ければ高いほど、下を潜り抜けるのも容易い。

 必ずあるはずなんだ。必ず。奴の弱点とも言うべき、アレが。どこかに必ず。

 

 いや。どこか、何てあやふやな言葉で定義するほど曖昧な精度じゃない。白か黒か分からないまま、自分の命を天秤に乗せるような酔狂さは、流石のあたしも持ち合わせちゃいない。これはあたしの確信であり、この死合いで生き残るためのたった一つの手段。


 奴の「頭」を見つけて砕く。


 それだけが、あたしが生き残る唯一の手段。奴に勝利するためのたった一つの道。

 そして、それがある場所と言えば、恐らく。



   君がため

   惜しからざりし

   命さへ

   長くもがなと

   思ひけるかな 



「頼むぜ、秋艶 《偽神安器》!!!」

   

 皮肉な事に、あの不死の神との一戦以降、つまり、あたしの体が人間からかけ離れていけばいくほど、この秋艶の持つ力って奴を引き出せるようになっていくらしい。

 

 偽りの神と、ちっぽけで安っぽいあたしの器。

 やれやれだぜ、本当に。


 一撃必死。

 そして、これがお互いにとって、この死合いにおいて最後の一太刀になるだろう。

 


 びーこのためでもなく、誰のためでも無く。

 あたしは妖しく煌くその剣を振り上げた。



END


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