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第四十五話 「リミットオブハングオーバー sideB」

第四十五話「リミットオブハングオーバー sideB」



 朝、目を醒ましたらお部屋に英子ちゃんの姿がありませんでした。


 お部屋に引き篭もってしまったり、お寝坊したり、そして今度は勝手にいなくなっちゃう。全くぅ、ここ最近の英子ちゃんの行動は目に余るものがあります。日頃あれだけ私に対して厳しい事を言っておきながら、いざ自分の事となるとやたらとずぼらでいい加減なのが英子ちゃん流。


 ふふん。ここは一つ、私が聖職者としてガツンと日頃の態度というものを厳しく注意しなければならないようですね。

 駄目ですよ、英子ちゃん。例えあなたがどこにいたって、きっと私は探し出してみせるんですから。 だから、覚悟、してくださいね?



「さぁ、フランちゃん。いえ、わとそん君。私と一緒に英子ちゃんを探しましょう。私には分かります、英子ちゃんはきっとどこかこの近くに潜んでいるはずです。この見た目は子供、頭脳は大人名探偵びーこの緋色の頭脳が、じっちゃんの名に掛けてそう囁いています」

「流石はびーこ様、そこに痺れる憧れるぅ。つまりは、あの生意気な法楽英子を探し出せばいいんですね? ふっふっふ。このフランにおまかせぴょン!」


 こうして、何故か英子ちゃんの代わりに英子ちゃんの部屋ですやすやと眠っていたフランちゃんをメンバーに加えて、我らが英子ちゃん捜索隊は結成されたのでした。

 ではまず手始めとして、私達のお部屋から探していきましょう。


「そういえば昔、英子ちゃんが鏡の中に閉じ込められてしまったことがありましたね」

「鏡の中、ですかぴょン? それはまた何とも法楽英子に似合わぬファンシーな展開ぴょンね。だいたいアイツは、普段鏡なんて見てるのかどうか、甚だ疑問ですぴょン」

「うんうん。英子ちゃんって普段からそういう事に全く気を使わないんですよね。自分の性別を忘れてしまっていると言いますか。もっと身だしなみに気を使えば、きっと凄く綺麗になるのに、勿体無いです」

「うへぇ。綺麗な法楽英子? それって何だか想像出来ないぴょン。むしろ想像したくないですぴょン。あー、変な事考えてたら頭がガンガンしてきたぴょン」

 そう言って頭を抱え込んでしまったフランちゃんの手を引きながら、ぐるぐると各お部屋を巡回していく私たち。んー、やっぱり英子ちゃんの姿は見当たりません。どうやらこれは、私の思った通りの難事件のようです。

 ここは一つ、今の状況、そして「昨日の夜」の状況を整理してみることから始めましょう。

 

「フランちゃん。その頭痛の原因は、英子ちゃんではなく昨日のアレなのではないでしょうか?」

「むむ? 昨日のアレ?」

「もう、覚えていないんですか? 昨日の宴会ですよ。フランちゃんと英子ちゃん。二人で遅くまであれだけ呑んで騒いでたじゃないですか」

「うげっ、あ、アタイと、法楽英子が、ですぴょンか?」

「そうです。ずるいです、二人だけで。フランちゃんはともかく、英子ちゃんはまだお酒の飲める年齢じゃ…」

「ちょ、ちょっと待ってくださいびーこ様。このアタイと、法楽英子が二人で呑んでたぴょンか? 本当に?」

 そんなフランちゃんの投げ掛けに対し、コクリと一度だけ頷き、肯定を示す。


 そうです。そうなんです。


 何を隠そう昨日はひな祭り。

 いつも何かと理由をつけて呑みたがる英子ちゃん。と言っても英子ちゃん自身は、お酒が強いので滅多に酔い潰れたり、記憶を無くすなんて事はあまりありません。けど、昨日は何だか様子が違いました。あのけちんぼーな英子ちゃんが珍しく、自分のお酒をフランちゃんに渡して、お前も一緒に飲めーとか言ってみたり、あまり騒がしいのが好きではない英子ちゃんが、夜通し騒いでいたり。

 これは私の「カン」なのですが、恐らく花子ちゃんの事を思い出してしまったのかもしれません。二人の間に何があったのか? とってももどかしくて、とっても悲しいですが、私はそれを知りません。でもでも、私はいつだって英子ちゃんを信じています。だから、だから私は…。


「むむむ。何だか微妙に昨日の記憶ってやつが蘇って来たぴょン」

「本当ですか!?」

「びーこ様の言う通り、確かに昨日は法楽英子に付き合って、夜遅くまで一緒に飲み明かしていましたぴょン」

「それでそれで?」

「途中で、びーこ様がもう眠いからと言ってお部屋に戻られてしまってからも、アタイ達は馬鹿騒ぎをしていて」

「しょーがない二人ですね」

「す、スミマセンぴょン。スミマセンついでに、もう一つ。ここからまだ思い出せないといいますか、微妙に記憶が曖昧といいますか、ぴょン」

「えーっ」

「アタイ、酒は嫌いじゃないんですが、呑むとすぐ酔ってしまうといいますか、酔いはするけど酒は呑めるタイプといいますか」

「それ、一番嫌なタイプですね、フランちゃん」

 

 フランちゃんの記憶が定かではない以上、ここはやはり、私のこの緋色の頭脳を使って英子ちゃんの居場所を探り当てるほかないようです。

 うーん、酔った英子ちゃんが行きそうな場所。

「私、閃きましたっ!」

「おおっ、流石はびーこ様そこに痺れ(ry」

 

 酔った英子ちゃんが行き着きそうな場所… それはズバリ

「トイレですね!」

「あ、あはは。まぁ、言いたいことは分かりますぴょンが」


 そうと決まれば話し早いのです。私は早速トイレへと急行すると、調査を開始します。

「えーっと、びーこ様? 流石の法楽英子も便器の中には居ないと思いますぴょン…」 

 便座をぱかぱか動かす私に対して、フランちゃんがぽつり。

「えーっ。絶対ここだと思ったんですけどねー」

「法楽英子。お前がいない間に、びーこ様の中でのお前のキャラがどんどん可笑しな方向へと進んでいくぴょン。ぷぷっ、良い気味ぴょン」

「部屋にもいない、トイレにもいない。もうっ、英子ちゃんったら一体どこへ行ってしまったのですか?」

「アイツのことですから、きっと外にでもフラフラ出てしまったんじゃないぴょンか?」

「フランちゃん、ナイス。それは盲点でした! でも、幾ら英子ちゃんでも酔っ払って外に出るなんて事…… あり得ますね」

「ですよねー。なんと言っても法楽英子ですし、ぴょン」


 そんなこんなで、英子ちゃんの足跡を辿り玄関までやって来た私たち。と、ここである重要な手がかりを発見します。

「むむむ、びーこ様、これ、これを見てください」

「英子ちゃんの、部屋着とTシャツ?」

 何故か、転々と玄関への路なりに落ちている英子ちゃんの服。昨日確かに英子ちゃんが着ていたパーカー、Tシャツ、そして靴下。

 私達の推理通り、どうやら英子ちゃんは本当に外に出てしまった様子です。この寒空の中、上半身下着姿で靴も履かずに、です。


 可笑しい。これは明らかに可笑しいです。

 ここに来て他の考えが私の脳内を支配し始めました。


 果たして本当に、英子ちゃんは酔った勢いで外に出てしまっただけなのでしょうか? 

 

 まさかまさか、誰か悪い妖怪さんや怪物さん達に、連れ去られてしまったのだとしたら?

 それともれそとも、この脱ぎ捨てられた英子ちゃんの服は、英子ちゃんなりのメッセージで、もうお前の面倒なんて見てられるかっ、あたしはこんなとこ出て行くぜって意味だとしたら? 本当に出て行ってしまったのだとしたら?


 う、ううう、うう、ううええええええん。私は、私は。


「あのー、びーこ様? 何だかすんごく声をかけずらい顔をしているところ申し訳ないんですが、アタイ、今しがたぜーんぶ思い出したぴょン。昨日のあの忌まわしき出来事ってやつを」

「はひ?」


          ◆


「本当に、こんなところに英子ちゃんが居るんですか?」

「間違いないですぴょン。だってここ、アタイの隠れ家ですから」


 そう言って私がフランちゃんに連れてこられたのは、とある 外人墓地 でした。


「フランちゃん、普段こんなところに住んでたんですか?」

「と言っても、ここ最近はずっとびーこ様宅にお世話になってますから、最近はあんまり使ってないぴょンですが。それに、アジトといっても、単なるアタイの寝床の一つと考えていただければ幸いぴょン。なんてたってアタイは、キョンシー★ですからね」

「あのー、それでフランちゃん? 英子ちゃんは一体どこに?」 

「おっと、そうでしたそうでした。事の顛末はこうですぴょン。昨日の夜、話の流れでアタイのこのアジトの話題になったんですぴょン。で、法楽英子のやつが、見てみたいって言うから酔った勢いで二人でここまでやってきたんですぴょン」

 そういいながら、フランちゃんはとある墓地の前で、その歩みを止めました。

「んで、そのアタイの寝床っていうのが、ここに埋まってるんですぴょン」

「う、う、埋まってる?」

「そうですぴょン。アタイ、キョンシー★ですから、普段は棺の中に埋まって眠っているんですぴょン。いやー、これがまた地中ってのはこんな冬でも結構あっかいといいますか、暑いといいますか。法楽英子の奴にそれを伝えたところ、だったら服は脱いでいくとか、分けの分からん事を言って大変だったんですぴょン」

「と、いう事はまさか?」

「ご想像通りですぴょン。酔った法楽英子は、今夜はあたしがここで寝るとか言って自ら棺の中に埋まっていったんですぴょン。で、代わりにアタイがやつの部屋で寝ていたってわけですぴょン。あはは、相変らず何考えてるのか分かんない奴ぴょン」

「あのー、フランちゃん? 素朴な疑問なのですが、フランちゃんはキョンシーさんですからこんなところに埋まっていても窒息するということはありませんよね?」

「びーこ様、そんなの当然ですぴょン。なんといってもアタイは正真正銘立派なキョンシー★ですからね」

「でもでも、普通の人間が棺に入れられて、こんな地中に埋められてしまったら… その、呼吸はどれくらい持つものなのでしょうか?」

「さぁ? アタイの腐乱脳では検討もつかないですぴょン。ってか既に死んでたりして。ぷぷっ、自分で棺に入って墓地に埋まるとか、勝手に死ぬとか超手間いらずぴょン、超笑えるぴょン」

「きゃああああああああああ。英子ちゃん英子ちゃん英子ちゃん!」


 私は掘りました。必死に掘り進めました。半ばパニックに陥りつつも、泣きながら必死に堀ました。

 幸いにも、英子ちゃんの入った棺はそれほど深く埋まっていたわけではなかったようで、すぐにその姿を現しました。


「英子ちゃん、駄目、こんな冗談みたいな終わり方、私は絶対に許しませんからねっ!」


 紆余曲折の末、ついに無事棺を掘り起こした私とフランちゃん。休む間もなく棺を開あけます。そして、その中にいたのは…


「うぉっ、まぶしっ」

「英子ちゃーーーーーーん。うぇええええええん、良かったーーーー」

「びーこ? ってか汚ねーなおい、涙と鼻水でぐしょぐしょじゃねーか」

「だって、だって英子ちゃんが突然いなくなったりするから。私、とっても心配したんですよ!」

「全く、びーこ様に心配掛けるとは何事ぴょンか、法楽英子」

「…… てめぇ、フラン。どのツラ下げてあたしの前に現れやがった。今度と言う今度はもう許さん! びーこ、止めても無駄だぜ、今度こそこいつを無間送りにしてやるッ!」

「ちょ、ちょっと待つぴょン、法楽英子。た、確かにあたいも昨日の記憶が曖昧ですぐにお前がここに埋まっている事を思い出せなかったのは悪かったぴょン。けど、昨日酔っ払って、ここで寝たい、アタイの隠れ家の《アタイの就寝用棺》で寝てみたいって最初に言ったのは法楽英子の方なんだぴょンよ? それまで都合良く忘れたなんて言わせないぴょン!」

「……… え? はぁああああああああ?」


 朝の澄み切った空気の中、この外人墓地で英子ちゃんの叫び声がこだまします。

 でも良かった。本当に良かった。


「あー、うん。確かに言われてみればそんな気もするような、しないような」

「英子ちゃん! 私、今度と言う今度はもう許しませんよ」

「お、おう。突然どうしたびーこ」

 英子ちゃんは、棺からむくりと起き上がると驚いたようなきょとんとしたような顔で私を見つめます。

「突然どうしたじゃありません! こんなに心配掛けて。これまでは英子ちゃんのお酒を何だかんだで容認してきましたが、これ以上、一聖職者としてびーこちゃんのそんな蛮行を見過ごすわけにはいきません。いいですか? 罰として英子ちゃんのお酒をここに制限しますっ!」


「はああああああああああああああああああ!?」


 今年はただ英子ちゃんに護られるだけじゃなく、英子ちゃんが私を変えてくれるように、私も英子ちゃんを変えてみせる。救済してみせる。

 本日二度目となる英子ちゃんの叫び声を聞きながら、私はそう固く決意したのでした。


「それはそうとびーこ。ところであたし、何で半裸なんだ?」


 ちゃんちゃん♪



END


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