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第四十四話 「リミットオブハングオーバー sideA」

第四十四話「リミットオブハングオーバー sideA」



 密室。


 それは、入る事も、そして出ることも敵わぬ閉ざされた空間。

 ミステリーの世界において、この密室状態のシチュエーションは数あれど、これは… この状況は…


 …… ってか、一体なんなんだよ、このじょーきょーはっ!!!!! 暗い! 狭い! 動けない! 息苦しい! 

 これ、あたし死んだろ? 絶対死んだろ? 何? ナンナノコレ?

 

 何で目が覚めたらあたし、こんな狭いところに閉じ込められてんの? 馬鹿なの? 死ぬの?


 はぁー。まず、落ち着けあたし。

 こんな時は確かあれだ、素数を数えるんだ。ってか待てよ、素数ってそもそも何だっけ?

 ああ、そうだ。素数は1と自分自身でしか割れない孤独な数字… ってやかましいわっ! あたしの今の状況の方がよっぽど孤独だっての。


 イヤ、落ち着けあたし。

 そうだ、まずは落ち着け。パニックになんかなるんじゃねーぜ。

 一度大きく深呼吸でもして…… ってアホか! そもそもその空気がねーんだよっ! 


 だが落ち着けあたし。

 いつもびーこのやつに言い聞かせてるじゃねーか。この手の輩はパニックにでも陥ろうもんなら、相手の思う壺だってな。

 きっと奴等は、今のあたしのこんな状況をどこかでニヤニヤ薄ら笑いを浮かべながら高みの見物ってやつをしているに違いない。

 … そう考えると、体の芯から怒の感情ってやつが湧き上ってくる。

 良し。怒りは一時的とは言え他の感情を圧倒してくれる。これでよーやく、状況整理が出来るってもんだ。


 ったく、やれやれだぜ。


 状況整理のまず一つ目。あたしは今、どこか「箱」状のものの中に閉じ込められているという点。

 そう、丁度あたしの身長くらいある長方形の箱。あー、そうだな、あんまり言いたくはねーんだが、言わばまるで棺のような、棺おけみてーな形状だ。状況整理のため、仮にこいつを「棺」と仮定しよう。

 

 二つ目。そして、最低最悪な事に、この棺から脱出しようにも、うんともすんともピクリとも動かねーって点。恐らくだが、地下、地面に埋められちまったんだろう。そうだ、棺おけだけに。つまり、あたしは今、こんな糞棺おけの中で、生き埋めにされちまったって事。

 

 な? 笑えるだろ? 本当、今年一番のギャグだぜ、この状況ってやつはよ。

 んで、こんな悪趣味で最高にセンスの無いクダラネーやり口をこのあたしに対してしかけてくる輩。そいつは一体誰か? … あー、正直言って思い当たる節がありすぎて回答に困るっつーか、あたしの日頃の行いってやつを考えると誰にやられても可笑しくはないっつーか。

 だがまぁ、一つ、そんな数多の候補の中から一番最初に思い浮かぶとするならば、恐らくアレだろう。

 

 …… 花子が最後に話していた。アレ、だ。


 そう。ラーヴァナの糞野朗をあたし達に仕向けた誰か。そいつらが次の手を打って来た。そう考えるのが何だか一番自然なような気がしてきた。まぁ、あんな強行手段みてーな禁じ手を打って来るよーなやつらが、こんな中途半端で下種な真似をわざわざ仕掛けるだろうかと言う若干の疑問は残るものの、一先ずは捨て置く。

 

 だってそうだろ。今、一番大切なことは、誰がやったかなんかじゃなく、どうやって脱出するか、なんだからな。

 

 それにしても静かだ。日頃のあの喧騒が嘘のようだぜ。

 ここにあるのは、雑音一つ無い静寂と、どこまでも広がる常闇。案外、こういうシチュエーションこそ、あたしの求める平穏ってやつなのか? それに、ここにいると何だか妙に眠くなってくるような………… いやいやいや、んなわけねーだろが! 普通に死ぬから! 正気に戻れあたし! 何墓穴を掘ってんだよ、あたし! ……… いやいやいやいや、上手くねーし、この期に及んで全く上手くねーし。


 ごほん。つーわけで、以上が今のあたしを取り巻く状況ってわけだ。で、ここからは反転攻勢。当然、あたしだってこのまま黙って生き埋めにされる気はさらさらねーぜ。

 

 そもそもあたしは、こうなる以前の記憶が微妙に曖昧だ。いきなりこんなシチュエーションに陥る事や、突然敵と対峙するはめになる、なんてパターンは、びーこといれば別段珍しいイベントってわけじゃない。だが、記憶が飛んじまってるってのはわりと問題だ。これは今までにあまりないパターンだと言える。ってか、今気がついたんだが…… 頭が痛い。ズキズキと一定周期で痛んでる。ここに入れられるときに、ぶつけでもしたんだろうか? ったく、女の顔に傷をつけるなんて、大した糞野朗だぜ。ま、あたしが言うなってセリフだけどな。


 などと悠長にしている間にも、空気の残量は刻一刻と確実に減ってきている。やれやれ、今度は若干余裕ってやつを持ちすぎちまったか。

 あたしは、もう一度棺の四方を手で押し出してみるものの、やはりどこもかしこもぴくりともしない。おまけに辺りは一点の光も無い常闇状態。何か手がかりを探そうにも何も見えねー状態だ。

 例えばケータイのバックライトでも良い、何か灯りをつけるものがないかジーンズのポケットを探る。が、案の定何も無い。ケータイはおろか、いつも常備しているナイフすら消えている。代わりに出来てきたのが、幾種類かの恐らくジュースか何かのビンのフタと、何故か食べかけのサキイカと炙りイカ。

 

 やれやれだぜ、これじゃ手がかりはおろか、自力での脱出は絶望的になってきやがったな… ってかおつまみ? 何故?

 

 それにしてもこの棺の中は暑い。

 多少春めいたきたとはいえ、まだまだ季節は冬だ。にも関わらずこの暑さ。それほどまでに深く埋まっちまってるんだろうか、あたしとこの棺は。加えて、体が重く、だるく、頭も先程からズキズキしっぱなし。やばいな、何だか吐き気までしてきやがったぜ。

 いずれにしろ、あたしのこの状況から察するに、この場はもう長くはもちそうにない。事態はあたしが思う以上に抜き差しならない、一刻を争う事態ってやつだったらしい。


 こうなったら秋艶を召還して無理やりぶった切って脱出するか?


 …… イヤ、駄目だ。つーか無理だ。何故なら、秋艶を召還するには一定の掌握空間、スペースが必要だからだ。こんな密閉、閉ざされた空間での召還は不可能。他の手を考えるしかない。


 制限された中で何とか手足を動かし棺の中を探る。もしも、奴等がこれをゲームの一環、余興とでも考えているのならば、何らかの手がかりやゲームのための小道具ってやつを残していても可笑しくは無い。そんな一縷の望みに掛けて、必死に手足をばたつかせて棺内を探る。

 

 ! あった。

 今、あたしの足元に何か ふにゃッ モサッ としたモンがあたったぜ。

 足が攣りそうになるのを何とかこらえつつ、件の謎の物体Xを手繰り寄せる。灯りが無い以上、その物体の正体を見破る事は甚だ楽ではないものの、手触りや形状だけでもある程度の判別はつく、筈。

 これが脱出の鍵になってくれればありがたいんだけどな。まぁ、そう簡単にいけば苦労はしねーが。


 では早速。


 さわさわ。さわさわ。


 やれやれ。改めてなんだ、このシチュエーション。ゴールデンの芸人のバラエティ番組を思い出すぜ。

 それはそうと、やはり、さっき足で触れていたときと同じく、なかなか手触りがいい柔らかな感触が広がる。形状としては長方形? 柔らかいだけでなく、弾力性があるっつーか。

  

 ん? んん? おい、これ、まさか。

 

 ―生き埋め・曖昧な記憶・ポケットに入っていたフタ・食べかけのつまみ・謎の長方形の柔らか物体X・そして何より「棺」―


 糞っ!! 

 思い出した!!!!!!!

 アイツだ、全てはアイツのせいだ!!

 

 が、その瞬間、ガタガタとあたしの真上、つまり地上が揺れ振動し、それに伴い棺のスキマから大量の砂が入り込んでくる。

「やれやれ、どうやら時間切れってやつらしい」


 あたしがそれ以上の悪態をつく暇も無く、あたしの棺は…… 開かれる。



「うおっまぶしっ」

 あたしにとって、一体どれくらいぶりのオテントウ様なのか? ああ。やっぱり、地上の空気って奴は美味いな畜生。


「英子ちゃーーーーーーん。うぇええええええん、良かったーーーー」

「びーこ? ってか汚ねーなおい、涙と鼻水でぐしょぐしょじゃねーか」

「だって、だって英子ちゃんが突然いなくなったりするから。私、とっても心配したんですよ!」

 どうやら、あたしがこんなことになっている間、びーこは必死にあたしの事を探してくれていたらしい。やれやれ、あたしはまたもやびーこに助けられちまったってわけか。


「全く、びーこ様に心配掛けるとは何事ぴょンか、法楽英子」

 だがしかし、そしてしかし。このままハッピーエンドで終わるにはもう一つだけ、あと一つだけ、どうしてもやらなきゃならねー事が残されている。それは当然…

「…… てめぇ、フラン。どのツラ下げてあたしの前に現れやがった。今度と言う今度はもう許さん! びーこ、止めても無駄だぜ、今度こそこのエセキョンシーゾンビを無間送りにしてやるッ!」

「ちょ、ちょっと待つぴょン、法楽英子。た、確かにアタイも昨日の記憶が曖昧で、すぐにお前がここに埋まっている事を思い出せなかったのは悪かったぴょン。けど、昨日酔っ払って、ここで寝たい、このアタイの隠れ家の《アタイの就寝用棺》で寝てみたいって最初に言ったのは、法楽英子の方なんだぴょンよ? それまで都合良く忘れたなんて言わせないぴょン!」


「……… え? はぁああああああああ!?」



END(sideBへ)


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