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第四十七話 「人生と言う名の、脱線したレールの路を往けっ!」

第四十七話「人生と言う名の、脱線したレールの路を往けっ!」


 いつもと同じ、びーこの学園からの帰り道。

 いつもと同じ時間、いつもと同じ場所からの、何一つ変わらぬ日々のルーチンワーク。


 だが、そんな只の帰り道さえ、びーこの手に掛かれば大きく様変わりしてしまう。

 びーこの呪われた才能・力に掛かれば、日常のそんな一コマさえ、「ホラー」へとその姿を変えてしまう。


 そして何より、びーこが呼び寄せてしまうものは、何も悪霊や妖怪ばかりじゃないってこと。



 例えばそう…… 「場所」もまた然り、だったりする。


        

「… おい、びーこ。当然、気がついてるよな?」

「英子ちゃん英子ちゃん、私、何だか寒いです」


 雰囲気だとか、気温だとか、そんなちゃちな問題じゃあ断じてない。


 そう。

 あたし達のいたこの「場所」自体が、完全に変わっちまってるんだ。

 

 いつもの帰り道は、もうどこにも存在していない。


 びーこがこの「場所」を惹きつけたのか、或いはあたし達がこの「場所」に惹きつけられちまったのか?

 だがそんな事は、実に瑣末でどうだって良い話だ。問題は、どうやってびーこを無事にここから脱出させるのか? だぜ。


「見ろよ。いつもの通学路がこんな寂びれた1本道になっちまってる」

「英子ちゃん、私達今度は一体どこへ迷い込んでしまったのでしょうか? 私達、ちゃんとお家に帰れるのでしょうか?」

「さぁな。あたしにはここがどこだか見当もつかねーし、無事に帰れる保障は全くねーぜ」

「そ、そんなー。英子ちゃんのばかぁー。英子ちゃんのいぢわるっ」

「やれやれ。いつまでたっても、その泣き虫なとこだけは治りそうもねーな」


 さて、いつまでもこんな得体の知れない場所に留まっているわけにはいかない。

 これまでの経験上、びーこが関わる現象に関して言えば、必ずどこかに出口や脱出のための方法ってやつが存在していた。だからこそ、今回も何らかの抜け道ってやつが存在する筈。 

 だが、辺りに広がるのは先の見えない1本路と、何の飾り気も無い枯れ木と岩場。曇天と灰色と風が支配する世界。やれやれ、生気のカケラも感じられねーぜ、ここは。

 とにかく、用心に越した事は無い。急がず焦らず、とにかく前に進み続けるしかない。


「ほら、いつまでもめそめそしてる場合じゃねーぜ、びーこ。ここがどこだろうと関係ない。あたしはびーこのお守役だ、必ず無事に家まで送り届けて見せる」

 そう宣言したあたしは、懐からハンカチを取り出しそっとびーこの涙をぬぐう。

「でも、英子ちゃん」

「何だよ。でももだっても禁止だって、いつも言ってんだろ?」

「英子ちゃんのこのハンカチ、やっぱりやっぱり可愛いですね」

「… うっせーよ」


         ◆


「なぁ、びーこ。あたし達、結構歩いたよな? さっきからかなり歩いてるよな?」

「はい。でもでも、見てください英子ちゃん。まだまだあーんなに、路が続いていますよ?」

「ああ。先が霞んで見えねーくらいには、続いてるな… どうやらこの1本路、ただ闇雲に歩いているだけじゃゴールってやつには辿りつけねーらしいぜ」

「そんなぁー」


 こうなっちまったら、一か八かこちらから攻めるしか手立ては無いってわけだ。


「いいかびーこ、良く覚えとけ。結局のところ、遠回りこそが一番の近道なのさ。人生って奴は、決められた路の上を進んでいくだけじゃ意味が無い。自分で路を切り開いてこそ、だぜ」

「英子ちゃん?」

 あたしは、秋艶を召還すると、枯れ木と岩で形成された路の脇をすっと指し示した。

「色即是空、空即是色…… いいぜ、ぶった切ってやるよ、我楽多野郎。そして今だけは、びーこの進むべき路を、あたしのこの手で作ってやるぜ!」

 秋艶を振りかざし、あたしは、壁となっていた枯れ木や岩を切り開き、無理やり脇道を作り上げる。

「どこに繋がってるのかは知らねーが、いくぜ、びーこ。逸れんじゃねーぜ、しっかりあたしについて来いよ」

「はいっ!」


 そして、

 道なき道を突き進み、あたし達が到達した場所、ようやく到達した場所、それは…

「おいおい、ここ…」

「英子ちゃん、私達」

「ど、どーやら、最初の場所に戻っちまったらしいな。は、ははは、は」


 

 …………………… あっれぇええぇええぇ? 



 何で? どうしてこうなった?


 ってか、あんな啖呵を切って、しかもあんなクサイセリフまで吐いちまったってのに、このザマかよ、あたし。

 恥ずかしい。

 これはもうかなり恥ずかしい。数刻前の自分をぶん殴ってやりたい気分だぜ。


「英子ちゃん、私、何だかお腹が空いてきました」

「やれやれ。奇遇だな、あたしもだよ」


 沈黙だけが、あたしたちをあざ笑うかのように生暖かく包み込む。


「前も駄目、横も駄目となると残りは…」

 あたしが言いかけたその時、あたし達の背後から、どこか聞き覚えのある、いや、決して思い出したくもない「とある呼び声」が聞こえてきた。


「―― ねぇ、こっちを見てよ? ねぇ、見て?」


「英子ちゃん、今の声、今、後ろから聞こえてきた声ってまさか」

「… 駄目だ。びーこ、今のは幻聴だ。相手にするんじゃねーぞ」


「―― ヨォ、会いたかったぜぇ、小娘ぇええ」


「今のは? 一人だけじゃないみたいですよ」

「はぁ、はぁ、糞っ。違う。こんなのは、有り得ない。あっちゃならねー筈だ」


「―― クッハッハッハッハ」


「!!! …… うっぷっ。げほっえほっ」

「英子ちゃん? どうしたんですか? 大丈夫ですか?」

「あ、ぁあ。わりぃ、大丈夫だ。ちょっと、な。幻聴とは言え、あんまり聞きたくねー奴等の声を一度に聞いちまったせいだ… それと、何となくだが、この場所の正体って奴が分かりかけてきた気がするぜ」

「本当ですか!?」

「いいかびーこ、この場所では絶対に後ろを振り向くんじゃねーぞ」

「えっ、どうしてです?」

「前を向く事は幾らでも許される。横を向く事もまだ無事でいられる。だが、後ろを向いたら…」

「ご、ゴクリ。一体どうなるんですか? もしも後ろを向いちゃったら」

「さぁーな。だが、ここはそういう場所なんだ。理由も糞も無い。あたしの知る限り、そういうルールなんだよ」

 不味いな、非常に不味い。

 あたしとしたことが、気がつくのが遅すぎた。このままこの場所に居続けることは、かなり不味い。

「でもでも、私達」


「―― ……… 英子。良くも私を、私を見殺しにしてくれたわね」


「今の声、花子ちゃん?」

「…… やれやれだぜ、こいつは傑作だ。今ので、ここがどこだか確信出来た。あたしは、奴らを無間送りにしたんだ。だからこそ、あの「伝承」達がこんなところに居るはずが無いんだよ。ましてや、花子が… あいつがこんなところに居る訳がない!!」


 あたしは、手にしていた秋艶を地面深くへと突き刺す。


「あたしの手に掴まれびーこ! 前も、横も、後ろも駄目。そして、ここは最下層、地の極だ。当然下も駄目。となれば、残された路は…」

 そう言ってあたしが指差した先、それは当然。

「上、だぜ」

「えーーっ、上!? 上ですか? 英子ちゃん。でもどうやって?」

「だから、あたしに掴まれって言ってんだよ。勿論、方法はある」

 びーこががっちりとあたしの体に掴まったのを見計い、あたしは、一度だけ大きく深呼吸をする。


「秋艶は元妖刀。本来ならば、あたしの手に余るようなじゃじゃ馬だ。だが、あの変態馬の角と、今のあたしの力を持ってすれば、こんなことだって出来るんだぜ?」



 天つ風

 雲のかよひ路

 吹きとぢよ

 をとめの姿

 しばしとどめむ



「伸びなっ、秋艶《心象膨大》!!!」

 

 あたしのそんな掛け声と共に、地面へと突き刺さる秋艶の刀身が徐々に伸び始め、あっという間に地面から遠ざかっていく。


 あたしは片手で秋艶の鍔を掴み、片手でびーこの体をしっかりと捕まえながらも、上へ上へと昇っていく。 

「実戦で使うには微妙な力だと思ってたが、なかなかどうしてロマンチックでメルヘンチックな状況だろ?」

「あわわわ、高い、高いです英子ちゃん。見てください、もう、下があんなに小さく」 

「下を見るんじゃない。常に前だけを見ていれば、それでいーんだよ。っと、そろそろだな。びーこ、目を瞑れ。次、目を開ける時は地上だぜ」


 びーこは、あたしのそんな言葉に一度だけ、コクリと頷くと、あたしの体をぎゅっと抱きしめながら、静かに目を閉じる。


 風を超え、雲を超え、闇を超え。蒼から黒、灰そして白へ。境界。狭間。分水嶺を越えて、あたし達はやがて光に包まれる。


 あたしとびーこの進む路。似ているけれど、確かに違う二人の路。その先に待つ路は…。


          ◆


「おい、大丈夫か? しっかりしな、びーこ」

「ふにゃぁ? むにゅにゅ、にゅ? 英子ちゃん? あれ、私達」

「無事帰ってこれたぜ、あたし達のいつもの日常、いつもの場所、帰るべき場所ってやつにな」

「よ、よかったぁ。私、一時はどうなるかと」

「ああ。見てみろよ、びーこ。見慣れた下校風景ってやつがこんなにも良いもんだとは思わなかったぜ」

「英子ちゃん英子ちゃん、私、色々な路の中でも、帰り道が一番好きな路なんです」

「やれやれ… 奇遇だな、あたしもだぜ」

 

 進んだ路は帰り道。

 夕暮れのオレンジ色を背に、あたし達は、二人の選んだ路を往く。


END


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